
テレビ秘密保護法報道を検証する
―2013年10月~12月―
2014年3月6日
放送を語る会
はじめに
~モニター期間と対象番組、モニターにあたっての放送を語る会の姿勢~
第1章 秘密保護法成立とテレビメディアの責任
第2章 秘密保護法報道全体の問題点
第3章 一部民放番組に見られた批判精神
第4章 “政府広報化” 際立ったNHKニュース
おわりに これからの秘密保護法報道に望むこと
はじめに
~モニター期間と対象番組、モニターにあたっての放送を語る会の姿勢~
2013年12月6日、特定秘密保護法は、参院での強行採決をもってついに成立した。この期間、テレビは、法案の内容や成立に至る政治過程をどのように伝えたのか、本報告は、数多くのテレビ報道番組をモニターした記録から、秘密保護法報道の特徴や問題点をまとめたものである。
モニター期間は、10月6日から、12月10日までのほぼ2カ月と設定した。記録したのは、デイリーのニュース番組、週1回の報道番組である。
<モニター対象番組>
【NHK】「NHKニュース7」「ニュースウオッチ9」「日曜討論」「時論公論」「クローズアップ現代」
【日本テレビ】「NEWS ZERO」「深層NEWS(BS)」「ウエークアップ!ぷらす」「真相報道バンキシャ!」
【テレビ朝日】「報道ステーション」「報道ステーションSUNDAY」
【TBS】「NEWS23」「報道特集」「サタデーずばッと」「サンデーモーニング」【フジテレビ】「スーパーニュース」「新報道2001」
上記の番組の他に、「NHKスペシャル」、テレビ朝日「朝まで生テレビ!」、「そうだったのか!池上彰の学べるニュース」などをモニター対象としたが、これらの番組では秘密保護法関連の報道がなかったため記録はない。
モニターの方法は、各番組に担当者を決め、番組内容の記録とその日の放送についてのコメントの報告を求めるという方法をとった。記録はメンバー全体で順次読めるように共有した。これはこれまでの当会のモニター方法と変わりはない。
今回のモニターは、これまでのモニター活動とやや異なるスタンスで実施している。最近の「TPP」「衆院選」「参院選」の報道モニターでは、報道の対象となる政治の動向について、団体として特定の主張を持って臨んだのではなかった。
したがって、今回のモニター活動は、法案に対して批判と警戒感を持ちつつ行われたものであることを断っておきたい。この姿勢が、報告の客観性を弱め、説得力を欠くことになったか、あるいは逆にこの批判的姿勢によってこそ、放送メディアの弱点や欠陥を浮き彫りにできたかは、本報告を読まれる人びとの判断に委ねたい。
第1章 秘密保護法成立とテレビメディアの責任
特定秘密保護法は、行政機関の長の判断で特定秘密が指定され、その秘密が何であるかも明らかにされないばかりか、国民の「知る権利」に応えようとするジャーナリズムの活動にも重大な制約が加えられる、きわめて危険な法律である。
この稀代の悪法が成立してしまった背景に、メディアの怠慢があるとして、その責任を問う声がある。
今回の秘密保護法のもとになったのは、2011年8月、民主党政権下で行われた秘密保全法制に関する有識者会議の報告書だと言われている。かつて自民党福田内閣時代にも、秘密保全法制の在り方に関する検討が行われており、政府による秘密保全の法制化の動きは執拗に続いていた。
研究者や、一部のジャーナリストがこの危険性を繰り返し指摘してきたが、多くのメディアは、この動きをほとんど伝えず、国民に警告する役割を果たさなかった。
今回のモニター報告は、限定された期間の報道を検証するのが目的だが、秘密保護法報道の大きな欠陥として、まずこのことを指摘しておきたい。
国会に法案が上程されるに至って、テレビでも秘密保護法報道が増え始めたが、それでも、末尾資料のデータで明らかなように、10月から11月上旬にかけての報道は決して多くない。11月上旬からようやく連日のように報道されたが、この法案の重大な内容に照らしてみて、報道内容は満足できるものとは言えなかった。このことは本報告で明らかにしてゆきたい。
法案への反対運動が全国で空前の盛り上がりを見せたが、成立を急ぐ政権の動きを止めることはできなかった。メディア、とくにテレビがもう少し早くこの法律の危険性を伝えていたら、状況は変わっていたかもしれない、という声が、市民の間からも聞かれた。
こうしたテレビ秘密保護法報道の特徴と問題点は、今回のモニター報告の集積からつぎのように概括できる。
1、全体を通して、報道が国会での修正協議報道へ傾斜した。一方で国民の反対運動を軽視する傾向が見られた。また、法案の危険性について、独自の調査、取材に基いて伝える報道は不充分であった。
この全体の問題点は、本報告第2章で番組内容の実例を挙げて批判する。
2、全体に問題点がありながらも、一部民放番組が批判精神を発揮して、法案の危険性を伝え続けたことも今回のテレビ報道で顕著な特徴であった。この事例は本報告第3章で記述する。
3、モニター期間中、NHKの報道姿勢が市民の強い批判を浴びた。これは今回の秘密保護法報道では注目すべき事象であり、この点の検証は欠かせないものとなった。とくに「ニュースウオッチ9」では、国会審議を含め、起こっている事実だけを伝える「客観報道主義」の弊害が露わになった。これは本報告第4章で解明する。
このほか、番組の各種データを末尾の資料ページで示した。本文の理解を助けるものとして参照されたい。
第2章 秘密保護法報道全体の問題点
特定秘密保護法案は、2013年11月7日衆議院で審議が開始された。それに伴って、各局とも本格的にこの法案に取り組むようになる(資料参照)。しかし、報道姿勢は、二つの流れに大きく分かれていた。すなわち、当初から「法案反対」のニュアンスが濃い番組を展開していたテレビ朝日、TBSのグループと、局としての主張は前面に出さず、事実の推移だけを伝えようとしたNHK、日本テレビ、フジテレビのグループである。特に後者に属する局の番組には、様々な問題点があった。
修正協議報道への傾斜
与党単独での採決を避けたい自民・公明両党は、野党の一部を巻き込み「修正協議」に応じる構えを見せながら、法案成立を図ろうとした。協議は、11月14日、自民・公明両党に、日本維新の会、みんなの党が加わることで始まり、22日、4党合意が成立するまで続いた。問題は、この間ここで取り上げるニュース番組が、密室で行われた修正協議をめぐる各党間の政治的駆け引きを報じることに眼が向き、肝心の国会審議についての報道をおろそかにしたことである。
その極端な例が日本テレビ「NEWS ZERO」だった。この番組では、ほぼ連日修正協議について報道していたが(資料参照)、内容はこれに関わる4党の動きのみで、国会審議の模様や、反対の立場をとる政党の主張などは一切報じられなかった。同じ局が制作するBS日テレ「深層NEWS」に至っては、修正協議に応じている党の関係者だけをスタジオに招くという、偏った扱いをしていた。
また「ウェークアップ!ぷらす」では、11月30日の放送で、特定秘密の指定期間を60年にしたことや、第三者機関の設置についての日本維新の会の主張を当事者に語らせ、それを引き取る形で、コメンテーターの「修正することで法案は少しずつよくなる」という趣旨の発言を付け加えている。
フジテレビ「スーパーニュース」も同様の傾向にあった。17日は安倍総理の「修正合意で成立を」という期待感をVTRで紹介し、さらに石破幹事長の「会期内成立」への意欲を、ナレーションの形で付け加えていた。まさに政府の広報機関的な報道の仕方である。翌日は修正協議の内容の解説に充てられたが、国会の動きや、反対を主張する党の見解は無視された。
「NHKニュース7」も、似たような取り上げ方だった。18、19両日は、共産、生活、社民各党の見解も紹介しているが、修正案の内容などには踏み込んでいない。加えて、「野党との協議を通じ、なるべく多くの党の理解を得て成立させたい」という政府見解を繰り返し報じていた。「ニュースウオッチ9」は、修正協議にウェイトを置きつつも、上記の番組よりは全体のバランスに配慮していた。19日には、法案に賛成、反対それぞれの立場をとる専門家の見解を紹介することで、視聴者の判断材料に供しようとしていたし、20日には、特別委員会での社民党、共産党の議員の質問も紹介している。ただ、修正案の内容がどういうもので、法案自体がそれで改善の方向へ向かっているのかどうかなど、本質部分への言及はなかった。
ここで批判すべき点が二つある。
一つは、国会の軽視である。修正協議が続けられていた間、国会では衆議院安全保障特別委員会が開かれており、連日与野党の議員が質問に立っていた。反対の立場にある議員からの質問は、法案の問題点を突くものであった。森担当大臣の答弁が二転三転したのもその結果だった。19日には参考人質疑が行われ、各党が推薦した参考人が賛成、反対それぞれの立場からの陳述を行っている。
一方、参議院本会議では15日、自衛隊法改正案が自民・公明、民主などの賛成多数で可決している。これは、海外での邦人救出の際、これまでの航空機、船舶に加え、車両も投入できるようにしようとするものだった。だが、国会でのこうした動きは、ほとんど放送されていない。国会審議という、民主主義の根幹をなす開かれた場での議論を無視し、密室で、しかも秘密裏に行われた修正協議が、あたかも本筋であるかのように報じたテレビ各局の姿勢は、ジャーナリズムの精神からは程遠いものだった。
二つ目は、修正協議に関して、政党間の駆け引きという皮相的なことが報道の中心になり、協議の結果、法案がどのように修正されたのかの解説や論評が、ほとんどなされなかったことである。修正案は国会での審議が行われず、密室協議の結果がそのまま衆議院で可決される形になったが、国会を軽視したその運営の在り方についても、何らの批判も加えられなかった。
実際には、修正協議の結果
●秘密指定の解除が、当初の30年から60年に後退、しかも永久に秘密にされかねない7つの例外項目が追加された。
●秘密指定が妥当かどうかのチェックを総理大臣が指揮監督する。これは当初の政府案にはなかった。
●防衛や外交に不利益を及ぼす6項目に加えて、これらに準ずる政令で定める重要な情報、という1項目を追加した。
など、むしろ改悪された感があるのだが、上記番組はいずれも、番組内で法案の詳細には触れていない。
これに対し、「報道ステーション」と「NEWS23」は修正点について詳しく報じた上で、「報道ステーション」では「修正合意した内容は、政府案に歯止めをかけたというより、むしろ秘密を増やす要素が補強された形になっている」と批判し(11月22日)、「NEWS23」のアンカーを務める岸井成格氏は「修正が進んでいると、よくなっていると勘違いするが、悪くなることもある」と再三警告していた。(11月13日、19日)
反対運動の軽視
前項でも触れたように、修正協議報道への傾斜は、法案に反対する党の動きを伝えることを軽視した。修正に応じた日本維新の会、みんなの党、そして独自の修正案を後半に提出した民主党を除いて、共産、生活、社民の各党は当初から法案に反対していた。その主張がどれだけ報じられたか。
国会審議での発言、あるいは何らかの形での談話なども含めて、モニター期間中この3党の主張がテレビで取り上げられた回数は、資料2-1の「政治的に公平な報道であったか」を参照してほしい。これによれば、「NHKニュース7」のべ13回、「ニュースウオッチ9」のべ17回と、回数的には他の番組を上回っている。これに対し「NEWS ZERO」は、一度も反対野党の見解を伝えなかった。一方、「深層NEWS」では、生活の党の小沢一郎氏、共産党の志位和夫氏が短い時間ではあるが、一度ずつ出演している。
この中でNHKが取り上げた回数が多いのは、政局の動きを中心に報道するという方針があったためと考えられる。反対に「NEWS23」のべ2回と取り上げた回数が少ないのは、独自の企画で反対を表明することが多かったため、これら野党の国会でのやり取りや談話に、重きを置く必要を感じていなかったからではないか。
テレビ出演した政党にかなり偏りのある番組もあった。読売テレビ(大阪)の「ウェークアップ!ぷらす」(日本テレビ系列)である。毎週土曜日の朝放送されているこの番組は、モニター期間中秘密保護法について5回取り上げている(資料1-2参照)。しかし、この時登場したのは、毎回与党ないしは修正に応じた党、あるいは独自の修正案を提出した民主党のみで、法案に明確に反対した党は談話すら紹介されなかった。この局のある種強い意思さえ感じさせるものだった。
一方、国会外での反対運動の扱いはどうであったか。特定秘密保護法案が衆議院で審議入りした11月7日から、参議院で可決成立した12月6日までの30日の間に、廃案を求める声は日増しに大きくなっていった。反対の街頭デモに加え、各種団体が反対声明を発表し、反対集会を開いた。しかし、その伝え方には、局によってかなりのばらつきがあった。
前述したのと同様、資料2-2「政治的に公平な報道であったか」のうち、「反対・批判の声を伝えたか」の項を見てほしい。モニター期間中何らかの形で反対運動について報道した項目を記してみると、「NHKニュース7」16項目、「ニュースウオッチ9」14項目、「NEWS ZERO」5項目、「報道ステーション」16項目、「NEWS23」23項目、「スーパーニュース」3項目、という結果が得られた。(なお、ここでいう項目には、例えば、同じ日に街頭デモと、ある団体の反対声明両方を取り上げた場合は2項目としてカウントしている)
これで分かるように、「NEWS ZERO」、「スーパーニュース」は、反対運動を取り上げた回数が極端に少ない。「ウェークアップ!ぷらす」では、11月30日反対デモの様子をVTRで短く紹介したのと、12月7日法案が成立した後で、出演者の一人が国会前のデモについて、一言触れただけだった。これとは逆に、「NEWS23」は項目数で圧倒的に他を上回っている。たとえば、法案審議が最終盤を迎えていた12月5日、この番組では、国会周辺でのデモだけでなく、山口、札幌、金沢、長崎と、地方での反対の様子も紹介し、それぞれのデモに参加した人たちの声も伝えている。また、ノーベル物理学賞を受賞した益川敏英氏の談話を添えた、学者の会の反対声明や、映画人の会、日本ペンクラブ会長の反対の談話なども紹介している。この時点で、法案反対の声が、分野のちがいを超え、全国に広がっていたことが、画面から生き生きと伝わってきた。
一方、同じ日、「NHKニュース7」と「NEWS ZERO」は国会周辺のデモについて報じただけだった。
11月20日の時点で、この法案に対する反対の声は、学者や女性、TVキャスターたちが結集した任意の集団だけでなく、日本新聞協会、日本民間放送連盟などのマスコミの団体、各種労働組合、法曹界など実に多種多様な団体や個人にまで広がっていた。テレビが伝えたのは、その中のごく一部の動きでしかなかったが、それでも学者たちの反対声明や、映画人たちの反対集会は、多くの人々の共感を生んだ。が、その一方で、反対運動を無視しようとしたテレビ局もあった。為政者にとっては、反対が少ないほど法案は正当化される。つまり、反対運動を報じなかったテレビ局ほど、政権寄りとみなされても致し方なかったのではないか。
では、なぜ人々はこの法案を危険なものと看做したのか。番組はその問いに答えたのか。
「危険な法案」への言及の少なさ
特定秘密保護法案の審議の過程で問題となったのは
①特定秘密の定義があいまいで、秘密の範囲が広がる恐れがあり、何が秘密なのかが国民に明らかにされないおそれがある。
②秘密指定に関わる独立した第三者機関が存在しない。
③処罰の対象が広く、過失、教唆、扇動がそれぞれ独立した形で処罰の対象になる。また、「テロ防止」「スパイ防止」の名目で、一般市民が逮捕や監視の対象になる危険性をはらんでいる。
④秘密指定の期間が長く、歴史的な検証が不可能になる恐れがある。
などだった。
しかし、NHKは「ニュース7」、「ニュースウオッチ9」とも、法案の概要については触れたものの、内容については、十分説明しなかった。唯一触れたとすれば、②に関して外国の例を取材し、報告したことぐらいか。(11月7日、12月4日)ただ、ここでも紹介にとどまって、審議中の法案の内容との比較はしていない。
「NEWS ZERO」も11月26日、独自取材で、アメリカの情報保全監察局の内容をレポートした。これは「日本でもこの組織を参考に、第三者機関を作りたい」との安倍総理の発言を検証する意味もあった。しかし、この日衆議院を通過した法案には、第三者機関に関する条文は含まれていなかった。にもかかわらず、番組ではその不備について一言も言及していない。
11月29日の「報道ステーション」が、元経済産業省の官僚、古賀茂明氏をスタジオに招き、「この法案の危険なところは、将来、アメリカの要請で日本が参戦したとして、情報が秘匿されてしまうと、参戦の是非を判断する手段を奪われてしまう。その結果、無用な戦争に巻き込まれる危険がある」との発言を紹介したのとは、大きな隔たりがあった。「報道ステーション」では、国民を無用な戦争から守るためにも情報公開は必要であって、それと真逆な方向に向かおうとしているこの法案は危険であると、法案の本質部分を指摘していたのだ。
特定秘密保護法案は、この法律の直前に成立した国家安全保障会議設置法とセットになっていた。政府は二つの法律は不即不離の関係にあるのであって、どちらが欠けても機能しないと公言している。それらの法律と併せて、政権側には集団的自衛権の行使容認問題という次の目標があることは明らかであり、最終的には、憲法改正に行きつくことを、多くの識者が指摘していた。しかもその目的が、アメリカと共に戦争に参加するという、日本の在り方を根本から変えてしまう重大な問題を含んでいること。ある日突然、世界のどこかで、日本軍が参戦する、しかしその事実は秘密として隠される、そうした事態を招きかねない危うさをこの法案は持っていることを、危惧していたのだ。
「国際ペン」、「日本外国特派員協会」、「ニューヨークタイムズ」の社説、そして国連高等弁務官までもが、この法案に反対、もしくは懸念の態度をあらわした特定秘密保護法。ところが、NHK、日本テレビ、フジテレビは、こうした事実すら紹介することなく、多くは政府発表に依拠した報道を繰り返し、日々の現象を忠実になぞっていた。しかも、あれほど理不尽な、暴力的な採決が行われたことに対しても、決して「強行」という言葉を用いようとしなかった。
伝えられなかった法案の内容
「強行」という言葉を用いなかった上記のニュース番組は、11月26日、12月6日、それぞれどのような内容の放送をしていたのだろうか。
まず、特定秘密保護法案が衆議院を通過した11月26日、「NHKニュース7」、「ニュースウオッチ9」はともに、国会のこの日一日の動きを詳細に伝えている。反対する党の談話も織り込み、銀座でのデモ行進と参加者の声、日本ペンクラブの法案反対の談話なども紹介している。しかし、修正協議を経て採決に持ち込まれた法案が、原案とどのように変わったのか、なぜこれほど多くの人が反対を唱えるのか、法案の内容について検証するような報道はなかった。
日本テレビには「NEWS ZERO」のほか、BSの報道番組として「深層NEWS」がある。26日この番組に出演したのは、なんと民主党と日本維新の会の国会議員達だった。題して「どうなる一強七弱国会で」だが、修正協議に応じていた当事者だけでいくら議論を重ねても、法案そのものの持つ問題点が明らかにされることはありえないだろう。
フジテレビの報道番組「スーパーニュース」はどうであったか。この番組が放送された時間、国会ではまだ採決に至っておらず、番組は、衆議院特別委員会での日本維新の会の議員と安倍総理との質疑を中心に構成されていた。スタジオでの会話は、司会者の「審議は尽くされたのか」との質問に、記者が「審議は尽くされた」とする与党の見解を解説しているだけ。番組の最後は、「いよいよ秘密保護法についての採決が始まる」との国会からの報告があって終わっていた。
確かに、これも現に起こっていることの報告ではある。しかし、激しく対立している問題を、反対勢力の動きを紹介することもなしに、一方の側からしか伝えないのは、「政治的に公平」という放送法の精神にも抵触するといえるだろう。ちなみに、フジテレビ「新報道2001」では、11月17日の放送で、フジテレビ解説副委員長が「この法案は今国会で成立します。必要ですし」と発言し、12月1日には「反対する人の中には“戦前に戻る”といっている人がいるが、違和感がある。CIAのスノーデンのような人を野放しにしていることの方がよほど怖い」と述べている。フジテレビは、当初からこの法案は必要との認識で報道してきたのではないだろうか。
こうした報道姿勢は、12月6日法案が参議院で可決成立した際も変わることがなかった。NHKニュース番組の二つ、フジテレビの「スーパーニュース」、そして「報道ステーション」は法案が成立する前に放送を終えていた。
「NHKニュース7」、「ニュースウオッチ9」は、この日一日の事実経過をバランスよく報道したが、「ニュース7」では、今まさに成立しようとしている、法案の問題点などには一切触れなかった。また「ニュースウオッチ9」では、大越キャスターが「日本にとって経験したことのない本格的な秘密保護法制であるから、法案成立後も建設的議論を重ねて、懸念の払拭に努めてほしい」と、あたかも法案が成立してしまったがごとき発言をして番組を終わっている。
「スーパーニュース」は、放送の時点で本会議に上程されようとしていた内閣不信任案について、民主党の海江田代表の談話を交えてその動きを紹介した。しかし、野党に関しての報道はこれのみ。事実ではあるが、抵抗勢力は民主党のみ、と受け取れるニュースの内容だった。
一方、法案が成立した午後11時22分ごろ放送中だったのは、「NEWS
ZERO」と「NEWS23」だったが、「NEWS ZERO」は、キャスターの「今までの審議で示された問題点を、政府はしっかり認識していてほしい」との抽象的な言い方で番組を終わっている。
これに対し「NEWS23」は、記者が「第三者機関設置に関する総理の提案は、骨格が全く分かっていない」と報告し、出演したゲストの国分功一郎氏(高崎経済大学准教授)の、「今の日本は独裁政治に近づいている。今国会のやり方は、“政府は恣意的に法を運用するぞ”と告げているようなもの」を締めの言葉にしていた。
第3章 一部民放番組に見られた批判精神
前章で明らかにされた弱点や欠陥がある一方で、一部の民放番組が法案の危険性を伝え、警告を発し続けてきたことは、今回の秘密保護法報道の中で注目に値いする。
代表的な番組は、TBS「報道特集」「サンデーモーニング」テレビ朝日「報道ステーション」などである。
TBS「報道特集」は、今回のモニター活動の期間に入る前、9月21日に、他局に先駆ける約26分という長さの特集で秘密保護法案を取り上げた。
その後、参院の強行採決に至るまでの期間、まず目に付くのは、秘密保護法関連の放送時間量の多さである。これがこの番組の特徴の第一である。
11月16日、約27分、11月30日、約53分、12月7日、約53分、(秘密保護法と関連して、戦時中日本軍に虐殺された沖縄住民の記録の特集を含む)となっていた。
週一回放送で特集が組みやすい、という利点はあるものの、放送日単位でみたとき、1回の放送でこれだけの時間量を割いた番組はほかには見当たらない。
第二は、資料調査や、事実の取材で、独自に法案の問題を明らかにするという姿勢が一貫していたことである。
国会審議の状況も伝えてはいたが、客観的に経過だけを報道する、というよりは、独自の批判的視点の中に、国会の状況が組み込まれ、これも批判の対象になっていたのが特徴的だった。
国会審議の状況も伝えてはいたが、客観的に経過だけを報道する、というよりは、独自の批判的視点の中に、国会の状況が組み込まれ、これも批判の対象になっていたのが特徴的だった。
11月16日は、日弁連清水勉弁護士、情報公開を求めたNPO法人三木由希子理事長、西山太吉氏らのインタビューを中心に法案についての懸念を伝えた。
11月30日には、「原発ホワイトアウト」の覆面作家でキャリア官僚若杉冽氏を登場させ、官僚の秘密指定の実態に迫ったほか、原子力資料情報室の伴英幸氏のインタビューで、核燃料輸送の情報を得た経過を伝え、法案が通ればそうした実態が見えなくなると伝えた。また、韓国で廃案になった秘密保護法の歴史も明らかにするなど、豊富な調査取材で法案の危険性を告発した。このほか、日比谷野外音楽堂の大集会や国会周辺の抗議行動も大きく伝えている。
第三に、これが最大の特徴であるが、「報道特集」全体で秘密保護法案への批判が一貫していたことがあげられる。それは、分厚い調査取材に基いているだけに強い説得力を持っていた。11月16日、金平キャスターが、ラストコメントで、法案が治安維持法のように、「あとで取り返しのつかない、歴史の分岐点になる法律だ」と述べたのは、核心を衝く発言だったと言える。
法案を自分たちの問題として考え、到達した認識を、中立、客観、公正などの規範に縛られることなく伝えた姿勢は、NHKのニュースなどとは根本的に違っていた。
「報道特集」以外に挙げた番組は、番組独自の視点、というよりは、スタジオのゲストやコメンテーターの発言によって、批判的なスタンスが保たれていた。
日曜朝のTBS「サンデーモーニング」も、識者の批判的な声を伝え続けた点で、他の番組にはない特徴を持っていた。
法案の条文を細かく解説することはなかったが、田島泰彦上智大教授を始め、識者のコメント、国会での審議などを通じて、法案の危険性、ずさんな内容を明らかにした。秘密を漏洩した公務員だけが罰則の対象になるという政権側の言い分に対し、戦前の軍機保護法の下での体験を踏まえて、一般の人達にも重大な影響を及ぼす恐れがあることを指摘したことも意味があった。 また、各地の反対運動、ジャーナリスト有志を始め各界、団体の反対表明、国外メディアの批判などを比較的幅広く取り上げてもいる。
テレビ朝日「報道ステーション」は、10月10日の放送で、コメンテーターの恵村順一郎氏(朝日新聞論説委員)が、「この法案は日本をアメリカと一緒に戦争をする国に変える法案で集団的自衛権の行使容認に向けた環境作りで、私は賛成できない」と明言した。
以後、この番組は、法案への批判的姿勢を明確にしていった。
11月1日の放送では、スタジオゲストの国分功一郎氏が、「政府が必死にこの法案を通そうとするのは、それはアメリカとの関係だ。秘密を完全に共有して、自衛隊が米軍と一体で行動できるようにすることだ」と述べた。重要な視点の提示であった。11月7日の放送では、コメンテーターの恵村氏が「この法案は廃案にすべきだ」と述べるに至った。
11月20日には、与党と維新の会との修正合意を批判し、「表舞台の国会の審議はガランとしているのに、その裏で修正だかすり寄りだかわからない文言の切り貼りが行われたという、なんだかおかしい」、と批判するなど、修正協議には一貫して批判的であった。
この番組に登場したゲストは、国分功一郎(高崎経済大学准教授)、後藤謙次(元共同通信)、姜尚中(聖学院大学教授)、中島岳志(北海道大学大学院准教授)、浜 矩子(同志社大学教授)といった人びとで、この顔触れを見ても番組のスタンスがうかがえる。
番組としては挙げなかったが、TBS「NEWS23」の、コメンテーター岸井成格氏が一貫して批判的見解を述べていたことが注目された。
とくに12月9日、安倍首相が記者会見で、「秘密保護法を恣意的に運用することはない、国民に迷惑をかけることはない」と断言したことを受けて、岸井氏が「この法律の怖さは、総理がいくら言っても何の保証にもならないことだ、秘密の範囲が広くあいまい、いくらでも拡大解釈できる。その時の政権によって、どんな判断が下されるかもわからない。しかも、最終的な判断は捜査当局にある。そこを国民は知っておくべきだ」と警告したことは強い印象を残した。
こうした「報道特集」をはじめとした民放の一部番組の報道姿勢は、一般ニュース番組が「客観・中立主義的」であるべき、という「世間の常識」を問い直す起爆力を持っていた。報道内容もさることながら、わが国テレビ報道の手法に対する問題提起としても貴重な事例を提供したものと言える。
法案に疑問を呈し、基本的な批判を貫く、という番組が、果たしてニュース報道といえるのか、という疑問をもつ向きもあるにちがいない。しかし、この法案については、報道が脅かされるという意味では、報道側も当事者であって、通常の放送のように客観的に両論併記的に報道する必要はない。むしろ、取材者としての危機意識をどれだけ持てるかが、ジャーナリストとしての資質を判断する試金石であった。
その意味では、「報道特集」の金平キャスターはじめ、何人かのキャスター、コメンテーターが、厳しく法案の問題点に迫った姿勢は当然であるといえる。
第4章 “政府広報化” 際立ったNHKニュース
今回、NHKニュースでモニターしたのは、「NHKニュース7」、「ニュースウォッチ9」、番組は「クローズアップ現代」、「時論公論」だった。
モニター期間中、「クローズアップ現代」は特定秘密保護法案を一度も取り上げなかった。臨時国会の焦点に浮上し、反対運動も大きく展開されたこの法案を、この番組が全く無視した編集姿勢は異常で、安倍政権を意識して自己規制が強まっていることを疑わせる。
「時論公論」は、モニター期間中この法案を4回取り上げた。出演した各解説委員は、 「この法案は当初から、国民の知る権利を侵すという懸念が指摘されていました。・・・まだいくつかの点で疑問が残ったままだと言わざるを得ません」(12/5)、「『由らしむべし、知らしむべからず』という現代の民主主義社会では到底認められない発想に基づくと言わざるをえません・・・もう一つの大きな問題は、まさに、『審議は尽くされたのか』という問題です」(12/6)、と批判的視点を明確にした論評を加えている。しかし、法案成立前後の終盤でなく、なぜもっと早い時期に指摘できなかったのか。消極的姿勢が惜しまれる。
「NHKニュース7」は、秘密保護法案が憲法改定、集団的自衛権容認などとあいまって将来の日本の進路を決める重大な問題であるにもかかわらず、単に一法案としての軽い扱いで、しかも一部野党との修正協議などを除いて政府側の見解に基づく一方的な報道の仕方が目立つ、著しくバランスを欠く報道だった。
「ニュースウォッチ9」も、政権寄りの報道に終始し、「客観報道を装った政府広報紙TV版」、「政府のスポークスマン的役割」などの厳しい批判を視聴者から突きつけられた。
特に、二つのニュースに共通していたのは、秘密保護法に対するメディアとしての危機感のなさである。法案はメディアの取材・報道の自由を大きく制約する危険を孕んでおり、テレビの現役キャスターを含め多くのジャーナリストが反対を表明し、抗議に立ち上がったにもかかわらず、NHKの二つのニュースからはその危機感が全く感じられなかった。
コメントは政府説明丸写し、批判的視点抜きの法案解説
「NHKニュース7」は10月15日から12月11日までの間、計26回にわたって法案関連のニュースを伝えたが、法案の中身についての説明、解説は政府関係者の発言や資料に基づいた発表ものがほとんどで、キャスターがフリップなどを使って政府側の説明を逐一補強するという念の入れ方だった。
中でも12月9日、臨時国会閉会を受けての安倍首相会見のニュースでは、法律の施行によって「秘密の範囲が際限なく広がることはない」「国民の通常の生活が脅かされることはない」などのフレーズを会見の音声とキャスターコメントで4、5回も繰り返す異常な伝え方だった。
「ニュースウォッチ9」も、10月17日の法の目的や条文解説は、政府説明をなぞってそのままコメントした。
25日も法案解説は政府説明丸写しに加えて、法案の必要性を首相・外相・防衛相の3人がかりのコメントで強調した。視聴者には政府広報のように感じられる構成だった。
12月5日は 参議院国家安全保障特別委で強行採決された法案解説でも、相変わらず政府説明のオウム返し。これだけ反対の声が高まり、法案への厳しい批判が展開されているにもかかわらず、それには一切触れず政府の趣旨説明どおりの解説は、政府寄りの報道姿勢を改めて浮き彫りにした。
反対」はなかったのか ~「賛成・疑問・理解」の字幕表示に疑問~
「ニュースウォッチ9」は11月25日、 国家秘密を取り扱う立場にいた元官僚、外務省事務次官だった斎藤邦雄、元防衛省運用局長柳沢恭二、元内閣情報調査室長大森義夫3氏に聞いた。疑問なのは、なぜ字幕表示が「賛成・疑問・理解」なのか。これらの論者の場合、常識的には、「賛成・反対・条件付き賛成」とするのではないか。
ニュースでは「疑問」派と表示された柳沢氏が、同時期発売の「週刊金曜日」では反対の論陣を張っているだけに用語の使い方に疑問が残った。内容が、法案に賛成・反対、あるいは情報公開の必要性について、それぞれ根拠を示した意見の展開で、視聴者には考える材料を提供していただけに、「賛成・疑問・理解」の字幕表示には、「反対」を視野の外に置こうとする意図が感じられた。
「強行採決」の用語使わず
「ニュースウォッチ9」は、11月26日「衆院通過」のタイトルで朝から強行採決に至るまでの国会内の動きを詳細に伝えた。しかし、ひたすら事実報道に徹し、VTRナレーション・記者解説・キャスターコメントとも「強行採決」の用語は、一言もなかった。
12月5日も参院特別委強行採決の一日を詳細に追った。VTR取材では、採決に反対する声を野党、沖縄・福島など地方を含めて丁寧に拾っている。委員会の強行採決ぶりもポイントをおさえて報じている。しかしこの日も、字幕・コメントとも「強行採決」の表現を一切使わなかった。
参議院本会議を通過した6日は「採決をめぐって」のタイトルで法案成立直前の一日を報道。この日も「強行採決」の表現なし。国会内のうごきを批判的視点抜きでひたすら事実報道するだけでは、視聴者には自公の強引な議会運営・強行採決の異常さはきちんと伝わらない。
ここまで一度も「強行採決」の用語を使わなかったのは、政権・与党からの無用な批判を避ける周到な配慮ともとれる。しかし、テレビ画面で強行採決を目の当たりにした視聴者には、政権に気兼ねした自己規制と映るだろう。
遠回しに「秘密保護法は必要」を匂わせる~キャスターコメント~
「ニュースウォッチ9」11月11日、 井上キャスターは「安全保障の強化に不可欠として安倍首相が強い意欲を示す『特定秘密保護法案』」と政権の意図だけを強調。大越キャスターも「国民の知る権利との兼ね合いで議論を呼んでいる法案だが、政府は公明党の主張に大幅に譲歩し、大筋で合意。政府・与党一体でこの法案の成立を期す体制を整えた」と、政府・与党のうごきと意気込みばかりを取り出して伝えた。
11月18日、大越キャスターの開始コメントは「(国会会期説明の後)与党は今週中に衆議院を通過させたい。しかし、与党単独での押し切りは避けたいのがホンネ」。さらに、エンドコメントでは「会期末まで3週間。与党とすれば差し迫っている」とこの日も政府与党目線の解説に終始した。
11月21日、大越キャスターが「与党は、みんな・維新の合意を取り付け賛成多数で可決できる情勢。ただ根強い反対論に加えて各種世論調査では法案内容が国民に周知されていない。そこをどう見るべきか。与党側は、週明け月曜にも採決を行いたいとしている」と与党の事情を強調した。「根強い反対論」「世論調査結果」を上げながら、反対の声を無視して強引に採決に持ち込もうとする与党への批判抜きに、「そこをどう見るか」はいかにも腰が引け、与党の意向を忖度する姿勢が透けてみえる。
11月22日、大越キャスターは「与党側の日程は25日特別委採決・26日本会議採決。しかし与党は取り敢えず25日採決を見送り、慎重にことを運びたい姿勢を滲ませている」。ここでも、与党が強引に審議を進める姿勢は批判せず、むしろ与党の心情に寄り添う。
終盤に来て二日続いた大越キャスターの次のコメントにも注目したい。
12月5日「ここまで議論してきて、民主党を含めて一定の『秘密』の保全は必要だというところまでは共通基盤がある」
12月6日「同盟国アメリカなどと、できるだけ高度の情報共有するために、秘密とすべき情報がいたずらに漏れる事態をなくすべき、という認識は多くの政党が共有している」
法案に反対する野党の存在を無視し、「強行採決」にも目をつむり、あたかも「秘密保護法は必要」というコンセンサスができたと錯覚させるようなコメントではある。
国会の外では、連日、各地の市民が抗議行動を繰り広げ、「安保闘争以来」と言われるほど反対の声が高まった。12月世論調査で法案「反対」が50%(12/2 朝日新聞)、9月の政府パブリックコメントでも反対77%、という根強い反対の数字と合わせ考えれば、この二つのキャスターコメントは明らかに世論とは乖離した政権寄りと言っていい。
取材の視野が国会内の政党の力関係や駆け引きにとどまり、世論・市民運動への視線が決定的に欠落していた。
「客観報道主義」に隠された「政権を批判しない」という編集スタンス
「ニュースウォッチ9」の編集姿勢がうかがえる興味深い記事が、2014年1月1日朝日新聞に載った。キャスター大越健介氏のインタビューである。
「主張より事実重ねる」の見出しで、大越キャスターは、「特定秘密保護法も全部ダメとか全部良いとは誰も言えないはずで、ファクト(事実)を積み重ねるしかない」と述べている。これは、ニュースにジャーナリストの主観、意見を入れず、事実をできるだけ客観的に伝達しようとする「客観報道主義」の主張と受け取れる。確かに、今回の秘密保護法報道では「ニュースウォッチ9」は極端なまでに論評を避け、ひたすら事実を積み上げることに徹してきたように見える。
しかし、社会に起こる多くの事実から、『ニュースにする事実』を選択するのは編集者であり、その選択は必ず編集者の価値観に基づいて行われる。問題は、秘密保護法報道において「ニュースウオッチ9」がどのような「事実」を選択して伝えてきたか、ということである。
これまで見てきたように、「ニュースウオッチ9」では、法案の問題点や欠陥には踏み込まず、反対する野党や市民の声は切り捨てるかあるいは小さく扱い、もう一方の事実である政府与党・修正協議する野党など賛成側の動向・主張ばかりを数多く積み上げ大きく報道した。さらに、政府・与党の発表する見解や総理・閣僚の発言を、無批判にそのまま事実として報道した。ここでは発表もの依存の伝統的体質が明らかになった。
この発表もの依存体質と表裏だが、調査報道・独自取材の不足も目立った。政府発表の裏にある法案の危険性を掘り起こす調査取材は皆無に近かった。2ヶ月のモニター期間中、20回秘密保護法を取り上げたが、独自取材・調査報道として記憶に残るものは、米国の秘密指定を監視する国立公文書館・情報保全監察局の調査報道など4例に過ぎなかった。
こうした内容が、「ニュースウオッチ9」の「客観報道」の特徴であり、視聴者から「政府広報」のようだ、という批判を招くことになった。
客観的事実の取材は、ニュースでは欠かせないが、重要なことは事実を積み重ねて真実に迫ることである。しかし、「ニュースウオッチ9」では、「秘密保護法の危険性」という真実に迫ることはなかった。
「客観報道」という外見は、並べられた事実の奥にいる編集者の存在を巧妙に隠す。上記のような放送となった「ニュースウオッチ9」の内容をみるとき、背後にいる編集者には、もともと政権寄りの姿勢があり、政権をできるだけ批判しない、という姿勢があったのではないかと強く疑わざるを得ない。
先輩ジャーナリストの「『権威者の話』や『当局発表』の客観報道は、今では世論操作のシステムと化している」(原寿雄「ジャーナリズムは変わる」1994)という警告は今に生きているのである。
一般の視聴者の多くは、NHKの報道に信頼を寄せている。
例えばNHKが2013年7月に実施した世論調査でも、77.2%の視聴者がNHKの放送は「公平・公正」と答えている。
NHK経営委員会主催キャンパス・ミーティング(中央大学2013.10.15 開催)に出席した若い学生の間でも「NHKは、政治的に中立な立場で報道し、事実だけを取り入れることができ参考になる」「民放のニュースはバラエティーに近い。NHKのニュースは、事実をはっきり知らせてくれる」と受け止められていた。しかし、政府広報化し、結果として安倍政権の世論操作の片棒を担わされた秘密保護法報道により、NHKのニュース報道は「事実を曲げない政治的に公平な客観報道」、という視聴者の期待を大きく裏切ったことになる。
おわりに これからの秘密保護法報道に望むこと
特定秘密保護法は成立したが、この法律には多くの欠陥が指摘されている。法自体の廃止を求める政党も存在し、反対する国民の声はなお大きいものがある。「成立」をもってこの法律についての報道も終わりということにはならない。
また、施行前に関連諸制度の設置について国会審議が行われる。秘密保護法に関する報道は、今後も確実に必要となる。
当会は、今回のモニター報告を踏まえ、これからのテレビ秘密保護法関連の番組、ニュースに対し、次のように要求したい。
1)報道全体を通して、政局に偏重した報道姿勢を改め、この法律自体の問題点を、条文に即して、丁寧に明らかにする報道を継続すること。
その際、情報が本来国民のものであることを前提に、情報公開の国際的なすう勢の中で検証すること。
2)関連諸制度の国会審議がある場合は、その議論の内容を丁寧に伝え、その問題点を多角的に明らかにすること。
3)法の施行を前提とした各種の修正の政治的動きを伝えるだけでなく、法律そのものに反対し、廃止を求め続ける政党や国民の主張をきちんと取り上げること。
4)「意見が対立している問題については、出来るだけ多くの角度から論点を明らかにすること」、という放送法の要請に応えるためには、定時のニュース、番組だけでは十分ではない。必要なときに、長時間の特別番組を編成すること。とりわけ公共的な役割をもつNHKにこの努力を求める。
特定秘密保護法は、政府の行為、特に軍事的な行動を見えなくする重大な結果を招き、本来政府の行為を監視すべきジャーナリズムが、逆に政府によって監視される時代へ決定的に移行する危険な法律である。もしテレビにジャーナリズムがあるなら、テレビ各局は、最大限の警戒心と批判精神をもって、施行までの報道に当たるべきである。報告の最後にこのことを強く要請したい。
資料