語る会モニター報告


        テレビはフクシマをどう伝えたか
      2011 年4 月・各局ニュース番組を記録して


                           2011年8月放送を語る会


 2011 年3 月11日東日本を襲った空前の大震災。その地震と津波によって、東京電力福島第1原子力発 電所では、全電源喪失という、あってはならない事態が発生した。3月12日1号炉建屋水素爆発、14日 3 号炉建屋水素爆発、さらに15日には4号炉建屋で火災が発生、2号炉圧力抑制室損傷など、その度に大 量の放射性物質が空中に飛散した。そして3月下旬、恐れていたことが現実のものとなった。野菜や原乳 から基準値を超える放射性物質が検出され、出荷制限が実施されたのだ。事態はさらにキャベツやシイタ ケの摂取制限に発展し、4月に入ると福島県の水田面積の1/8に当たる1万ヘクタールがコメの作付けを 禁止された。さらに、放射線量の高い地域は、地域ごとの移転を迫られ、教育現場でも、校庭の土や通学 路の放射能による汚染など、深刻な問題を惹き起こしていった。
  しかし、事故当初から原発事故についての報道には疑問が付きまとっていた。放射線量に関して、政府、 原子力安全・保安院の発表には、常に「ただちに健康に被害を及ぼすものではない」「安全を期して念のた めの措置である」との注釈がつけられており、各メディアもそれに追随する情報を流し続けていたからだ。 その言葉を信じていいのか、なにか重要なことが隠されているのではないか。印象批評としてお互いが 口頭で話し合っていたことを、客観的に記録し、分析してみることが必要ではないか。「放送を語る会」の 中でそうした話し合いが行われたのは 3月末のことだった。そして、4月1か月間、NHKならびに民間 放送4局のニュース番組を対象に、各局の原発報道の放送内容を記録する活動を展開した。 4 月、原発事故は多方面へと拡大し、事態は一層深刻になっていた。すなわち、4月に入るや、高濃度 汚染水の海中流出が発見され、続いて緊急措置として低レベル放射能汚染水を海に放出するというショッ キングなニュースが伝わってきた。魚からも基準値を超える放射線量が検出された。さらに 12 日原子力 事故として最も深刻な状況にあるとして、深刻度(国際原子力事象評価尺度)が「レベル 7」に引き上げ られた。17日には東京電力から事故収束へ向けた「工程表」が発表される。下旬 計画的避難地域に指定 された福島県飯舘村の実情がクローズアップされてきた。
  私たちがモニターに取り組んだ4月は、報道各社がそうした問題をニュースでどう扱ったか比較検討で きる絶好の機会となった。

対象としたニュース番組
  N H K:「ニュース7」(毎日19:00~19:30)
      「ニュースウオッチ9」(月~金 21:00~22:00)
  日本テレビ:「ウェークアップ!ぷらす」(土 8:00~9:25)
       「news every」(月~木 第1部16:53~17:50 第2部17:50~19:00
                金 第1部17:00~17:50 第2部 17:50~19:00)
       「真相報道バンキシャ」(日 18:00~18:55)
        「シューイチ」(日 8:00~9:55)
  テレビ朝日:「報道ステーション」(月~金 21:54~23:10)
   TBS テレビ:「ニュース23クロス」(月~木 22:54~23:45 金 23:30~0:15)
   フジテレビ:「スーパーニュース」(月~金 16:53~19:00)
        「ニュースJAPAN」(月~水 23:30~23:55 木 23:45~0:10
                   金 23:58~0:23)

記録と集約
 1 人のモニター担当者が1つの局を受け持ち(NHKは2人)、各局のニュース番組の詳細な記録を作っ た。その記録をもとに、原発事故で検証すべき重要な項目を設定し、他社との比較が可能なように項目別 のレポートを作成した。

設定した項目
 《報道された内容に関して》
(1)「レベル7」への引き上げを各ニュース番組はどう報道したか
(2)収束へ向けての「工程表」はどう報道されたか
(3)原子炉の状態をどのように伝えたか
(4)放射能汚染の状況と農、漁民、住民の生活などの被害がどのように取り上げられていたか (5)原発の作業員の状況はどこまで伝えられたか。
(6)原発そのものの是非、エネルギー政策はどのように取り上げられたか

 《各局ニュース番組の報道姿勢》
(1)ゲストの選び方
(2)報道姿勢全体の特徴、問題点など
 
 以上の方法によって集約したものが以下の報告である(詳細は添付した「重要項目別各局ニュース番 組の概要」【以下「概要」と表記】を参照されたい)。
 なお、各局の放送内容に対する受け止め方や評価は、モニター担当者の判断に委ねた。また部分的に 欠落した日もあるなど、内容にばらつきがあることも否めない。このため評価は厳密に客観的であると は言いにくい面があるが、それでも局による差異や全体の傾向は示せたと思う。
  また、原発事故に関する報道は上記ニュース番組だけでなく、各局とも様々な特集番組を組んでいる ことも承知している。しかし、ニュース番組は日常的に視聴者に情報を提供し、与える影響も大きいと 考え、特集などは対象から外した。

2 分析結果
《報道された内容について》
(1)「レベル7」への引き上げを各ニュース番組はどう報道したか

 4 月12日、政府は原発事故の深刻度を「レベル7」に引き上げた。チェルノブイリ事故と並ぶ最も 深刻度が高い判定である。ここに至るまでの1か月間、国はレベル4から5へ修正したものの、それ 以上に深刻な事態ではないと頑なに主張を変えなかった。
  この日、各局のトップニュースになったことは言うまでもない。しかし、一様に但し書きがついて いた。即ち、「チェルノブイリ事故に比べ格段に規模は小さい」というものである。そう解説したのは 各局ともスタジオ出演している原子工学の専門家たちであった。
  その中で「チェルノブイリと違って放出が続いていることは注意が必要」と付け加えた専門家 (「NHKニュースウオッチ9」)、「海に放出された汚染水がカウントされていない。レベル変更の説明 が不十分」と批判したコメンテーター(フジテレビ 「スーパーニュース」)はいたが、この時点で、 「レベル 7」が国民生活にどのような意味を持つものなのか、視聴者は判断しにくかったのではない だろうか。

(2)収束へ向けての「工程表」はどのように報道されたか
 4 月17日、東京電力は原発事故収束へ向けての作業計画、いわゆる「工程表」を発表した。計画は、 最初の3か月程度で格納容器を水で満たし、汚染水の処理などを実現するステップ1と、安定的な「冷 温停止」に持ち込むステップ2(3~6か月程度)からなっている。
  17 日は日曜日だった。したがって、どの局もニュース時間は短い。本格的に報道されたのは、翌 18 日だった。関心は作業が工程表どおり進むかどうかにあった。
  その中で、最も楽観的な態度をとったのがNHKのニュースだった。記者が「余震もあり、計画通 り進むかどうか不明」(「ニュース 7」)と発言したものの、「ニュースウオッチ9」ではどこが難しい のか,実現可能なのかどうかが曖昧なままにされた。
  対照的に、民放各局のニュースは実現の可能性にそろって疑問符を投げかけた(「概要」参照)。し かし、たとえば、「報道ステーション」の場合、「はたして計画通りに進めることが可能なのか」との ナレーションを受けて、スタジオでは「東京電力は事故収束への目安を示した。あとは住民が何時戻 れるか、その筋道を政府が示す必要がある」と工程表どおりに作業が進行するかの如き受け方をして いる。この番組に限らず、概してどの局もスタジオでのキャスターやコメンテーターの態度は楽観的 だった。
  17 日、東京電力が「工程表」を発表したのと間髪をいれず、海江田経済産業大臣は「6~9 か月で 住民が帰宅できるかどうか判断する」旨の談話を発表している。部分的には「工程表」実現に疑問を 投げかけながらも、大筋では政府の見解に沿って「住民への安心材料」を提供して見せたのが、「工程 表」に対する民放各社のニュースのスタンスだったのではないか。
  なお、日本テレビは、メインのニュース番組「news every」で18日「工程表」を一切扱ってい ない。

(3)原子炉の状態をどのように伝えていたか
 原子炉本体の問題以上に4月はじめ話題になったのが汚染水の海への放出だった。
  4 月4日、東京電力は低レベルの汚染水を1万トン余り海に放出すると発表した。建屋内にたまり続 ける汚染水の削減のための緊急措置と釈明。この問題を報じた各局は、「できることならやらない方が いいがやむをえない処置」と東電の方針を容認、「大洋に出れば薄まる」「大量の海水によって希釈さ れる」など専門家の意見も紹介している(「ニュース23クロス」、「報道ステーション」、「スーパーニ ュース」)。
  7 日、原子力安全・保安院「メルトダウンを想定させるデータあり」と述べる(「ニュース23クロ ス」)。巷間メルトダウンの可能性は早い段階からささやかれていただけに、国の機関のこの発言は重要 であったが、取り上げたのはTBSのニュースのみであった。
  原子炉の状況については各局折に触れて伝えているが、放射性物質が環境や住民の健康に及ぼす影 響については、東京電力、安全・保安院などの発表を詳細に伝えるのみで、独自取材はほとんどなかっ た。視聴者の不安をあおり、パニックに陥ることを恐れたメディア自身の自制的措置だったのではない か。しかし、フジテレビのニュースの場合、「レベル7」に引き上げられる前後から、原子炉の損傷状態 や危機について隠さず伝えようとする論調の微妙な変化が現れ始めた(「スーパーニュース」「ニュース JAPAN」)。

(4)放射能汚染の状況と農・漁民、住民の生活などの被害はどう伝えられたか
 3月下旬、相次いで農産物の出荷規制が発表されたのに続き、4月5日には茨城県沖で獲れたコウ ナゴから基準値を超える放射能が検出され、原発事故の問題はますます深刻さを増していった。この 問題については、各局とも事実関係を報道していたが、フジテレビではそれに加えて、専門家の見解 を「超えたからといってすぐ健康に被害が出るわけではない」(5 日「スーパーニュース」)、「既に出 荷されているものは食べても全く問題ない」(4日「ニュースJAPAN」)と報道。
  「ただちに健康への被害はない」、この言葉は政府見解としても再三述べられてきたし、NHKのニュ ースも基本的には政府の見解に沿うものだった。「ニュースウオッチ9」では、毎回放送される各地の 「最大放射線量」を紹介しつつ「いずれもただちに健康に影響が出るレベルではない」と断言してい た。さらに、放射線量と健康についてNHKは次のような専門家のコメントを伝えている。「100ミリ シーベルトまでなら問題ない。洗えば落ちる」(長崎大学大学院教授・山下俊一氏 1日「ニュースウ オッチ9」)。「もともと日本人の半分はガンになるので、放射能との因果関係はわかりにくい。国際放 射線防護委員会(ICRP)は、成人100ミリシーベルト、子ども30ミリシーベルトで、ガン発症率0.5% 増としている」(放射線医学総合研究所・内田義也博士 2 日「ニュースウオッチ 9」)。「放射能だけ でなく色々な危険の中で我々は生きている。放射能も危険ではあるが、その中で生きることも考えね ば」(東京女子大学名誉教授・廣瀬弘忠氏 7日「ニュースウオッチ9」)。
  以上のように、4月のテレビ報道は、NHKに限らず「健康に影響ない」「現在の放射線量では問題 ない」という政府と専門家の見解をストレートに放送していた。しかし、「ただちに…影響するもので はない」という表現は、一時的に被ばくしたケースについて言われることで、低線量ではあっても長 時間にわたって放射能にさらされた場合は自ずと異なってくるであろう。そのためには、低線量によ る被ばく、内部被ばくの危険性を警告する専門家の見解を積極的に紹介する必要があった。しかし、 そうした専門家の起用も政府発表に疑問を呈する報道もなかった。
  また、事故発生直後現地に入ったジャーナリストによって、異常に放射線量が高い地域があること が明らかにされながら、ニュース番組ではほとんど取り上げられていない。たとえば、政府が情報を 十分に公開しなかったため、高濃度に汚染された地域(ホットスポット)に取り残された住民がいた ことが、NHKの「ETV特集」で明らかにされたが、ニュース番組ではこうした独自の調査によって、 事の真相を明らかにしようとする姿勢に欠けていた。
  一方、農・漁民、住民らの被害については、各局とも最も手厚く報道している。とりわけNHKで は避難所などに数多くの拠点を設けることで、現場からのリアルな情報を届けることを心がけていた。 ただ、被害状況の報道は確かにきめ細かかったが、現場の声を政府や関係機関にぶつけて、「これから どうするのか」という追及はなされていない。
  この点、民放は脱原発の声を紹介(フジテレビ「スーパーニュース」)、あるいは代替エネルギーと しての風力発電の可能性に言及し(日本テレビ「ウェークアップ!ぷらす」)、時には原発問題に一歩 踏み込んだ報道が見られたことは注目される。
  また、半径20キロ圏内の様子を伝えたのも民放だった。即ち「20キロ圏内29人、30キロ圏内329 人の暮らしぶりVTRレポート」(1日 フジテレビ「スーパーニュース」)、「フリージャーナリスト20 キロ圏内で放射線量を測定」のレポートと併せ、専門家の「7か月被ばくすると発ガンリスクが上昇」 との見解を報道した日本テレビ「真相報道バンキシャ」(24 日放送)など、民放の健闘が目立った。 また、「真相報道バンキシャ」では原発を有する全国23の自治体の長にアンケートを実施し、今後原 発をどうすべきかを質問している(24 日放送)。こうした意向調査は報道各社で最も早かったのでは ないか。

(5)原発の現場作業員の状況はどこまで伝えられたか
 この項目について4月の早い時点で報道したのはNHKニュースだった。しかし、独自のルート、 人脈を使って詳細な報告を行ったのは民放各社だった(「概要」参照)。
  中でもTBSテレビ「ニュース23クロス」は19日から4夜連続で、劣悪な環境の中で作業に携わ る現場の作業員の実態を特集した。また、フジテレビでは、現場作業員の治療に当たった医師を起用 することで現場の様子を伝えようとしている。現地調査に入った原子力委員会専門委員が自ら撮影し た映像をもとに報告したのも「スーパーニュース」だった。
  現場の放射線量が高く近づけないという事情もあるが、現場が劣悪であるほど当事者はその実態を 知られまいと報道規制を強化する。その網をかいくぐっていかに現場に接近するか。それはジャーナ リズムの使命でもあろう。民放の場合、その役割をフリーのジャーナリストや現場に入った医師に託 している。この間各局の記者はどう行動していたのか、気になるところである。

(6)原発の是非、エネルギー政策について
 
この項目に関して、NHKは「ニュース7」「ニュースウオッチ9」ともに18日の世論調査の結果紹 介を除いて、全くみるべきものがなかった。
  これに対し、民放の場合、全体として反原発の空気を感じさせるのがテレビ朝日の「報道ステーシ ョン」、他の局は、複数のニュース番組を使い分けて一方で推進派的主張を、もう一方で原発の是非を 問いかける企画を報道するといったケ―スが見受けられた。すなわち、日本テレビの場合、「news every」で「原発との共存が崩れると、生活基盤さえ失われる」と解説者が発言する一方で、「ウェー クアップ!ぷらす」では「エネルギーの将来について」企画された討論会で、電力会社と国、政党と の癒着構造や、新しいエネルギーの利用にまで話が及んでいる。
 また、同一番組内でも、日によって原発の是非を考えさせる好企画を放送した局は複数ある。たと 5 えば、TBSテレビでは、志賀原発訴訟で差し止め判決を出した、金沢地裁の井戸元裁判長にインタビ ュー。多重防護が有効に機能しないことによる事故の可能性について、5 年前の 2006 年、今回の事 態を正確に予言していたことを紹介した。
  また、フジテレビの「スーパーニュース」では、原子力委員会の青山専門委員の主張する「14基新 規増設は無理、原発は30~50年で滅びる技術であるから今すぐとは言わないが廃止へ向けてソフトラ ンディングを」との発言を紹介した。青山氏はさらに、「安全神話に寄りかかり今日の事態を想定して いなかったことは、自分にとっても責任がある」と率直に述べている。
  一方、NHKが世論調査を実施し、発表したのは4月18日のことだった。結果は、原子力発電を増 やすべき7%、現状維持42%、減らすべき32%、すべて廃止12%と報告された。フジテレビもFNN世 論調査を実施している。しかし、この二つの世論調査には欠陥があった。NHKの場合、質問項目が「国 内の電力全体の3割を供給してきた原子力発電の今後について」となって「3割供給」というバイアス がかかっている。回答に影響を与えかねない質問の設定である。一方 FNN 世論調査では、政権の行方 などを質問しているが、この時期、原発の是非やエネルギー政策に関する質問事項がない。意図的に外 したと勘ぐりたくなる調査である。
  このほかにも、全国の他の原発の状況や、世界的にネックになっている使用済核燃料の処理問題など、 原発の是非に関わる根本的な情報が極めて乏しかったのが4月のニュース番組の現実であった。

《各ニュース番組の報道姿勢》
 (1)ゲストの選び方 4 月、どの局にも共通して言えることは、原子力行政に批判的な学者や研究者は一人も登場してい ないことである。すなわち、原子力資料情報室・伴英幸、京都大学原子炉実験所・小出裕章、立命館 大学名誉教授・安斎育郎、神戸大学名誉教授・石橋克彦といった研究者、内橋克人、廣瀬隆、広河隆 一ら評論家やジャーナリストである。
  これと対象的に、レギュラー出演していたゲストを見ると、NHKの場合
 東京大学大学院・関村直人教授…直近まで経済産業省総合資源エネルギー調査会・原子力安全・保安 部会・原子炉安全基盤小委員会委員
 東京大学大学院・岡村孝司教授…同調査会・原子力安全・保安部会原子炉安全小委員会保守管理検討 会主査
 大阪大学山口彰教授…同原子力安全・保安部会原子炉安全委員会委員 であって(「週刊金曜日」4/29号による)、原子炉に関する解説を担当していたのは、すべて原子力行 政に協力してきた研究者だった。
  民放の場合、直接行政に携わった人たちではないが、TBSの専属のような形で登場した寺井隆幸東 京大学大学院教授や元原子力委員会会長代理の斉藤伸三氏らは、再三出演して東電の方針や立場を容 認するような発言をしていた。
  「ニュース 23 クロス」では、津波や地震のメカニズムに関する専門家を招いてはいたが、 事故 に関する根本的な考え方や処理方法については、もっぱら常連のゲストにしか発言させなかったのは、 メディアの姿勢が問われるところである。
  フジテレビは「スーパーニュース」「ニュースJAPAN」とも東京工業大学原子炉工学研究所助教・ 6 澤田哲生氏を起用。東電擁護の発言が目に付く反面、詳しくわかりやすい解説と評価する視聴者の声 もあった。
  このほかテレビ朝日「報道ステーション」では、朝日新聞論説委員・三浦俊章、朝日新聞編集委員・ 五十嵐浩司の両氏が週2日ずつ登板し、基本的にはスタジオゲストを呼んでいない。ただし、金曜日 のみゲストコメンテーターとして著名人(津波や原発の専門家ではない)をスタジオに招いている。

(2)報道姿勢全般での特徴、問題点
 今回調査、分析したニュース番組に共通の特徴として、被災地報道の充実と原発批判の声の排除と いう二面性があることが指摘できる。
 
① 被災者の状況について多様で幅広い取材が行われている。 震災被害も原発災害でも、被災者、避難者の声と、直面する状況が丹念に伝えられている。とく に原発災害で避難を余儀なくされた人びとの怒り、悲しみの声が、かなり切実な内容を伴って取り 上げられており、現地で取材するスタッフの奮闘が想像できる。
  しかし、これらの声が原発そのものの批判として、又原発に対する「要求」というレベルでは位置 づけられておらず、「悲劇の描写」にとどまっているきらいがある。
 
② 一方、原発事故に関しては、原発そのものを問う立場の意見なり世論が、明確に排除されている。 事故後、脱原発という世論、流れが大きくなっているにもかかわらず、そのような立場の識者、市 民の声が、放送にはまったく反映されていない。

③ 伝え方での幾つかの問題 ~基本的な特徴との関連で~
a)多角的に事態をみるという視点の欠如 ~別の見方が示されない~ 原子炉の状況や放射線量について、ほとんど単独の解説者の解説が行われている。
b)原発・原子力行政を歴史的にみる視点の欠如 過去の原発に関する政治を振り返って批判する視点は見られない。地震学者の石橋克彦氏の専門家 としての警告、日本共産党の数度にわたる国会質疑による警告、また専門機関の調査などが無視さ れ続けた経過の検証はまったく見られない(新聞メディアでは存在)。
c)原発そのものを問う視点の欠如 原発そのものを問う市民や識者の見解、運動がほとんど排除されている。原発の本質にかかわる使 用済核燃料の処理の困難さ、これまでも日本各地の原発で海が汚染されてきた状況、といった調査 報道が不在である。
d)行政に対する被災者の要求を探しあて伝える姿勢が弱い 東電対避難先の被災者、東電対農漁民、菅首相対被災者、の厳しいやりとりは伝えられているが、 そこからその声をどう受け止めるか、という一歩先まで追及する取材が欲しい。これらのシーンを 紹介した、というところで止まっている。
  放射線量についても、どれだけ危険なのか、累積した場合はどうか。現に今福島第一原発から放射 性物質がどれだけ放出されているか、といった重要な点が追及されず、ニュースとして「客観的な らいい」という姿勢が感じられる。全体にもう一歩進むべきニュースが多い。

④ 原発とその周辺の取材の自主規制の問題
  避難区域の 20 キロ圏内にも少数ながら住民が居り、原発では多くの作業員が作業に当たってい る。4 月の各局ニュース番組では、原発がどうなっているか、周辺地域の汚染がどの程度のものか、 などの自主取材がほとんど行われていない。
  NHK は 3月、内部文書で、「原発周辺での取材は政府の指示に従うこと」としているが、民放各 社も同様の規制をしていた可能性がある。取材者が不用意な被ばくを避ける配慮は必要だが、この重 大な事故の現場と周辺の取材が、横並びの「自主規制」があるかのように控えられているのは、ジャ ーナリズムのあり方として問題がないか検証すべきである。

以上の特徴に加えて、番組個々について付け加えるならば
NHK「ニュース7」
  ニュース7はNHKのメインニュースであり、その日のニュースをまとめる存在でもある。 しかし、作業員の下請の実態など朝は時間をかけてリポートしているにもかかわらず、「ニュース7」 には入らないことがしばしばあった。反原発の研究者もラジオには出演してもテレビでは起用しない。 視聴率の高い時間帯のテレビでは問題の核心を覆い隠そうとする、そうした姿勢の表れではないか。
NHK「ニュースウオッチ9」
  前述の②に関して、反原発、脱原発の立場からの発言を排除していることは異常ですらある。ニュ ースとして、この時期、事故の収束に関心を集中させざるを得ない事情はあるにせよ、「意見が対立し ている問題については、出来るだけ多くの角度から論点を明らかにすること」(放送法第3条の2「番 組編成準則」)という規定に違反する状態とさえいえる。
  ここに、これまでのNHK報道局の原子力政策に対する姿勢が示されているのではないか。視聴者 としては、NHKのあり方に関わる問題として、厳しい批判の声を挙げるべきであろう。
 また、被災者の報道に関して、我慢し、耐える面が強調され、加害者の姿に言及しない報道が見ら れる。原乳を捨てざるを得ない酪農一家が困難に直面したニュースで、「一家は家族の絆でこの苦難を 乗り越えようとしています」とまとめたのは典型例だ。(4月11日)

日本テレビ
 一つの局の複数の報道番組を比較することで番組ごとの棲み分けをしていることが見て取れる。
 その典型が、4月の場合エネルギー問題だった。「news every」では解説主幹が「脱原発で化石燃料 が復活することで地球温暖化が加速する」と懸念を表明し、原発推進の態度をそこはかとなく示して いる。
 一方、「真相報道バンキシャ」では代替エネルギーとしての風力発電の可能性に言及、わが国で原発 40 基分の可能性があることまで指摘していた。4月30日「ウェークアップ!ぷらす」が取り上げた のは「エネルギーの未来像」だった。ここでは原発推進、反原発、中間的な立場それぞれ複数の人物 が登場し、原発の是非、未来のエネルギー問題まで多岐にわたって、長時間の討論が繰り広げられて いた。
 この局の場合、「バンキシャ」は特にスクープ性の濃い話題を提供しようとしているようだ。他社に 先駆けて、現場の作業員へのインタビューを敢行したり、フリージャーナリストを 20 キロ圏内へ送 り込んだりしている。

  テレビ朝日「報道ステーション」
 特徴としては、基本的にスタジオにゲストを招かないことか。また、ほとんどがVTRで構成され、 スタジオとしてのコメントにはそれほど強さを感じなかった。それが少し物足りなさを感じさせる。
  VTR の作り方は意図的なものは感じず、総じてバランスよく伝えていたと思う。視聴者としては、 与えられた情報をどのように受け止め、咀嚼していくかが委ねられているような演出の仕方である。 これは演出方法として一つのあり方である。
  ただし、その場合は判断材料として、出来るだけ多くの情報が提供される必要があろう。時に、専 門家からの意見を聞きたいと感じたのもその表れの一つで、そのためには必要に応じてスタジオにゲ ストを招くべきであろう(これまでも皆無ではなかったが)。

TBS テレビ「ニュース23クロス」
① この番組全体から見れば、4月中毎回30分前後の時間をこの問題に振り向け、局挙げての体制を 組んだことは評価できる。
② 松原、膳場両キャスターとも、度々現地を訪れて熱のこもったレポートをするなど、大震災・原 発事故災害の報道に積極的に取り組む姿勢がうかがわれた。
③ 特に避難区域、計画的避難区域などでは、避難を強いられる人々の不安や経済的困窮の実態など を弱者の視点から問題点を指摘し、行政や東京電力の対応の遅れなどを追求する態度も見られた。
④ その反面、第1原発の災害の原因究明や、災害の収束に向けての国や東京電力の責任追及に関し ては、記者会見でのコメントやスタジオのゲストの見解をそのまま伝えることが多く、深く掘り下 げて究明する努力が足りず、もどかしい感じがあった。 この時期、どちらかといえば日々の出来事を伝えることに追われていたというべきか。
⑤ その一方で、4月6日の「密着アメリカ艦隊‘トモダチ作戦’支える兵士たちの思い」など、形 ばかりの米軍の支援活動を3回も紹介するなど、過剰報道もあったのは問題である。

フジテレビ 「スーパーニュース」
 「ニュースJAPAN」とも同じような制作スタンスを持ち、取り上げられる話 題も共通したものが多い。
  全般に、ナレーション、解説、ゲストコメントでは、事故の個々の局面での対応、情報公開の姿勢 などについて、時に政府・東京電力に厳しいコメントも展開するが、脱原発、エネルギー政策の見直 しなど根本的な問題には殆ど触れていない。報道をきっかけに起こるパニックを抑制し、原発依存・ 推進路線を維持しようとの意図が透けて見える。
  こうした、事故を小さく見せ、原発依存・推進を報道の基調に据えようとする背景に、メディアと 大スポンサー東電との癒着が疑われる。すなわち、フジテレビ・ニッポン放送を傘下におさめ、産経 新聞も実質的に支配するメディア企業複合体「フジ・メディア・ホールディングス」の監査役には、 南直哉元東京電力社長が2006年以来座りつづけている。南氏は2002年原発事故隠しの責任を取って 辞任した経歴を持つ(「週刊金曜日」5/27号による)。

伝え方での幾つかの問題点
① 復旧作業の報道で、投入されたロボット、ポンプ車、放水車、防護服など機器の性能や使用法に 異常なまでに詳細な解説が施されていた。国民の関心とかけ離れたマニアックな報道である。
② 自衛隊、米軍の救援活動も他社に比べ、非常に手厚い報道が行われている。自社の判断によるも のか、当局のPR作戦への便乗か、いずれにせよ度をわきまえた報道が必要であろう。 それは、天皇の被災地訪問についても言えることだった。
③ 木村太郎コメンテーターのスタンス、取材現場、視聴者の気持ちと乖離している場合が多い。
(例) ・番組の中で、菅首相に対し、民主党のマニフェストを放棄し増税せよと呼びかける。
   ・原発の賠償を巡って電力料金が値上げされるのでは、との問いかけに「東電は当然責任がある が、誰かが払わねばならない」と東電に甘い姿勢。

終わりに
 この記録と分析をまとめている最中、原発事故は発生から 5 ヶ月を迎えた。「工程表」上の第1ス テップは一応当初の目的を達成したと発表されている。しかし、浄化装置は安定して作動しているわ けではなく、事故は一向に収まる気配を見せていない。原発そのものもさることながら、ホットスポ ットは全国に広がり、福島県や宮城県の肉牛からは高濃度のセシウムが検出され、出荷が停止されて いる。栃木県で生産された腐葉土からも高濃度のセシウムが検出された。原発が一旦暴走を始めると 危険は際限なく広まっていく恐ろしさを我々は目の当たりにしている。しかも、その危険性が一体何 時まで続くのか誰にもわからない。
  そうしたなか、国は「原発安全」を宣言し、九州電力の玄海原子力発電所が再開される寸前にまで 手続きが進行していた。この件に関しては、菅首相の突然の「ストレステスト」発言がとび出し、九 州電力の「やらせメール」事件が暴露され、再開は中断した形になっている。しかし、経済産業省や 電力会社は再開の意向を変えてはいない。
  この間ニュースでの原発及び原発事故の伝え方は変ったのだろうか。基本的には相変わらず政府発 表の原子力政策に寄り添っているのではないか。たとえば、7月末、YouTubeに掲載された児玉龍彦 氏の衆議院厚生労働委員会での参考人陳述を伝えたテレビはなかったのではないか。東京大学アイソ トープ総合センターの所長を務める児玉氏は、内科医の立場から子どもの被ばくを大変憂慮している。 しかし、国は有効な措置を何一つ講じていない、と氏は訴えたのだ。氏の計算によれば、今回の事故 で飛散した放射性物質の量はウラン換算で、広島型原爆の 20 個分だという。だが、放射線量を計測 する手立てを国がおこたっているばかりか、放射能の危険性が充分認識されていないと訴える。 こうした極めて重要な情報をテレビは報じていない。児玉氏の発言はほとんど一般には知られるこ となく時が過ぎていっている。そして、最も検証が必要な「原発事故の原因と責任」については相変 わらず曖昧なまま事は進んでいるのではないか。
  ひるがえって、私たちが調査の対象とした4月、事故の責任を追及する何らかの報道は存在したの だろうか。結論から言えば、ほとんどゼロであった。が、その中で僅かではあるが、責任問題に触れ たゲストの発言もあった。
 
フジテレビ「ニュースJAPAN」(4/27)「スーパーニュース」(4/28)
  原子力委員会専門委員・青山繁晴氏「安全神話に胡坐をかいていて、このような事態を想像していな かった。だから僕にも重大な責任がある。ただ、原子炉が自動停止しても、冷却できなければ駄目な ので、そこを何とかしろと12年まえから主張し続けてきた」と発言。
NHK「ニュースウオッチ9」(4/8)
 大阪大学教授・山口彰氏「(全電源喪失を想定できなかったという)甘かったところは反省し、今後ど うするか考える必要がある。安全指針は、非常用電源が壊れても短時間で回復するという考え方だっ た。外部電源も複数あるので、どれかが数時間で復旧するという前提で考えていた」と反省の弁。

NHK「ニュースウオッチ9」(4/11)
こうした中で、「ニュースウオッチ9」に出演した作家・柳田邦男氏の発言は、事故の初期からあっ た「想定外」という発想、あるいは思想を具体的に批判し、事故の核心に迫った珠玉の言葉として特 筆しておく必要があろう。
「(今回の事故は)人智を超えた災害ではなかった。平安時代の記録がある。通産省の審議会で問題 提起されている。行政と東電、工学の専門家はそこまで考えたらコストがかかって物が作れない、ど こかで割り切って線を引こうと、マグニチュードは8、津波は5メートルにしようと決めた。科学的 に見えて、想定の線を引いた途端に科学が放棄される。それ以上のことは起こらないことにしようと いう、全く主観的な判断力が働く」。 原発が地震や津波に弱いという指摘は、1990年代から再三繰り返されてきた。しかし、国も東京電 力も警告を無視し続けてきた。柳田氏の言う「科学が放棄された基準」がまかり通り、「安全神話」が 創りあげられ、その言葉の上に安住してきた。それは経済界の要請でもあった。そして、官界、財界、 電力会社、それに学会とマスコミまでもが加わって強力な「原子力村」を形成し、原子力発電を推し 進めてきた。
 今回の原発事故はそうした悪きしがらみを絶って、原発報道において、報道機関がジャーナリズム として自律できる絶好の機会なのではないか。そのためにも歴史に学び、今回の事故の原因と責任に ついて、納得のいく検証をする必要があるのではないか。
  5月以降NHKをはじめ民放各局で原発事故に関する優れた特集番組が紹介されてきた。放射能汚 染の実態、欠陥に気づきながらも改修に踏み切らなかった東電の怠慢、日本に原子力発電が導入され た経緯など、それまで日常のニュースでは伝えられなかった原発事故と原発そのものの実態が次第に 明らかにされてきている。
  日常のニュースの中でもこうした問題が積極的に取り上げられることを切望する。原子力発電に関 しては、使用済核燃料の処理、廃炉の問題など課題は山積している。再生可能エネルギーについても 積極的に議論をすすめていく必要がある。報道各社に課せられた責任は重い。しかし、その職責を全 うした先には新しい地平が開けるはずである。それを示すことこそジャーナリズムが果たすべき役割 であろう.

                参考資料

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