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連 載:ネパール・タライ平原の村から(34)
多角経営

  ネパールの農村で暮らす、元よつば農産職員の藤井君の定期報告。その34回目。

ネパールへ来て3年半が経過しました。ネパールで私は、生計を維持する手段を農業一本に絞らない方法を模索して来ました。来た当初にあった唯一の仕事(収入)はこの連載でしたが、今ではハンディクラフトの国内外での販売や、資金を貸付する「金融」、本年から新たに日本語学校の仕事、日本で開催される絵画展にこちらの子どもが描いた絵を送ったり、NGOが主催するスタディーツアーの現地調整をしたりと、いくつかの仕事をやり繰りしています。農業収入の方はというと、相変わらず小遣い程度に留まっています。
大きな収入源のひとつであるハンディクラフトですが、ネパールに昔からあるダッカ織布や南アジア全般で女性が日常着ている衣装に用いられるパンジャビ布を裁断したものを素材に、妻と地元女性5人とで足踏みミシンを使って作るA4サイズのバックが主力商品です。昨年から日本で販売を始め、今年からはネパール国内でも販売しています。さらに、裁断の際に出る余り布でカバンや髪をくくるシュシュ、ファスナーを取り付けたポーチ等も少量ながら作っています。

●田植え。
農作業の報酬は今も昔も変わらず低い。

他にも妻が麻の毛糸で編んだニット帽なども販売しています。よつ葉で野菜の検品をしていた僕からはおよそ想像もつかなかった仕事ですが、これからどうやって販路を拡げて行こうか、商品の品質やデザインをどう改善して行こうか等々、夢中になって取り組んでいます。そして、いずれはこうした針仕事が当地の女性たちにとって農作業の合間や農閉期に自宅でもできる手仕事として定着することを目指しています。
次に金融。当初は地元での相場より低い年利15%で地域の人に貸付けをしていました。ところがそうすると、こちらが貸した資金を借り手がさらに高利で別の人に貸してしまうのです。これでは事業支援にならないため、今ではほとんど24%で貸付けをしています。何と高額!と叱られそうですが、これがここでの通常の相場なのです。
 
  そして、新たに始めたのが日本側の日本語学校と留学生を送るエージェントとの仲介。内容は、日本語学校の資料翻訳、エージェント訪問、留学生の滞在ビザ取得に必要な書類の確認等です。
  昨年から、インターネットに常時アクセスできるようにして、日本語でのやり取りが増えました。停電時以外、日々パソコンと向き合う時間が増えました。情報化のおかげでネパールにいながら、日本と同じような仕事ができるのです。配達圏外で何も買えませんが、「ウシ・ブタつうしん」や「今週のお知らせ」をネットで楽しみに見ることもできます。一方でネパールの一地方にいながら、良くも悪くもどこまでも仕事が追いかけて来るようになりました。この地で暮らすことで、僕の頭の中はどんどん土着化していくはずだったのですが、中々そうはいかないようです。
  乳用の水牛1頭、水牛2頭、黒豚3匹、子豚16匹、ヤギ7匹、ウサギにニワトリ少々。たくさんの家畜に囲まれ、地域の農家とできるだけ同じような暮らしを営む。ありふれたここでの日常にどっぷりと浸かって見る。そうすると、ただ喰って寝るだけなら、それでいいのだけれど、それだけではいくら働けどやっていけないことがわかります。自給的な農業だけでは、 "持続不可能な農業"になってしまうのです。
・ ・・こうした現実の中、それを少しでも乗り超える方法をあきらめず、模索し続けています。


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