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活動報告:“協同”のいま−課題と展望
  社会変革の協同組合と連帯社会

 

3・11を経て、社会の閉塞感がさらに色濃くなる今日、「協同」の原理は今後の展望を開きうるのか。去る10月23日、北大阪商工協同組合との共催で、津田直則さん(桃山学院大学)をお招きし、協同組合を含め、広い意味での「協同」の課題と展望についてお話を伺った。以下、簡単に紹介する。

 

現代社会の危機から「連帯社会」へ

お話の冒頭、津田さんは現在を、金融危機や自然環境危機、あるいは民族や宗教をめぐる紛争、人間性の危機などが噴出する「危機の時代」と捉え、その主要な原因として現代の経済システム、つまり資本主義の危機を指摘した。その上で、現代の危機を克服するには、「新自由主義、市場機構、利潤動機、競争システム、営利企業」といった現代資本主義の暗黙の前提そのものを問題にし、それを変革せざるをえないとのことである。
  たしかに、現代のさまざまな危機の根源に資本主義があることは疑えず、その変革が待ったなしであることも肯ける。しかし問題は、変革を通じて作られる新たな社会のありようにある。それはどんな社会なのか。この点では、津田さんは来るべき社会を「連帯社会」と捉え、その特徴として以下の8項目を提示した。
  @働く者と人間を大切にする社会(搾取しない)。
  Aお互いが成り立つ社会(排除しあわない)。
  B協力社会(競争社会ではない)。
  C弱者を支援・救済する社会(排除・隔離しない)。
  D個と全体のバランスがとれている調和の社会(エゴ社会ではない)。
  E過去と未来の連帯をも含む社会(現世代のエゴではない)。
  F信頼や絆を重視する社会(分裂・孤立の社会ではない)。
  G自然を大切にする共生社会(人間のエゴではない)。
  しかし、果たしてこうした連帯社会が実現できるのか、たちまち疑問が生じるはずである。もとより、何らかのビジョンを描かなければ目標も生まれず、目指す仕組みもつくれないとは言え、何ら基礎もない、まったくの空論であってはならないだろう。
  この点で津田さんが基礎に置いているのは、ヨーロッパの社会的経済(ソーシャルエコノミー)である。社会的経済は、協同組合、共済、アソシエーション(日本で言えば非営利組織[NPO])、社会的企業(公益を目指す企業)などによって形成され、「非営利セクター」や「非営利・共同セクター」あるいは「サード・エコノミー(第三の経済)」と呼ばれることもある。現在では、国連などでも社会的経済という呼称が使われるようになっており、今後さらなる社会的認知が期待されるという。
  今日の資本主義経済と社会的経済との違いは、おおむね次の5点にまとめられる。
  @「前提」:資本主義経済は自由だが、社会的経済は連帯(助け合い)である。
  A「動機」:資本主義経済は利潤だが、社会的経済は参加・民主主義・連帯・公正などの非営利価値。利潤は目的ではなく手段である。
  B「主体」:資本主義経済では株式会社などの営利企業だが、社会的経済では協同組合などの非営利組織(企業)。基本は「1株1票」ではなく「1人1票」の原則。
  C「基礎」:資本主義では競争だが、社会的経済では連帯である。
  D「原理」:資本主義では排除だが、社会的経済では共存、共生。実際、ヨーロッパでは障害者も雇用を通じて労働市場の中へ統合していく考え方が浸透している。日本では一貫して福祉中心。

 

現代資本主義の否定と変革

●津田直則さん(右)

その上で、津田さんは連帯社会を実現するために、現代資本主義の暗黙の前提を否定し、社会的経済へと変革していく必要があると強調した。変革のポイントは、以下の6項目にまとめられる。
第1に自由主義思想の変革。個人主義的自由主義が現代社会の矛盾の根源であり、連帯主義に転換されなければならない。ただし、自由主義を単純に否定するだけでは、その対極である全体主義に陥る可能性がある。個人主義的な自由主義はエゴの社会を生み出し、競争社会となって弱者が排除されていく。だからといって、旧ソ連の共産主義体制のような一種の全体主義では、自由のない抑圧社会になってしまう。連帯主義は、このいずれも否定し、個人の自由と全体の公共性の調和をめざす理念を有している。支え合い、協力しあい、助け合うことを基本とする。
第2に利潤動機の変革。利潤動機は経済学でも経営学でも当然とされ、問題にされない。しかし、利潤追求が自己目的化して暴走していることが現代社会における危機の原因である。利益追求のためなら何でもする。法律に触れなければ、労働者や弱者をどれだけ収奪しても構わない。大企業の労働者でも明日の生活は分からない時代になっている。この利潤動機とつながって「資本が労働を支配する」株式会社制度が現代社会の矛盾の根源である。これを変革して、働く者と人間を大切にする連帯社会を目指す。連帯社会では、企業の目的は利潤追求ではなく人間に大切な諸価値の実現となり、利潤や資本はその手段に格下げされる。国内総生産(GDP)の拡大が目的ではなく、参加・民主主義・公正・公平などの「非営利価値」が目的となる。
第3は営利企業の変革。1株1票の「株主“民主主義”」に基づく営利企業から、1人1票の「真の民主主義」に基づく協同組合や非営利企業への転換を目指す。それによって、資本が労働を支配する社会のあり方を乗り越え、資本が労働を支配しない社会、場合によっては労働が資本を支配する社会をつくる。すでにヨーロッパで拡大している労働者協同組合は、その一例である。日本には生協、農協、漁協はあっても、労働者協同組合を裏付ける法律は存在せず、これが協同組合社会への前進に大きなマイナス要因となっている。
第4は競争システムの変革。資本主義経済体制が抱える矛盾の最大の原因は、競争システムにある。競争は効率を高めるとの理由で支持されてきたが、この間、明らかな欠陥が露呈している。利潤追求と一緒になって弱肉強食の世界を形成し、解雇の乱発、賃金切り下げ、労働者の権利侵害など、資本による排除の論理は強まる一方。この対極にあるのが協力システムであり、その基礎を担うのが協同組合。「競争するな!」という連帯社会の価値観を拡大・浸透させていく必要がある。
  第5は政府(国家体制)の変革。これまで変革のモデルだった「小さな政府」も「大きな政府」も、いずれも失敗した。「大きな政府」は高福祉・高負担で福祉国家を目指したが、中央政府による丸抱えになった。「小さな政府」は低福祉・低負担の新自由主義で貧困層が拡大した。これに代わる新たな連帯社会の国家像は、働く者および市民を中心とし、それと連帯する政府システムとして考えられる。
  第6は市場の変革。市場システムそのものを根絶するのは困難であり、また需給関係で価格が決まる市場の機能は、一定の効率を維持するために必要だが、すでに明白となっている欠陥については変革しなければいけない。少なくとも、資本市場と投機市場は区別し、投機市場は厳しく規制することで、金融資本の横暴を防ぐ必要がある。市場システムの変革には、自由競争ではなく「計画」の役割が欠かせない。今日の世界を大きく歪めている「大量生産、大量消費、大量廃棄」のシステムから、限りある資源を大切に使い、その資源を合理的に分配するように、計画の要素を強めていくべきだろう。旧ソ連で行われた「計画経済」は逆に不効率をもたらしたが、資本主義の中で培われてきた計画の機能を生かすことは可能だ。

「文明の転換」を意識して

それにしても、これら6つの変革は、いずれもおよそ500年にわたって生きながらえている資本主義にとって本質的なものだと言える。したがって、すべてを変革するとなれば、「文明の転換」とも言うべき根本的な変化となるはずである。
  この点について、津田さんは、現在の世界はまさに文明の転換を迎えようとしており、むしろ、文明の転換を図らなければ、我々を取り巻く危機を乗り越えて新しい社会を迎えることはできないと指摘し、そのためにも社会を変革しなければいけないと強調した。
  もちろん、根本的な変化であるだけに一朝一夕には不可能であり、最低でも数十年単位で構える必要がある。とはいえ、すでに一歩を踏み出す時期がきており、その一歩は協同組合を中心とした連帯社会の基礎を固めていくことによって示される、とのことである。
  以上、協同の将来展望に関する極めて壮大なビジョンに続き、これまで津田さんが実証研究で調べてきた、イタリアとオーストラリアの社会的経済の実例について、ひと渡り紹介が行われた。

 

イタリアの協同組合の状況

まずはイタリアの協同組合。イタリアでは製造業、建設業、サービス業など、あらゆる産業に協同組合がある。2007年の統計によると、イタリア全体で協同組合の数は11万1800ある。分野別では、建設2万5484、農業1万4617、輸送1万322、ビルメンテナンスなど企業サービス1万4384という具合である。中小企業が多いが、大企業もあるという。
  また、旧共産党〜中道左派系の「レガコープ」とカトリック系の「コンフコープ」という二つの大きな協同組合連合会があることも特徴である。どちらの連合会も、事業高は500億ユーロ(約5兆円)にのぼる。全体の総事業高は2007年で1127億ユーロ(約11兆円)。協同組合で働く労働者は100万人を越えている。
  協同組合の中で、労働者協同組合の数は2007年で2万2000から2万6000を数え、ヨーロッパで最多とされる。また、世界で初めて、社会的弱者を支援するための「社会的協同組合」という組織が形成され、いまではヨーロッパ全域に広がっている。
  イタリア全体を概観した上で、具体的に、北部エミリア=ロマーニャ州のボローニャとイモラという二つの町にある協同組合について焦点が当てられた。
  エミリア=ロマーニャ州の人口は4400万人で、その57%はなんらかの協同組合の組合員だという。ボローニャは人口40万人の50%が組合員。イモラは6万4000人で80%が組合員。いずれも、大企業も含め、あらゆる産業に協同組合がある。州内の大企業50社のうち15社は協同組合だという。 ちなみにイモラは小さな町だが、イタリアでは「協同組合の首都」と言われ、全国に協同組合の戦略を発信する中心地となっている。
  ボローニャの協同組合で特筆すべきなのが、コープイタリアという生活協同組合の連合体である。イタリア全国には数多くの生協があるが、とくに大規模なのが9つの生協。これらが仕入れ部門と商品開発部門を統合してつくられたのが、コープイタリアである。全国の協同組合の市場では90%以上、小売業界全体でもトップとなる17.8%の市場シェアを占めている。その本部がボローニャにある。
  一方、イモラには製造業、住宅産業、農業、消費、文化、サービス、社会的サービスなどの領域で、100を超える協同組合が存在している。製造業では窓枠・ドア製造、高速道路建設等のゼネコン、農業用機材、セラミック製造機械の製造など10あまりの協同組合。セラミック関連設備メーカーのサクミ(SACMI)は、世界の市場シェアの50%を占める労働者協同組合である。
  住宅産業では、賃貸・分譲住宅建設に関連する約10の協同組合があり、一般の住宅産業よりも3割ぐらい安値で、解約しても100%返金するなど良心的な経営で知られる。
  農業は、農産物の栽培、加工、販売、マーケティング、ワイン、エコツーリズム、再生エネルギーなどに関係する15ほどの協同組合がある。消費生協は3組合。
  文化では、スポーツ、レクレーション、教育、歴史、ニュース配信、イベントの組織、ジャーナリストなど約10の協同組合がある。ちなみに、イタリア全国で協同組合型の新聞社は100くらいあるという。
  サービスでは、金融保険、財産管理など40ほどの協同組合や関連会社がある。
  社会的サービスは、施設介護、保育園、障害者、移民、レストラン・バー、クリーニング、私立学校など含め30以上の協同組合がある。

 

社会的協同組合の展開

イタリアの協同組合の特徴として、社会的協同組合の展開を挙げることができる。社会的協同組合は、仲間内の共益だけでなく地域コミュニティの公益にも関わる協同組合で、福祉、医療、教育などの分野でのサービス提供を行うA型、社会的弱者である身体・精神障害者、薬物中毒患者、元受刑者などの雇用を目的とするB型に分けられる。A型は7000、B型は4000あり、ほとんどが労働者協同組合とである。1991年にイタリアで法制化された後、ヨーロッパ全体に拡大した。
  イタリアがユニークなのは、これらの協同組合が地域、広域、全国の三つのレベルでそれぞれ連携し、グループをつくっていることである。こうしたグループは「コンソーシアム」と呼ばれる。たとえば、地域の中で複数の協同組合がコンソーシアムをつくり、次に州の中で、いくつものコンソーシアムが集まってコンソーシアムをつくり、それらがさらに全国レベルでコンソーシアムをつくる、という具合である。
  社会的弱者を雇用して給料を払わなければならない一方で、一般の営利企業との競争にも勝たなければならない。行政からの補助金もあるが、それには頼れない。日本のNPOと同じく、一つ一つを見れば基盤は脆弱である。しかし、コンソーシアムを築いて連帯することによって、全体として基盤を強化している。
  たとえば、行政から仕事を受注する際、コンソーシアムの本部が一括して事業計画やコスト計算など営業活動を行い、受注した仕事を個々の協同組合に割り振る。それに対して、個々の協同組合は数%の手数料を本部に払う。事業の効率化だけでなく、各々が共存して全体が発展する。イタリアの研究者は「スケールメリット(規模の効果)」と呼ぶそうだが、イタリアが発展した大きな理由であることは間違いない。
  ボローニャにあるチム(Cim)というコンソーシアムには、A+B型の12の社会的協同組合が参加しており、レストランの経営や工芸品の製造を事業としている。労働者の組合員は20人で、内訳はA型が5人、B型は15人(うち障害者は6人)。事業高は65万ユーロだという。
  同じくボローニャのエタベータ(ETA BETA)というB型社会的協同組合では、農作物を生産してインターネットで販売したり、ステンドグラスなどの工芸品も生産したり、大学と共同開発した幼児おむつの洗濯プロジェクトなどを事業としている。雇用されている30人の労働者は、すべて元刑者とアルコール依存症患者の組合員である。総事業高は30万ユーロ、労働者の月収は最高1300ユーロだという。
  以上の紹介を踏まえ、津田さんはイタリアの協同組合から学ぶものとして、各々の協同組合が連帯することを通じて「コンソーシアム」という協同組合システムを形成すれば、協同の原則を維持しつつ効率も高められ、営利企業との競争力も確保できる点を挙げた。
  現に、イタリアでは2008年の金融危機の影響で、庶民の生活も大きく打撃を受けたが、その中で、コープイタリアに参加する生協は、あえてコープ商品を30%〜40%も大幅値引きした。その結果、それまで毎年数百億の黒字が翌年は数百億の赤字に転換してしまったが、そこまでして組合員の生活を守るという姿勢が信頼を得て、業績は回復したという。
  たしかに、かつては日本と同じように小さい生協が乱立していたが、70年代くらいから統合を模索した結果、現在のコープイタリアにつながったという。
  もちろん、あらゆる部門を統合してしまえば、それは協同組合でなくなる。それ故、仕入れと新製品の開発部門は統合しても、9つの協同組合がそれぞれ基本的な決定権を持つ点は維持している。その意味で、協同組合の民主主義と高い効率との調和が実現されているとのことである。

 

協同組合の村マレーニ

オーストラリアの東部、ブリスベンから北へ100キロの山の中に、マレーニという村がある。市街地の人口は2000人ぐらい、周辺を含めても1万人に足らない小さな村だが、20ほどある協同組合、30ほどあるアソシエーションのネットワークがクモの巣のように張り巡らされている。イタリアのイモラのように、オーストラリアの「協同組合の首都」と呼ばれている。
  1970年代にオーストラリアの酪農が国際競争に負けて大打撃を受けた際、マレーニもその例に漏れず、過疎の村になってしまった。それを再生したのが女性グループで、協同組合を次々とつくっていった。まず生協。1979年にオーストラリアで最初の生協を設立した。1984年にはクレジットユニオン(信用組合)をつくり、さらに土地管理、水質管理、土壌管理、森林・生態系保全を目的とする環境アソシエーション・協同組合を設立した。
  さらに、1987年にはカナダから学んで地域通貨(LETS)を導入した。現在も毎月、日本円で200万円ぐらいが流通しているという。マレーニの地域通貨の特徴は、「社会的弱者の支援」を重視している点にある。日本の場合は、ほとんどの地域通貨は「貨幣」の形を取っているので、現物がなければ利用できない。しかし、マレーニの場合は記帳式なので、赤字になっても利用できる。
  たとえば、高齢者がマッサージや家の掃除といったサービスを受けた場合。仮に、サービスを受けた側にお金がなくても、通帳にマイナス表記をすれば済む。一方、サービスを提供した側は地域通貨で支払いを受け、その分を村の生協で買い物したり、別の人からサービスを受けることによって消費する。現金ではないので、利子も現金決済も必要はなく、サービスと雇用が次々に生まれていく。村民の多くが顔見知りであり、他の村や町で使える通貨ではないので、この仕組みを悪用する人もおらず、それどころか、ほとんど地域通貨で生活している人もいるという。
  マレーニ在住の日本人によれば、日本の場合、通貨の現物がなければ利用できないという暗黙の前提が崩せずに地域通貨が先細ってしまったが、マレーニでは、お金がなくても生きていける助け合いの仕組みを目的としたことが、継続できた原因だという。実際、クレジットユニオンの中に多様な貸し付けシステムがあるだけでなく、組合員に限らず困窮者に現金を融資するエマージェンシーファンド(緊急基金)の仕組みもある。地域通貨もその一つとして位置づけられている。
  このように、マレーニでは、あるものがだめなら別のもので対応するというように、地域の人々が助け合って生きるためにさまざまな仕組みが作られていった。中心は生協、クレジットユニオン、環境アソシエーション・協同組合だが、そのほかにも、リサイクル、女性の起業支援、エコビレッジ、教育、出版、青年グループ、映画鑑賞クラブなど、文字通り多様な協同組織が縦横無尽に張り巡らされ、村の人々はその中で多層的なつながりを形成している。1979年から2003年あたりまで、 ほぼ毎年、何らかの協同組織が作られ、飽和状態に至ったとのことだ。
  その結果、住民間の信頼関係が深く、社会的弱者や子供に優しく、環境、健康、文化、教育などのレベルの高い村が形成された。住民の中には芸術家が多く、音楽、美術など、村の中は芸術に溢れ、芸術家の村としても有名である。オーストラリア内外から多くの人が観光に訪れるという。

 

飛躍が必要な日本の協同組合

 海外の事例を踏まえ、津田さんは最後に、日本の協同組合が抱える問題について触れた。そのポイントは、次の4点である。
  @各協同組合が孤立しており連帯が弱い。
  A効率の追求は悪だという思想がどこかに残っている。
  B協同組合価値と効率を両立させる方法を見いだしていない。
  C協同組合社会を形成しようとする構想が弱い。
  とりわけ問題なのが@だという。これは、生協や農協などの領域別協同組合が連携しないこともあるが、協同組合がNPOや市民運動など、多様な組織との連携に消極的なことも重大である。
  津田さん自身、ながらく、ある生協の理事を務める中で、生協周辺のさまざまな人に意見を聞く機会があったが、おおむね閉鎖的な印象を持たれていたという。たとえば、町づくりなどについても「自分のところで何でもできるから、全部自分たちでやってしまう。我々と一緒にやらない」という具合である。
  もちろん、さまざまな市民団体や地域組織との連帯を重ねている生協もある。しかし、総体としてはまだまだ不足しているのが現状だという。さらに言えば、生協に限らず、日本の非営利・協同の世界は、おしなべて連帯する力が弱く、自分たちの仲間内では一生懸命やるが、なかなか「外」とのつながり持とうとしない、とのことだ。
  顕著な例としては、労働組合と協同組合との相互無理解がある。労働組合も協同組合も、もともとは19世紀に、資本主義の進展とともに窮乏化する労働者が自らの身を守ろうと形成した協同組織である。しかし、日本ではこの間、労働者協同組合をつくるための法律制定を提案した際、真っ先に反対したのは労働組合だった。労使関係が曖昧になり、労働者の権利が蔑ろにされるとの理由である。
  津田さんによれば、かつてはヨーロッパでもこの種の誤解があったが、数十年前には解消され、むしろ労働組合や協同組合、アソシエーションが互いに連帯する社会になっているという。
  実際、イタリアでは、協同組合と労働組合が一緒に基金をつくり、倒産した企業の労働者が労働者協同組合を設立する際に、その基金から資金提供するような、一種の失業救済基金が設立されているという。同種のものはスペインにもあるが、それは、ヨーロッパ諸国が長い間失業に見舞われてきた歴史と無縁ではない。
  日本では90年代にバブルが弾けるまで、長期的な失業の問題がクローズアップされることはなかったが、昨今の社会状況および今後の経済動向を考えれば、ヨーロッパと同じように、非営利・協同組織が連帯してネットワークつくり、困窮する労働者や生活者を支援する仕組みが求められることは間違いない。
  もちろん、そうした“対処療法”だけでなく、それをステップに、協同組合社会、連帯社会へ向けて一歩を進めるためにも、非営利・協同組織の相互連携はますます重要になるだろう。
  考えてみれば、協同組合はもともと仲間内の助け合いを基本とする「共益組織」だった。しかし、助け合いを突き詰めていけば、それは自分たちだけでは済まなくなる。社会的連帯を軸にした「公益組織」へと転換していかなければ、仲間内の助け合いも充分に実現できないということだろう。
  かつて、資本主義社会の根本的な超克を目指したカール・マルクスは、来たるべき社会について「自由で対等な生産者たちの諸アソシエーションからなる一社会」と捉えた。その観点からも、津田さんのお話は非常に興味深く感じられた。私たちよつ葉グループの実践もまた、こうした観点から問い直してみる必要があるだろう。


(山口協:研究所事務局)

※より詳しくは、以下を参照下さい。
  津田直則『社会変革の協同組合と連帯システム』晃洋書房、2012年
  津田直則「モンドラゴン協同組合―連帯が築くもうひとつの経済体制」『世界』2012年11月号

 


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