アテナ外伝

Act.13 邂逅

自らの内にある"力"を束ね、外からの"力"をも練り合わせ、収束する。
その感覚は、覚えている。
自らの器、その容量を超える"力"を、圧縮して一つにまとめ上げる。
その過程で、僅かばかりへ漏れ出てしまう。
ある意味、非効率な行い。
だが、その収束された、本来自分が持ち得ない筈の"力"は、爆発的な威力が期待できる。
現時点で、アテナが扱える最大かつ最強の"力"。
それが、サイコ・イリュージョン。

しかし。

目の前で対峙する隆は、そこまでの"力"は必要ないと語る。
こぶしはただ、木々の枝をゆらす風の如くあればよい、と。

「いま、それを見せてやろう。
 ・・・来いっ!」

「・・・行きます!」

隆の言葉に、アテナは限界まで押さえ込んでいた"力"を解き放つ。
一気に躰が加速する。
弾けるように、彼我の距離を詰める、刹那──

「──フッ!」

一呼吸の間に、隆のこぶしが振り抜かれていた。
いやこぶしだけでなく、身体全体がぶれた様にも見えた。
一瞬で立ち位置を変えた上で、こぶしを振り抜いたのだろうか。
痛みはない。
だが、サイコパワーによる障壁シールドをも突き抜けて、打ち抜かれてしまっていた。

サイコ・イリュージョンが一度ひとたび発動されると、人間業では成しえない速度の連撃が放たれる。
それはアテナが思考するよりも早く、彼女のまとめ上げた"力"のうねり・・・が、未来視であるかのように、最善となる"次の一手"を彼女に示す。
それを認識した時には、彼女は既に動き出した後だ。
そうやって、人の身では決して成しえない筈の、怒濤の連撃が繰り出されるのだ。
だが、隆のこぶしは、"次の一手"が示される、その前に振り抜かれていた。
一瞬で立ち位置を変えることで、或いは未来視の"再計算"を誘ったのかもしれない。
その僅かなタイムラグの間に、必殺の一撃を放ったとでも言うのか。

「・・・ぁ・・・ぐ・・・」

微かに呻きを漏らしたものの、それ以上アテナには何も出来なかった。
全身から"力"が抜け去り、上体を維持できなくなる。
ゆっくりと、膝から崩れ落ちていく。
だが、隆のこぶしに縫い止められたかのように、"何か"がその場に取り残される。
全身を覆っていた皮膜が引きはがされるかの様でもあり、何かを抜き取られる様でもある、奇妙な感覚。

倒れながらも、アテナは視線だけでそれ・・を追う。
振り抜かれたままの隆のこぶし
それにまとわりつく──いや、縫い止められているのか?、こぶしを包むように、黒い靄のようなものが渦巻いていた。
非道く弱々しい感じがするものの、それが纏う雰囲気は、間違いなくあの男ルガールと同質のものだった。

彼女の躰が倒れ逝くに従い、彼女から引き剥がされていく"何か"。
それ・・に引き摺られるように、頭の中をかき回されるような不快感。
ズルズルと、頭の中から何かを抜き出されていくような、嫌悪感。
記憶が薄れていくような、忌避感。
だが、次の瞬間にはその感覚は断ち切られていた。

『─────!!!!』

直後にそれは、断末魔の叫びをあげ──、霧散した。
彼女が視線で追えたのは、そこまでだった。
地に倒れ伏し、それ以上は何も見ることができなかった。

"──そっか・・・"

薄れ逝く意識の片隅で、彼女は考える。
どうにも対処のしようが無かった、オロチの"贄の種子たね"。
何とか克服しようと、精神の力サイコ・パワーを高める努力を続けてきてはいたが、種子たねの浸食が進む一方だった。
自分では、どうしようもないのではないか。
諦めるつもりはなかったが、焦燥感を感じてもいたのだ。
しかしあれは、その最期だったとしか思えない。
隆の放った風の一撃必殺の拳が、"種子たね"を引きはがし、滅してくれたのだと。
あれは、そういうことなのだろう。

"ありがとう、ございます・・・"

とっさに隆の名前が思い浮かべられなかったことに躊躇したものの。
そうして彼女は、僅かに残る意識を手放した。


視界いっぱいに広がる、闇。
周囲の様子が全く覗えない、深い闇だ。
その中に漂うように浮かんでいる自分を、アテナは認識していた。
目を開けているのかどうかもわからない。
何も見えなかった。
左右の様子を窺ってみても、闇が広がるだけだ。

突然、心臓を貫くように、彼女の躰を光が貫いた。
痛みはない。
直後、彼女を取り巻いていた闇が、一気に晴れる。
視界を埋め尽くす"光"に、彼女は顔をしかめた。
今度はまぶしすぎて、何も知覚できない。

微かに、霧散する闇によって、頭の中から何かが引き出されていくような不快感。
だがそれは、刹那の間に走った"光"によって断ち切られた。

"精神こころを縫い止め、閉じこめていた闇は、滅されました。"

突然、女性の声がアテナの脳裏に響いた。
少女、と言った方が良いかもしれない。

"危うく記憶を持って行かれるところでしたが、それは何とか防げたと思いますよ。"

初めて聞く声だったが、どこか懐かしい響きをもっていた。

"ただ、少々乱暴な方法でしたから・・・
 あなたの"力"を抑制していたヒューズまで、その力を弱めてしまった。"

少女の声が続く。

"そのお陰で、こうしてわたしが動けた訳でもありますが。"

彼女が何を言っているのか、アテナには理解できない。

"ともかく、精神こころを騙し、欺く者は滅されました。
 あなたの意思を装って、都合良くあなたを誘導しようとするモノは滅びましたから・・・
 これから先は、あなたの望みは全て、あなたの精神こころが求めるものとなるでしょう。"

アテナの視界の正面、光溢れる世界の中に、ボンヤリと浮かび上がる女性の姿。
光に溶けてしまい、ハッキリとは認識できない。
フィルター越しに見ている様に、見えそうで認識できない、もどかしい感覚。
或いは極端な"ピンぼけ写真"を見ているような。

"精神こころの声に、耳を傾けて。"

何か神話の世界に出て来そうな、薄布を纏ったようにも見える、女性の姿。
顔はぼやけて分からない。
紫色らしい長い髪が、揺らめいて見える、気がする。

いったい、何なのか?
女神だとでも?
おとぎ話でもあるまいに。
そもそも、これは誰なのか?

"あなたは、わたし。
 ・・・でも、わたしはあなたではないわ。"

アテナの疑問を読み取ったかのように、少女の声が答える。
だが、やはり意味がわからない。
まるで"謎かけ"だ。

"あなたわたし深淵イドに触れては、あなたの精神こころは、まだ耐えられないでしょう。
 いま暫く、を閉ざしていて・・・。"

アテナの疑問を他所に、声は一方的に話を終わらせにかかる。

待って、そう叫ぼうとしたものの、アテナは声を出せなかった。

"──どうかあなたは、あなたの精神こころの導くままに・・・。"

その言葉を最後に、アテナの思考は途切れた。


幻想のような光の世界から、ゆっくりとアテナの意識が帰還する。
薄らと目をあけてみれば、視界に広がるのは知らない天井だった。
いや、見覚えがある?
無骨な丸太を組み合わせた、剥き出しの天井。
それが、先程闘った場所にあった山小屋だと、暫しの後に思い至る。

「気がついたか?」

かけられた男の声にそちらを見れば、窓辺には男が二人。
ぼやける記憶の内から、それがリュウケンだということを探り当てる。
声を掛けてくれたのは、ケンの方だ。
アテナはゆっくりと上体を起こす。
先程同様、ベッドに寝かされていたらしい。

どうにも、直近の記憶を探る際に、違和感を覚える。

"危うく記憶を持って行かれるところでしたが、それは何とか防げたと思いますよ。"

先程見ていた幻想の中での、女性の言葉が思い出された。
贄の種子たねに浸食されていた間、アテナの精神こころは全体を覆い隠されていたような感覚があった。
それは、種子たねが消滅した今だから分かる感覚なのだが、おおよそ認識として誤ってはいないと思える。
それ故、種子たねが引きはがされる際には、その間の記憶が一緒に失われようとしていたのだろうと、彼女なりに理解する。
皮膜に覆われた上に積み上げられた記憶だから、皮膜と共に剥がれ落ちようとしたのだろう、と。
あの、女神だかなんだかわからないイメージの女性が、それを防いでくれたということなのだろう。
防いだというよりも、引きはがされかけたものを戻してくれた、と言う方が正しいのかもしれない。
記憶を辿る際に違和感を感じるのは、そういうことではないだろうか。
ともかく、ここ最近の経験も記憶として残っている。
目の前の二人のことも、八神庵やフジ子のことも、ちゃんと覚えている。
理香と和解できた、大切な記憶も。

「・・・何度も、ありがとうございます。」

立て続けに二度も、気を失って運び込まれたのだ。
申し訳なさと気恥ずかしさ、半々くらいのアテナは、恐縮して頭をさげた。

「・・・アレは、何だ?」

難しい表情かおを浮かべて、隆が尋ねる。
その問いに、アテナはかぶりを振った。

「詳しくは、わかりません。
 "よくないもの"であることは、間違いないみたいですけど・・・」

そう前置きして、彼女は八神庵から聞かされた"贄の種子たね"について説明した。
心なしか、以前より精神こころが軽くなった気がする。
やはり種子たねは、彼女の精神こころに少なからぬ負荷をかけていた様だ。
そして、今なら分かる。
贄の種子たねは、かなり巧妙に彼女の思考を誘導しようとしていた。
自分の気持ちが動いての判断だと思っていた事柄も、今、冷静に振り返れば、自分の意思とは関係の無いところで誘導されていたと思しき形跡がある。
例えば、八神庵に言った言葉。

"いいですよ?
 なんだったら今日は、はちすさんでいてあげても?"

今にして思えば、らしくない・・・・・一言だったと思う。
拳崇への想いを胸に抱いている自分が、あんな挑発するような言葉を口にするだろうか。
自分でいうのもなんだが、一途な方だと思うのだ。
そんな、彼以外の異性の気を引くようなことをわざわざ口にするような女ではないと、言い切れる自信がある。
聞けば、八神庵もまた、オロチの血脈だという。
ならば。
贄の種子たねが、オロチの血脈へ"贄"として捧げさせようと誘導していたのではないだろうか。
細かな事象も含めれば、思い当たる事がいくつかある。
何より、"自分の意思でそうしている"としか思えない巧妙さが、何ともタチが悪い。
もしも、あのまま種子たねの支配を受け続けていたら、どうなっていただろう?
想像するだけで、薄ら寒い。

「贄の種子たね、か・・・。」

アテナの話を聞き、隆は唸るように呟いた。
だがそんな彼を、拳は呆れたような表情かおで一瞥する。

「・・・よくそんな得体の知れんモノ、仕留めたよなお前・・・。」

「いや、何か変な感じだったから、そこを打ち抜いただけなんだが。」

隆の反応に、拳はため息を一つ。

「──まぁなんにせよ、良かったじゃないか。
 これで、元通りのアンタに戻れたってことだろ?」

「・・・あまり、実感はないんですけどね。」

拳の言葉に、アテナは苦笑を浮かべた。

ともかくこれで、旅の目的は達せられたと考えても良いだろう。
精神こころに負った呪縛を打ち破ること。
それこそが、この旅の目的だったのだから。
今なら、胸をはって戻れる。
の元へ。

思えば。
一年前のあの時・・・
全てを失って、彼に救われたあの夜。
あれ以来アテナの心には、常に彼が居た。
アテナが彼に負い目を感じていると、彼にそう思われていたから、この想いを口にする訳にはいかなかった。
素直に受け止めてはもらえないから。
だから時期が来るまでは、この想いを隠し通すと決めた。
彼の隣にいても、何とも想っていない風を彼女は完璧に演じてみせた。
──そう、完璧過ぎた・・・・・のだ。

演じる期間が長引くにつれ、彼はアテナの態度を、疑わなくなった。
彼女は自分に全く気が無い、と。
そう、信じてしまった。

彼女アテナは決して自分に振り返ることはない、と。
その前提に立って、ちょっかいをかけて来るようになった。
モーションをかけてもらえるようになったのだ。
そのこと自体は、正直なところ嬉しかった。
だが、それを受け止めて、応えることは躊躇われた。

本当に、彼の疑念は晴れているのか?
自らの想いを口にして、素直に受け取ってもらえるのか?
──そもそも、受け入れてもらえるのか?

そう、恐くなってしまったのだ。
対応を誤ることで、気安い距離感が壊れてしまうことを、彼女は恐れた。
全てを失った彼女にとって、残ったものは彼への想いと、彼との微妙な関係だけだった。
それだけは、失いたくなかった。

失うことを恐れるあまり、彼女は手に入れることに対して臆病になってしまった。

だからそれ以来、彼女は演じ続けている。
どんなに彼に求愛されても、柳に風と受け流す、気のない素振りを。
彼のことが全く眼中にないかのような、演技を。

そう、彼女は完全に、タイミングを逸してしまっていた。

だが。
今回のことは不幸にして起こった事件だったが。
ある意味、チャンスでもあった。
一人旅を経て、精神こころの呪縛を打ち破って、彼の元へと帰還する。
そのタイミングでなら。
彼女の帰りを、待ち焦がれていただろう彼になら、素直に伝えてもよいのではないか。
すんなりと受け入れてもらえるのではないか。

「とにかく、これで帰ることができます。
 ありがとうございました。」


物思いに耽けりそうになるのを堪え、アテナは二人に頭をさげた。

事件・・が解決した、その直後であれば、精神こころの振り幅は大きい筈だ。
その状態であれば、いくら彼でも、きちんと受け取ってくれる。
だから、すぐにでも戻ろう。
拳崇の元へ。



小さなトランク一つだけを持って、アテナは背後の二人を振り返った。
わざわざ見送ってくれる隆と拳、その二人の背後にある山小屋を見やる。
ほんの僅かな滞在期間だったが、実に濃い時間を過ごした様に思える。
贄の"種子たね"を、自力でこそなかったが、打ち破ることができたのだ。
隆には、感謝してもしきれない。

「もっと修行を積んで、今よりも強くなったと自信をもって言えるようになったら。
 その時は──また、手合わせをお願いできますか?」

一瞬で倒されてしまった相手だが、アテナはもっと隆とこぶしを交えてみたいと思う。
この男からは、得られるモノが多い気がする。
強大な"気"を持ちつつも、それを表に出さない。
何処までも物静かな佇まいだが、底知れない強さを内に秘めている。
格が違う、と素直に思う。
だからこそ、また挑んでみたい。

アテナの言葉に、隆はそのいかめしい顔つきとは裏腹に、人好きのする笑みを浮かべた。

「あぁ、もちろんだとも。」

その言葉に、慌てて割って入る拳。

「ちょい待ち!
 こいつとやりあいたければ、まず俺を倒すんだな?」

やや気障な仕草で、親指で自分を指す拳。
同じくいかめしい雰囲気の顔の作りではあるが、隆と違って何処かさわやかな雰囲気を醸している拳。
筋肉隆々なその体躯がなければ、もしかしたら色男イケメンで通ったかもしれない。

そんな無体もない感想を抱きつつ、アテナは悪戯っぽい笑みを口元に浮かべた。

「わたし、アナタには勝った記憶しかないんですけど?」

「ぐっ」

痛いところを突かれた格好の拳は、言葉につまる。
その様子を見て、アテナは笑った。
ここ暫く忘れていた、年齢相応の少女らしい朗らかな笑み。

「冗談ですよ。
 拳さんも、また仕合いましょうね!」

そう言って彼女は、二人と順に握手を交わす。

「それでは、お世話になりました!」

別れの言葉と共に、アテナは踵を返した。
そのまま振り返ることなく、去って行くアテナを見送る二人。

「随分、雰囲気が変わったよな、あの子。」

小さくなっていくアテナの背中を見つめたまま、拳がポツリと溢した。

「最初はもっとこう、張り詰めたような雰囲気あったのにな。
 柔らかくなった気がしないか?」

拳の言葉に、隆は肯きを返した。

「あれが、本来の彼女だということなんだろう。
 "贄の種子たね"とやらは、そこまで彼女のココロを押さえ込んでいた、ということなんだろうな。」

他人の精神こころを縛り、操る。
なんとも薄気味悪い話だ。
だが、隆の脳裏に、不遜な男の顔が浮かぶ。
あの男もかつて、似たような事をしていなかったか。

「ヒトの精神こころを操る種子たね、か。
 ・・・まるで、ベガのようだな・・・」

「・・・嫌なこと、思い出させるなよ」

隆の呟きに、拳は身震いしつつ、心底嫌そうな表情かおを浮かべた。
かつて、洗脳まがいなことをされた経験がある拳としては、身の毛もよだつ思いなのだろう。

「あぁ、スマン。」

拳の反応に、隆は苦笑いを浮かべた。


中国某所。
いくつもの小さな滝が流れ落ちる畔に、その祠は建っている。
鎮元大仙。
そう書かれた門をくぐった中庭は、非道く荒れていた。
ここ暫く、手入れがされていないかのように。
そしてそれは、真実だ。

「ぐ・・・」

母屋の壁伝いに歩いていた老人──鎮幻斎は、肩で息をしつつ、壁に身を預けた。
額に巻かれた包帯には、赤い染みが滲んでいる。
きちんと衣装を纏っていて目立たないが、躰のあちこちには同様に包帯が巻かれていた。
もう半歩ばかり進めば、"離れ"の軒先だ。
だが、ゆっくりと伸ばされた幻斎の手は、見えない何かに弾かれる。

"やはり、結界か・・・"

強力な精神の力サイコ・パワーで構築された、不可視の結界。
幻斎の"力"を持ってしても、干渉することができないでいた。

"拳崇よ・・・"

これが誰が構築した結界なのか。
それを思えば、その奥で行われているであろうことが、碌でもないことであるのは確定的だった。
囚われの弟子の身を案じるものの、今の幻斎にはどうすることもできなかった。

"なんとか、せねば・・・"

焦る幻斎の脳裏に、舞い降りる鳳凰のイメージ。
それは、衰えたとは言えども、幻斎がその師匠より受け継いだ力。
玄武が司る"先見の力"が見せた、幻影。

「・・・イカン!」

思わず、声が出てしまった。
幻斎は、もう一人の彼の弟子である少女の姿を思い浮かべる。
先程のイメージは、彼女の帰還を意味しているに違いない。
強大な"敵"に、為す術もない現状。
内に秘めた"大いなる力"に目をつけられ、拳崇が結界に取り込まれてしまっている、この状況下で。
彼女がここへ来ると、どうなるのか。

弟子の身を案ずるものの、何ら手立てのない幻斎は歯がみする。
このままでは、全てあの男の思惑どおりになってしまうのではないか。
あの、かつての弟弟子が持つ恐るべき"力"は、彼らの師から奪い取ったものだ。
それを使いこなしているとなると、非常に厄介だ。
そして事実、使いこなしているのだろう。
それが故の、現在の状況なのだから。
このまま彼女まで取り込まれてしまっては、もはや打つ手がなくなる。

"今、戻ってはならん・・・!
 ならんぞ、アテナよ・・・!"


だがその声を届けるすべを、幻斎は持ち合わせていなかった。


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ACT.14

ひとこと