格闘家達の祭典、「The King of Fighetrs」。
「R」と名乗る主催者からの招待状を受け、数多の格闘家達が名乗りをあげた。
世界中で行われた予選大会。
そして、決勝トーナメントの開催。
「世界一」の名声と莫大な賞金を求め、猛者共が激戦を繰り広げた。
その中に、彼女達もいた。
僅かに紫がかった黒髪は、艶やかに彼女の腰元まで伸びている。
中国系のイメージを帯びた赤と白に彩られた衣装は、数々の激闘を物語る様にあちこち汚れ、擦り切れもしていた。
麻宮アテナ。
それが彼女の名だった。
薄暗い室内に、彼女の荒い息づかいが木霊する。
照明は死に、しかし壁に埋め込まれた計器類の明かりが、室内にぼんやりと4人の人影を浮かび上がらせていた。
室内に響く吐息は彼女のものだけでなく、彼女の仲間達もまた、肩で息をしている。
椎拳崇。
少年の域を脱し切れていない青年、といった印象の男性。
既に膝をつき、痣だらけの腕で身体を支えてる。
鎮幻斎。
既に老齢の域に達していると思われるものの、長い白髪の下から覗く眼光は、衰えを感じさせない。
手にした酒入り瓢箪が、場にそぐわない印象を与えてはいるが。
彼らは中国を代表して、KOF決勝トーナメントに出場していた。
サイコパワーと呼ばれる超能力を駆使して戦う、サイコソルジャーチームとして。
「・・・まさか、な・・・・」
アテナの目前、崩れ落ちるように壁面に半ばまで身体を埋める男が呟く。
ルガール・バーンシュタイン。
「R」の名でこの大会を主催した張本人。
彼もまた、傷だらけだった。
KOF大会・優勝レセプション。
大会主催者とのエキビジションマッチと称し、彼はアテナ達に死のゲームを強要した。
即ち、戦って破れたならば、自らのコレクションに加われと。
室内に散乱する蝋人形達。
かつて、格闘家だった、もの。
それこそが、この狂気の男のコレクション。
だが、激しい闘いの末、倒されたのは彼の方だった。
「・・・貴方のような、悪が栄えることは、決してないわ・・・!」
荒い息の下、アテナは振り絞るように言い放った。
真っ直ぐに、狂気の男を見据えて。
「ク、ク、ク・・・」
しかしルガールは動じた様子も見せず、含み笑いを漏らす。
あるいは、彼女を挑発するかのように。
「正義、か。・・・・くだらん。」
既に立ち上がる力も残していない筈の彼が、不適な笑みを浮かべる。
「―――この世に人間が存在する限り、悪が絶えることはない。」
僅かに顎をあげ、明らかに彼はアテナを嘲笑していた。
「なぜなら、人間の存在そのものが悪だからだ。」
「なにを!」
汗と血で汚れきっていなければ、恐らくは可憐でさえあろう顔を強張らせ、アテナは思わず叫んでいた。
彼女のその反応に満足げに笑みを浮かべると、ルガールは言葉を続けた。
「私は死なん・・・! この世に悪がある限り、何度でも甦ってみせる!」
しかしその言葉とは裏腹に、誰の目にも、彼の最期は近いと見えた。
事実、呪いの言葉を吐いた直後、彼は吐血していた。
アテナは、それでも強がってみせるルガールに、潜在的な恐怖を覚えた。
彼と戦っている間でさえ、感じなかった恐怖を。
男の執念とも言うべき負の感情は、見えない力となって彼女を押しつぶそうとしていた。
「・・・だが、しばしのお別れだ。」
吐血の際に俯いたままだった男は、再び言葉を紡ぎ出す。
そして、その手に握られていた物は――――
「いや、永遠のお別れ、だな。」
「いかん!」
鎮の叫びと、ルガールの指の動きはほぼ同時だった。
彼らが戦っていた場所、ルガールの空母の自爆スイッチ。
その意味するところは、ひとつだった。
「・・・不愉快だ。 特に貴様は、な。」
ルガールのその台詞を、アテナは聞き取れなかった。
微かに紅く光った義眼にすら、気付く暇はなかったのだ。
室内は白光に包まれ、次の瞬間、そこかしこから炎を吹き上げる。
「アテナ!」
拳崇の叫びとともに、3人の姿はかき消えた。
直後ルガールの空母は、その主を乗せたまま、轟音を響かせて爆発・炎上していた。
☆
「終わった、な。」
波間にたゆたう小舟の上で、拳崇が安堵の溜息をついていた。
火事場の馬鹿力とでも言おうか、彼の超能力は、瞬時に3人をこの場に運んでいた。
爆発の衝撃からか、救命ボートが切り離されていたのは、幸運としか言いようがなかったが。
眼前で黒煙をあげて燃えさかる空母を眺めながら、アテナは鎮を振り返った。
「お師匠様、あの男が言っていたことって・・・?」
悪の化身のような男が残した言葉は、アテナの耳から離れなかった。
即ち、人間の存在そのものが悪であると。
正義を信じ、愛してやまない彼女にとって、その言葉は、決して認められない物だった。
「うむ。・・・・残念ながら、ある意味では真実じゃろうて。」
アテナの想いを計りながらも、鎮は言葉を選びながら口を開いた。
「・・・そんな・・・」
「じゃがの、」
絶望的な表情を浮かべるアテナを遮るように、鎮は言葉を続ける。
「だからこそ、儂らみたいな者も存在し続けねばならんと、儂は思うぞぃ?」
例え悪が絶えることが無いとしても、いや、だからこそ、正義を信じ、守ろうとするものもまた、存在し続けるのだ。
そうでなければならない。
鎮の言葉に、僅かに揺らぎ始めていたアテナの信念は、再び自信を取り戻していた。
「・・・はい!」
彼女の漆黒の瞳に、力強い光が宿る。
「あぁもう、アテナも師匠も、なに辛気くさい話しとんねん!」
決意を新たにする2人をよそに、拳崇はめんどくさそうな表情を浮かべていた。
「俺ら、勝ったんやで? 世界一になったんや!」
思わず、力説。
そう、本来なら、華やかな優勝セレモニーが執り行われても良い筈だったのだ。
ともに力を合わせて戦ったアテナから、あわよくば、祝福の口づけを・・・・なんて夢想もしていたというのに。
それが、この体たらく。
何が哀しくて、命辛々、爆発炎上する空母から逃げ出して来なければならないのか。
「・・・さっさと帰って、祝杯や!!」
こうなったら、内輪だけでも盛り上がって、今度こそアテナと・・・・
拳崇の脳裏に、しどけない姿のアテナが浮かぶ。
無論、彼の想像の産物だが。
"アテナはアルコールに強ないから、ジュースや言うてカクテル飲まして・・・"
おいおい、それは犯罪だぞ、拳崇。
っていうか、君も未成年じゃないのか?
「そうじゃの、儂もそろそろ、ばぁさんの飯が恋しいわい。」
弟子の不謹慎な想いに鼻白みつつも、鎮もまた、拳崇の言葉に同調してみせる。
ともすれば思い詰めすぎのきらいがあるアテナを、思考の深みから拾い上げようとする意図もあったが。
「・・・そうですね、帰るとしましょうか。」
鎮の思惑通り、アテナの表情からは、険しさが消えていた。
「よっしゃ、帰るでぇ〜!」
妄想を暴走させながらも、拳崇が高らかに宣言した。
3人の表情に、自然と笑みが浮かんだ。
―――だが
"・・・・どうして、こんなに不安なんだろう・・・"
あの男は、もういないと言うのに。
得体の知れない不安を振り払いたくて、彼女は仲間達とはしゃぐ事を選んでいた。
そうしなければ、押しつぶされてしまいそうだったから。
☆
KOFが閉幕して、数日が過ぎていた。
中国・某所。
とある山間の開けた場所に、サイコソルジャーチームの修行場があった。
いくつもの小さな滝が流れ落ちる畔には、彼らが寝泊まりする祠がある。
気持ちの良い朝だった。
結局、打ち上げと称して始まった昨夜からのどんちゃん騒ぎは、夜通し続けられた。
といっても、もっぱら飲んでいたのは鎮と拳崇で、アテナは彼らの酒の補充とつまみの用意に奔走する羽目になっていた。
彼女を酔い潰そうと画策していたはずの拳崇は、鎮に絡まれ、それどころではなくなってしまったのだ。
楽しむ余裕などなかったはずだが、それでも彼女の心は晴れ渡っていた。
"たまにはバカ騒ぎもいいものね。"
そんなことを考えながら眠りについたのは、東の空が微かに白み始めた頃だっただろうか。
一方の拳崇はといえば、アテナが眠りにつく頃には、すっかり酔いつぶれて眠ってしまっていた。
"・・・最悪や。"
痛む頭を抱えながら、拳崇は天気とは裏腹な気分で、今朝の目覚めを迎えていた。
"せっかく、アテナをモノにするチャンスやったのに・・・"
そんなことを考えていたから、彼は視界の隅に映ったアテナの後ろ姿を見逃さなかった。
「おはようさん、今日もかわいいなぁ!」
神速で彼女の背後に迫ると、おもむろに抱きしめていた。
"・・・・ありゃ?"
あっさりと抱きしめられたことに、少々拳崇は拍子抜けした。
"・・・今日は、照れて怒らへんのかな?"
「・・・アテナ?」
"やっと、素直になってくれるんか・・・?"
自分は彼女の最愛の男だと、信じている。
拳崇の表情に、満面の笑みが浮かぶ。
「・・・・あなた、誰?」
「へ?」
呆気にとられる、とはこのことだろう。
今まさに、彼女をきつく抱きしめ直そうとしていた拳崇の腕が、一瞬にして硬直する。
たちの悪い冗談かとも考えたが、彼女がそんな冗談をいう人間ではないことを、拳崇は誰よりもよく知っている・・・つもりだ。
「誰って・・・拳崇やんか。 アテナの最愛の男やで?」
「・・ケン・・スウ・・・?」
本当に分からないのだろう、彼女は拳崇を見返したまま、混乱をその表情に浮かべていた。
記憶喪失―――そんな言葉が、拳崇の脳裏を掠めた。
まさか、という思いもあるが、しかし―――
「アテナ・・・」
拳崇は一旦彼女を解放すると自分の方へ向き直らせ、両肩に手を添えて、彼女を真っ直ぐに見つめた。
「あ・・」
拳崇の意図を察したのか、アテナが小さく声をあげた。
"眠れるお姫様を目覚めさすには、愛する男の口づけや!"
白雪姫の時代から、そう決まっている。
大義名分を掲げた拳崇は、微かな拒絶の反応をみせる彼女に構わず、ゆっくりと顔を近づけ――――
「ぐはっ」
鎮の掌底を側頭部に浴びて、吹っ飛んだ。
「何すんねん!?」
「・・・朝っぱらから、何をやっておる?」
まだアルコールが抜けきっていないのか、鎮は少々、呂律が回りきっていない。
良いところを邪魔された格好の拳崇は、痛みも忘れて鎮を睨む。
「お師匠さま?」
「へ?」
しかし、恨み言を唱えようとしていた拳崇は、アテナの反応に愕然とする。
「アテナ・・・、お師匠はんはわかるんか?」
拳崇の問に、彼女はコクリと頷く。
「・・・でも、俺は分からへんのか?」
素直に、頷くアテナ。
「・・・なんでやねん〜〜〜・・・!!!」
滝壺に向かって吠える拳崇は放っておき、鎮はアテナをまじまじと見つめた。
「ふむ。」
気の流れは、特に異常は見られない。
いつもの彼女と変わりなく、澄んだ気を纏っている。
ただ、心の動きを示す気の揺らぎが、少々希薄に感じられた。
嘘をつくときに現れる、独特のひずみも見受けられない。
拳崇が分からないという彼女の言葉は、本当なのだろう。
「どうやら、記憶喪失の様じゃな。 それも、人為的なものじゃ。」
「「記憶喪失?」」
アテナと拳崇がハモった。
頷く鎮に、光速で戻ってきた拳崇が噛みつく。
「せやけど師匠、アテナは師匠のことは分かるねんで?」
「だから、じゃよ。」
顔中?マークで満たした拳崇に、鎮は苦笑いを浮かべる。
「考えてもみぃ? 普通、記憶喪失になった人間が、特定の相手だけを忘れるなど、不自然であろう?」
無論、100%ないとは言い切れないが、鎮には他に思い当たるフシがあった。
「あの男・・・・最期に何やら、力の高まりを見せておったでの。」
「!」
鎮の言葉に、拳崇はハッとする。
自分たちを殺そうとした、あの男。
ルガール・バーンシュタイン。
「・・・ほな、アテナが俺を忘れたんは、あの男の仕業やっちゅうんか?」
「うむ。 それに、心の動きも、普通よりも鈍うなっておる。」
言われて、拳崇は思わずアテナを振り返った。
確かに、先程いきなり後ろから抱きつかれたというのに、彼女は殆ど反応を見せなかった。
これまで何度となく、「朝の挨拶や」とうそぶきながらスキンシップを試みてきたが、そのことごとくを、かわされて続けて来たというのに。
"心を・・・なくす言ううんか? アテナが?"
当のアテナは、きょとんとした表情のまま、2人を見つめ返していた。
☆
"―――誰?"
いきなり自分を抱きしめた男性を見つめながら、アテナは先程から同じ事を考えていた。
拳崇と名乗った彼を、彼女はどうしても思い出せなかった。
師匠の鎮と屈託なく話しているところをみると、どうやら昔から知っている相手らしいことは理解できた。
自分が記憶をなくしたらしいことも、2人の会話から理解していた。
ただ、自分の恋人だという拳崇の言葉を、信じたものか否か。
彼女はその判断に迷っていた。
"―――あなた、誰?"
何度目かの台詞を胸に抱く。
そして、意外なほどに冷静な自分に気付く。
記憶を失ったのなら、もう少し不安に駆られてもいいのではないだろうか。
"――わたしは、アテナ。 麻宮アテナ。"
そしてそれが、自分自身を忘れていない為だと思い至る。
鎮の事も覚えている。
自分の居場所、それを失っていないから。
だから冷静で居られるのだろう。
では、彼は?
彼の言葉が正しければ――自分と彼が、恋人同士であったのなら、彼はどうなるのか。
自分という居場所をいきなり失った彼は、果たして?
"ケンスウ・・・・―――、分からない。"
彼の言葉を信じるか否かは別にして、彼のことを思い出さなければならない。
そう思うものの、いくら記憶を辿ってみても、彼の姿を発見できずにいた。
不意にアテナは、2人の視線が自分に集中していることに気付く。
そうだ、今2人は、自分の事を話していたのだ。
「・・・これから、わたしはどうなるのですか?」
彼女は、素朴な疑問を口にした。
「うむ」
アテナの問に、鎮は自らの顎髭を撫でながら、僅かに唸った。
「恐らく―――、これから徐々に、記憶と感情を失っていくのじゃろう。」
「そう・・・ですか。」
残酷な宣告であるはずなのに、アテナは何の感慨も浮かばない自分に驚いていた。
むしろ、拳崇の方がショックを受けている様に見受けられた。
彼は、複雑な表情で、アテナを真っ直ぐに見つめている。
その真摯な眼差しに、アテナはどこか居心地の悪さを感じつつ、一方で安らいでいる自分を発見していた。
"―――なんだろう、この感じ・・・?"
「なんとか成らへんのか、師匠?」
アテナを見つめたまま、拳崇は鎮に問うた。
アテナは、何故か彼から瞳を背けることが出来ないで居た。
何故だか分からない。
心なしか、胸の鼓動が早まっているような気もする。
「ひとつだけ・・・可能性はある。」
「ホンマか!?」
「うむ」
アテナは、2人の会話を何処か別世界の出来事の様に感じていた。
自分の事を話しているというのに、何故か心に響いてこない。
「奴が何をしたのかはわからんが・・・恐らくは、精神に何らかの干渉をしたのじゃろう。」
拳崇が鎮に向き直ったため、アテナは視線を動かす自由を取り戻していた。
ふと、鎮と瞳が合った。
「我らの力もまた、精神の力じゃ。 なれば、」
「・・・その力を極限まで高める事ができれば、奴の呪縛をうち破れる?」
後を受けた拳崇の言葉に、鎮は大きく頷いた。
「せやけど、どうやって? 俺ら、世界一になってしもたんやで?」
「世界は広いわい。 KOF出場者が、強者の全てとは思わんことじゃ。」
さらなる高みを目指すなら、自分よりも強い者と拳を交えることが、もっとも近道だ。
それは拳崇にも分かっていた。
だが、自分たちは最強になってしまったではないか。
そんな拳崇の思いを、鎮はあっさりと否定してみせた。
そして、再びアテナを見据える。
「―――行くが良い。 そして、未だ見ぬもののふ共と、相まみえるのじゃ。」
師の言葉に、アテナは僅かの間をおいて頷いた。
「アテナ・・・」
愛しげに名を呼ぶ若者を、彼女は黙って見返す。
微かに、口元に笑みをたたえて。
「俺も行くで。 こんな状態のアテナを、独りで行かせる訳にはいかへん!」
力強い言葉に、しかし彼女は黙って首を横に振った。
「なんでや? 女の独り旅は、危ないねんで?」
ましてや、こんなに可愛いねんから、という台詞は飲み込んだ。
「・・・あなたの側にいれば、わたしはきっと甘えてしまうわ。」
それでは、サイコパワーを「極限まで」高めることなどできない。
彼女の瞳は、そう語っていた。
だがそれ以上に、彼女の言葉に拳崇は舞い上がっていた。
それはそうだろう、彼女の方から歩み寄ってくるような台詞は、初めてだったのだから。
「・・・アテナ!」
思わず、そしてまたしても、彼はアテナを抱きしめていた。
やれやれと、再び鎮が拳崇を止めに入ろうとしたが、今度はそうは出来なかった。
驚いたことに――少なくとも、鎮にしてみれば――アテナが拳崇を抱き返してしまったから。
そして、そのことに一番驚いているのは、他ならぬ拳崇だった。
"アテナ・・・、本心では、やっぱり俺のこと・・・!"
彼女にしてみれば、そうすることで何か思い出せないかと考えての行動だったのだが。
思わず、彼女を抱く腕に力が入る。
必然的に、アテナは拳崇の胸に顔を埋める格好となった。
「帰ってくるわ。 必ず、あなたを思い出して。」
「アテナ・・・」
それでも、不思議と彼女は厭だとは感じなかった。
或いは、彼の言葉通り、自分たちは恋人同士なのかもしれない―――などと彼女が思ったのか否かは定かではないが。
"拳崇よ・・・"
一見、ラブラブモード全開の2人を、鎮は複雑な想いで眺めていた。
"暴走するのは勝手じゃが・・・、後で記憶が戻った時、殺されてもしらんぞぃ?"
ここぞとばかりに口付けようとする拳崇を殴りつけながら、鎮は苦笑いを浮かべていた。
☆
翌日早朝、アテナはこの地を後にした。
未だ見ぬ強者と拳を交え、忌まわしい呪縛から解き放たれるために。
彼女の闘いは、今、始まったばかりなのだ。