
テレビは米朝首脳会談をどう伝えたか
2022年9月10日 放送を語る会
放送を語る会・大阪
NHKを考える東海の会
目次
1、モニター期間と対象番組 …………………………1
2、米朝首脳会談報道の全体的傾向 …………………………2
3、米朝会談の歴史的意義はどのように報道されたか …………………………3
4、米朝会談に対する安倍政権の姿勢はどのように報道されたか ……………9
5、米朝会談に対する国際、国内世論、識者の意見や見解が広く
紹介されていたか ………14
おわりに 今後の北朝鮮関連報道に望むこと …………………………16
【資料】米朝首脳会談報道 放送時間 各番組一覧
2018 年6月Ⅰ2日、シンガポールで歴史的な米朝首脳会談が行われ、米トランプ大統領と北 朝鮮の金正恩委員長が固く握手し、共同声明に署名する映像が全世界に伝えられた。
この歴史的な動きを日本のテレビニュースがどう報道するかが注目されたが、放送を語る会 は、主要なニュース番組をモニターし、その報道内容の検証を試みた。
本報告はその結果をまとめたものである。
会談からすでに3か月近くが経過したが、現在も米朝の間で非核化をめぐって動きが続いて いる。今後の米朝関係、また日朝関係の報道に際して、本報告が何らかの参考になれば幸いで ある。
1、モニター期間と対象番組
6月12日の米朝首脳会談の前後14日間(6/4~17)をモニター期間に設定した。
モニターした番組は、以下の12番組である。
<デイリーニュース>
NHK「ニュース7」、「ニュースウオッチ9」 テレビ朝日「報道ステーション」 TBS「NEWS23」 日本テレビ「NEWS ZERO」 フジテレビ「プライムニュースα」
<デイリーの報道・情報番組>
テレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」 TBS「ゴゴスマ」
<ウイークリーの報道・情報番組>
TBS「報道特集」TBS「サンデーモーニング」 フジテレビ 「Mr.サンデー」 日本テレビ「真相報道バンキシャ!」
番組の選択は、デイリーニュースについてはNHK、民放キー局のその日の夜のニュースを 選び、デイリー・ウイークリーの報道・情報番組については、比較的視聴者の関心が高いと思 われる番組中から、メンバーがモニターしたいものを選んだ。モニター活動に参加するメンバ ーも限られており、この分野の番組の一部のモニターであることをお断りしておく。
モニターの方法は、これまで「放送を語る会」で積み重ねてきた手法を踏襲、番組毎に担当 を決め内容の概要を記録し、担当者のコメントを付したモニター票を作成、メンバーで共有し た。この報告は、集積したモニター票をもとに作成した。
モニターを始めるにあたって、以下の様な視点に留意するよう申し合わせた。
○ 戦後の朝鮮半島をめぐる歴史的視点を踏まえた報道になっているか。
○ 北東アジアの平和構築という視点で報道されているか。
○ 広く世界の反応に目配りした報道になっているか。
○ 日本人拉致被害者問題が、人道的、歴史的視点を踏まえた報道になっているか。
○ 日本の歴史的責任を踏まえた報道になっているか。
今回初めて名古屋から「NHKを考える東海の会」が参加し、放送を語る会の東京・大阪・ 青森各地のメンバーと合わせて総勢23名でモニター活動に取り組んだ。
2、米朝首脳会談報道の全体的傾向
2週間にわたるモニターの結果、テレビ米朝会談報道には、次のような傾向があったことが 浮かび上がった。
3点に集約してまず指摘したい。 なお、これはモニターの対象としたニュース番組群に限っての指摘であることを断っておき たい。
1)米朝会談の意義を大きな歴史的視点でとらえるのではなく、会談内容の報道に終始して、 その不備や限界を強調するなど、会談自体を否定的に見る傾向が目立った。
一方で会談を北 東アジアの情勢の中で、多角的、総合的に捉えようと努力した番組もあった。
また、番組によっては、米朝会談の内容に直接関係のない周辺の話題やトピックに時 間と回数をあてる傾向が目立った。
2)米朝会談に関連して、北東アジアの平和構築への日本政府の努力の不足、圧力一辺倒 の政策に対する批判的報道は弱く、一部の番組では安倍政権の姿勢に無批判な記者、キ ャスターの発言が目立った。
一方で、日本政府の姿勢を鋭く批判する報道は一部の番組 にとどまっていた。
3)米朝会談に対する国際、国内世論や識者の意見や見解の紹介が少なく、会談を多面的に捉 える上で十分な報道とは言えなかった。ただ、ゲストやコメンテーターの発言を積極的に 伝えた番組もあった。
以上のような傾向が各番組でどのように見られたか、以下の報告各章で詳述する。
3、米朝会談の歴史的意義はどのように報道されたか
米朝会談は、会談の数か月前まで核の使用をちらつかせながら相手を威嚇し、攻撃、非難し あっていた両国が、会談を実現し、共同声明に署名するという、激変とも言える動きであった。 北朝鮮が朝鮮半島の完全な非核化の決意を述べるなど、その政策変更も注目された。
今後どうなるかは予断を許さないが、この会談の国際的な影響がきわめて大きいことは各局 テレビ報道でも一致していた。 会談に至る動きの背景には、韓国文在寅大統領が行った北朝鮮金正恩委員長との南北会談実 現の努力や、なんとしても戦争は回避すべきというアジア諸国民の世論があったと考えられる。
テレビニュースに、このような歴史的な流れを踏まえた洞察力のある報道があったかどうか が、モニターにあたっての当会の第一の関心事であった。
しかし、多くのニュース番組で、米朝共同声明の文言の批判を中心に、イベントとしての会 談の報道に終始する傾向があり、この動きを大きな歴史的視点でとらえる点で弱点があったと 言わざるを得ない。
また、北朝鮮にたいする不信を基調として米朝会談をとらえる姿勢の報道も見られた。一方 で会談を北東アジアの歴史と政治情勢の中で正確に評価しようとする姿勢を見せた番組もあっ た。
以下、各番組でこうした点に関しどのような報道内容があったのか報告する。
1)会談の歴史的意義に迫ろうとしていた番組
テレビ朝日「報道ステーション」 (カッコ内は放送日。以下同じ)
6 月12日(1時間24分27秒)に代表されるように、放送時間量は格段に多かった。会談内 容を丁寧に伝え、共同声明の合意事項「北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向け努力すること を約束する」に注目した内容だった。
テレビ朝日山下達也ワシントン支局長は、今回の「米朝 首脳会談」が、文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領の努力による先の南北首脳会談の「板門店 宣言」を受け継ぐものだと指摘した。 こうした「報道ステーション」の視点は重要だった。 この番組で起用したゲストの多くや現地からの記者レポートは、会談の歴史的意義を指摘し た内容が多かった。 磯崎敦仁慶応義塾大学准教授は、「北朝鮮は、3月以降の論調を見ると、非核化の心づもりは、 間違いなくしていると思われる」(6/11)、「非核化という大きな目標で合意したということは評 価されるべきで、あとはどう、実行されるかがポイント」(6/12)とコメントした。
山下ワシントン支局長は「アメリカは過去の政権と違い、北朝鮮を非核化に向かわせる最高 の安全保障は、国交正常化だと考えている」(6/12)「今回の共同声明は、北朝鮮が非核化に取 り組むという、単なる目標ではない意志を書き込んでいた」(6/12)、と解説した。
こうした一 連のコメントは注目に値するものだった。
レギュラーコメンテーター・キャスターは、時折、会談への懐疑的姿勢を見せることもあっ た。富川悠太キャスターは6月12日の放送で、「曖昧なだけに、これまでのように、逃げられ る可能性も考えられるんですが」と述べた。
後藤コメンテーターも同日、「日本政府としては不 満。相当程度の低いレベルの合意だった。核は触れているが、ミサイル、生物化学兵器、これ ら一切にふれていない。日本にとって安全保障に関わる問題が素通りされている」と指摘した。
しかし、「報道ステーション」は全体として、会談の歴史的意義に迫ろうとしていたと言える。 テレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」 ワイドショーということもあって、興味本位に流れてしまう傾向も見受けられたが、長時間 を費やして現地生中継なども多用しながら精力的に伝えた。 6 月12日は現地生中継を交えて1時間半を超える放送は、全体として首脳会談を朝鮮半島 の歴史や日本のありかたなど、広い視点で捉えようとしていた。 会談前日の6月11日の放送では、朝鮮戦争の歴史解説の後、朝鮮戦争終結や在韓米軍撤退 まで踏み込んだ議論を展開している。また6月14日はレギュラーコメンテーターの玉川徹氏 が「そもそも総研」コーナーで、「朝鮮戦争の終結で、在韓・在日米軍はどうなるの」をテー マに取り上げるなど、日本とのかかわりに引き寄せて議論する姿勢も際立っていた。
ジャーナリストの青木理氏は6月12日の放送で「歴史的会談だ。唯一残った東アジアの冷 戦構造が変わるチャンス」「この地域にどうやって平和と安定もたらすか考えるいい機会だ」 「(日本の)核の傘を見直す機会にすべきだ」。と述べた。 羽鳥慎一キャスターも6月11日、「(朝鮮戦争終結で)在韓米軍駐留の根拠が弱まり米軍が撤 退の可能性がある。トランプは在韓米軍の規模を削減したがっている」と発言、6月13日には 玉川徹氏が、「(トランプの米韓軍事演習中止、在韓米軍撤退示唆発言に)日本はどうするか。 軍事的にアメリカの属国として生きてゆくのか、自立するのか。この後、突き付けられる」と 指摘した。
こうした解説、コメントにみられるように、首脳会談の歴史的意義を指摘し、日本はどうあ るべきかを問う姿勢が顕著だったのがこの番組の特徴となっていた。
TBS「報道特集」
「報道特集」は6月16日に長時間の米朝会談特集を組んでいる。この日の報道には、会談当 日の現地ルポのほかに、アジアプレス石丸次郎記者の北朝鮮内部の情報、朝鮮戦争時に日本で 警察予備隊が創設されたこと、在日韓国人が戦闘に加わった事実、など、朝鮮戦争にまつわる 歴史的事実、拉致問題に関する蓮池薫氏へのインタビュー、金平茂紀キャスターの韓国取材な どが組み込まれている。
番組には会談を韓国と日本の歴史と現在から総合的に捉えようとする 姿勢があった。 とりわけ、金平キャスターの韓国での一連の取材は、会談を日本からだけでなく韓国から見 ることが重要だと感じさせるものとなっていた。
この番組では、金平キャスターによる文正仁大統領特別補佐官のインタビューが紹介されて いる。文正仁氏は「朝鮮半島に残っている冷戦構造がついに解体していくという強い印象を受 けた。北朝鮮はスローガンであった強盛大国から富国強兵に変換したという印象です」と述べ ている。
金平キャスターはこのインタビューについて、「印象的だったのは(文正仁氏が)『パラダイ ムシフト』と言ったんですよ。金委員長はこれまでの軍事優先から経済的繁栄を目指す方向に 変わったのが、今回の会談実現の一番大きなコアな部分だと言っていた」と強調した。
また韓国の世論について、「間違いなく歴史的会談だと位置づけている。韓国の人から見ると 北朝鮮は同じ民族で、当事者意識が非常に強い、だからうまくいって欲しいという気持ちが感 じられた」とコメントした。
このように、「報道特集」のこの日の特集は、南北に分断されている民族の現在を通して、会談に至った背景と変化への期待、日本の立ち位置などを報道し、米朝会談を複眼 で見ることを可能にした。
番組は、一方で、会談を評価しない見解も伝えた。国連安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネ ル元委員の古川勝久氏は、今回の合意内容はこれまでの非核化に関する合意よりも後退してい ると指摘「意味不明な合意しかでていない」と主張した。
こうした見方への目配りを含めて、この番組は、米朝会談を多角的、総合的に捉える努力が みられた点で特筆すべき内容だった。
TBS「サンデーモーニング」
日曜日放送のこの番組では、6月10日35分20秒、17日36分09秒で、合計1時間11分 29秒と、かなり時間をかけて米朝会談を取り上げた。
この番組は、ゲストの発言を中心に展開するスタイルがとられている。番組では、会談の歴 史的な意義を指摘する発言が相次いだ。 10日の放送では、「去年のあの一触即発を考えると、会談をやること自体が一つの成功だと 思う。----それからもう一つは朝鮮戦争が終結するということは、これは東アジアの安保環境が 変わるということですから。」(姜尚中氏)、17日の放送では、「世界でもまれに見る 変わった 2人が、生身で会ったことはものすごく評価します」(大宅映子氏)、「ついこの間まで戦争か、 平和か、さあ一発やるかと言っていたあの2人が本当にこうやってかたい握手をしている。そ ういう意味では確かに歴史的だったと思います。」(藪中三十二氏)、「何より武力行使のリスク が減ったというのは、日本にとっては大きいと思いました。」(大崎麻子氏)、といった見方が語 られた。
さらに丁寧な観察はジャーナリストの青木理氏のコメントで示された。青木氏は「劇的に局 面が変わりましたよね、 緊張から対話という局面に。 これは多分、韓国の文在寅大統領の努 力も大きかったし、誰も戦争をしたいなんて思ってないわけですから……。世界で唯一残った 冷戦体制で数百万の人が犠牲になった戦争の、また休戦状態の戦争の当事国同士のトップが会 ったこと、そして握手をして、飯も一緒に食ったというこのことの大きさでいうと、歴史的だ ったんだろう」と解説した。
どちらかといえば会談を懐疑的に見る傾向が見られたニュース番組の中で、このように会談 を前向きに評価する発言が多かったことはこの番組の特徴だった。
肯定的な評価とは別の見方も提起されている。中には在韓米軍撤退に反対、米韓合同軍事演 習の継続を求める意見もあった。
岡本行夫氏は、「トランプ大統領に要求すべきは 朝鮮半島の米軍を縮小しないということ。 在韓米軍と在日米軍は 一体となって今、東アジア全体の安全を守っているわけで、在韓米軍が ひくことになれば、日本が裸で防衛ラインに立たされる」と述べ(6/10)、田中秀征氏は「米韓 合同演習やめたら復活させること、本当に難しい。日本政府は(やめないように)厳しく、そ れを確認したり、いろんな意見を言ってもらいたい。」と発言した。(6/17) 大宅映子氏は、「今まで30年、合意しちゃぶっ壊すというのが歴史。今ここに来て、すぐ信 じるわけにはいかない」と北朝鮮への不信感を表明している。6/17)
この番組は、こうした多様なコメントを含みながら、会談の中心的な内容を落ち着いて分析 し、視聴者に参考になる多様な見方を提起していたと言える。 ただ、ゲストの発言が中心で、番組独自の調査報道が乏しい番組のスタイルは、やや物足り なさを残した。
2)会談の歴史的意義の追求というより、共同声明批判を重点にして、 会談をあまり評価しなかった番組
NHK「ニュース7」
会談当日に珍しく起用された外部識者のやや肯定的コメント以外は、ナレーション、記者リ ポ-トともに会談への懐疑的、やや否定的な見方が支配的だった。
6 月12日、ゲストの小此木政夫慶応大学名誉教授は「北朝鮮が善意に応えて、非核化をどん どんやっていけば、何度でも会う可能性」と指摘、肯定的に評価した。しかし、ワシントン支 局記者は「非核化については全く具体性に欠けたもの」「非核化の手順、期間などむつかしい課 題はすべて後回し」と会談をあまり評価しない解説を展開した。
キャスターの「北は本当に非核化を進めるのか」という質問に、北朝鮮担当記者も「非核化 も大枠の合意にとどまったとの印象」とコメントした。 会談日の後の報道でも、キャスターが「米朝会談から一夜明け、共同声明に署名。認識のず れに懸念も」(6/13)、「会談から4日、合意が『ちゃぶ台返し』されないか懸念の声が出ていま す」(6/16)と述べるなど懐疑的なトーンでの伝え方が続いた。
NHK「ニュースウオッチ9」
共同声明とりわけ非核化の合意について具体性がないと指摘して、米朝会談を低く評価する 傾向が強く、会談が、平和・対話への転換点であるという歴史的視点があまり見られなかった。 6 月12日、田中正良ワシントン支局長は、「共同声明はかなりおおざっぱなもので、米専門 家は失望したという辛口の評価がある。非核化は、完全で検証可能、後戻りできない、という 言葉が入っていない」「非核化をどのようにしていつまでに実現させるのか、全く見えない。原 則論では一致したが各論では目に見える成果はなかった。非核化については精神論に終わった」 とほとんど全否定と言ってもよい論評だった。
首脳会談翌日、6月13日の放送では、キャスターが冒頭「(首脳会談)その意義が一夜 明けて揺らいでいる」と述べた。続いて「金正恩委員長は、残虐な独裁者。人殺しを信頼する のか?」という司会者の質問で始まるアメリカのTV局のトランプ大統領のインタビューを資 料映像で紹介した。
さらに「金委員長が欲しいものを与えただけで何の見返りも得てない」「金委員長は大勝 利だ。大喜びだろう」という米民主党議員二人のコメントを紹介した。
非核化の合意についても、タイトル字幕「『非核化』早くも暗雲?」、となっており、キャス ターのコメントも、「共同声明では、CVID・完全で検証可能、そして後戻りできない非核化と いう文言も盛り込まれませんでした」などというもので、会談の否定的な見方が継続された。 TBS「NEWS23」
歴史的会談と感じ取れる映像表現の工夫などが見られ、首脳会談に一定の評価はしている。 しかし、会談の歴史的意義についての評価が乏しいとの印象もぬぐえない。コメンテーター、キャスターも随所で懐疑的、否定的評価を口にして懸念を隠さなかった。
12日は、ジャーナリスト平井久志氏が「非核化に対する具体的な中身がなかったために課題 が先送り、よりアメリカの責任が重くなった」と述べ、星キャスターも「非核化、具体的な 時期とか段取りがはっきりしないまま体制の保証とか、米韓合同軍事演習をやめてもいいよと いうカードを切ったので、どうも全体としては、北朝鮮ペース」など、会談をあまり評価しな いコメントを述べている。
6 月13日にも会談への懐疑的な基調での報道が展開された。
民主党チャック・シューマー上 院院内総務の発言「非常に心配だ、アメリカが得たのは曖昧で検証不能なものだ」。韓国保守系 メディアの朝鮮日報の報道「非核化の具体的な進展がない状態で、北朝鮮が要求していた訓練 の中止という保証だけを与えた」。米韓合同軍事演習の中止に踏み込んだトランプ大統領発言に 対する小野寺防衛相のコメント「米韓演習、在韓米軍を含めて東アジアの安全保障に重要な役 割を持っている」などが紹介された。
スタジオでこれを受けた駒田健吾アナウンサーが「一夜明け合意に対する懸念が出てきた。 アメリカは完全かつ検証可能で不可逆的な非核化を求めていたが明確ではない」とコメントし た。
会談について懐疑的、批判的に見る見方は現実に存在し、それなりに理由も語られているが、 一方で会談の歴史的意義について評価する意見も存在する。
「NEWS23」は、そうした見解 にもっと目配りする必要があったのではないか。
日本テレビ「NEWS ZERO」
首脳会談については、連日放送時間は短く、放送順序も後のほうで、どちらかと言えば軽 い扱いが多かった。記者・キャスターのコメントの基調は、会談に対してどちらかと言えば懐 疑的だった。
6月12日、井上幸昌ワシントン支局長はアメリカでの反応として「北朝鮮の大勝利、共同 声明は理想を追い求めるだけの軽い内容だ、との批判が墳出しています」と述べ、藤田賢治ソ ウル支局長は「北朝鮮にしてみれば得たことは多くはない。大国アメリカに対して譲歩したも のの、ほとんど無という形で会談を終えました」と解説した。
村尾キャスターも「米朝首脳が初めて会ったこと。これは新しい時代の幕開けかもしれませ ん。しかし、共同声明を見る限りでは非核化については具体的内容には踏み込んでなく、今回 の会談結果はわたくしたちにとり、素直に喜べるものではありませんでした。」と述べている。 ただ、12日の放送では、ゲストとして登場した小谷哲男明海大学准教授が「段階的な非核化 を事実上、アメリカ側も受け入れることで、これまで動かなかったプロセスが動くので、トラ ンプ大統領としては満足できる内容」と会談をやや肯定的に解説した。
全体としてこの番組は会談に対し懐疑的な傾向が支配的であり、会談について多様な見解や 分析が伝えられたとは言えなかった。
フジテレビ「プライムニュースα」
この番組も共同声明に具体性がないと指摘して、米朝会談を懐疑的に伝える傾向が強く、会 談が、平和・対話への転換点であるという歴史的視点が感じられない報道だった。
6 月12日、シンガポールから報告した椿原慶子キャスターは、「非核化について期限、プロ セスが一切明記されていない。核、安全保障について具体的な内容も全くない。会談は歴史的 で感動的だったが、朝鮮半島の安定にはまだまだ時間がかかることを印象づけた」と伝えた。 ワシントン支局長の藤田水美記者も、「北朝鮮にばかりプラスになるような会談だった。非核 化に努力すると約束しただけでトランプ大統領から体制の保証を引き出した。さらにトランプ 大統領は米韓合同軍事演習もいずれとりやめるとまで明言した。今回の会談ではキム委員長に 軍配が上がった。(非核化の)期限など具体的に共同声明にもりこまれなかったことは、アメリ カにとっても大きな痛手」と解説した。
この番組のもう一つの特徴は、幾つかの放送日で、会談の周辺事情や関連トピックが時間を かけて取り上げていたことである。 この傾向はこの番組に限らないが、かなり目立つ扱いだった。「ホテル宿泊費問題」(6 月 4 日)、シンガポールが会場場所を提供した狙い、(6月6日)中国が航空機を提供する動きの論 評(6月8日)などがその例である。
こうした報道に時間を割くよりは、その時間を会談の歴 史的背景や意義を追求することに充てるべきという批判も成り立つ。
TBS「ゴゴスマ」 12日は、署名の瞬間と「ゴゴスマ」の放送時間が重なった。中継の映像は、実に多くの情報 をリアルに描き出し、「ナマ」の良さを発揮した。だが、スタジオでの解説、コメンテーターの 意見・感想には問題があった。「お互い褒め合う」、「会ったというだけで、お互い損はない」、 「独裁政権が維持されるというお墨付きができたのは疑問」などのコメントは、歴史的会談が 今まさに進行中というインパクトに対して、軽々しいものとしか受け取れないものであった。
首脳会談の前週に2回・2日放送しているが、ここでも話題の取り上げ方が「大きな親書」「ホ テル代」などサイドストーリー的な事柄に流れ、歴史的視点、日本の歴史的責任の視点が全く 見られなかった。
フジテレビ「Mr.サンデー」
首脳会談後の17日はW杯特番のため放送がなかった。10日は両首脳の動向とコメンテータ ー木村太郎氏の論評だが、両首脳のシンガポール到着の順序や、金委員長の使用飛行機などエ ピソード中心の解説が主だった。興味を引く話題ではあるが、番組が首脳会談自体をどう評価 しているのは不明のままだった。
日本テレビ「真相報道バンキシャ!」
6 月10日、17日ともに米朝会談を扱い、合計時間量は24分33秒だった。 10日は、交渉は「最初の1分でわかる」とか「トランプ式握手」とか「金委員長はスキンシ ップにこだわる」など、交渉術や会談時の映像の読み解き方など、表面的なことに重点をおい ていて、この会談の歴史的意義を考察しようという姿勢があまり見られなかった。
17日は、アメリカ国内外からの批判、朝鮮国営放送の日本批判など、その後の動きをたどっ た。後半は日本テレビ青山和弘解説委員の解説だったが、日朝首脳会談は実現するのか、拉致 問題はどうなるのかなどを予測する内容にとどまっていて、およそ「北東アジアの平和構築の 歴史的な動向や、日本の歴史的責任などの視点から論じるといった内容は見られなかった。 そのため、この番組は表面的で深みに乏しいという印象を与えていた。
ただ、ゲストコメンテーターのCMプランナー・福里真一氏の、「直接会うことが重要」(6 月10日)というコメントや、元三重県知事・北川正恭氏の「主体的な外交を全力で取り組む ことを期待したい」(17日)といったコメントは聴くに値するものであった、米朝首脳会談に関しては、「真相報道」とうたえるような独自取材、調査報道は乏しかった。
本項でみた各番組は、共同声明の内容を重点的にとりあげ、その不備を指摘するという点で 共通の傾向があった。
米朝会談に懸念や懐疑的な見方があることは事実で、そのことを伝えることに問題があるわ けではない。しかし、前項で取り上げた番組群が、できるだけ広い視点で会談を捉えようとし ていたことと比べると、共同宣言の文言の批判に終始したかのような報道は、一面的で偏って いる、という批判も成り立つ。 韓国の文在寅大統領が実現させた南北首脳会談の動きなど、北東アジアで起こっている大き な変化について、もっと目配りの広い多角的な視点での報道が求められていたのではないだろ うか。
4、米朝会談に対する安倍政権の姿勢はどのように 報道されたか
安倍政権は、拉致問題を高いハードルにして対話否定・圧力一辺倒の対北朝鮮政策を進めて いる。また、北朝鮮に非核化を求めながら、一方で核兵器禁止条約に反対するという矛盾した 態度も取ってきた。 米朝首脳会談は、こうした日本の北朝鮮に対する外交政策を問う機会ともなっていた。しか し、多くの米朝会談報道では、安倍政権の北朝鮮政策を検証し、批判する報道は弱く、日本政 府の姿勢を鋭く批判する報道は一部の番組にとどまっていた。
それだけでなく、一部の番組では安倍政権の姿勢に無批判な記者、キャスターの発言が目立 った。
NHK「ニュース7」
事実報道が中心で論評は少ないが、伝える事実は安倍首相や政権幹部の見解・動向が主であ る。記者リポートでも、政府見解・政権の思惑などをオウム返しに伝えるだけで、独自の視点 や立場の違う見解がほとんど紹介されないため、結果として政府広報のような印象を与えた。 6月7日、ワシントンからの記者リポートは、「安倍首相は拉致、核、ミサイル問題を包括的 に解決し、国交正常化が実現したうえでなければ、経済支援できないという日本の立場を明確 に伝える、そして拉致問題を会談で提起することを重ねて要請する」と日本政府の態度を説明 するのみで、独自の視点・別の見解の紹介は全くなかった。
日朝平壌宣言では冒頭に「日・朝間の不幸な過去を清算し、懸案事項を解決」することが共 通認識として確認されているが、安倍首相・政府見解では常套句として「拉致、核、ミサイル 問題を包括的に解決し」とあって、「不幸な過去を清算」は常に欠落している。しかしそうした 批判的な指摘はみられなかった。
6月9日、G7サミットに同行した政治部官邸キャップの原聖樹記者は、「(G7での)外交・ 安全保障分析の討議の前半部分は朝鮮情勢に費やされ、安倍首相、トランプ大統領が主に発言 したということです。その結果、貿易分野とは打って変わって、米朝会談に向けた環境整備ができたと日本政府関係者は話していました」と、ひたすら安倍首相の動向や・政府の見解を解 説するにとどまっていた。
6月12日の放送では、岩田明子記者が、「日本政府は会談を歓迎、安倍首相はトランプ大統 領が拉致問題にしっかり言及したことを高く評価」「日朝ピョンヤン宣言に明記されている経済 協力は北に対する有効なカード」と、政府の主張を中心にコメントし、政府の会談への反応に 対して批判的な見方があるかどうかには全く触れなかった。
NHK「ニュースウオッチ9」
「拉致問題最優先」「圧力一辺倒」の政府基本方針がキャスター・記者に浸透しているかのよう に、政府に対して距離を置く姿勢がみられず、時には政府の主張に沿ったコメントや解説が見 られた。
6月4日の放送では、桑子キャスターが、「トランプ大統領は“最大限の圧力”という言葉は 使いたくないと言った、ずいぶん北朝鮮に譲歩してしまったような気がしますね」と言い、有 馬キャスターは「日本とアメリカは、非核化を実現するまで圧力をかけ続けます、これが一貫 した基本方針だったんですけども、日本政府はこの基本方針が維持されているとしているので すが、トランプ大統領がこんな感じですからそこが揺らいでいないか、ちょっと心配にはなり ます」と述べた。
トランプ大統領の「譲歩」や、「圧力」方針の揺らぎが「心配」という解説は、日本政府の圧 力一辺倒の姿勢が、一つの価値観としてキャスターの心理に浸透しているのではないか、と疑 わせるものだった。同時に、対話と外交努力を怠ってきた日本政府への批判の視点も見られな かった。
6 月7日、日米首脳会談に関する報道で、政治部の原聖樹記者は、「安倍総理大臣は各国の首 脳の中でも、トランプ大統領と太いパイプ持ち、個人的な信頼関係ある。北朝鮮の対応でも、 これまでトランプ大統領に助言するなど、その判断に影響を与えてきたのも事実」と解説した。 安倍首相が、トランプ大統領に影響を与えてきた、と評価する解説だった。 また、原記者は日米首脳会談の成果を問われ、「一定の成果と言っていいかもしれない。安倍 総理大臣は日米会見で“圧力”という言葉を一度も使わなかった。トランプ大統領の意向を尊 重しながら、日本の立場に理解を得て、拉致問題解決に積極的な協力を得たい、という判断が うかがえる。安倍総理大臣は米朝会談後も含め、足並みの乱れが出ないよう、細心の注意を払 っていくことになりそうだ」と、安倍首相の態度を肯定的に評価した。
こうした一連の報道では、圧力一点張りだった日本政府に対する批判はほとんどなく、拉致 問題をアメリカに頼む安倍首相への批判があることも紹介されていない。
テレビ朝日「報道ステーション」
キャスター・コメンテーターの発言からは、圧力一辺倒で「トランプ頼み」という安倍政権 の拉致問題路線に対する独自の視点・批判的姿勢が弱く、むしろ「トランプ頼み」を当然視し ているのではないかとさえ疑われるコメントも散見された。
6月7日の放送で、富川キャスターが「トランプは安倍総理の言葉に耳を傾けてくれそうな のか」。とワシントン山下支局長に質問した。山下記者は「拉致問題について、トランプは急速 に関心を失っているようだ」「(安倍首相は)今日の会談で改めて拉致問題を話す」と答えた。 ここでは、拉致問題をトランプに頼む安倍首相の態度に対する批判は見られない。
6 月12 は、富川キャスターが、米朝首脳会談の三つの注目点の一つに拉致問題を入れ、ト ランプ大統領が「会談の主な目的は非核化だったが、人権問題にもふれ、拉致問題も話し合っ た」、と述べたこと、安倍首相が「会談では、拉致問題についても、明確に提起してくれたとい う報告を受けている」と記者団に語ったことを紹介した。 この経緯は、各局が揃って報じているが、米朝会談に拉致問題だけを要求する日本政府の姿 勢に対する批判的な報道はほとんどなかった。「報道ステーション」でもその批判の弱さは共通 していた。
TBS「NEWS23」
この番組でも、拉致問題をめぐる「トランプ頼み」の政府姿勢を批判する内容は乏しかった。 6月7日の放送で、星浩キャスターの「拉致問題も後送りになる可能性がありますから、安 倍総理はここではあくまでも北朝鮮ペースにはしないでもらいたいと釘をさす必要があると 思います」というコメントは、拉致問題最優先、「トランプ頼み」の政府姿勢を当然のことと して容認するかのような印象を与えた。
6月8日の放送では、日米首脳会談後の安倍首相の「拉致問題については最終的にはやはり、 私と金正恩党委員長、日朝の間で解決しなければならないと決意している」との発言を伝え た。これについてナレーションは、「トランプ大統領から希望どおりの答えを引き出した安倍 総理。自らもキム・ジョンウン氏との会談に意欲を見せた」と評価した。
しかし、これまで、圧力一辺倒・対話軽視の路線があったことについては指摘していない。
日本テレビ「NEWS ZERO」
米朝会談そのものの取り上げ方は軽いにもかかわらず、拉致問題は何度も詳しく取り上げ、 重視しており、この番組は「拉致問題にスポットを当てた米朝首脳会談報道」といった傾向が 強かった。
6月7日、 ワシントンから富田徹記者が、「安倍総理は米朝首脳会談の後に、日本としても 北朝鮮に直接向き合い、あらゆる手をつくしてゆくとの決意を表明することを検討しているこ とが分かりました」とレポートした。
村尾信正キャスターは「拉致問題解決に向けて安倍総理はトランプ大統領に何を頼むのか」 とコメント。拉致問題解決の「トランプ頼み」には、疑問をはさまず、当然のこととして容認 する姿勢を見せていた。
この番組は、政府の拉致問題に関する見解や動向を事実報道することは多いが、独自の視点 からの取材や批判的コメントはなく、政権からの距離は感じられなかった。
フジテレビ「プライムニュースα」
この番組では日本政府の圧力一辺倒の姿勢にたいする批判的報道はほとんど見られなかった。 むしろそれを後押ししているようなコメントすらあった。
6 月7日の放送では、佐々木紀彦コメンテーター(news Picks 最高コンテンツ責任者) が「日本政府の懸念は、一つは拉致問題をとりあげてくれるのかということ、もう一つはトラ ンプ大統領が米朝会談で妥協、譲歩をしないかということだ」と述べ、椿原慶子キャスターは、「安倍総理としてはそのあたりを念押ししたいところですよね。日本の主張をしっかり届けて ほしい」と述べた。
こうしたコメントに見られるように、この番組は、拉致問題の報道では、政府の政策や姿勢 を客観的、批判的にみる、という報道の責務を離れ、政府の立場で米朝会談をみていくような 姿勢が特徴的であった。
テレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」
この番組は、日本の外交姿勢をアメリカ言いなりで主体性がない、と指摘し、また、「トラン プ頼み」の拉致問題への対応を批判するなど、政府と距離を取った報道姿勢が鮮明であり、現 在のテレビメディアの中では際立った番組となっていた。
在韓・在日米軍の在り方まで踏み込 んだ問題提起も注目に値するものだった。
6月4日の放送では、トランプ大統領の「最大限の圧力という言葉は使いたくない」、という 発言をめぐってゲスト、コメンテーターが議論した。玉川徹コメンテーターは、「アメリカが変 われば右往左往する主体性のない日本外交が見えてきた。拉致問題はアメリカに頼る話ではな い。日本が主体的に独自に北朝鮮と話をつける以外ない」と日本の外交政策を批判した。
6月5日の放送では、トランプ大統領の「経済支援は韓国・日本・中国で。アメリカは支援 しない」をめぐって議論があった。ジャーナリストの青木理氏は、「(経済協力は)日本の宿題。 北朝鮮との約束で出さねばいけない。北が経済的発展すれば日本の企業も行って儲かる。そう いう状況を作るには、政治の力できちんとコミットしておかないと」と日本外交の対話軽視と 圧力一辺倒路線を批判した。
6月8日の放送では、6/8 日米首脳会談を受けて「拉致問題を解決するためには、北朝鮮と 『友好関係を結ぶこともあり』ではないか」(玉川徹)、「拉致問題を力で解決できないのなら、 長い時間をかけて外交努力をするしかない。安倍首相は何をしているのか?」(吉永みち子)な ど、圧力一辺倒の政府方針を批判するコメントがあった。
6月13日の放送では、トランプ大統領の、米韓軍事演習中止、在韓米軍撤退を示唆する発 言に焦点を当てて議論された。 玉川コメンテーターは、「アメリカから『(駐留費用を)100%出せ、出なければ帰る』と言 われたとき、日本はどうするか。軍事的にアメリカの属国として生きてゆくのか、自立するの か、この後突き付けられる」と述べた。太田昌克共同通信編集委員は、「日本も真剣に考えない といけない。『100%共にある』『完全に一致している』などのレトリックでは済まされなくな っている」と安倍政権のアメリカ言いなり・対米従属路線を批判した。
6 月14日の放送では、玉川徹氏の 「そもそも総研」コーナーのテーマは「朝鮮戦争終結で 在韓・在日米軍はどうなる?」というもので、「在日米軍を、日本人としてどうするのか?」考 える時期が来るのではないか」「自民党の中で、防衛費をGDPの2%に増やすという人もいる。 そっち側に行くのか?軍事費を削減する方を選ぶのか?」など、安倍政権の軍事・外交政策を 問い直す問題提起に踏み込んだ。 この番組は、多くのニュース番組がともすれば米朝の合意内容の批判や、会談の動き自体に 集中していた中で、会談の背景を含む広い問題を提起していたことが特徴であり、評価できる ものであった。
TBS「ゴゴスマ」
この番組は米朝首脳会談の放送量が少ない中で、拉致問題に大きな比重を置く報道を特徴と しており、安倍政権に対する独自の見解や批判に踏み込んだ報道は見られなかった。
6月8日の放送では、4日後に控えた米朝首脳会談の課題として、非核化・拉致問題を解説 していたが、司会(MC)は、「日米首脳会談で、安倍首相は拉致問題解決への協力を最終確認 した」と拉致問題にスポットを当て、会談後の会見から、安倍首相「拉致問題を解決していく。 内閣の最重要課題。最終的には私と金正恩委員長、日朝の間で解決しなければならないと決意」。 トランプ「我々は今後数週間緊密なコミュニケーションをとっていく。日本人の拉致問題も含 まれる」。など、二人の拉致問題に関するコメントを抽出。スタジオの議論も司会者が、「日米 首脳会談が未明に行われたが、日本は拉致問題だと釘をさせたか?」と話題設定するなど、拉 致問題に重点を置きすぎた扱いが目立った。
日本テレビ「真相報道バンキシャ!」
6月17日、米朝首脳会談結果の報道では、安倍政権の「拉致問題最優先」路線に無批判に同 調する報道姿勢が見られた。
ナレーションで「日本は既に解決された拉致問題を持ち出し、自分たちの利益を得ようとし ていると国営放送が報じた」とし、続いて紹介されたトランプの会見では「拉致問題について 委員長は対話に前向きな姿勢を示した」と述べた。さらに安倍首相と拉致家族との面談を伝え た。スタジオ解説のテーマは「拉致問題に前向きと言っていながら、帰国後態度を変えた北朝 鮮の真意はどこにあるのか?日朝会談の行方は・・・」。など、拉致問題に焦点を絞った米朝首 脳会談報告と日朝会談予測に終始した。
ゲストコメンテーター北川正恭元三重県知事の「主体的な外交を全力で取り組むことを期待 したい」というコメントが唯一批判的ニュアンスを込めた政権への提言だった。
TBS「報道特集」
6月16日の 55分に及ぶ詳しい米朝首脳会談報告の一部として拉致問題をとりあげた。 ここでは、拉致被害者蓮池薫氏を登場させ人道的視点を明確にした。歴史的視点、各国メデ ィアや脱北者・一般市民の反応など多角的取材を基に首脳会談を検証した末に、二人のキャス ターが安倍政権の北朝鮮政策を厳しく批判していた。
インタビューに応じた蓮池薫氏は、「無性に腹が立ちますよね。これがもっと早く動いていれ ば拉致問題の解決も早かっただろう」という当事者の生の声を伝えた。
膳場貴子キャスターは、蓮池氏のインタビューを補足して、「(蓮池さんは)自身が帰国した 16年前とではかなり時間がたってしまっているので拉致被害者には子どもだけでなく、孫世代 までいる可能性を指摘した。被害者家族が北と日本と再びひき裂かれることがないように日本 政府は対応を考えてほしいと指摘していたのが印象深い」と述べた。
またしめくくりのコメントで日下部正樹キャスターは、「拉致問題で気がかりなのは、外国の メディアは日本は北朝鮮とパイプがないから、拉致問題をトランプ大統領にゆだねていると見 ている。日本が主導的に動いていることを世界に示す必要がある」と指摘、金平茂紀キャスタ ーは、「外交的観点から言うと、残念ながら日本というのは一貫してアメリカ頼み、蚊帳の外と いうのが今の時点でも変わっていない」と述べるなど、両キャスターが日本の外交路線を厳し く批判した。
TBS「サンデーモーニング」
コメンテーターのスタジオトークは、政権擁護の論者も混じるが、多くの人は歴史問題にも 踏み込みながら拉致問題優先・対話否定・「トランプ頼み」の安倍政権の対北朝鮮政策批判を展 開した。
6 月10日の放送では、 日米首脳会談の安倍首相、トランプ大統領の発言について、安田菜 津紀氏は、「日本の軸がどこにあるのか、一度中止が表明されたときに 真っ先に日本は支持し たし、開催するとなったときに、期待をすると表明したりする意思の曖昧さ、また、世界の中 で、核兵器の廃絶に決して積極的とは言い切れない日本がどこまで北朝鮮の非核化に説得力を 持てるのかも疑問が残る」と安倍政権への率直な批判を述べた。
「風を読む」コーナーでは、姜尚中氏が、「戦争が嫌だというなら交渉するしかない。北朝鮮 に対しては交渉する、それに尽きる」、西崎文子氏が、「歴史の問題というのは、日本が 独自 で考えていかなければいけないし、拉致問題もその文脈で起こっている」、涌井雅之氏が「歴 史に後ろめたさがない形で毅然とした態度で歴史の清算というものをやりながら新しい東ア ジアの情勢にどう対応するのかしっかり戦略として 打ち立てていく必要がある」などと述べ、 三者三様に「歴史問題」に踏み込みながら、現在の外交政策を批判した。
6 月17日の放送では、日朝関係を議論する中で、田中秀征氏が「今のように拉致を前面に 出していってそれで、通るかといったら首をかしげますよね」、青木理氏が「安倍さんの政治 の足どりをたどってみると北朝鮮に対する強硬姿勢というのが一貫している。誤解を恐れずい えば利用してきたところがある」など、安倍政権の北朝鮮政策を批判するコメントが続いた。
青木氏はラストコメントでも「(トランプ大統領は)歴史的に見ても異常な大統領。そのト ランプさんにつき従っているだけでいいのか、世界の変化についていけてないのは日本じゃな いか」と重ねて批判した。
5、米朝会談に対する国際、国内世論、識者の意見や 見解が広く紹介
されていたか
報道が一面的にならないためには、取り上げる事象について、多様な視点が多様な出演者に よって伝えられる必要がある。しかし、米朝会談に関しては、国際、国内世論や識者の意見や 見解の紹介が少なく、会談を多面的に捉える上で十分な報道とは言えなかった。 放送時間が比較的長いワイドショー番組や週一回の番組では、何人かの論者が出演すること が多いので、多角的に論点が提示されることがあった。しかし、デイリーニュースの多くでこ うした姿勢が貫かれなかったきらいがある。
夜間のデイリーニュースに限定して、幾つかの番組を検証する。
NHKの「ニュース7」「ニュースウオッチ9」では、もともと多様な論者を登場させると いう方針がとられておらず、「客観的」に事実を伝えるという姿勢が主流である。
解説は自局の記者によっている。そのため、全体として、米朝会談に対する多様な見方が伝えられたとは言 い難い。
登場した識者は「ニュース7」6月12日の慶應義塾大学小此木政夫名誉教授だけであった。 小此木氏の発言は、ニュース時間の短いこともあって、「非核化が進んでいけば、今度は金委員 長がアメリカ訪問することがなくはないと思う」といった今後の予測のコメントにとどまって いた。
今回の会談の歴史的な意義について、世論や識者・専門家の多様な見解が伝えられないため に、NHKのこの二つのニュース番組の報道は、米朝会談を低く評価する偏った傾向がそのま ま維持された。
日本テレビ「NEWS ZERO」でも、専門家による「米朝首脳会談」の分析が6月12日 の会談の日のみだった。
出演は小谷哲男明海大学准教授と李鐘元早稲田大学教授で、小谷氏は「北朝鮮が即核兵器を 放棄するのが望ましいが北朝鮮の段階的な非核化をアメリカが受け入れることで動かなかった プロセスが動いた。アメリカ国民は高く評価するのではないか。米国の中間選挙にいい影響を 与える。」李教授は「経済的には北朝鮮は大きな利益を得られていないが核のどの部分を放棄す るのか、決断しないと大きな利益は得られない」と述べた。
識者の考察が語られたのがこの日の放送だけだったことは、会談の多様な側面の解説として は、十分とは言えなかった。
テレビ朝日「報道ステーション」は、他のデイリーニュース番組に比べ、比較的多くの識者 の発言を伝えている。 6 月Ⅰ1日、12日に特別コメンテーターとして出演した磯崎敦仁慶応大学准教授は、「北朝鮮 はアメリカ帝国主義と呼んでいた相手と、それなりの覚悟で会った。そこには物事を動かそう とする大きな努力があったと思う。リスクを背負いながら、事態を先に進めるのは結局、互い の信頼関係だ」と述べた。
6月8日の放送では、ゲストの映画監督・是枝裕和氏が、「今回、米朝が朝鮮戦争終結宣言に 調印するとすれば、非常に喜ばしい。このあとは、遠い夢だが、非核化をすすめるべきなのだ。 オバマ前大統領が、広島に来た時に聞いた彼の演説は感動的だった。この思いが、広まればい いな、と思っている」と発言した。
また、6月15日のゲスト、元朝日新聞論説委員・稲垣えみ子氏は、拉致問題に触れて「これ まで日本はアメリカの影に隠れていたが、これからは前面に出て厄介な相手と辛抱強く交渉す る苦難の時代が始まるのだ。交渉には最低限、相手への信頼が必要だ。目と目を合わせて直接 話をする、素朴過ぎる話だが、そういうことが原点にないといけない」と述べた。
是枝、稲垣両氏の、「オバマ演説への感動」「目と目を合わせて直接話す」といった実感的な視 点での米朝会談のとらえ方はユニークであり、視聴者に多面的な見方があることを示した。
TBS「NEWS23」では、6月4日と7日に、早稲田大学の中村美恵子教授(アメリカ 政治)、6月7日、12日にジャーナリストの平井久志氏の二人のゲストが出演していた。
ただ、 わずか二人のゲストだけでは、米朝会談の歴史的意義や、その多面的側面の解説として不足感 が拭えないものであった。
フジテレビ「プライムニュースα」は、4人のレギュラーコメンテーターが曜日変わりで解 15 説するスタイルをとっている。萱野稔人・津田塾大学教授(政治哲学)、佐々木紀彦・News P icks 最高コンテンツ責任者、松江英夫デトロイトトーマツコンサルティング合同会社パートナ ー、それに経営コンサルタント森田章氏、といったメンバーで、萱野氏を除く3人はいずれも 経済・経営分野の識者である。
フジテレビのホームページによれば、この番組は「その日あったことを短時間で、そして働 く人のためにプラスアルファになる情報を、プライムという新たなブランドのもと、……お届 けします」となっている。 「働く人のために」というコンセプトの番組であり、時間量も少ないので、多角的に考察す る、というよりは経済・経営の視点からの解説がメインであるのが特徴だった。
以上のような各番組の内容をみるとき、デイリーニュースの時間の制約があるとしても、も っと多様な見解や視点が提示されるべきだったと指摘せざるを得ない。
北朝鮮問題、日本の近現代史、北東アジア史、米国、韓国、中国外交史などの研究者、専門 家の意見をもっと広く伝え、視聴者が考える材料を提起する必要があったのではないか。
おわりに
今後の北朝鮮関連報道に望むこと 米朝会談後も、北朝鮮とアメリカの関係について、また日本政府の対北朝鮮政策に関する報 道が続いている。
モニターで検証した内容を踏まえ、とくに今後の日朝関係の報道には次のよ うに要請したい。
第一に、日本の朝鮮半島支配の歴史を踏まえた報道であること。朝鮮半島支配の責任につい ての歴史報道は大きく不足している。
報道にあたって、日朝関係の根底には、民族と国土 にたいする日本の長期の支配があったことが意識されなければならない
第二に、北朝鮮にたいする偏見や不信、ヘイトに類する感情的な報道を排し、事実に基づく 冷静な報道であること。「北朝鮮」という呼称についても正式国名があることを時に伝える こと。
第三に、北朝鮮との外交交渉の努力を怠ってきた日本政府の姿勢を問うとともに、唯一の被 爆国として、北東アジアの平和、非核化に日本政府が貢献しているかどうか検証する報道 であること。 以上を要請して本報告の結びとしたい。
資料
