語る会モニター報告


       2010 年参院選・テレビ報道を検証する
          ~モニター報告と提言~


                           2010年10月放送を語る会


1.モニターのねらい
 選挙報道に求められているのは、有権者の政治選択に資する公平かつ正確で多様な情報 提供である。しかし、これまでの選挙報道、特にテレビによる報道に対して私たちはさま ざまな疑問を抱いてきた。例えば、国会に占める議席数に対応させたと推測できる各政党 への時間配分は果たして政治的に公平といえるか、といった疑問である。時間配分の差は 大政党に有利に働き、少数政党は軽視され結果的に政治的力関係の現状を固定することに つながっていないだろうか。
  勿論「政治的公平」の具体的内容をめぐっては意見の分かれるところであるが、少なく とも公示日から投票日までの期間はすべての政党の主張を可能な限り平等に伝えることが 求められるのではないか。また政治的争点の報道では有権者の関心と報道の視点がずれて いないか、意図的な話題設定が結果的に争点隠しを招いていないか、有権者の理解に役立 つ適切な内容になっているかなど、選挙報道では検証すべき問題が少なくない。
 こうした問題意識を出発点に、放送を語る会では2010年7月の参議院選挙のTV報道を モニターし、有権者の知る権利に奉仕できているかを検証した。
 モニターを行なうにあたって重視した視点は次のようなものである。
 1)各政党の政策や主張が公平に伝えられているか
 2)政治的争点がどのように報道されているか
 3)キャスター・コメンテーターの論評、報道姿勢や編集方針に問題はないか

2.対象番組・モニター方法
 とりあげたのは、公示日(6/24)から投票日(7/11)までの18日間にNHK・在京民放 キー局で放送されたニュース、政治討論、選挙関連番組、開票速報など 112 本。放送を語 る会会員が手分けして録画し、その内容を整理集計した。民生用機器で録画し時間計測な ど各自手作業で集計したため文中表示する時間に若干の誤差がある。
 モニターした番組は以下のとおりである。(資料1「2010参院選報道モニター番組リスト」 参照)
  NHK― 「ニュース7」「ニュースウォッチ9」「参院選特集」「開票速報」
  NTV― 「news every」「NEWS ZERO」「ウェークアップ!ぷらす」
  TBS― 「NEWS23X(クロス)」、
  フジテレビ―「スーパーニュース」「ニュースJAPAN」「新報道2001」
        「踊る大選挙戦(開票速報)」
  テレビ朝日―「報道ステーション」 1

3.各党の取り上げ方は政治的公平が保たれていたか
 ニュース報道番組の各党時間配分
 NHK・民放各局とも、各党の紹介順は改選前の議席の多い方から、時間配分は改選前 の議席数を勘案する、などを基準にしていると思われる。(資料2「各番組党派別放送時間」 参照)  例えば、6/24公示日の「ニュース7」(NHK)における民主(18分50秒)、自民(13 分40秒)、公明(6分50秒)、共産(5分35秒)、社民(4分35秒)、国民新党(4分40 秒)、みんなの党(4分25秒)、たちあがれ日本(2分17秒)、新党改革(2分)が典型的 数字。

 「ニュースウォッチ9」7月5,6,7日の「党首を追って」3回シリーズでも、民主(7分 45 秒)、国民新党(3分15秒)、自民(6分29秒)、公明(5分10秒)、共産(4分56秒)、 社民(3分14秒)、みんなの党(3分15秒)、たちあがれ日本(2分1秒)、新党改革(2 分)となっている。ここでは紹介順が与党から野党へと配慮が加えられている。
  二大政党民主・自民両党と時間配分の最も少ない新党改革の放送時間を比べてみる。
  「ニュース7」 民主:自民:新党改革≒8:6:1
  「ニュースウォッチ9」 民主:自民:新党改革≒3.4:2.8:1
  「news every」(日本テレビ)は公示日、党首演説・比例候補などを取り上げ民主(3分 50 秒)、自民(1分57秒)、公明(1分7秒)、共産(58秒)、社民(44秒)、国民新党(1 分13秒)、みんなの党(1分35秒)、たちあがれ日本(35秒)、新党改革(37秒)。党首演 説のコーナーでは民主のみ菅代表・小沢前幹事長(当時)二人を紹介、ここでは国民新党、 みんなの党の紹介時間が議席数に比べて長い。
 各党割り当て時間のおおよその比は、民主:自民:新党改革≒6:3:1。 「報道ステーション」(テレビ朝日)7月1~8日「党首インタビュー」では、民主(27 分)、自民(24分30秒)、公明(10分)、共産(10分)、社民(12分)、国民新党(17分)、 みんなの党(15分)、たちあがれ日本(3分30秒)、新党改革(3分30秒)。
  各党への時間配分をみると、民主:自民:新党改革≒8:7:1。
  改選前の議席数を勘案した各党への時間配分という基準は一見公平のようだが、数字を 具体的に検討すると、実際は政府与党あるいは二大政党の主張や政策ばかりが大きく扱わ れ、少数政党がないがしろにされていることが明瞭になる。結果としてメディアが民主党 と自民党の二党に肩入れし、批判の声もある二大政党制を推進することにならないだろう か。

 政治討論番組の各党時間配分
 各政党代表による討論番組についても発言回数・発言時間を比較した。(資料3「討論番 組党派別発言時間・回数」参照)
  NHK「参院代表に問う」では、与党・民主と少数政党・たちあがれ日本を比較すると 発言時間がおよそ3:1、発言回数もおよそ4:1になっている。
 フジテレビ「新報道2001 9党初テレビ党首討論」で民主とたちあがれ日本を比較する 2 と、発言時間がおよそ12:1、発言回数は10:1になる。
 一見して判るように、与党民主の発言時間、発言回数が多く、特に「新報道2001」は飛 び抜けている。「news every わが党の主張」では討論の席でたちあがれ日本・平沼代表が 発言時間が短いことに抗議する場面もあった。
  討論番組特に生放送の場合、予定外の展開、発言者のキャラクターの影響など司会者の コントロールが効きにくい事情があること、質問が与党に集中しやすいことなども配慮す れば、発言回数や時間配分を機械的に均等にすることを求めるのは無理があろう。しかし、 最初から与党民主VS各党の一問一答形式のみで展開すればこのような結果にならざるを 得ない。少なくとも公示日から投票日までの選挙報道における討論番組としては、少数政 党も含めたさまざまな組み合わせの 2 党間討論なども併せて織り込むなど各政党の公平な 扱いについて一層の工夫が必要ではないか。

  以上、明らかなように選挙報道における各政党の取り扱われ方をみると、中に批判的ニ ュースが含まれていることを割り引いても民主・自民の比重が圧倒的に多くあまりにも政 治的公平を欠いていることを指摘せざるをえない。ここで各政党を取り上げる時間を「議 席数」を勘案して配分する基準があるとすれば、そのことに根本的疑義を提起したい。
  なぜならば選挙報道が、有権者の自覚的政治選択にあたって重要な情報・資料となる特 別の役割を担っているとともに、政治的影響も極めて大きいからである。メディアが政党 の扱い方に長短・軽重の差をつけて報道することは、メディアの価値判断を先行させ有権 者に予断や先入観を持ち込み、自由な政治選択を阻害する弊害を指摘したい。取捨選択は メディアが先取りするのでなく有権者一人ひとりに委ねるべきであると考える。

4.政治的争点はどう伝えられたか
 「消費税」に絞り他の争点は後景に
  ほとんどの番組が「最大の争点」を「消費税」に絞った。モニターした選挙報道で「消 費税」を取り上げた回数は、
  「ニュース7」=4/5(5回のうち4回)、「ニュースウォッチ9」=6/8(以上NHK)、
  「news every」=7/15、 「NEWS ZERO」=5/10(以上日本テレビ)、
  「スーパーニュース」=9/13、 「ニュースJAPAN」=5/7(以上フジテレビ)
、 「報道ステーション」=5/9(テレビ朝日)。
  討論番組「9党テレビ初党首討論」 (7/4「新報道2001」 フジテレビ)もタイトルは「消費 税の行方」、議論もそこに絞られていた。
  その結果、キャスターも「普天間の問題が後景に退いてしまった」(6/24公示日「報道ス テーション」)と指摘するように、選挙報道全体で「消費税」以外の[普天間問題]「政治と 3 カネ」など他の重要な争点が隠れ、有権者に見えにくくなってしまった。
 消費税増税を誘導・既成事実化
 公示直前、菅首相の「消費税 10%」発言で突然争点に急浮上した「消費税増税」だが、 菅首相のブレを批判しながらも消費税論議を無批判・肯定的に呼びかけるキャスター・コ メンテーターが目に付いた。
「政治家のほうが及び腰、国民の反発買うと引っ込める。必要なら揺るぎない消費税論議 を(6/29)」「選挙を気にしているといつまでたっても消費税議論できない。どんどん議論す べき。選挙だからこそ(7/8)」(以上「スーパーニュース」フジテレビ)、
 「消費税は喫緊の課題、与野党とも議論掘り下げて欲しい」(7/2「ニュースJAPAN」フ ジテレビ)、 など。
  さらに踏み込んで消費税増税・法人税減税を当然の前提としたコメントも多かった。
  「消費税上げた時に何に使うのか各党に聞かねばならない。法人税を下げた時の(それを 充当する)財源を知りたい」(6/30「報道ステーション」テレビ朝日)、
  「若い世代には不公平感、社会保険への払い損と同じ。各政党は消費税を払ったら福祉や 生活保障をどれだけ享けられるか全体像提示を」(6/30「ニュースJAPAN」)、
 「(イギリス財務相の消費税増税コメントを受けて)日本が参考にすべきは、低所得者への 配慮」(6/30「NEWS23X」TBS)、
「(品目により税率を変える軽減税率との比較で)消費税は還付することが一番公平になる のではないか」(7/9「報道ステーション」)、 など。
  「党首インタビュー」でも「財政逼迫のために消費税増税は必要」というスタンスで聞 き手が質問するケースも見られた。(7/5「報道ステーション」)
 こうしたコメントや質問による誘導は、消費税増税是か非かの「そもそも論」を飛ばし て展開され、消費税増税反対の政党の主張は議論の外に置かれた。全体として「財源が無 いから消費税増税はやむをえない」という流れを助長する報道になっていた。
その他の争点
 ほとんどの番組が争点を「消費税」に絞った中で「NEWS23X(クロス)」(TBS) は各回テーマ主義で他の重要な争点も取り上げていたことは評価できる。
  「郵政改革×山口」(6/25)、「高速道路無料化×マニフェスト」(6/28)、「消費税増税× 候補者の本音」(6/30)、「政権交代×自衛隊」(7/2)、「1人区×”保守王国”島根」(7/5)、 「党首に聞く・選択へのヒント」(7/6)、「安心の介護×マニフェスト」(7/7)、「派遣切り 男性×”選択”への迷い」(7/8)、など。
  ただし全体に時間が短いため、断片的で掘り下げ不足だったことが惜しまれる。
  他番組で、消費税以外に取り上げられた争点は極めて少ない。
 「子ども手当何に使った」(7/7「news every」日本テレビ)、 「忘れられた普天間」(7/6「スーパーニュース」フジテレビ)、 4 「事業仕分け光と影」(7/7「スーパーニュース」) などを拾い出すのがやっとだった。
 各党の政策をパターン(フリップ)1枚にまとめて、極端な場合10秒前後の短時間で紹 介するケースが各番組で随所に見られたが、「各党を平等に取り上げています」という免罪 符として使われている印象が拭えず、有権者が政策を詳しく知り深く検討するためには極 めて不充分・不親切と言わなければならない。

5.報道姿勢・編集方針、コメンテーターのスタンスなど
 政策論議より政局報道に傾斜
 選挙報道のなかで象徴的なシーンがあった。 政党代表による討論会で消費税議論の真っ最中、テレビ局の解説委員が菅民主党代表に 「小沢が居て選挙に負けたら消費税増税はやめるのか」と質問。すかさず亀井国民新党党 首が「政策の話をしている時に、与党の政局の話を持ち出すのはおかしい」と批判。(7/4 「新報道2001」フジテレビ)
  開票速報番組でもキャスターが各党幹部に開票途中にもかかわらず、 「菅続投?」「菅首相の責任論は?」「過半数割れによる連立組み換えは?」 などと矢継ぎ早に政局をめぐる先走った質問を展開、 「まだ早すぎる」「選挙結果を見てから」 などとたしなめられる場面があった。(7/11「踊る大選挙戦」フジテレビ)
  投票日を過ぎた番組でも、民主党の党内事情が延々と話題になるなかでゲストの星浩朝 日新聞編集委員が「党内事情の取材は終わらせて政治課題の取材を」と指摘。(7/12「ニュ ースウォッチ9」NHK)
  これらに象徴されるように選挙報道は、全体として政治的争点を掘り下げ政策論議を深 めるより、政界の動向・政党間の揚げ足取り・政党内の勢力争いなどに主要な関心を向け た政局報道に傾いていた。
  この傾向は政策的議論の展開が期待される消費税問題をテーマに取り上げた場合にもあ てはまる。即ち、有権者の声はそっちのけで菅首相の迷走や小沢前幹事長の執行部批判な ど民主党の党内問題を前面に押し出し、消費税問題を政局報道に矮小化してしまうなどの 例があり、根の深い報道姿勢のゆがみといわねばならない。
問われるキャスターのスタンス
 多くのキャスター・コメンテーターが「消費税増税やむなし」のスタンスに立っていた ことは先に触れたが、そのほかにもキャスター・コメンテーターの見識を疑う場面が見受 けられた。
 「党首に聞く」で議員定数削減の話題の際、コメンテーターは「ムダをなくす」という枠 組みのみでこの問題を捉えていて「議員も身を切る必要があるのでは」などと発言、定数 削減が少数意見を切捨てる民主主義の根本にかかわる重要問題との認識に欠け、ジャーナ リストとしての資質を問われるような場面があった。(7/6「NEWS23X」TBS)
 介護の問題を取り上げた際にも各党の政策を紹介した後、キャスターが「財源が記され ていない」と批判。識者の「改善のために消費税1%を投入すれば可能」とのトークを紹 介して、社会保障の充実と消費税増税を直接結びつけるような展開がみられた。「健康で文 化的な最低限の生活」を保障した憲法第25条やそれをめぐって争われた朝日訴訟を引くま でもなく、本来無条件で改善されるべき福祉の現状を「財源がなければできない」と誘導 するキャスターの姿勢や番組の展開は、時流に流され事の本質を見失っていると批判され ても仕方がないであろう。(7/7「NEWS23X」TBS)
選挙報道はどう位置づけられているのか
 ニュース報道全体にスポーツ偏重、興味本位のマチネタ偏重の傾向がみられるが、今回 の選挙報道は、サッカーのワールドカップなどと重なったこともあり、ニュースの片隅に 追いやられていた感が強い。例えば、公示日(6/24)にもかかわらず「スーパーニュース」(フ ジテレビ)は 2 時間のニュース枠の大半がワールドカップと大相撲の野球賭博にさかれ選 挙報道は13分弱。「報道ステーション」(テレビ朝日)も、6/25,28,29は選挙報道なし。そ の他の番組も同様の傾向でサッカー、大相撲などは連日取り上げるが「参院選報道ナシ」 の日が数日あり、「選挙はどこへ行ったのか」の感さえあった。
  選挙という本来人々の生活や将来に深くかかわる重要な政治課題が正面から取り上げら れずこのように小さく片隅に追いやられてしまっては、有権者の関心も高まらず結果とし て選択・判断を誤らせることにならないかが懸念される。
  選挙報道番組が芸能・スポーツ番組と同列に扱われ、見識を問いたくなるような内容も あった。候補者の選挙活動を紹介する場合に「スポーツ界の著名人候補」、柔道の谷亮子、 元プロ野球選手堀内恒夫・江本孟紀・中畑清らが何度も取り上げられたり(「news every」 日本テレビ)、開票速報で「注目の候補者」として谷亮子、元体操選手池谷幸雄、タレント 三原じゅん子、俳優原田大二郎、元プロ野球選手石井浩郎・堀内恒夫、歌手庄野真代、女 優岡崎友紀、タレント岡部マリなどにスポットを当て繰り返し登場させていた(7/11「踊る 大選挙戦」フジテレビ)。これらのタレント候補が、どのような政治信条や公約を持ち、今 後どのような政治的役割やはたらきをするのかへの情報は少なく、週刊誌やスポーツ紙の ゴシップ記事なみともいえる扱いは、果たして選挙報道で適切であろうか。
  以上が、私たち「放送を語る会」選挙報道プロジェクトが行なった2010.7参議院選挙報 道のモニター活動の報告である。これをもとに私たちは以下のような提言をまとめた。テ レビ各局はもとより視聴者・市民のみなさんが今後の選挙報道のあり方を議論する際、ひ とつの参考にしていただければ幸いである。

6.私たちの提言
 提言1 政党の時間配分を見直し、平等・政治的に公平な選挙報道を
 一般的な政治報道とは一線を画して選挙報道(公示日から投票日まで)では、より一層 厳格に平等・政治的公平が貫かれるべきであろう。
 例えば、
 ・ 各政党の紹介順は比例区の届け出順に基づくこと
 ・ 党首インタビュー、各政党代表による政治討論、公約・政策の報道などでは、現状の 国会議席数を勘案した各政党の時間配分を見直すこと、
 ・ 無所属候補・議席を持たない政党についても充分配慮してより平等に近づけること、
 ・ 過去に新聞・テレビでも行なわれた実績のある2党間討論を復活すること、 等々、
 テレビ選挙報道の改善を求めたい。
 
  提言2 政治的争点の報道は多角的に掘り下げて
 有権者が各政党の政策を比較検討して選択するための貴重な情報源である選挙報道で、 メディアが争点を一方的に絞ることは、有権者の「知る権利」を阻害し公正な判断を誤ら せることが強く危惧される。結果的にメディアが争点隠しに手を貸すことになることを指 摘したい。 政治的争点の報道に当たっては細切れの党首演説の羅列や、断片的・表面的な各政党の 公約・マニフェスト紹介ではなく、メディア独自の視点から有権者・市民の生活実態や要 求とその時々の政治・社会状況を基に、多角的に掘り下げ問題提起する力量と見識を求め たい。

  提言3 政局報道から政策論議へ
 
選挙報道がタレント候補の動静、政党の駆け引きや党内抗争などの政局報道のみに目を 奪われず、有権者の政治選択に役立つ政策論議を深めることに主眼を置いた方向へ転換さ れることを要望する。



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