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アソシ研 リレーエッセイ
   大腸菌の逆襲

 

 この7月1日から焼肉屋さんで生レバー(肝臓)が食べられなくなります。

 

厚生労働省が販売禁止にまで踏み込んだのは、先の生レバー食中毒事件の調査の結果、生レバーの組織内から病原性大腸菌(O157など)が見つかったためです。つまり、と畜場や焼肉店での衛生管理をいくらしっかりやっても、肝臓の組織内に入り込んだ大腸菌は手に負えません。
 
 本来、人間でも牛でも大腸菌はその名の通り、大腸の中にいます。中と言っても、口から肛門までの一本の消化管はチクワの穴と一緒で、厳密には体外です。大腸菌はそこで人間や牛と共生しているとも言えるし、人間や牛は大腸菌を飼っているとも見られます。 ところが、これが病原性となると、赤痢菌からもらった遺伝子で毒素をつくり出し、そのためにひどい下痢を起こし、腸管が傷つけられます。傷ついた腸管から菌が血管へと侵入することがあります。ただし血液中には強力な免疫系がありますから、普通は退治するのですが、免疫系が負ければ、血液は栄養たっぷりですから菌は増殖します。敗血症です。こうなると、牛も人間も助かりません。増殖した菌は肝臓に吸収されます。       

『農場だより』9月号で、能勢食肉センターの津田さんが、件の焼肉チェーンは病畜のホルモンを使っていたようだ、と書いています。つまり、病原性大腸菌で下痢や発熱が続き、ついに敗血症に至った牛をと畜し、病原性大腸菌が繁殖した肝臓ともども出荷したと考えられます。かつて、牛肉の偽装をやった北海道の業者は「安いモノにはワケがある」とうそぶきましたが、今回もそうです。 厚生労働省は今回の事件を偶然とは考えず、今後も起きると見たのでしょう。

病原性大腸菌は現代の畜産が生み出した鬼っ子です。元来、ワラや草など繊維質のものを食べるようにできている牛の生理を無視してデンプン質でカロリーの高い餌を食べさせ、早く太らせたり肉にサシを入れたりします。内臓はガタガタ、免疫系もガタガタになり、しょっちゅう感染症にかかります。 その結果、抗生物質を多投することになり大腸菌をはじめとする腸内細菌は死滅する一方、突然変異で耐性を獲得し、赤痢菌と合体した病原性大腸菌だけが生き残ることになりました。悪循環に陥っています。

一方、これを食べる人間の方も問題だらけです。厚生労働省はこの点も考慮したのかもしれません。 病原性大腸菌が体内に入ったからと言って、誰もが発症するわけではありません。まず、普通の大腸菌がしっかりと共生している人は、大腸菌が病原性大腸菌を退治してくれます。こういう人は免疫系も活発ですから、たたかって退治してくれます。ところが、繊維質をほとんど食べない人は腸内細菌もいないし、免疫系も弱く、便通もよくないので、腸内は日ごろからガタガタです。そして何よりも、食品添加物のうち保存料や防腐剤は病原菌だけでなく腸内細菌も殺してしまいます。こんな状態の人が病原性大腸菌を摂取すれば、重大な結果をもたらします。
同じ7月1日より、アメリカのカリフォルニア州ではフォアグラが禁止されました。飼育方法が虐待的だという理由です。アメリカの牛の飼い方も充分虐待的だと思うのですが……。
ともあれ、生レバー問題もまた、現代社会の病巣を浮き彫りにしました。

(河合左千夫:鰍竄ウい村)


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