
テレビは反原発官邸前抗議行動をどう伝えてきたか
2012年8月31日
放送を語る会モニターグループ
はじめに
3月下旬、数百人で始まった反原発の官邸前抗議行動は、その後、最大で20万人の参加者を数えるまで拡大し、2012年8月22日、ついに野田首相は、行動を主催してきた首都圏反原発連合の代表と会見せざるを得なくなりました。 この画期的な民衆運動のうねりにたいして、当初、テレビメディアは事実上黙殺にちかい態度で充分に伝えず、行動に参加した市民や、反原発の運動を各地で展開している人びとから、テレビ局への厳しい批判と不信の声が上がっていました。
この官邸前抗議行動をどう伝えるか、その報道内容は、原発に反対する全国の市民運動への、テレビ局のスタンス、姿勢を象徴的に示すものです。
放送を語る会は、先月7月16日、東京・代々木公園で開かれた大集会のテレビ報道をチェックし、7月22日に、モニター報告「テレビはどう伝えたか『さようなら原発10万人集会』をまとめ、発表しました。これは一日の集会の報道に限ったモニターでしたが、毎週金曜日の官邸前デモ報道についても、テレビ局ごとに担当者を決めて視聴し、記録しています。
金曜日行動はなお続いていますが、今回、この官邸前デモ報道のモニター結果を、とりあえず6月下旬から8月までの時期に限って報告することにしました。
本報告についてお断りしておきたいことがあります。
モニターは、テレビ局のニュース番組ごとに担当者を決めて、「放送内容」と「担当者のコメント」の2つの項目で記録しました。以下の報告は、その「担当者のコメント」をほぼそのまま記載したものです。したがって、個々の番組の批評、評価は個人的なレベルのもので、その内容は放送を語る会の統一的な見解というわけではありません。
モニターしたニュース番組は、首都圏のチャンネル順に、NHK「ニュース7」「ニュースウオッチ9」、日本テレビ「NEWS ZERO」、テレビ朝日「報道ステーション」TBS「NEWS23クロス」、テレビ東京「ニュースアンサー」、フジテレビ「ニュースJAPAN」、の7番組です。
モニターした月日は以下の毎週金曜日です。(カッコ内は主催者側発表の参加者数)
6月22日(4万5000人)29日(20万人)7月6日(15万人)13日(15万人)20日(9万人)8月3日(8万人)10日(9万人)17日(6万人)。8月24日(4万人)。
この日に加え、首都圏反原発連合と野田首相の会談があった8月22日もモニターしました。テレビ朝日については一部「報ステSUNDAY」(日曜日)の報告も含んでいます。なお、担当者の事情や録画機器の状態によって、モニターできなかった日は記載していません。
また、モニターしたが官邸前行動のニュースがなかった日は、「報道なし」と記しています。
各番組のモニター報告
NHK「ニュース7」 |
7月20日 この日、「原発反対の抗議行動」というタイトルで金曜日デモを扱う。
6時前から列を作り、官邸前に集まった抗議の人々が大飯原発3,4号機を止めるよう訴える姿を取材し、この行動が福井、大阪、北海道、鹿児島でも同時に行われているとナレーション。参加者のインタビューでは「どこかで意思表示したい、行動起こしてみたいと思った」と語る女性と、女子学生2人の「大きなうねりが来ている、参加する意義があると思い来た」という声を伝えた。民主党鳩山元首相も参加して演説し、「運転再開に反対する声を官邸に伝え、政治の流れを変える役割を果たしたい」と述べる姿も紹介した。
ただ、このニュース、開始後22分10秒から23分25秒まで、1分15秒間と極めて短かかった。
8月3日 「”運転に反対”抗議活動」というタイトルで、官邸前の原発再開に反対する抗議活動を紹介。仕事帰りや子供連れの主婦などの列が国会周辺にまで広がっている状況や、「国が変わるチャンスと思う」と語る女性のインタビューを伝える。
8月10日 8月17日 報道なし
8月22日 ”原発反対”市民グループと野田首相との会談を伝える。市民グループは大飯原発の運転再開停止と国のエネルギー政策の転換、すべての原発の廃炉などを求めたのに対し、野田首相はこれまでの安全性を確認した上で、国民生活への影響の必要性も加えて総合的に判断したと答えるなど、会談のやりとりを紹介。
そのあと、記者会見で、市民グループは、私たちの要求が聞き入れられるまで抗議は続けると語る。
ただ会見で発言した女性は、肩書きのスーパーがなく、どういう人なのか全く分からず、疑問が残った。このようなNHKの報道姿勢は視聴者がニュースを理解する上でも問題があると思う。毎週数万人が集まり、反原発を訴える市民団体への配慮を欠いたものと言わざるをえない。
(この評価について、別のモニター担当者から、この抗議の面談、抗議の申し入れは、首都圏反原発連合の名で行われており、このニュースに限っては、個人名や肩書きを入れず、市民団体、市民グループという表示だけでもよいのではないか、という意見があった。)
8月24日 この日のトップニュースは、竹島、尖閣諸島の領土問題への野田内閣の対応と国会の決議採択、つづいて国会終盤での重要法案、自民党の野田首相への問責決議案などについて取り上げたあと、第3のニュース項目に、毎週金曜の首相官邸前デモをおよそ2分間にわたって報道した。
再稼動・原発反対を叫ぶ元気な映像を重ねたうえで、さらに、福島県南相馬市からの避難している女性2人の、「自分たちこそが立ちあがらなければ」、という声。それぞれ思い思いのプラカードをかかげてアピールする参加者たちの真剣な表情をていねいに報道した。さらに22日におこなわれた金曜デモ主催者が首相と面会した場面も挿入して、面会後はじめての金曜日の行動を報道することで、あきらめない反原発運動を可視化したと思う。
この日の「ニュース7」は、そのあとも原発関連のニュースを2つ続けて取り上げていたので、今の時点での原発の問題点がまとめられて、再稼動なしで原発にも頼らない選択を考えることのできる内容となった。この官邸前抗議行動は、毎週行われる行動だが、毎回ごとに特徴があるはずである。この日は南相馬の女性のインタビューを放送したが、こういう取材努力が必要だ。年齢やプラカードのバリエーションなどにも注意を払って報道してもらいたい。
NHK「ニュースウオッチ9」 |
6月22日 報道なし。官邸前の金曜日デモが急速に参加者を増し、注目を集めるようになったのは6月の後半で、この日、官邸前は抗議する市民で埋め尽くされたが、まったく伝えず。
6月29日 この日は、東電社長の双葉町での謝罪のニュースのあと、2項目目に初めて官邸前デモを報じた。大飯原発運転再開決定の撤回を求める人々の姿や、ツイッターでの呼びかけに応えて参加した青年のトーク、また、前回を上回る人数の参加で、デモの規模が大きいことを伝えている。
参加した女性の「ここで意思を表明しないと国は何をするかわからない」「福島の人たちが大変な暮らしなのに政府のやることが信じられない」といった声も組み込んでいる。官邸前のデモの特徴を捉えた報道だが、割かれた時間はわずかに1分40秒ほどであった。
数万の参加者が毎週金曜日に官邸前を埋め尽くす、という画期的な事態を考えるといかにも短い扱いだった。「無視はしていない」というエクスキューズとして報道したのではないか、という批判がネットでも見られたが、そう批判されてもしかたのない分量の報道だといえる。
7月6日 官邸前デモはこの日までに過去空前の規模に達していたが、天気予報前のフラッシュニュースの扱いで、わずか40秒足らず。
参加者がきのう発電を再開した大飯原発3号機を止めるよう訴えたこと、ツイッターやインターネット、口コミで参加が呼びかけられ、会社帰りのサラリーマンや子ども連れの主婦の姿が見られたこと、などを簡単にナレーションで伝えるにとどまった。
このニュースの前に、新式のプラネタリウムの長い特集企画があり、反原発の市民行動を無視はできないから一応は取り上げるが、プラネタリウムの設置よりも意義が低い、という担当者の価値判断が示されたかのようにみえる。
7月13日 この日も大規模な官邸前デモが行われたが、「ニュースウオッチ9」は報道せず。毎週同じデモのニュースを欠かさず伝えるべきだと主張するわけではないが、6月22日から7月13日までの4週間で、「ニュースウオッチ9」が扱った官邸前デモ紹介時間は2分強にすぎない。このデモの規模や注目度からしても、また民放の一部のニュース番組と比べても、特徴的なスタンスと言える。
7月20日 「ニュースウオッチ9」としては、約8分半という、かつてない時間量で官邸前デモをとりあげている。この番組の官邸デモの扱いがあまりに冷淡で、事実上無視に近い報道だったことへの市民の抗議の声がネットなどで大きくなっていたことと無関係ではないと思われる。この日を境に、「ニュースウオッチ9」の、官邸前デモにたいする姿勢が変化したような印象がある。
この日の放送では、3人の市民の声を伝えたが、そのうち主婦については自宅まで取材し、一般市民がデモに参加する思いを丁寧に伝えた。
また、アルバイトで生活する青年が、福島の市民と自分の境遇が同じだと感じ、いても立ってもいられない気持ちで参加したというインタビュー、70年安保世代の男性が、デモの盛り上がりについて、本当にこの国は大丈夫なんだろうかとの思いによるのではないか、と語るなど、デモ参加者の意思のあり方やその多様性が紹介されていた。
一見、丁寧にデモを取材したかに見えるが、このデモの取り上げ方には一種の偏りがみられる。それは、取材の力点が、デモの「形態」のいわば“文明史”的論評に置かれ、肝心な、デモがいったい何を、どのような理由で要求しているのか、へは充分な関心が向けられていないのが気になる。
これは官邸デモ報道で、「ニュースウオッチ9」だけでなく、その他の民放の番組にも共通する根強い傾向である。
いわく、ツイッターや口コミでの広がり、サラリーマンや子ども連れの主婦など参加者の多様性、といった、デモの新しい形態ばかりが強調され、“デモの変化”が論評される。「ニュースウオッチ9」の本日の内容はまさにそうした報道の典型といえる。
参加する人びとのさまざまな思いを伝えることは重要である。しかし、その行動の根本的な動機である、原発の危険性への不安や、安全対策が不十分なままの原発再稼動への怒り、といった、デモを成り立たせている根本の要求、声については、報道は注意深く排除しているかのようだ。
肝心なことは反原発というデモの主張の内容であり、それがどのような根拠で主張されているかに、デモ取材の力点が移されなければならないと感じる。
8月3日 8月10日 8月17日 報道なし
8月22日 シリアでの山本美香さん殺害関連のニュースに続く2項目目に、官邸前デモの市民グループと野田首相との会談の動きを、合計6分強という比較的長い時間で伝えた。しかし、「デモでは異例」などといった歴史的な解説が入り、会談での双方の発言部分は、合計わずかに1分半にとどまっている。
社会の動きを短時間で端的に伝える、というニュース番組の演出上の要請があるとしても、別のテーマでは相当長時間の時間をとっている例があり、この短さは疑問だ。画期的な会談であるだけに、視聴者は市民グループがどう発言したか、それに対して野田総理は、どう反応したのか、もう少し知りたいところだろう。
また、抜き出された市民グループの発言は、「うしろに抗議の声をあげている方々、16万人の避難している福島の方々、避難したくても避難できない方々の怒りを表現する場作りをしている。」「一市民の方がどうしても力が弱く声が届きづらい。その状況をきちんと市民社会として声届きやすくしていくことがこれから必要。」といったものであり、いずれも意味のあるものだったが、考えてみると、その内容がいずれも「自分たちの行動自体についての発言」であったことに気付く。
デモが拡大したことの背景に、原発そのものの危険性への不安や、安全とはいえないまま大飯原発を再稼動したこと、原子力ムラの出身者の規制委員会への登用、などにたいする強い抗議の思いがあったはずだが、こうした原発と原発行政そのものを問う発言が取り上げられていない。
8月24日 竹島、尖閣など領土問題に続く2項目目、「会談後初の抗議活動 参加者の変化は」というタイトルで4分20秒程度、官邸前行動を伝えた。野田総理との会見に失望し、不信感を強めている、という参加者3人の声を比較的丁寧に紹介している。テロップでも「”肩すかし“でさらに」いう語句をスーパーし、市民側の失望感を強調した。
一昨日の会談のシーンのインサートでは、市民グループの「この夏、大飯原発以外の原発を動かしていない状況で十分に電気がまかなえている」という重要な指摘を抜きだしている。ツイッターなどの、「不誠実な対応に抗議しよう」との声を紹介したあと、デモの主張の一つ、原子力規制委員会の人事撤回の声を重点的に伝えた。首相との会見後のデモの状態について、比較的妥当な報道との印象がある。
しかし、この項目のあと、大越キャスターの取材で、女性の、美しくなりたいという意識についての企画ニュースが続いた。話題の映画や街の声、識者のインタビューを執拗に重ねて、官邸前デモの3倍近い12分強の時間を割いている。
このような社会現象取材の企画ニュースもときに入ってもいいのだが、さすがにこのバランス感覚は疑問だ。官邸デモの項目で、「原発がなくても電気が足りている」とか、「規制委員会人事に反対」といった重要な声を伝えているが、こうした提起について、報道する側はどう受け止めたのか判然としない。これらの問題について、独自の調査報道にもっとニュースの時間を割くべきではないかと思う。
日本テレビ「NEWS ZERO」 |
6月22日 報道なし
6月29日 「原発再稼働に反対 首相官邸前で大規模デモ」と字幕表示して、30秒ほどのVTRで紹介、きわめて短い。コメントはスタジオアナ。
7月6日 4分32秒の構成は短いと思う。官邸前デモの参加者の声を伝えたのはよいと思う。しかし、政府の一般からの意見募集についてのコメントはなくてもいいのではないかと思う。官邸前のデモ参加者の気持ち(原発再稼働反対)をもっと伝えるべきではないか。
7月13日 7月20日 8月3日 8月17日 8月24日報道なし
テレビ朝日「報道ステーション」 |
6月29日 5分ほどの報道あり。この日の各局ニュースのなかでは、一番丁寧に好意的に伝えた。2項目目のニュースとして、「官邸前で反対デモ拡大」と字幕表示、2分半ほどVTR映像。「これまで最大規模」とコメント。デモに参加する田中康夫議員(新党日本)、松木議員(新党大地・真民主)、市民3人のコメント、官邸の野田首相「大きな音だね」の感想も紹介。
その後、ゲスト鳥越俊太郎氏と古館キャスターのやりとり2分半ほど。「かつてのデモでは組合・学生の旗ばかり。今回は普通の市民のデモ。日本では安保のデモ以来52年ぶりに市民が立ち上がったデモで感慨深い。日本の新しい波で共感を覚えます」と鳥越氏は新しい動きに感激をこめたコメントで結んだ。
7月6日 報道なし
7月8日【報ステSUNDAY】13分30秒の特集だった。(特集のタイトルは「【密着】携帯片手に“実況”も。変わる抗議デモのスタイル。反原発デモ 参加者の素顔に迫る」)
7月6日(金)のデモの様子を長野智子メインキャスターが取材した。まず「私は未成年なのでこういうことでしか今は自分の思いを伝える手段が無い。(ここに来るしかない)」(18歳・女性)「(子どもを)連れてくるのは危ないといわれるが、それでも来て声を上げないといけないという危機感がある。」など参加者の声を伝える。
またデモに初めて参加する男子大学生二人に密着取材。二人が国会議事堂前に到着し、その後、警察とデモ参加者が衝突。事態を収拾するために解散を要求する警察と食い下がる主催者側。騒然となる現場の映像とは対照的に「こうなったらおしまい。」とデモ終了時刻を待たず現場を後にする二人。
ナレーションは「決められたことを守り、自分の意思で行動する若者たち。一方主催者や警察の制止をよそに抗議活動を続ける人々。そこには二極化する参加者の姿があった。」と表現。一連のデモの特徴を“二極化”として表現するのは、ちょっと乱暴な感じがした。
しかしデモに参加する人々の声を拾いながら、参加者単位でデモの実状を分析・紹介しようとする姿勢は評価できる。
7月13日 「今日、原発の再稼働に関する二つの動きがあった」として、2項目を続けて伝える。
まず〈柏崎刈羽の再稼働へ根回し 東電会長・社長が新潟訪問〉3分30秒。その後〈「再稼働反対」の声に総理は… 全国に拡大続く“デモ”〉を9分間にわたって詳細に伝えた。
小川彩佳アナによる現場取材リポート。「警備が非常に厳しくなっています。こうして鉄製の柵が設けられて、参加者が車道に出られないようになっています」と、異例の警戒態勢が敷かれた現場の様子を伝える。
そんな中、声を詰まらせながら「もう二度と事故なんかおこしてほしくないから。こんな福島みたいな場所を二度とつくってほしくないという思いです。」と訴える、福島・二本松市から参加した幼児を抱く母親の声も紹介。
また、同じ金曜日に同時多発的に発生している全国の反原発・脱原発デモの様子を詳細に紹介。各地のデモを取材し、一か所ずつ映像とあわせて参加者の声もとりあげ、日本中で多くの人々が声をあげていると時間をかけて丁寧に伝えた。
スタジオゲストの片山善博氏(菅内閣当時の総務大臣)は東電や政府に対し、「変わらなければならない」と繰り返し言っていた。
何がどう変わればよいのか、具体的なことには言及していない。週に一度外部からのゲストを招く金曜の報道ステーションは、ゲストが自由に持論を披露するといったパターンが多いが、キャスターにはゲストからもう一歩踏み込んだ意見を引き出す努力を望みたい。
7月20日 報道なし
8月3日 オリンピック ボクシング誤審のニュースのあと、VTRで構成された「「脱原発」訴え今日も官邸前へ 坂本龍一さん“金曜デモ”参加」とスタジオトーク部分「坂本龍一さんが語る「脱原発」への思い」。2項目合わせて約11分間。ニュース番組の限られた時間の中で、本日の特集としたオスプレイ関連項目9分20秒より長い時間を充てた。
まず今日の「官邸前デモ」に坂本氏が参加している様子や、「NO NUKES2012 千葉・幕張(7/7)」(脱原発を掲げた音楽イベント)など坂本氏の脱原発に関する活動の一部をVTRで紹介。その後坂本氏が脱原発への思いを9分間にわたってスタジオで語った。「僕や政治家が主役ではなくて、集まっている一人一人市民の方が主役。」とし、「原発に反対だろうが推進だろうが、永く続く廃炉作業、たくさん出てしまった放射性廃棄物をどうするかという問題に直面せざるを得ない。」と発言。
“原発どうする”“再稼働反対”ばかりが議論されているが、「放射性廃棄物処理」や「何十年もかかる廃炉作業」など、かならず直面する問題についてあらためて考えさせられた。
長期にわたり必要になる(廃炉のための)技術者の育成についてもふれていたが、まさに喫緊の課題だろう。他にも“自然エネルギー”や“雇用問題”“政治家の公約”にまで話題は及んだ。一視聴者としてとてもわかりやすく、伝わりやすい放送だったと思う。
そしてそれらを論じた後、「家族もバラバラになって、職も失って、でも将来もしかしたら子どもが病気になるかもしれないという不安も抱えて、もうにっちもさっちもいかない。(坂本氏)」「とにかく福島の方々に、もっと補償なり、仮の町をつくるにしてもスピードを速めないとえらいことになるということは、今後も伝えなきゃいけない部分だと思う(古舘キャスター)」と、東京電力福島第一原発事故被災者の方々の現実、遅々として進まない救済問題に言及したことについても評価したい。
8月10日 8月17日 報道なし
8月22日 今週は古舘伊知郎に代わって、富川悠太がキャスターを務める。今日は、自殺とされた大阪西成区の女医 再捜査について9分50秒、民間企業の挑戦 福島の山林の除染8分20秒、「原発“比率”結論へ大詰め」は総理とデモ代表との面会、討論型世論調査結果等をまとめて8分。以上3つが主要ニュース項目だった。
デモ代表者と総理との面会では、反原発団体代表者の発言紹介。「私たちは原発が止まるまであきらめません。(反原発代表者)」「大飯原発以外の原発を動かしていない状況で十分に電気がまかなえている、(反原発代表者)」など。
画面は発言者のアップと野田総理のアップを同時に映しており、野田総理がどのような表情で発言を聞いていたかが確認できた。
そして野田首相の「原子力に依存する体制を変えていくことを目標にしています。」「大飯原発の3号機、4号機の再稼働は特定の経済団体等に影響されての判断ではありません。」という発言を伝える。30分にわたる面会のやり取りからなぜこれらの発言をチョイスしたのか。もう少し時間を割いてもっと多くの発言を紹介してほしかった。
その後、「討論型」世論調査の結果「0%を支持 46.7% 15%を支持 15.4% 20~25%を支持 13.0%」を受けてコメンテーターの三浦論説委員が「今の何パーセントという選択肢の議論はちょっと違うのではないかと思う」と発言。この世論調査の結果が意味のないことともとれるこの発言には少しびっくりしたが、続けて「本当にしなければならないのは、まず今ある原発を点検して津波の対策、耐震性、活断層の問題、ダメなものは止めなければならない。そのうえで次の段階に行く。再稼働にしても周辺の自治体の同意とか安全対策とかある。そのあとに何パーセントかの議論が来るべきだ。(三浦コメンテーター)」と。そういう観点からの見方もあるかと納得。
しかし「異例のデモ代表者と野田首相の面会」と今後の政府の方針にかかわってくるであろう【ゼロ支持多数】という世論調査の結果そのものに対する考察が無かったのは残念である。
8月24日 報道なし
TBS「NEWS23クロス」 |
6月22日 報道なし
6月29日 この日の放送ではトップニュースとして扱い、大勢のデモ参加者であふれ返った官邸前の様子を膳場キャスターと現場の蓮見記者の中継リポートなども交え、凡そ7分を使って詳しく伝えた。
この中では、大飯原発3号機の再稼動に反対するツィッターやフェイスブックなどでの、官邸前のデモ参加の呼びかけに呼応して、3月から13回のデモが行われたうち、29日は最大の20万人(主催者発表)の大集会になったと分析。このデモの特徴として、労組・政党などによる集会と異なり、ツィッターなどを通じて参加したごく普通の一般市民を取材、愛知県から来た人や夫婦で参加した人などの声も良く拾っていた。
また、会場には子連れの主婦やお年寄りのためのエリアが設けられたことや、会場からネット配信された映像を横浜の主婦グループが見て、「気持ちの上で一体感がある」と感想を述べたりする様子も紹介するなど、新しいデモ集会のスタイルが出来つつあることを伝えた。
こうしたデモのあり方について、高崎経済大学の国分功一郎准教授は「今はインターネットで自分の意見を自由に表現できる時代なのに、このような大勢の人が集まるということは特筆すべきこと」と感想を述べた。
また、TBSの播摩解説委員も「普通の人がこれほど集まるのは新しい動きで、欧米の反格差デモに通じる」と指摘し、メディアとしてもこうした流れに注目していることをうかがわせる伝え方だった。
7月6日 報道なし
7月13日 持ち時間わずか35秒という形だけの伝え方で、デモは大飯原発の運転停止を求めているのに、音声では“再稼動反対”の声だけしか収録しておらず、ちぐはぐな感じもした。
7月20日 ニュース23クロスでは、30代の若い評論家をコメンテーターに登場させる新しい試みを始めたということで、今回はオピニオン誌の編集などで活躍する荻上チキ氏が担当。率直なインタビューやコメントを通して、鳩山の異例な行動などについて格別評価もしないかわりに、極端に無視もしない冷静な目で論評。また、こうした行動が成り行き次第ではデモなどの行動にも一定の影響があるかも知れないと、目配りの効いた指摘をしたのは興味深かった。正味5分を使って鳩山氏の行動が何を意味するのかなどについて、デモ参加者の醒めた受け取り方や民主党内の反鳩山派の発現を紹介するなど、一歩引いた客観的な伝え方をしたのは妥当だという気がする。
8月10日 8月17日 報道なし
8月22日 この日は、反原発市民団体代表と野田総理の面会、2030年の原発比率をめぐる討論型世論調査の結果発表、大江健三郎氏らの脱原発基本法をめざす全国ネットワークの立ち上げ、など、いくつもの重要なトピックスが重なっており、これらをどのようにニュース番組にとりこみ、相互の関連性を重層的に構成できるか。一つの問題に関連するいくつかの出来事を、短い時間の中でいかに視聴者の問題理解のために構成できるのか、が、この日各局に試されていたのではないかと思った。
「2030年」という時点は、どんな意味を持っているのか。これも今まで気になっていたが、播摩解説委員は、「単なる、或る計画の一つの区切り」に過ぎないことを教えてくれた。播摩氏が、討論型世論調査で言う、三つの選択肢(0%、15%、20~25%)の問題点に触れて、「0%の終着点であることは分かるが、15%、20%の終着点は明らかではない。2030年の後、このままいくのか、そのあと0を目指すのか、選択肢としてこの3つは同列ではない。これで3択の質問は分かりにくい」と指摘しているのを見て納得。
8月24日 22日に続いて官邸前のデモに触れたが、時間もわずか1分で物足りない感じがした。しかし、汚染土の最終処分場の建設計画と結び付けて取り上げたのは評価できる。今後も官邸前デモの参加者が政治に何を感じ、何を要求しているのか、デモの中に入って細かく取材を続けてほしい。
テレビ東京「ニュースアンサー」 |
7月6日 7月13日 7月20日 8月3日 8月10日 8月17日 いずれも報道なし
8月22日 トップニュースで約6分間放送。放送時間(16:52~17:20)が官邸前デモの行動の開始前という事情があるにせよ、毎週金曜日のデモを報道していない「ニュースアンサー」としては、異例の扱い。
デモ主催団体と総理大臣との面会が実施された経緯、背景が報道の中心でそれなりに解りやすく伝えていた。また、面会が実施された背景には民主党の党内事情が大きいと伝えていたが、毎週金曜日の官邸前デモによる、脱原発を求める運動の盛り上がりが、事態を動かす力になったことも的確に捉えている。 官邸側、政権側の情報がメインで、市民団体側からの視点が少なく、どの様なメンバーが面会に出席したのか、日常的にどんな活動をしているか、官邸前で面会を見守った人々が面会に何を期待したのか、など、きめ細かな取材(インタビューを含めて)が欲しい。
大浜キャスターの「野田総理が述べる『基本方針は脱原発依存』という表現は解りづらい。これでは納得されない」という、最後のコメントは的を射ている。
8月24日 報道なし
フジテレビ「ニュースJAPAN」 |
6月22日 報道なし
6月29日 ニュースフラッシュのコーナーの最初の項目で30秒ほど伝えた。「参加者さらに増える 官邸前で反原発デモ」と字幕表示、「一万数千人参加」とコメント。参加者数は相変わらず主催者発表ではなく警視庁関係者の数字を使用しているのが報道スタンスを示しているように思える。
7月13日 「活動エリア限定も 『反原発の金曜日』」のタイトルで「ニュースフラッシュ」コーナーの1項目としてとりあげ30秒。ニュースとして取り上げはしたが、参加者が何を訴えようとしているかより、警視庁の警備体制を中心にした報道。市民視線ではなく、管理の立場からの上から目線報道に終始。
7月20日 「官邸前に“珍客” 鳩山元首相“拡声器”でデモ激励」の字幕表示で4分12秒。官邸前デモをニュース3項目目に取り上げているのは妥当と思われるが、真っ先に鳩山元首相にスポットを当てたのは、やや興味本位の感があり若干違和感。民主党内の冷ややかな反応を取り上げたところは、鳩山の行動に対する取材者の批判的スタンスが感じられる。大雨被災地訪問の野田に鳩山の行動を質した記者質問は、視聴者の気持ちを代弁して好感が持てた。
その後の不動産会社の社長・社員を取り上げたのは、市民の間へのデモの拡がりを感じさせる好リポート。
ナレーションも「毎週金曜日の恒例になっている官邸前の原発再稼働反対デモ」「回を重ねるごとに勢いを増す官邸前デモ」と肯定的にデモをとらえ、「怒りは活断層が懸念される中の大飯4号機再起動」とデモの人々の今の問題意識も的確に伝えている。警備体制に焦点を当てた先週の取り上げ方と比較すると報道姿勢の変化を感じさせる。
8月3日 報道なし。この日は、フラッシュニュースにも取り上げなかった。オスプレイ、7野党不信任案と比較してもはや目新しさがないとの判断か?
8月10日 オリンピック中継で休止。
8月17日 報道なし。毎週の定例行事になったためか、この日は官邸前デモには全く触れず。
メインの尖閣列島への香港活動家の上陸と強制送還に13分も費した。
それにしても、尖閣問題に13分も費やして、6万人(主催者発表)の人々が、継続して集まっている官邸前「脱原発」デモに全く触れない編集者の政治感覚は疑問。
8月22日 この日はトップに原発問題を取り上げ、10分かけて比較的丁寧に伝えているが、「野田首相 デモ代表と面会 討論後に増加・・「原発0%」最多数」のタイトルが示すように、話題の中心は討論型世論調査で、官邸前「脱原発」デモは実質1分半ほど。菅前首相の仲介で会談が設定され、市民団体と野田首相双方が主張を述べ合っただけで平行線のまま終わったことは正確に伝えられている。
しかし、そのすぐ後に、野田・岡本日商会頭との意見交換を並べて紹介している編集意図をどう評価すべきか。市民の側の強い「脱原発」要求と同じくらい経済界の「原発依存」要求の強いことをリアルに伝え、市民の側に注意を喚起する肯定的側面と、経済界の声があるので野田首相が再稼働判断をするのもやむを得ないと政権擁護を滲ませた否定的側面と双方を感じさせる。VTRの締めくくりに「さまざまな立場からの声に真摯に耳を傾けながら国としての方向性決めて行く」という野田インタビューを置いていることは、後者の否定的側面が編集意図と読み取れるがどうだろうか。
それよりも単純にバランスを取って、市民運動と経済界を並べたに過ぎないのか。いろいろ考えさせる構成ではある。
8月24日 この日の官邸前デモ報道はなし。22日の首相・市民団体代表の会談を市民がどう受けとめているか、編集者は関心がないのだろうか?竹島・尖閣問題に15分も割きながら、官邸前デモを全く取り上げないことに、「時間がない」の言い訳は通らないと思う。
おわりに
以上、各局の番組モニター内容を、6月下旬から8月24日までの期間に限って記載しました。
モニター担当者の感想、批判の声からは、官邸前抗議行動の報道に共通する問題点の指摘や主張が幾つか浮かび上がります。
第一に、近年ではかつてない規模の大きな行動と、そこに含まれる歴史的意義から言って、テレビで取り上げる時間量がまだまだ不充分だという主張です。この抗議行動は、原発の再稼動問題、福島の被災者救済の問題、将来のエネルギー問題、原発行政のあり方など、当面する日本の重大で多面的な問題を集中して提起しています。ジャーナリズムとしては、人々の主張に耳を傾け、そこに表現された現代日本の争点を深く掘り下げることが要請されていました。 しかし、ニュースの時間的制約を勘案したとしても、この期間の報道を全体的にみたとき、紹介はなお限定的、断片的だったと言わざるをえません。NHKは7月26日の「クローズアップ現代」でこのデモを独自に考察しましたが、民放でも、同様の時間をかけた特集を組むべきでした。
にもかかわらず、特に民放では、膨大な時間量のグルメ番組、温泉旅行番組、取るに足りない瑣末なテーマでのバラエティ番組などで、毎日の放送が埋め尽くされています。官邸前行動の報道姿勢を手がかりに、公共財としての電波を使う日本のテレビのあり方をあらためて問うこともまた必要ではないでしょうか。
第二は、官邸前行動の描き方です。これまであまり例のない市民の行動だっただけに、報道の中心は、このデモの新しい形態の考察や、行動に参加することの意義、といった側面に比重を置くものとなりました。これは重要な視点であり、とくに批判すべきことではありませんが、一方で、デモに参加した人びとが訴えていた主張そのものが、根拠をもつものとして充分には紹介されなかったきらいがありました。
原発の危険性、再稼動の危険性への不安、規制委員会の人事への抗議、そして何よりも命を守れ、という切実かつ重要な主張が、断片的な言葉だけで紹介されただけ、という印象が拭えません。これら市民の声について、もっと詳細、具体的に紹介される必要があったし、市民の主張の中味については、テレビ局が力をこめて独自に調査、検証すべき課題だと捉える必要があります。
私たちはテレビ局に、反原発の立場に立て、と言っているわけではありません。視聴者の知る権利に応え、原発政治に対する視聴者の判断に資するために、反原発の行動や主張のもつ意味を捉えて取材を拡充し、多様な情報を伝えることは欠かせない、と要求しているのです。
市民の反原発の行動は、官邸前だけでなく、いま全国各地に広がっています。当会としては、こうした市民の行動をテレビメディアがどのように報じるか、(あるいは報じないか)引き続きモニターし、考えてくことにしています。