語る会モニター報告


   2024年衆議院選挙・テレビメディアはどのように伝えたのか
                       
                       2024
年12月日放送を語る会



  政治の風景ががらりと変わった。2012年の衆議院選挙で自民党が政権交代を果た して以来、10年以上続いた“安倍一強”時代(菅・岸田政権もここには含める)。それが 去年10月27日の衆議院選挙の結果終止符を打たれたのだ。与野党が逆転し、国会を 軽んじ、民意に耳を貸さず数の力を背景にした、“強権政治”の重い雲を、私たち市民 がふり払ったのだ。
  放送メディアの関係者や市民などで作る「放送を語る会」では、衆議院選挙や参議 院選挙について、テレビメディアの主要なニュース・報道番組を見比べて、分析をする モニター活動を続けている。以下は日本の政治の大きな節目となった第50回衆議院 選挙についての語る会のモニター報告である。

   ◆2024年衆議院選挙(10月15日公示 27日投開票)
        テレビ番組モニター報告
  放送を語る会

 【モニターの期間
 去年9月の自民党総裁選挙で総裁となった石破茂氏は、首相に選出されてわずか 10日でスピード解散した。モニターの期間は解散日の10月9日から15日の公示をはさ んで衆議院選挙の投票日前日の26日まで、該当するニュース番組がない日曜日をの ぞく16日間とした。
  公示日の前から始めたのは、選挙期間中には「選挙の公平性」として各社の報道の内 容が抑え気味になることから、公示日前に多様性のある報道を期待したからだ。
 【対象にしたニュース番組】
 モニターをする番組は4つの放送局のあわせて7つのニュース番組とした。
   ▼NHKの「ニュースウオッチ9」と「サタデーウオッチ9」
   ▼テレビ朝日の「報道ステーション」と「サタデーステーション 」
   ▼TBSの「news23」と土曜日の「報道特集 」
   ▼日本テレビの「news zero 」
 【モニターの視点】
 
テレビの報道がどのように衆議院選挙を取り上げ、なによりも有権者が投票をする際 に、参考になる情報をどれだけ視聴者に届けられているのか(投票行動に資する報 道)を受け手の視聴者の側から検証していこうというのがモニター活動の視点である。
 モニター活動には東京と大阪の語る会のメンバー11人が参加した。メンバーは各自 担当した番組について以下の点をポイントにチェックし、1日分ごとにモニター報告を 作成し、最後に全体をとりまとめた。
  1選挙関連のニュースが出た順番(オーダー)
      その日取り上げたニュースの中での重要性がわかる
 2放送された時間の長さ
 3ニュースの伝え方
     
ストレートニュース スタジオ解説や企画
  4ニュースの内容 選挙戦について政治の動き 選挙戦の争点や政策 情勢展望
 大阪のメンバーが、放送番組の字幕を書き出せるソフトを駆使して、担当者にデータを 送ってバックアップ。メンバーの総力でモニター活動を行った。
 【放送時間とオーダー・・・放送された量】
 *オーダーがトップだった回数
 ●解散日から公示前日まで(10月9日~14日 日曜日除く5日間)
  ▼NHKの[ニュースウオッチ9」「とサタデーウオッチ9」 1時間1分40秒 1回
  ▼テレビ朝日の「報道ステーション」と「サタデーステーション 」1時間23分20秒 2回
  ▼TBSの「news23」と土曜日の「報道特集 」1時間15分53秒 1回
  ▼日本テレビの「news zero 」55分42秒
 ●公示日から投票前日まで(10月15日~26日 日曜日除く11日間)
  ▼NHKの「ニュースウオッチ9とサタデーウオッチ9 なし 1時間57分55秒 2回
  ▼テレビ朝日の報道ステーション」と「サタデーステーション」 1時間9分58秒 1回
  ▼TBSの「news23」と土曜日の「報道特集」 2時間26分22秒 なし
  ▼日本テレビの「news zero 」1時間8分46秒 なし
 ●解散日から投票前日まで(10月9日~26日まで 日曜日除く16日間)
  ▼NHKの「ニュースウオッチ9」と「サタデーウオッチ9」 2時間59分35秒 3回
  ▼テレビ朝日の「報道ステーション」と「サタデーステーション」 2時間33分18秒 3回
  ▼TBSの「news23」と土曜日の「報道特集」 3時間42分15秒 1回
  ▼日本テレビ「のnews zero 」2時間4分28秒 なし
  (時間数はモニター各自が計ったものを合算したあくまでも概算のデータ)

 放送時間の量については、解散から公示日までと、公示日後の選挙戦に突入して からの間でほぼ同じくくらいだったことがわかる。つまり選挙本番に入ってからの放送時 間の量は決して多いとはいえないのだ。モニターした実感でも選挙関連の報道が十分 とはいえなかった。
 さらに放送の順番が1番目(トップ項目)になったのはNHKとテレビ朝日が3回、TB Sが1回と全部で7回だった。また期間中にまったく選挙に触れない番組も3回あった。 視聴した番組は全部で60。トップになったのはそのうちの8分の1以下でしかなかった。
 この時期は、闇バイトによる相次ぐ強盗事件や、大リーグ大谷翔平選手の活躍などが 連日トップを飾っていたが、国政の行く末を決める選挙についての各放送局・番組の ニュースとしての価値判断、ひいては報道姿勢については疑問が残る。
【選挙報道の内容は】
 テレビの選挙報道を見てみると概ね以下のようなカテゴリーが定番?となっている。 毎回マンネリとの指摘を受けるのはこうした内容を超える、新たな切り口がなかなか生 み出せないからでもある。
   1各党の選挙戦 第一声 選挙街宣の声 党首討論 党首や候補の動き
  2選挙の争点・課題 各党はどのような政策を訴えているのか
  3注目選挙区の紹介
  4選挙の情勢分析 世論調査など
  5選挙全体の課題やトピック
 ともあれ、こうした点を踏まえて、各テレビメディアはどのような情報を視聴者に届けた のかを、番組別に見ていきたい。今回は、1つの番組について数人が順番でモニター を担当し、その番組のまとめ担当者が集約する形で番組ごとの分析・感想をまとめた。 それをもとに、以下番組ごとにモニターに番組の内容はどう受け止められたのかを見 ていきたい。

    NHK 「ニュースウオッチ9」・「サタデーウオッチ9 」
 ・マンネリ化した選挙報道
 モニター期間中、「ニュースウオッチ9」が13回、「サタデーウオッチ9」が3回選挙につ いて放送した。この中で「各党党首・幹部の街頭演説・記者会見」が、「ニュースウオッ チ9」7回、「サタデーウオッチ9」1回、計8回と圧倒的に多かった。
 いずれも、自民・公 明・立憲・維新・共産・国民・れいわ・社民・参政の9党首・幹部の街頭演説・記者会見・ インタビューによる各党の訴えのポイントを並べた。 多くの人に選挙の雰囲気や各党の主張・見解のポイントを知らせる点では意義は否 定しないが、パターン化・マンネリ化した選挙報道という印象を拭えない。
  議席数に対応した時間的配分で量的には政治的公平が保たれているように見える が多くは1人20~30秒と短く、しかも各党言いっぱなしで主張の羅列に終わっている。 そのため論点が拡散し、有権者には何が政策的争点か、各党の訴えはどこに違いが あるのか、どんな批判があるのかなどを判りにくくしてしまった。論点を絞り、同じテーマ について各党の意見を突き合わせるようにしたら、少しは有権者が考える材料になっ たのではないか。
 ・数少ない政策報道 政党や候補者の動き
 「注目の選挙区」の選挙情勢など政局報道が多い中で、政党 の公約・政策発表の報道が3回あった。しかしいずれも要約、政策項目の羅列にとどま っていて時間も短く、理解を深める点では物足りない。現状の問題点、街の人々の反 応・識者のコメントなどが付け加えられれば、有権者により多くの考える材料を提供で きるのではないか。時間配分も公約発表で、議席数に見合った傾斜配分の必要はあ るのか疑問。
 一方、三夜連続の「選挙の争点」シリーズは、「政治とカネ」「防衛力の強化」「賃上 げ」をテーマにして、NHKが独自に行った候補者アンケートを使いながら、それぞれ7分から9分30秒と時間をとって詳しく伝えた。
 「政治とカネ」では改正政治資金規正法のポイントを列挙し、各党の政策を比較した。 さらに、NHKが独自に行った候補者アンケートを政党別に回答を整理、平均値を図表 にして各党の姿勢の違いを判りやすく示した。
  この日のモニター担当者は、「NHKが候補者に独自アンケートを行ったが、有権者 の判断材料の一つとして役立ったように思う」「自民党候補の回答率が低かったことが 目につく。執行部から『回答しないように』と指示があったとの報道もあるが、主張・見 解を明示して信を問う選挙で有権者に対する誠実さが疑われる」とコメントしている。
  また「防衛力の強化」ではキャスターが石垣島に初めて開設された自衛隊駐屯地の 火薬庫建設現場を訪れ、石垣市長や、街の声、反対の声を上げる市民グループを取 材し防衛の最前線の実情を伝えた。そのうえで、アンケートをもとに各党の「防衛力の 抜本的強化」「財源を賄うための増税」に対する態度の違いを鮮明にした。
  このシリーズは、今、有権者に最も関心のある争点を取り上げ、キャスターが現地取 材に出かけ、現状や問題点を掘り下げ、それに見合った各党の政策を噛み合わせて 紹介した。有権者の判断材料として役立つ優れた企画と思う。こうした企画・取材こそ が選挙報道に求められているのではないか。
   ・記者解説
 政治部記者による記者解説は解散日、公示日、投票前日に3回放送された。 解散日には政治部長が出演し、選挙の争点を解説。第一に「政治とカネ」を挙げ選挙 結果は「一言でいうと判らない」。有権者の関心は、「政治とカネ」ばかりでなく、物価・ 賃金・子育てなど。「それぞれ関心のあるテーマで各党の公約を比較して投票に」と結 んだ。公示日には与野党のキャップが出て「不記載の問題で非公認にした対応は、情 勢にどの程度、影響を与えるのか、はかりかねているのが実情」「野党幹部は、政治と カネの問題を前面に出して与党を追い込んでいきたいと話していた」など、政治的争 点よりも与野党の思惑や党内事情の説明に重きが置かれていた。投票の前々日の記 者解説では終盤の選挙情勢を解説した。この中で「終盤になって、自民党が非公認と した候補者が代表を務める政党支部にも党勢拡大の活動費として2000万円を支給し たという話が出てきました」と番組としては初めて赤旗のスクープに言及した。「情報 源」が赤旗のスクープだったことに触れなかった。
   ・選挙企画
 
首相就任後、戦後最短で迎えた衆議院選挙に対して、「解散の舞台裏」で、早期解 散でアタフタする国会職員を。「密着!異例の短期決戦の舞台裏」では、地方の選挙 準備の現場、被災地輪島の混乱を取材、今回の選挙の問題点を突いた。
  また公示日直前に若いモデルの「街頭演説ウオッチャー」の活動を紹介して「若者の 投票率」アップを訴えたり、「選挙割」「AI党首」を取り上げたりして選挙への関心を高 め投票率アップを目指すなどのキャンペーンも試みられた。
 こうした企画の中でも「選挙のバリアフリー」をテーマにした企画が光彩を放った。スタ ジオに、自身も視覚障害のあるデスクが出演し、バスを巡回投票所にした長野県中野 市、投票所にルーペ・老眼鏡・車いす・ベビーカーを用意している東京・狛江市など各 地の取り組みを紹介。さらに高知市の30代で視力を失った男性の期日前投票に同行 して、障害者の投票の困難さをリポート、最後に「誰もが平等に1票を持っているという のが選挙の大原則です。バリアをなくすための取り組みをぜひ議論してほしい」と結ん だ。
  ・赤旗スクープの伝え方
 「裏金非公認に2000万円 公認と同額 自民本部が政党助成金」としんぶん赤旗が 選挙戦終盤の10月23日にスクープし、選挙情勢に大きな影響を与えた。民放が相次 いでこのニュースを報じたのに対し「ニュースウオッチ9」が報じたのは前述した10月25日 の記者解説だった。ここから浮かび上がるのは政権与党に不利なニュースは極力報道 しないという姿勢ではないか。この傾向は、長年続けてきた放送を語る会の選挙報道 のモニターでも一貫している。NHK政治部には、かつて大本営発表を垂れ流した戦前 のDNAが今も残っているのではないかと疑わせるものだ。
    テレビ朝日 「報道ステーション」・「サタデイステーション」
  ・番組を通して見えてきたこと
 今回2つの番組をモニターして見えてきたことは、局独自の視点に立ったニュースや 企画が影を潜め、番組としての主張や見解が避けられていたことだ。
  とりわけ、裏金問題(政治とカネ)は今回の選挙の中心をなす問題であったはずだが、 各党の党首や代表者の声を伝えただけで、局独自の視点からの報道はなかった。
  また選挙関連が、中身の薄いおざなりなものになり、日々のニュースオーダーでも上 位に扱われなくなってしまったこと。しかも、選挙関連報道と称しながらも、党首や党の 代表者の声を決められた秒数に編集し機械的に放送しただけで、それに対する番組 としての見解を何も付け加えなかったことは、選挙報道の公平性を盾に取った安易な 報道姿勢といわれてもおかしくないのではないか。
 一方で、解散日当日の放送でキャスターの「裏金疑惑のある自民党候補の選挙区 に統一候補を立てられるか」との質問に、野党担当の記者が「難しい。せいぜい他党 候補者が立っている選挙区には新しい候補者を立てないことぐらいしかできない」と 指摘するなど、統一候補を立てられない野党を、婉曲にではあるが再三にわたって問 題視していた点や、都議選の際問題になった選挙掲示板ジャックに関し、鳥取県が条 例を制定してその防止に乗り出したと伝えたこと(19日)などは評価できる内容だった。
  さらに10月23日に自民党が非公認候補者にも2000万円の活動費を支給したという 「しんぶん赤旗」のスクープを、当日の放送時間内にニュースとして伝え、翌日には独自 の企画として詳細に報道したことはあるべき選挙報道として望ましい対応だったのでは ないか。
  ・「注目の選挙区」について
 番組では7回にわたって「注目の選挙区」についてリポートした。担当者の間では 特定の選挙区を取り上げたとしても、それが選挙全般に何か示唆を与える内容を含ん でいるか、によって評価が分かれた。この中で石川県の能登地方をエリアとする石川3 区は1月の能登半島地震、9月の水害と2度にわたって大災害に見舞われた地域であ る。そこで人々はどう選挙に向き合おうとしていたかをレポートしたものだった。「選挙ど ころではない」とそっけなくいう住民がいる一方で、「実情を世に知らしめるためにも投 票はなんとしても行かなければ」と力を込めて言う住民。被災地の複雑な住民感情に 政治がどう答えるのか、を考えさせる好レポートだった。
 また裏金問題で非公認となった自民党の重鎮、萩生田光一氏が立候補した東京23区。非公認であるにもかかわらず、高市早苗氏などが応援に駆けつけるなど、萩生田 当選に向けて熱のこもった応援を繰り広げる地区でもあった。しかし制作者の視点は 野党が統一候補を立てられなかったことを問題視していた。記者に一本化できなかっ たことを問われた立憲の枝野元代表が、「関係ない」と足早に立ち去る姿も映し出され た。野党第一党としてきちんと説明することが有権者への責任ではないかと考えさせる 内容だった。
  これに対して「和歌山2区」のリポートは、元自民党幹事長二階俊博氏の引退で立候 補した三男の二階伸康氏に対し参議院から鞍替えした世耕弘成氏が挑み、果たして この対決は? というのがリポートの主旨だった。選挙のたびに世襲は問題になり、世 論として世襲議員の立候補の仕方について何らかの規制が必要ではなかとの声も出 ている。それをメディアとしてどうとらえるかが問われていたはずである。

     TBS「 news23」と土曜日の「報道特集 」
  ・番組の内容について
  「news23」
 
解散当日は、党首討論などの国会ドキュメントと院内インタビューで選挙の争点を概 括的に示した。インタビューに応えて二階元幹事長は、「派閥は必要、何が悪い」と居 直り。裏金問題で非公認の議員からは厳しい状況に置かれた恨み節もきかれた。突然 の解散で、対応に困惑する能登被災地の声も伝えている。
  党首討論は、 “どうする裏金?暮らし?”をテーマに各党首に対して、判りやすい回 答を求め、発言順も少数政党から始めるなど、グリップを効かせた進行にその意欲が 見られた。また、キャスターが、石破総理の“ブレ姿勢”に迫まったり、発言を聞き置くだ けで済まさず、再質問をするなど高い意気込みも感じられた。なかでも、“非公認候補 を推薦”する公明代表に、コメンテーターが、その本意に鋭く切り込んだ場面も見られ た。
  公示日は、“有権者が政治に求めるものは”と選挙戦のスタートを伝え、TBS政治部 長は、野党共闘が少ないことに「各野党も生き残りに懸命で、他党に譲る余地はない と」解説している。
 選挙区リポートは、裏金に関して、非公認vs公民権停止明け候補の保守対決とな った東京9区、参議院から鞍替えの東京7区などを取り上げた。また安倍元総理と統一 協会幹部が総理官邸で収まったとされる写真が明るみになったのを背景に、埼玉5区、 神奈川4区からリポートしている。統一教会との関りに市民の声は厳しいものがあるが、 当事者の牧原元法務大臣は「なんら問題なし」と居直る声も放送された。統一教会の 被害救済にあたる弁護士の各党への質問に、公明党は「党内で議論」、自民党からは 明確な言及はなかったとキャスターがコメントした。
  もうひとつの争点である“暮らし”について、キーワードの“最低賃金1500円”で複数 の政党が引き上げの政策を掲げているとして、全国最低水準の秋田県の学生の最低 賃金が上がったら、働く時間を減らして勉強にあてたいと痛切な声を紹介する一方、 「実施は到底不可能」とか、「人を手放し事業をたたむとかの倒産が増えるといった声 があがっている」といった経済界の否定的な声を対置させた。
  また、物価高や学費の値上げが重くのしかかる学生たちの深刻な状況を取材し、候 補者に望むこととして、“教育の無償化”や“103万円の壁”を撤廃し学費を稼げるよう にしてほしいといった声も伝えた。キャスターは若者にこうした思いをさせてしまってい ることは日本の未来の損失につながるとコメントを加えた。
  終盤に自民党が非公認支部にも2000万円支給のニュースに、野党は裏公認料と批 判、石破総理はあくまで活動費のみと強弁しているが、自民幹事長も事実と認めたス クープが「しんぶん赤旗」であったことも報じている。このニュースの中で政権幹部の「選 挙妨害だ」との発言を入れたことは、政権への忖度をうかがわせた。
 「報道特集」
 
報道特集は19日の「衆議院選突・石破政権を問う」で裏金非公認の候補が立った 二つの選挙区を取材した。。この中で各キャスターは「裏金に厳しい声が多いとしなが ら、肝心の政策が見えず、選挙は冷静に判断する必要がある」「選挙中、目にした警 備の異様な厳しさに、政治が暴力に侵される危うさがある」「政治家は何度も頭を下げ てルールを作るが、それを自らが破っていることにあまりにも無自覚ではないか」といっ た意見を相次いで述べた。
  26日の「あす投票日 貧困・防衛費“争点の現場”を行く」は、過酷な貧困の実態と、 拡大する防衛費に関して、ノーベル平和賞を受賞した日本被団協の危惧する思いを 伝えた。日本被団協・箕牧さんは「政府は核のない世界の実現に後ろ向き、選挙はよく 考えて投票を」と訴えた。。核政策を考える若者グループが広島県の候補者にアンケ ートを実施、多くの自民党候補者からの回答は無かったことも明らかにした。
  いずれも、渦中の現場に入り、当事者の思いを忖度なく伝え「報道特集」の気概が 感じられる放送内容だった。
  ・モニターを通して感じたこと

 今回の選挙の争点になった裏金問題については、国民が納得していないことはイン タビューの街の声でよく伝わったが、自民党がきちんとした検証もせずうやむやにすま そうとしていることに、番組として追求する姿勢に弱さを感じた。
  物価高・経済対策や教育無償化について、現場での過酷な実態や切実な声を丹 念に報じていた。一方で防衛費の拡大も国の将来に関わる重要な争点。選挙期間中 に政党からの訴えは少なかったが、メディア側からの問いかけがより必要であったので はないか。
  各党の政策の伝え方について、スローガン的な紹介に終わり、投票に際し政策をよ く吟味してほしいと呼びかけるわりには、関連する情報のボリュームが少なかった。 「詳細は各党のHPで」では、ジャーナリズムの放棄につながるのではないか。各党の 政策の根拠や裏付けを取材・チェックし、有権者に提供する役割をメディアが担ってい るのではないか。その意味では政策に関する情報が相対的に少なかった。

    日本テレビ「 news zero 」
  ・番組の内容について

 公示前の10月14日は番組内で7党の党首討論が行われた。各党への質問がよく準 備されていた印象を受け、各党の主張の違いがよく分かった。キャスターが再質問す るケースもあったが、殆どが一問一答で終わっていて、単に発言の場の提供だけでは 「テレビ版選挙公報」のようになってしまう。裏金問題については自民党の非公認候補 の選挙活動を描く選挙区リポート(東京7区・21区)を放送した。
 また選挙中盤(16日)と終盤(24日)の2回にわたりNNN世論調査の結果を報じ 「自公過半数の勢い」から「与党過半数ギリギリ」と選挙情勢の変化を伝えた。
  選挙の争点については選択的夫婦別姓・ネット投票・物価高・子育て支援・最低賃 金を取り上げ、番組HPの『候補者アンケート結果を参考に』と紹介し、『2分で投票先 が分かる』と謳うマッチングアプリへと誘導する工夫をしていた。候補者アンケートにつ いては、大きく意見が分かれる政策、逆に意見が一致する政策を取り上げるなど、もっ と番組内で活用する方法があったのではないか。 「ネット投票」について茨城・つくば 市の模擬投票を取り上げていたが、政治信条まで管理されかねない危険性を感じた。
  選挙期間にどんな議論が行われたのか、どんな議論が盛り上がっているのか、分か りやすく把握できるようにブロードリスニングのコーナーもあった。キャスターが「投稿さ れた声をAIが分析しているため間違いやフェイクをそのまま反映してしまうということ がある」と注意喚起していたが、テレビにはフェイクを暴くファクトチェックをこそ望みた い。
   ・モニターを通じて感じたこと
 大きく分けて「党首討論」「争点」「注目選挙区リポート」というように、番組構成は他 局とほぼ変わらない。政権からの攻撃を避けるノウハウが蓄積された結果、各局似たり 寄ったりの番組構成に行きついたと言えるのではないか。
  特徴的なのは選挙関連ニュースの扱い方で、トップ項目で取りあげたのは期間中、 一度もなく党首討論を除くと、選挙関連が4分から10分程度というのはあまりにも短い。 党の政策の違いや問題の背景・原因までは見えてこないし、政党や候補者の主張紹 介だけでは「テレビ版選挙公報」にしかならない。
  今回の選挙の一番の争点は裏金問題だった。真相究明にはパーティー券という形 を変えた企業団体献金で政治が歪められてきたことを明らかにし、企業献金の可否に ついて、有権者のためにもっと時間を割いて報じるべきだったのではないか。
  各政党の公約・政策を詳しく伝えることも大事だが、同時に有権者の思い・要求など を体系化して解説することで、各政党の公約・政策が国民目線になっているかを見極 めることができたはずだ。暮らしに政治が大きく影響していることを実証するような解説 があれば、有権者が政治をより身近なことに感じ、選挙の投票行動も高まっていくので はないだろうか。選挙の時こそメディアの存在意義を示すチャンスととらえたテレビ報 道を期待したい。

◆今回の選挙をテレビメディアはどう伝えたのか
 衆議院選挙の結果は、自民党・公明党の与党が大敗した。野党は立憲民主党が大 幅に議席を増やし、また国民民主党も躍進した。その結果、改選前には279議席と過 半数の233議席を大きく上回っていた与党勢力は、改選後は215議席に減少。野党勢 力は合わせて186議席から250議席を獲得し、過半数を超えて衆議院では与野党が 逆転した。第2次安倍政権から顕著になった、数の力を背景に民意に耳を貸そうともし なかった強権政治にようやくストップがかかったのだ。もちろん裏金問題という自民党自 身の敵失が大きかったのだろうが、今回の衆議院選挙は、有権者が新たな政治の分 岐点を作り上げたともいえるのではないだろうか。
  一方テレビメディアは、今回の選挙報道で、「有権者の投票に資する」情報をきちん と伝えることができたのだろうか。選挙の公平性を理由に、権力に忖度するとされる姿 勢を改めていくことができただろうか。。
  個別の番組ごとに見てきたモニターの内容・指摘から共通して浮かび上がった点を 集約してみた。
 1) 選挙報道への姿勢
 衆院選の前月に行われた自民党の総裁選挙では、まさに「自民党が電波ジャックし た」といえるほど、テレビメディアの報道は過熱した。国のかじ取りを決める衆院選は、 総裁選以上に力を入れて伝える必要があるはずだ。しかし前述したように、番組の中 で、衆院選関連のニュースが番組のトップ項目として報じられたのはのべ60番組のう ち、7つだけだった。このうち事実上の選挙戦が始まった解散日でも2番組、公示日は1 番組に過ぎない。
  与野党伯仲が予想され、これまでと異なる状況のなかで行われる衆院選について、 テレビメディアがどのように取り組んでいくのか、その覚悟が問われていたはずだ。 選挙が始まるとメディアは「いかに早く当選確実を打つのか」そのための情勢取材に 注力する。日々のニュースや番組で、選挙の争点や各党の政策など「有権者の投票に 資する」情報を、質量ともに詳しく伝えていく、そういった姿勢は今回の選挙報道からな なかなか感じることはできなかった。
 2)従来と変わらない放送内容
 各テレビメディアの選挙の内容については、各党首や候補の選挙戦や、訴え、それ に各党の政策の比較や、記者やコメンテーターの情勢分析の解説など、従来とあまり 変わるものなかった。各党候補の主張や訴えも「選挙の公平性」から議席数に応じた時 間配分という形が続き、新しい選挙の伝え方への挑戦よりも、従来通りの安全運転を 続けているように思える。とはいえ、障害者や高齢者の投票の困難さにスポットをあて た「選挙のバリアフリー」の企画や、政局がらみの解散・総選挙に困惑する被災地・能 登地方の切実な声を掬い上げた企画など意欲的なものもあった。
  ところで今回の衆議院選挙の投票率は53,8%と前回より下がり過去3番目の低さだ った。“マンネリ化”選挙報道ではテレビ離れがますます進み、選挙への投票を促す役 割をテレビメディアが果たすこともできなくなってしまう。
  ここで2017年衆議院選挙のモニター報告からの一文を再掲する。この問題提起は 残念ながらいまも続いているからである。
  「選挙報道は、政見放送のような制約がない。選挙期間中も言論表現の自由に基づい て評論 ができるのである。 放送法は法の目的を『放送に携わる者の職責を明らかに することによって、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること』としている。 放送に民主主義の発達に資する任務がある以上、民主主義の発達にとって重要な機 会である国政選挙にあたって、放送はもっと大きく貢献すべきである。」
  3)政治との距離
 自民党安倍派の組織的な裏金の発覚。総裁選で選ばれた石破首相は早期解散を 迫る党内の声に押されて「新しい内閣の信任を得る」とスピード解散。今回の衆議院選 挙は、自民党の目減りを少なくし身の延命を図るもので、解散の大義などない「政局」 の延長のようなものではなかったか。メディアは、その本質をまず視聴者に明らかにす るべきだった。そして自民党の裏金問題については、それが事実である以上、徹底的 に解明し伝えていくのが、これから一票を投じる有権者への責任なはずだ。ところがテ レビメディアは、裏金問題の候補者の選挙区リポートを横並びに伝え、ひたすらお詫び を訴える候補の声を紹介した程度にとどまった。
  こうした中で選挙戦終盤の23日に、自民党が裏金問題で非公認となった候補にも政 党助成金を払っていたというスクープを「しんぶん赤旗」が放った。選挙戦を揺るがしたこ のニュースについても扱いはさまざま。報道ステーションは当日ニュースで報じ、次の 日には企画として詳しく伝えた。一方「ニュースウオッチ9」が取り上げたのは2日遅れの 記者解説だった。また「News23」は、このニュースの中で政権幹部の「選挙妨害だ」との 発言をあえて伝えている。対応がわかれる形になったが「選挙の公平性」を免罪符に した政治への“忖度”に視聴者は敏感である。テレビメディアはこのことを正面から受け 止めなければならない。
 4)SNSの選挙への影響
 今回の衆院選では、国民民主党が議席を3倍以上に増やす大躍進をした。その訴え は「所得税の103万円の壁を破ること」に絞り、玉木代表自らが連日SNSを使って選挙 活動などを発信し、アルバイトで学費を稼ぐ大学生や、非正規で働く若い世代を中心 に支持を集めたとされている。
  振り返ってみれば去年夏の東京都知事選でSNSを駆使した石丸氏が2位に食い込 みSNSの発信効果の大きさの予兆があったはずだ。しかし今回テレビメディアはSNS の影響力についてはほとんどノーマークで、その点に注目して取り上げたニュースや企 画は見当たらなかった。テレビメディアは都知事選での予兆を真剣に受けとめることが なかったのだ。
  そして衆議院選挙の後に行われた兵庫県知事選挙ではパワハラ問題などで辞職し た斎藤元知事が予想を覆して当選。まさにSNSによる情報発信が決め手となり、有権 者の投票行動に影響を与えるのは、新聞やテレビではなくSNSであることが誰の目に も明らかになった。SNSと対比して、新聞やテレビがオールドメディアと呼ばれる状況 に一層拍車がかかっている。

 おわりに
 テレビメディアの選挙報道は、このままでいいのだろうか。今回の衆議院選挙の報道 をふりかえってみると、従来と変わらない放送パターンを繰り返していて、視聴者・有権 者に十分に届く試みが欠けているように感じる。SNSの発信がこれほど投票行動に影 響を及ぼすことを見通して報道することもできなかったのは、ジャーナリズムとしてのア ンテナの欠如ともいえる。
  以前のモニター報告で放送を語る会は「放送に民主主義の発達に資する任務が ある以上、民主主義の発達にとって重要な機会である国政選挙にあたって、放送はも っと大きく貢献すべきである。」とテレビメディアに訴えた。今回も改めて訴えていきた い。テレビメディアには現場で取材し事実を正確に伝えていく底力がある。その底力が いまこそ試されている.

 

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