そこだけ先生の奥さんは、患者さんから教えてもらったえだね先生の治療院にやってきました。
その、見せるだけで患者さんが納得してファンになるとかいう測定を、私もやってもらおうじゃないの!
でも、とりあえずは猫をかぶっときましょうか…。
患者さんにも、柔道整復師、鍼灸師の先生方にも楽しんで読んでいただけるように、「そこだけ先生とえだね先生」の話として、なるべくわかりやすく工夫しています。
各ページは、4~5分で読める文章量でまとめています(文庫本2ページ分くらいの文量です)。
それぞれの章は読み切りになっていますが、順番に読んでいただくとさらにわかりやすくなると思います。
肩こりはつらいものです。どうすれば治るんだろう?
ねこ背を治せばいい?でも、ねこ背って、原因じゃなくて結果なんじゃ…?
肩こりだといってそこだけ先生の奥さんが受診すると、えだね先生はさっそくげんきDASで測定してくれました。
画面をみせながら、えだね先生は「右肩が下がっているんでしょうね。」といいました。
「右肩が下がっていると、画面の中で、右腕に青い線や赤い線が出やすいんです。底竹さん(これが本名です)は、小指のところに青い線が出ているから、右腕の血行が悪くなるタイプかもしれませんね。」
そういえば、カバンを右肩にかけるとすぐ落っこっちゃうな、とそこだけ先生の奥さんは思いました。
「手を挙げろ!のポーズをしてみて下さい。そのまま、手をグー、パーって繰り返してみて下さい。ほら、血行が悪いから右手だけ白くなってきた。右手のほうが、あげているとつらいでしょ?」
これは、専門的には「ルースの三分挙上テスト」という検査です。
しかし、詳しく説明しても、専門知識のない患者さんにはわかりづらいものです。
画面の表示と検査を併せることで、患者さんもイメージしやすく、むつかしく説明しなくても納得しやすくなります。
えだね先生は、とつぜんお経のように説明を始めました。
「筋肉が弱るから、肩が下がります。肩が下がると、神経や血管を圧迫して、肩や腕が疲れやすくなります。肩や腕が疲れやすくなると、筋肉が弱るから、肩が下がります。肩が下がると、神経や血管を…。」
「それじゃ、どんどん悪くなるじゃないですか!」
そこだけ先生の奥さんは、思わずツッコミを入れました。
そもそも、むつかしい話をされるのは嫌いです。
「あははははっ、そうなんです。なので悪循環なんです。悪循環を断ち切るために、まず、血行をよくして、肩や腕の動きをよくしましょうね。」
画面の表示にあわせて、肩だけでなく、首の骨の右側や、手首にも、電極を貼りながらえだね先生はいいました。
(手や腕、肩の神経の根もとは、首の骨のよこにあります。)
「肩を治すために、肩が下がったことと関わりそうな、神経の枝や根っこに電気を流しますね。枝と根っこって、私の名前みたいでしょ?」
えだね先生は、嬉しそうに話しました。
この会話の流れ、すっかり持ちネタにしてるな…。そこだけ先生の奥さんは、心の中でチッと舌打ちしながら思いました。
「肩は、こんなふうに、枝とか根っことかで、どんなのでも、うまく治るんですか?」
そこだけ先生の奥さんは、肩こりの治しかたの秘密を知りたくて質問しましたが、詳しく知らないので、あやふやに訊くことになりました。
「肩の症状も、いろいろありますよ。五十肩とか、野球肩とか。女性の肩こりと、お年寄りでも違うし。」
えだね先生は真面目なので、まともに答え始めました。
「そうそう、それそれ、野球肩とか、スポーツ障害はどうなのよ。うちのダンナの治しかたとどう違うのよ?」
そこだけ先生の奥さんはそう思って、目を輝かせました。
「でもね、基本は一緒ですよ。測定して自律神経の反応が強ければ、神経の枝や根っこに治療するとよく効くでしょう。もし、痛いところと神経の反応が合ってなければ、痛いところだけ治したほうが良いと思います。」
えだね先生は、なにしろ真面目なので、正直に一生懸命に答えます。
しかし、むつかしくなり過ぎました。
わかりづらくなったので、そこだけ先生の奥さんは、半笑いのまま困った顔になりました。
「えっ、ちょっと、何いってるかわからない…?」
夫婦そろって、わかりやすい性格をしています。
しかし、たいていの患者さんは、奥さんと同じです。
説明してもらうのは嬉しいのですが、話しがむつかしくなると困ってしまいがちです。
このことは、多くの先生方と、多くの患者さんが、お互いに困っていることです。
えだね先生は、奥さんの表情に気づいて、具体的に話してくれました。
「例えば、野球の選手が肩をこわすときは、痛くなる前から、練習で疲れがたまって血行が悪くなっているものなんです。」
「痛みは急に出たけど、その前から疲れがたまって、血行の不調は慢性症状だったわけです。」
「だから、ケガの治療だけでは、いつまでも痛みが治らないことが多い。慢性症状となっていた血行の不調を治すために、神経を刺激したほうが効くようです。」
「ウチのダンナがわかってないのはその辺りだな。」そこだけ先生の奥さんは思いました。
「なんなら、メモの一つもとっておいてやろうか?」とも思いました。
「そうじゃなくて、ほんとうに急に、無理な力がかかってこわれる、ねんざや格闘技みたいな故障は、代謝が悪いような神経の反応はないんです。そういう時は、痛いところだけ治すといいんです。」
「それか!それが、肩こりとねんざの違いってやつだな!」と、そこだけ先生の奥さんは思いました。
(2018年09月11日 公開)
次のお話
そこだけ先生はげんきDASのとおりに治してみました
ウチの治療器でも治せる?