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第一話 黒い夢
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大学時代、私のアパートは霊園へ向かう一本道の、上り坂の途中にあった。
私は昔から昼寝しない質であったが、その日はなんとなくだるく、ベットに横になっている内に、ついうとうととしてしまった。
そして私は夢を見た。
それは、黒い大きなものが轟音をたてて、自分に向かって突進してくるというものだった。
私は飛び起きた。たぶん、悲鳴をあげていたはずだ。それほど、おそろしい夢だった。
もっとも、夢は夢である。恐怖が過ぎ去ると、それほど気に止めることもなかった。
その夜、友人のKが泊まりにきた。
夜も更けた頃、Kはうたた寝を始め、私はコーヒーを煎れていた。
ふと気付くと、Kが起きていた。なぜか、ひどく取り乱しているようだった。私は、自分が昼間悪夢で飛び起きたことを思い出し、冗談半分に「悪い夢でも見たか?」と聞いてみた。
Kは笑いもせず、今、車が通ったか、と聞く。
「通ってない」と答えると、Kは「怖い夢を見た」と言う。真っ黒い、大きな車が猛スピードでアパートの前の坂道を下って行ったと言うのだ。
私は、昼間見た夢を思い出した。あの黒いものも、寝ていた私の左の方、つまり、霊園の方から轟音を発てて突進してきたのだった。
この2つの夢が、何か関係あるのか分からない。それきり、黒い車の夢は見なかった。
 
 
第二話 I山のこと
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東京の郊外、A市とH市の境にI山がある。山への入り口に巨大な鳥居が建っており、麓に拡がる小さな町が社内町のようにある。
Kの友人が、その町に引っ越しをしたときの話。
手伝いも終わり、Kたちはなんとなく夜中過ぎまで、その家にたむろしていたという。その時、Kたちは、遠くで太鼓のなる音を聞いたと言う。
祭の時分でもなく、しかもこんな夜中になんだろう、と、みんなが首を傾げたそうだが、それ以上気にすることもなかったそうである。
 
その1年か2年ほど後のことだと思う。私は八王子近辺の民話を調べていて、面白そうな山を見つけたので、Kとともに山に向かった。
入り口の巨大な鳥居を見て、初めてKは、これから向かう山が、友人の引っ越しの時に来たところだと思い出し、嫌な顔をして、引っ越しの際の太鼓の話をしてくれた。
その話を聞いて、私にはピンと来るものがあった。その時I山に向かったのも、そのI山の変わった風習のせいなのだ。
実は、I山は別名「呼ばわり山」と言う。頂上で太鼓を打ちならし、無くしたものを「呼ばわる」と、それが戻ってくるという。
Kたちが聞いた太鼓の音は、何かを「呼ばわって」いたのかも知れない。
それにしても、夜中に呼ばわるほど大切のものとは、なんだったのだろうか。
 
 
第三話 雪の上の足跡
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Kと私がI山に行った時、Kが嫌な顔をしたのには訳がある。
引っ越しした友人から数々の奇怪な体験談を聞いたと言うのだ。それ以来、Kもなるべく近づかないようにしているのだと言う。
しぶるKから聞いた唯一の話が、この話である。
 
引っ越しした友人の話である。
ある朝起きると、一面がうっすらと雪に覆われていた。
彼は、そこに裸足の足跡を見つけたのだという。足跡は、丁度彼の家の窓を覗き込むような位置まで来ていたそうだ。
隣の家には大家がいた。実は、その大家の弟は知的障害があるらしく、Kの友人もしばしばちょっかいを出されて迷惑していたのだそうだ。
その足跡もおおかた大家の弟の仕業だろうと、彼は幾分腹を立てて、その足跡をたどって見た。
しかし、彼の思惑ははずれることになった。
足跡は畑の真ん中で、ぽつんと途切れていたそうである。
 
 
第四話 I山にて
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これも、Kと私がI山に行った時のことである。もしかすると、怖いというより笑い話かも知れないが、私にとっては心臓がひっくり返るほどの体験だった。
嫌がっていたKだったが、I山には登ったことが無いので、興味の方が勝ったようだった。結局、小高い山に登り、頂上にある天狗が祀られている祠などを見て回った。その帰り、市街を眺望できる中腹のベンチでひと休みした時のこと。
Kとならんで、街を見下ろしながら、何ということのない話をしていた。
話をしながら、ふいに顔を横に向けた時である。目の前10センチと離れていないところに、顔があったのである。
私は思わず飛びすさった。悲鳴をあげなかったのが不思議なくらいだった。
そこには、少し知能が遅れているらしい少年が、私が座っていた肩口から首をつき出した前傾姿勢で、じっと立っていたのである。
いつ近づいてきたのか、全くわからなかった。小石だらけの道を、音もたてずに。
Kと二人であまりの衝撃に戸惑っていると、少年はゆっくりと首だけこちらに向けて、私たちを見るともなしに見てから、立ち去っていった。
驚きが去ると、苦笑いするしかなかったが、Kは真顔で「だから、来たくなかったんだ」とぼそりとつぶやいた。
 
 
第五話 丹前
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東北に友人と旅行に行った時の話である。
とある温泉旅館でのこと。
ゴールデンウィーク間近とはいえ、まだ肌寒く、私は丹前を羽織ったまま寝ていた。
夜中にふいに目が冷めた。
友人は布団をかぶってぐっすりと眠っている。
友人の向こうのかべに丹前がぶらさがっていた。寒く無いのかなあと思いつつも、そのまま再び眠りについてしまった。
朝、寝足り無そうに起き上がった友人を見て驚いた。丹前を着ていたからである。
夕べのことを話すと、彼は「ああ」と言いつつ、誰かが近くにいる感じがして、なかなか寝付けなかったとぐちをこぼした。
宿代を払うついでに遠回しに聞いてみたが、主人は肯定も否定もせずに、無愛想につりをよこしただけであった。
 
 
第六話 見つめる老人
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Tは子供の頃病弱で、よく寝込んでいたという。
そして、彼が寝込んでいると、いつも天井近くの梁に老人が座っていて、じっとTを見下ろしていたそうである。
その当時は、怖いとも不思議とも思わなかったそうである。
 
 
第七話 UFO
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夕方であった。
高尾駅の南口の階段のところで、女子高校生たちが空を指差して何か言い合っていた。
見上げると、澄みきった夕空を、ひとかたまりの10〜20くらいの小さな光点がランダムに点滅しながら空を横切っていく。
光点の拡がりは、腕を伸ばして拡げた手ぐらいの範囲である。
光点の群れは、北から近づいてきて、数分で上空を通りすぎつつ、見えなくなってしまった。
動きや光点の大きさは人工衛星のようであったが、あれほど密集しているものなのか、点滅するのは何故なのか分からなかった。
これが、私の唯一のUFO体験である。
 
 
第八話 
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大学時代、先輩が裏高尾に住んでいた。そこはクラブの溜まり場になっており、私もよくおじゃましたものである。
その先輩の叔母さんは、霊能師のようなことをしていた。
先輩が裏高尾に引っ越して間もなく、叔母さんから電話があったと言う。そして、先輩の住んでいる辺りのことを的確に言い当てていったそうである。
そして、すぐ近くに道路を横切る川があるはずだと言う。確かに先輩の家の目の前を、道路を横切る小さな川が蛇行していた。
「川の向こうは、死者の国だから、行っちゃだめよ」
先輩は、そう言われたそうである。
 
 
第九話 うなじを押す指
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友人のHが裏高尾の先輩の家に初めて行った時のこと。
クラブ仲間と飲み会は深夜まで続き、Hは酔いが回ってきたので、酔いざましにと、先輩のひとりとともに表に出たそうである。
表の道路に出たすぐのところにバス停があり、2人は夜風に吹かれながら、しばらく何事かを語らっていたそうである。
ふわりと空をよぎるものがあり、Hがふと空を見上げると、10mほど上を青白い光が後の方に飛んで入った。丁度、火のついたガスレンジを真上から見たような感じだったという。
一緒にいた先輩は気付かなかったらしいが、その先輩が怖がりだと知っていたので、今見たもののことを話すのは止めたそうである。
それからまだしばらく先輩と話をしていると、今度はうなじをぐいと押された。
はっきりと、柔らかい指の腹の感触がしたそうである。先輩がやったのかと思ったが、先輩は話の続きをしている。
触られた辺りに手を持って行って気付いたのは、カッターシャツの襟と長めの髪に触らずに、自分のうなじに触るのは不可能であるということだった。
振り返ると、真後ろの闇の中に、今まで気付かなかった大きな石碑があるのが目についた。
あまり良くない感じがして、Hは先輩をうながして家にもどったそうである。
ちなみに、Hの見た石碑は、旧甲州街道のK関所跡であり、ここでは処刑も行われたと言われている。
なお、この関所跡は、裏高尾に住む先輩の叔母さんが言っていた、生と死の境になる川のすぐ向こう側に位置している。
 
 
第十話 ちょっかい
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ところでHは今でも、時折何かに頭を叩かれるそうである。
道を歩いていたり、シャンプーで頭を洗っている時、ぽん、と、軽く指先で頭頂あたりをこずかれる。
丁度、「ちょっと」と肩を叩くような感じだそうである。もちろん、振り返っても、誰もいない。
「女、、、かなあ。別に痛くはないんだ。ふざけて、ちょっかいを出してるんだと思う」
実害は無いそうだが、叩かれる度に、「叩かないように」と一応注意するそうである。
 
 
第十一話 遮る腕
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知り合いのK氏の談である。
K氏のアパートの部屋の入り口は2階にあり、両側をコンクリートの壁で塞がれた、幅1メートル程の狭い階段を登った先にある。
K氏は飲み屋のバイトをしていたので、帰宅が深夜の2時をまわるのも普通のことだった。
そんなある日、いつものように帰宅したときのこと。
階段を登っていると、突然右の壁から腕が伸び、ドンという音とともに左の壁に大きく拡げた手をついて、K氏の行く手を遮ったそうである。
手をついた時の衝撃は大きく、「建物が揺れた」程だったという。
K氏が気を取り直した時には、腕はいつの間にか消えてしまっていた。
腕はそれ以来現われなかったが、K氏の友人たちはその階段付近で、ふわふわと動く白いものを何度も目撃していたそうである。
 
 
第十二話 行進
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これは、亡き祖母から聞いた話である。
祖母は娘時代、満州で過ごしていた。
時折深夜に家の前の通りから行進の足音がした。祖母は不思議に思い父親に聞いて見ると、「夜中に外を見てはいけない」と戒められたそうである。
しばらくは我慢していたものの、ある夜、例の行進の足音が聞こえると祖母はついに我慢出来なくなり、そっと窓の隙間から大通りを覗いた。
通りでは、身の丈1メートルほどの小人の兵隊たちが行進していたそうである。
 
 
第十三話 巡る足音
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N氏が大学時代、友人たちとお寺に泊まった時のこと。
深夜、とんとんとんと木の床を踏む足音が近づいてきて、N氏たちの部屋の前の廊下を通りすぎて行った。その時には気にも止めなかったそうだが、少しすると、またN氏たちの部屋の前を通りすぎていく足音が聞こえる。
さすがに変だと言い出すものもいる。すると、またとんとんとんと足音が近づいてきて、N氏たちの部屋の前の廊下を通りすぎて行った。
N氏たちは襖を開け、廊下を覗いてみた。廊下には暗闇が拡がり、人気はなかった。
「本堂を巡る廊下をぐるぐる回っているみたいだから、また来るだろう。襖を開けておいてみよう」
そしてN氏たちが声を潜ませて待っていると、案の定、また足音が近づいてきた。N氏たちが食い入るように見つめる開け放たれた襖に、足音は確実に近づいてくる。
「来た!」
しかし、N氏たちには何も見えなかった。ただ足音だけが、N氏たちの前を通り過ぎていっただけだったと言う。
翌朝、寺の和尚に聞いて見ると、「よくあることです」と笑って言われたそうだ。
 
 
第十四話 山小屋にて
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これもN氏の体験である。
彼には山登りの趣味がある。これはB山の頂上の山小屋に独りで泊まったときの話である。
その山小屋は2階に簡易ベットがあった。他の客もおらず貸切状態で、N氏は昼間の登山の疲れも手伝って、悠々と熟睡していたそうである。
夜中も2時をまわった頃、N氏は小石を踏む足音に目を覚ました。
じっと、聞き耳をたてると、何者かがゆっくりと小屋の回りを歩いているらしい。
「鹿とか熊の足音じゃあなかった」
やがて足音は来た方に遠のいていった。N氏が窓に駆け寄って見下ろすと、月灯りに照らされた人影が木々の間に消えていくところだった。
「よくあることだよ」N氏はそう言って笑った。
 
 
第十五話 書斎童子
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足音といえば、私にもこういう経験がある。
中学の終わりから高校生の頃、学校から帰宅して居間にいると、誰もいないはずの2階から足音が響いてきた。
2階には父の書斎があり、丁度父の机の上から、5、6才くらいの子供が飛び降りて駆け出すような音だった。飛び降りた時の衝撃音は、少しばかり家が揺れるほどの激しさだった。
その体験は、2度や3度のことではなく、何年にも渡って続いた。
今考えると、座敷童子でもいたのかなあ、と思うが、その割りには金持ちではなかった。
やはり「書斎童子」ではだめなのかも知れない。
 
 
第十六話 ついてきた人
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Fさんは、バイト先で出会った彼氏と2人で東北に旅行に行った。
楽しい旅行であったが、帰宅してから、なんとなく身体がだるくなってしまったそうである。旅行疲れだろうと、気にも留めなかったが、次第に不思議なことが身の回りに起こり始めた。
誰かにじっと見られている気配がしたり、寝ている彼女の回りを誰かが歩き回っているような感じがするのも、1度や2度ではなかった。
Fさんは幽霊のようなものは信じない質であったが、部屋を掃除した時に、ショートカットの自分のものではない長い髪の毛がごっそり出て来た時には、さすがに気味が悪かったと言う。
そうこうする内に、彼女の体調の悪さからバイトを辞めたせいもあり、彼氏と些細なことで喧嘩になって、あっさり別れてしまったそうだ。
その直後、なぜか、奇妙な現象はぱったりと無くなったそうである。
 
その後、Fさんのアパートに友人が泊まりに来た。Fさんが、お風呂から出てみると、友人が怪訝な顔をして写真を見ていた。
その写真は彼氏と旅行に行った時にS湖の前で2人ならんで撮ったものだった。Fさんはそれを写真立てに入れて棚の上に飾っていたのだが、彼氏と別れた後、伏せたままにして処分するのを忘れていたと言う。
今さら元カレとの写真を引っぱり出されて腹が立ったが、友人があまりにも真剣な顔をしているので、どうしたのかと聞いて見たそうである。
友人は青い顔をして言った。「前に見たときは、もう一人、女の人が写ってたんだけど」
彼女が言うには、2人の後に女の人が写っていたはずだと言う。
「だって、すぐ後は柵だよ。誰も立てないよ」と言うと、友人はう〜んと唸って、
「ほんとだ、、、。でも、確かに居たんだよ。髪の毛の長い女の人が、すごく嫌な目つきでこっちを睨んでたんだよ」
涙目になった友人によれば、最初に見たときからひどく気持ち悪かったのだが、折角の旅行の記念写真にケチをつけるよう言えなかったそうである。
後にテレビで見た事によると、S湖は自殺者が絶えない有名な心霊スポットだそうである。
「彼についていっちゃったのかなあ」
その後彼との音信はなく、写真もすぐに捨ててしまったそうである。
 
 
第十七話 八王子城跡のG滝
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テレビ番組でも何度か取り上げられた場所なので、ご存じの方も多いと思う。
八王子城が北条氏に攻められて落ちた際、姫を始めとする女性たちが、ここで自害したそうである。今でも、落城した6月のある日には霧が立ちこめて、川が真っ赤に染まるという話がある。
大学時代、この滝を撮った写真に顔が写っていたと、騒然となったことがあった。
私も大学時代、真夜中に写真を撮りに行ったことがある。
結局写真には何も写らなかったが、帰り道、見事に事故を起こしてしまった。
もちろん、運転が未熟だったせいである。しかし、あまり興味本位で心霊スポットに行ってはいけないなあ、と気持ちを改めることにした。
今では、G滝の周辺は整備され、ものみ台も復元されて観光名所となっている。
 
 
第十八話 火葬場で
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Tの子供の頃の話である。
Tのおじいさんが亡くなった時、火葬場に集まった者が順番にボイラー室の窓から荼毘に付される様子を見ていたという。
Tが覗く番になった。焼けていく棺桶を見つめていると、突然、火に包まれたおじいさんの上半身が起き上がり、Tを見つめると、再び炎の中に倒れこんだそうである。
Tは恐ろしくて、その事は誰にも話せなかったという。
 
ある本によれば、火葬中に蘇ることは決して少なくなく、それ故、棺桶の蓋はあまり頑丈に釘付けしないそうである。
 
 
第十九話 八甲田山
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Kが八甲田山のT温泉に泊まった時のことである。4月の終わりとはいえ、まだ積雪が何メートルと積もっていた。Kの泊まった旅館は温泉街のはずれにあり、ゴールデンウィーク前であることも手伝ってか、がらがらだったそうである。
その夜中、Kは笑い声で目が覚めた。
鳥の声かとも思い、窓を開けて耳を傾けたが、人の笑い声にしか聞こえない。笑い声は林のむこうの、他の旅館などがない山の方から聞こえていたそうである。
時折動き出す発電機のモーター音にかぶって、誰かがぼそぼそとつぶやいているような声も聞こえたという。
笑い声は、断続的にしばらく続いたが、そのうちに消えてしまったそうである。
翌朝、宿を引き払った時、すぐ近くの道の脇に碑が建っているのに気がついた。それは、有名な「八甲田山・死の行軍」で亡くなった人を悼む慰霊塔であった。
気になったKは帰宅後に、「八甲田山・死の行軍」のことを調べたそうである。それによると、彼等の行軍の目的地はまさにT温泉であり、彼等は凍死する直前、笑いながら衣服を脱ぎ捨てて死んでいったそうである。
 
 
第二十話 D堂
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川崎から八王子を抜ける、「絹の道」というのがある。その途中、鬱蒼とした脇道を登ったところにD堂という廃寺跡がある。
心霊スポットとして名高いので、知っている人もいるはずである。廃寺になった後、老女が管理していたのだが、強盗に惨殺されて後、朽ち果てるにまかせてあったものだ。幽霊話は昔から後を絶たない。
今は礎石しかないが、私が1983、4年頃に訪れた時にはまだ御堂が残っており、藁葺きの屋根が半分崩れかけて異様な姿をさらしていた。また、階段脇の地蔵は、誰の仕業かことごとく首がなく、気味の悪い雰囲気を盛り上げていた。
そこで撮った写真。
堂のまわりには誰も手をつけない鬱蒼とした木々が生い茂っており、朽ち果てた御堂にはほとんど光が差さない状態であった。フラッシュを持っていなかったので、シャッタースピードを遅くして手ぶれしないようにしっかりと脇を閉めて撮影した。
だが、上がった写真はわずかにぶれてしまっていた。その上、御堂の脇に奇妙な白いものが写っていた。人の形をしているような感じもするが、ぶれのせいで判然としなかった。
写真は、友人がほしいと言うので、あげてしまった。
この度、ネガを探してみたが、見つからなかった。その友人とも連絡が取れなくなってしまっている。
 
 
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