This website is written in Japanese (Shift_JIS).


北海道のアゲハチョウへようこそ !

当サイトの記載内容および画像の無断転載は一切禁止します。


  1. はじめに

    「北海道のアゲハチョウ」へようこそ。このページは北海道に生息しているアゲハチョウ(1)の紹介サイトです。ここではアゲハチョウについて飼育・観察して理解を深めることを目的としています。アゲハチョウを駆除しようと考えて訪問された方にとってはありがたくないサイトですが、「敵」を知ることも大切なことですので、ぜひご一読下さい。
     アゲハチョウは日本全土で見られ、北海道でも一般的に見られる大型の蝶です。アゲハチョウは大型の蝶でありながら比較的成長が早く、若齢幼虫から1ヶ月ほどで成虫となって羽ばたきます。この成長過程を観察することは日数的にも内容的にも初めての昆虫飼育観察や夏休みの自由研究課題として最適です。また、カブトムシやクワガタムシのような地中で生活する幼虫やヤゴのように水中で生活する生物と比較しても脱皮や完全変態の様子を観察しやすく、後述の食草(エサ)さえ確保しておけば、アゲハチョウの幼虫飼育は難しくはありません。たとえば、大きなサンショウの鉢植えがあれば、そこに幼虫を付けて最後まで手をかけずに観察しているだけで済みます。
     2007年当時は、アゲハチョウ幼虫の詳細で鮮明な画像を掲載したサイトがほとんどなかったため、子どもの自由研究を機会にこのようなサイトを作成してみました。内容的に小学校低学年以下の子どもにとっては難しいことも含まれています。大人が当サイトをご覧になり、子どもの飼育観察のアドバイスをするようなことを想定して作成しています。それぞれのアゲハチョウの「成長記録紹介」ページでは、幼虫の成長の様子を画像を交えて詳細に説明しております。現在飼育中の幼虫が今どの段階にあるのか、あと何日ぐらいで脱皮するのか等を飼育の参考にしてください。
     なお、当方は蝶類に関する専門家ではないため、文章中の誤記や不正確な記述もあろうかと思います。ご指摘やお問い合わせは、 の方へ投稿していただければ幸いです。「よくあるご質問」コーナーも設けましたのでご利用下さい。
    ----------------------------------
     (1) 一般にはナミアゲハ(Papilio xuthu)のことをアゲハあるいはアゲハチョウと呼ぶこともありますが、このサイトではアゲハチョウ科の蝶全般のことをアゲハあるいはアゲハチョウと呼び、ナミアゲハとは区別することにします。

    当サイトでは成虫(蝶)だけではなく、幼虫の写真も掲載しております。
    幼虫・青虫・イモムシが苦手な方には当サイトの閲覧をお勧めできません。

  2. アゲハチョウについて

    アゲハ アゲハチョウ科のうち、北海道に生息しているのは、ナミアゲハ(アゲハ,Papilio xuthu)、キアゲハ(Papilio machaon hippocrates)、カラスアゲハ(Papilio bianor dehaanii)、ミヤマカラスアゲハ(Papilio maackii)、オナガアゲハ(Papilio macilentus macilentus)、ヒメギフチョウ(Luehdorfia puziloi yessoensis)、ウスバシロチョウ(Parnassius glacialis glacialis)、ヒメウスバシロチョウ(Parnassius stubbendorfii hoenei)、ウスバキチョウ(Parnassius eversmanni daisetsuzanus,天然記念物)の9種類です。これら「北海道のアゲハチョウ」のうち、一般的によく見られるナミアゲハ(アゲハ)、キアゲハ、カラスアゲハ、ミヤマカラスアゲハの4種類について画像を交えながら生態や飼育方法についてご紹介します(他のアゲハに関しても撮影出来次第ご紹介する予定です)。
     北海道以外でのアゲハチョウ飼育観察においても参考になることが多いと思いますが、アゲハチョウに限らず北海道の動植物は本州以南とは異なっていることが多々あります。たとえば本州ではごく一般的に見られるクロアゲハ(Papilio protenor demetrius)やアオスジアゲハ(Graphium sarpedon nipponum)は北海道には生息していませんし、同様に生息しているアゲハでも発生時期が異なり、またオナガアゲハの場合は食樹が本州産とは異なります(2)。柑橘系の常緑樹や同じくミカン科でアゲハチョウの飼育に一般的に利用されているコクサギやカラスザンショウも北海道には自生していません。このように北海道では本州以南とは生息しているアゲハチョウの種類や自生している植物・食草・食樹など異なることから、タイトルに「北海道の」と入れております。北海道以外の方は、ここに掲載されている内容と異なることがあるかも知れないということを頭の片隅に留め置いてください。
     蝶の飼育観察と言えばモンシロチョウ(Pieris rapae)が一般的ですが、モンシロチョウはいわゆる外来種であるため(3)、生態を観察するのであればアゲハチョウなどの元々その地域に生息している種類(在来種)を観察する方がより良いでしょう(4)。また、モンシロチョウ飼育で、幼虫である青虫にエサとしてキャベツを与えることから、『蝶の幼虫はみなキャベツを食べる』とか『蝶の幼虫は青虫で、毛虫は蛾の幼虫である』といった間違った知識が広まっています。蝶の幼虫でキャベツを食害するのはモンシロチョウとオオモンシロチョウ(Pieris brassicae)などシロチョウ科の一部で、蝶の種類で考えるとむしろ少数派です。たとえばアゲハチョウ科幼虫の多くはミカン科の葉しか食べず、絶対にキャベツは食べません。その一方、全てのアゲハチョウ科の幼虫がミカンの葉を食べるわけでもありません。それぞれの種類で食べる葉が決まっています。このように決まった種類のものしか食べない性質のことを狭食性(きょうしょくせい)と言います。また幼虫の形状に関しても、エゾシロチョウ(Aporia crataegi adherbal)幼虫のように青虫ではなく毛虫の場合もありますし、タテハチョウ科幼虫のように見るからに触ると痛そうな棘(とげ)形状を持つ幼虫もいます(タテハチョウ科幼虫の棘は、実際には触っても痛くありませんし、毒もありません)。アゲハチョウの幼虫も終齢で緑色(青虫)になることが多いですが、ジャコウアゲハ(Atrophaneura alcinous alcinous)やウスバシロチョウなどのように青虫にならない幼虫もいます。様々なアゲハチョウを飼育することで、同じアゲハチョウ科の中でも種類が違うと幼虫の色や形態が異なり、エサとなる食草・食樹も異なることがあることを理解してください。
     飼育は難しくはありませんが、自然界を見ると、幼虫が無事に成長し蝶に羽化することの方が極めて希なことです(後述の「飼育する上での注意」)。子犬や子猫を飼って育てるのとは違い、飼育している幼虫は必ず蝶になるわけではないと考えて下さい。
     幼虫の成長の様子をご覧になりたい方は、下記のそれぞれのアゲハ画像をクリックして下さい。
    ----------------------------------
     (2) 永盛 俊行 Jezoensis(えぞえんしす) No.14 1987年11月
     (3) 日浦 勇 著 海をわたる蝶 (ISBN-10 : 4061597191 , ISBN-13: 978-4061597198) 講談社学術文庫 2005年7月
     (4) 生物はもともと生息していた地域の気候に合わせて進化していますので、気候や環境が異なる地域での生息には適していません。時期はずれに孵化(ふか)、羽化、産卵するようなことがあります。また、在来の生物や植物はそのバランスを保った状態にありますが、外来種が入ってきて増えることで、このバランスを崩してしまうおそれがあります。特に外来種に対する天敵がいないこともあり、急激に増えることもあります。外来種の元々の食草がなく人が育てている栽培種を食害すること(たとえばモンシロチョウによるキャベツやケールの食害など)、在来種と競合して追いやってしまう等の問題があります。

    ナミアゲハ ナミアゲハ : Papilio xuthus
    日本全域(北海道・本州・四国・九州・沖縄)、台湾、中国、朝鮮半島などに分布し、一般的に見られるアゲハチョウです。北海道でも道央・道南では一般的ですが、道東や道北では少ないようです。普通にアゲハと呼んでいるのはこのナミアゲハのことです(並のアゲハという意味です)。幼虫はミカンの他にレモン、カラタチ、サンショウ、キハダ、ルーなどミカン科全般(Rutaceae)を食草とします。幼虫は日向を好み、葉の表側に付いていることが多いです。
     成虫はキアゲハに非常によく似ていますが、前翅の上の方に3本の縞模様があるかないかでナミアゲハとキアゲハを見分けます。 北海道では、ナミアゲハの分布はミカン科のうちのサンショウの分布に一致していると言われ、主な食草はサンショウです。北海道でも庭にサンショウを植えている家が多いため市街地でもよく見られます。確たる証拠はありませんが、北海道のナミアゲハについてはサンショウやミカンの苗に付随して本州から持ち込まれたものが増えたのではないか、と筆者は推測しています(5)。この件に関しても情報やご意見を の方へ頂ければ幸いです。
     ナミアゲハの駆除について
     ナミアゲハはミカン科全般を食草とするため、ミカンやサンショウの害虫とされています。成虫は比較的小さな苗でも見つけ、木の大きさにかかわらず多数の卵を産み付けることがあります。駆除の前にまずは小さな苗は外に出さないようにしたり、ネットで覆うなどして下さい。ミカンの鉢植えなどを外に出す場合、ナミアゲハは日当たりの良いところに産卵する傾向が見られますので、日陰に置くだけでも防虫の効果があります。人の背丈以上もある比較的大きな木の場合には、そのままにしておいてもその多くが成長途中で天敵に食べられてしまい、アゲハの食害が原因で木を枯らしてしまうことはありません。
     どうしても駆除しなければならない場合には、殺虫剤を使用せずに幼虫をミカン科以外の樹(たとえばサクラなど)に移して下さい。ナミアゲハの幼虫はミカン科以外の葉は食べませんので、移した樹で力尽きます。殺虫剤を使用する必用はありません。
    ----------------------------------
     (5) 筆者が「本州から苗と共に持ち込まれたナミアゲハが北海道で増えた」と推測している根拠は、(a)1980年代以前は、ナミアゲハをほとんど見かけなかったこと、(b)秋になってから産卵するなど北海道の季節に順応していないこと、(c)山間部のサンショウやキハダでは幼虫を見かけず街中で多く見かけること、などです。もちろんこれは筆者の推測にすぎません。支持できる証拠や反論もお待ちしております。

    キアゲハ キアゲハ : Papilio machaon
    日本全域(北海道・本州・四国・九州)、ヨーロッパ、アジア、北米などに広く分布し、ナミアゲハと共に一般的に見られるアゲハチョウです。北方系のアゲハチョウであり、幼虫もセリ科の植物を食草としているため、北海道内いたるところでごく普通に見られます。成虫や幼虫が入手しやすいだけではなく食草であるセリ科の植物も簡単に入手できることから、北海道内でのアゲハチョウの飼育観察にはこのキアゲハをお勧めします。幼虫の色は1齢から4齢まで黒色で、4齢になるとオレンジ色の斑点が目立つようになり、キアゲハ特有の縞模様が現れてきます。成虫はナミアゲハに非常によく似ていますが、ナミアゲハより黄色みが強く、前翅の上の方に3本の縞模様があるかないかでナミアゲハとキアゲハを見分けます
     キアゲハの駆除について
     キアゲハの幼虫はセリ科の農作物であるニンジン、ミツバ、パセリを食べるため害虫として扱われています。家庭菜園でパセリ、イタリアンパセリ、ミツバ、ニンジンなどを栽培していてキアゲハの幼虫が食害を起こし困っている方は、農薬を使用して幼虫を駆除したりしないで下さい。農薬を使用することは自分自身が農薬を口にすることになります。『「作物の残留農薬基準は人間に影響を与えないためのものであって、虫への影響は考慮されていません。」は正しい。しかし、キアゲハを殺す残留が現在の基準値が、日本人に影響を与えない目的をはたせるのかは誰も評価していません』(パセリQ&Aより引用〔原文ママ〕)。キアゲハの幼虫は毒々しい色をしていますが、毒を持ってはいませんし人に危害を加えたりもしません。キアゲハの食害に困るような場合には、セリ科以外の別の植物へ移すだけで駆除できます。セリ科以外の野菜などは一切食べません。駆除してしまうのは忍びないという方は、他の食草(ノラニンジン、エゾニュウ、アマニュウ、イワミツバ、シシウド、セリ、アシタバなどのセリ科の植物)に移して下さい。キアゲハの駆除方法を検索してここを訪問される方が多いのでこの「キアゲハの駆除について」を書き加えました。

    カラスアゲハ カラスアゲハ : Papilio bianor
    日本全域(北海道・本州・四国・九州・沖縄)、朝鮮半島、中国などに分布し、北海道でも市街地・山間部を問わずごく一般的に見られる大型の黒色系の蝶です。カラスアゲハは比較的海に近い地域でよく見られ、内陸部ではミヤマカラスアゲハが多く見られるようです。ミカン科のうちキハダやサンショウなどを好み、ツルシキミも食樹となります。街中のサンショウに産卵することもあります。一般に本州ではカラスアゲハの方が多く見られ、ミヤマカラスアゲハの方が少ない傾向がありますが、北海道ではむしろ逆の傾向が見られます。1ヶ所に多数産卵することはなく、葉の裏面に産卵され2齢までの若齢幼虫は葉の陰にいることが多いです。
     カラスと名前が付けられていますが翅の表は黒色ではなく、オスは全体的に青みが強く、メスは緑系でいずれも光沢のある非常に美しい色をしています。オスとメスはこの色の違いやオスの前翅にある黒い毛状の性標で見分けることができます。ミヤマカラスアゲハに非常によく似ていますが、ミヤマカラスアゲハとは、翅の表面に黄緑色のラインがないことで見分けます

    ミヤマカラスアゲハ ミヤマカラスアゲハ : Papilio maackii
    日本全域(北海道・本州・四国・九州)、朝鮮半島、中国など分布し、北海道でもカラスアゲハと同様によく見られる蝶です。色形が幼虫・成虫ともにカラスアゲハに似ていますが、成虫はカラスアゲハよりも色鮮やかです。日本国内で見られる蝶の中でも最も美しい蝶の一つに挙げられます。特に北海道産ミヤマカラスアゲハの春型(蛹で越冬して春に羽化した蝶)は非常に色鮮やかで美しいです。カラスアゲハとは見た目ほどには遺伝的には近くないようです。カラスアゲハとは、翅の表面に黄緑色のラインがあることで見分けます。葉の裏面に産卵されく2齢幼虫までは葉の裏側に付いていることが多くカラスアゲハと見分けることは難しいですが、ミヤマカラスアゲハの方が体色が濃くなり、白い帯模様がクッキリと出る傾向があります。
     ミヤマカラスアゲハの食草はカラスアゲハとは若干異なり、キハダ、カラスザンショウ、ハマセンダンといった野生種のみです。一度だけ、サンショウで飼育したことがありましたが蛹化しませんでした。ただサンショウで飼育したため蛹化しなかったのか、それとも他の原因で蛹化できなかったのかはわかりません。
     オスとメスの違いは、カラスアゲハと同様に翅の色やオスの前翅にある黒い毛状の性標で区別することができます。北海道ではキハダに産卵されて育ちますので、市街地より山間部に多く、オニユリ、クサギ、宿根フロックスなどに飛来する姿をよく見かけます。

  3. 成長日数について

    これら4種のアゲハチョウ(ナミアゲハ、キアゲハ、カラスアゲハ、ミヤマカラスアゲハ)はいずれも卵から孵化した後、2齢幼虫、3齢幼虫、4齢幼虫、5齢(終齢)幼虫へと4回の脱皮を経たのちに5回目の脱皮で蛹になります。ナミアゲハとカラスアゲハのページでは孵化からの日数、そして脱皮からの日数を記載していますのでこれらを目安にしてください。カラスアゲハの成長日数は他の種類と比較して長いようです。
     成長日数は季節、天候、個体によって異なりますので本ページの日数と全く同じ日数で成長するとは限りません。経験上、新鮮な食草が豊富にあり、気温が25℃前後で安定している状況下では下記の日数より若干早く成長します。孵化から蛹化までの最短日数例では、ミヤマカラスアゲハで14日というのがありました。逆に食草の鮮度が落ちたり、不足している場合、あるいは気温が低すぎる場合には成長速度が遅くなる傾向があります。孵化から蛹化までの最長日数例では、カラスアゲハで30日という例がありました。時期的には夏における成長は早めで、秋口の成長は遅くなります。
     孵化から成虫が羽化するまで、夏型の場合は約5週間〜6週間程度かかります。蛹の状態で越冬し翌春に羽化する春型の場合にはさらに半年以上かかります。この間、何時脱皮したのか、次は何時脱皮するのか等がわからなくならないよう、デジタルカメラで撮影しておくか脱皮した日時などを記録しておくようにしましょう。また、飼育するからには途中で投げ出したりせずに羽化するまでしっかりと面倒を見ましょう。

    ナミアゲハ・キアゲハ・ミヤマカラスアゲハが羽化するまでの日数(越冬しない場合の一例)

    産卵
    孵化
    終齢
    (青虫)
    蛹化
    羽化
    1齢
    2齢
    3齢
    4齢
    5齢
    前蛹
    成虫
    5日〜10日
    4日
    3日
    3日
    4日
    6日
    1日
    10日

    カラスアゲハが羽化するまでの日数(越冬しない場合の一例)

    産卵
    孵化
    終齢
    蛹化
    羽化
    1齢
    2齢
    3齢
    4齢
    5齢
    前蛹
    成虫
    5日〜10日
    6日
    5日
    5日
    6日
    6日
    1日
    10日

    各成長過程における体長

    1齢
    2齢
    3齢
    4齢
    5齢
    1mm
    2mm〜6mm
    5mm〜11mm
    10mm〜18mm
    15mm〜30mm
    25mm〜60mm

  4. 卵・幼虫の入手方法

    卵・幼虫の入手方法としては、(1) 既に産卵された卵や孵化した幼虫を捕獲する、(2) 食草を栽培し産卵を待つ、(3) メスを捕獲して産卵させる、などの方法があります。
     最も簡単なのは、(1)の既に食草に付いている卵・幼虫を見つけ出すことですが、大きくなった4齢、5齢幼虫は既に寄生虫(アゲハヒメバチやヤドリバエの幼虫)が寄生していることが多く、飼育してもアゲハチョウが羽化しない可能性があります。卵や1齢幼虫は非常に小さいため見つけにくいですが、なるべく幼虫が小さいうち(若齢のうち)に捕獲してきて飼育するのが良いでしょう。アゲハ幼虫の探し方ですが、小さな若齢幼虫自体を探そうとしても慣れていないとなかなか見つけることができません(見なれていても、なかなか見つけ出すことはできません。すぐ見つかってしまうようなら、簡単に外敵に襲われてしまいます)。そこで、直接幼虫を探さずに、食痕(しょっこん)を頼りに幼虫を探します。食痕とは幼虫が葉を食べた痕跡です。食痕があれば、近くに幼虫がいる可能性があります。
     カラスアゲハはサンショウにも産卵しますが、小さな木よりも人の背丈以上に育った比較的大きなサンショウに産卵ことが多いようです。サンショウでカラスアゲハを探す場合には大きなサンショウの木を探すようにしましょう。
     ミヤマカラスアゲハの場合には、低木には産卵することは少なく、ほとんどがキハダの木の高い位置に産卵しますから、たとえキハダの木を見つけたとしても卵や幼虫を見つけるのは困難です。ミヤマカラスアゲハを飼育する場合には(3)の方法が現実的でお勧めです。
    ナミアゲハの産卵  (2)の産卵を待つ場合は、用意した食草をアゲハチョウに見つけてもらわなければならず、確実性が劣ります。経験上、ナミアゲハやキアゲハは比較的簡単に産卵してくれますから、ナミアゲハやキアゲハの飼育を考えている場合は、この方法でもかまいません。
     (3)の方法は、飼育したいアゲハチョウの種類が決まっているような場合に用います。キアゲハの場合にはセリ科の食草にしか産卵しないので種類は確実にわかりますが、その他のアゲハチョウの場合は、特に卵や1齢幼虫の状態では種類を判別しにくいです。そこで、飛んでいるメスのアゲハチョウのほとんどが産卵できる状態にあるので、飼育したいアゲハチョウ成虫のメスを捕獲し、食草に産卵させることを考えます。この場合は決まった食草以外には産卵しませんから、事前に産卵させる食草を用意しておく必要があります。
     カラスアゲハやミヤマカラスアゲハのメスは色が違いますからすぐにわかります。キアゲハやナミアゲハの場合には交尾器がないかどうかでメスを判定しますが(尻の先端が細くなって二つに割れている場合はオス)、実際には捕獲してみないと判別は難しいです。とりあえず捕獲して食草に前足を付けさせて産卵を促すという方法でもかまいません。
     北海道では、成虫には大きく分けて1年間に2回の発生時期があり、これを年2化と言います。地域や種類によっては年に3回発生すること(年3化)もあります。たとえば北海道で春型が羽化するのは6月頃、夏型として発生するが8月頃になりますから、この成虫の発生時期を考慮しておく必要があります。この時期を外すと成虫を探してもなかなか見つけることができません。


  5. 幼虫のエサ(食草・食樹)

    アゲハチョウの幼虫を飼育する場合、まず注意しなければならないのが食草・食樹(エサ)を十分に確保(できるように)しておくということです。また、アゲハチョウ幼虫はそれぞれ決まった種類の葉しか口にせず、葉であれば何でもよいというわけではありません。たとえば、アゲハチョウ幼虫にキャベツを与えても絶対に食べません。
     アゲハチョウ幼虫は3齢幼虫までは体も小さく、それほど食べないので少ない食草でも困りませんが、4齢、5齢と脱皮するにつれて食べる量が多くなり、特に5齢幼虫は非常に食欲旺盛で少量の食草ではすぐに尽きてしまいます。たとえば、最も食欲旺盛な時期である蛹化前では一日でキハダの小葉を3枚〜4枚食べることもあります。確保できる食草を考えずに幼虫を集めすぎることは、不幸な結果を招きます。全く手つかずの鉢植えを予備に置いておくなど、少なくとも「現在の食草でまだ数頭余計に飼うことができる」程度の余裕をもって飼育するようにしましょう。
     また、後述の農薬(殺虫剤)の問題もありますので自然に生えている食草か、あるいは自分で育てた食草を与えるようにしましょう。以下でアゲハチョウの主な食草をご紹介します。

    ナミアゲハ ナミアゲハ
    ミカン科の植物なら比較的何でも食べます。ミカンの他にレモン、カラタチ、サンショウ、キハダルー(ルーはブルーリーフルー、ヘンルーダ等とも呼ばれ、園芸店ではネコ除けの「ネコよらず」として売られています。)などミカン科全般を食草とします(6)。ただし、ミカンの古い葉は硬く若齢幼虫が食べることができません。若齢幼虫にミカンの葉を与える場合には、その年に生えてきた比較的新しい葉を与えるようにします。北海道ですと柑橘系の植物は屋外では枯れてしまいますので、サンショウの木を用意しておくのが良いでしょう。サンショウで育てた幼虫を途中からキハダに移してもそのままキハダを食べて育ちます。
    ----------------------------------
     (6) ナミアゲハは、ミカン科に含まれるポリメトキシフラボノイド(ポリメトキシフラボン)などによって誘引され、摂食が誘起されます。

    カラスアゲハ カラスアゲハ
    ミカン科のうち、サンショウ、キハダ、カラスザンショウ、コクサギ、ハマセンダンなどを好むようです。北海道以外ではカラスザンショウやコクサギに産卵する場合が多く、あまりサンショウには産卵しないようです。北海道で育つ木となるとサンショウかキハダになりますが、比較的入手しやすいサンショウをお勧めしておきます。ナミアゲハと同様に、飼育途中にサンショウからキハダに移してもそのままキハダを食べて育ちます。

    ミヤマカラスアゲハ ミヤマカラスアゲハ
    色形が幼虫・成虫ともにカラスアゲハにそっくりですが、食草(の好み)は若干異なります。ミヤマカラスアゲハはミカン科のうち、キハダ、カラスザンショウ、ハマセンダンといった野生種を好みます。ミカン等の栽培種には産卵もせず、幼虫に与えても食べないようです。カラスザンショウやハマセンダンは北海道にはありませんので、食草としてはキハダが適しているということになります。

    キアゲハ キアゲハ
    上記のアゲハとは異なり、キアゲハの場合にはセリ科の植物であるセリ、パセリ、ニンジン、ミツバ、イワミツバ、アマニュウ、ハマウド、シシウド、フェンネル、エゾニュウなどを食草とします。ミカン科の植物に付く例がありますが、北海道ではミカン科よりセリ科の方が入手しやすく「キアゲハの食草はセリ科」と考えて問題はありません(7)。セリ、ニンジン、エゾニュウ、イワミツバなどが入手しやすくお勧めです(エゾニュウに産卵するキアゲハ)。また、道路脇や草地などに群生しているノラニンジンも食草として利用できます。キアゲハの食草であるセリ科の植物は豊富で簡単に入手できるので、初めてアゲハを飼育される場合にはこのキアゲハの飼育をお勧めします。
     ただし、食草がなくなったからといって食料品売場で売られているパセリやミツバを買ってきて与えてはいけません。またホームセンターなどで販売されている苗も避けた方が良いでしょう。市販されている食用パセリなどには農薬が使用されているため(後述の農薬・殺虫剤)、キアゲハの幼虫はすぐに死んでしまいます。本州では比較的身近に柑橘系の樹(ミカン、ユズなど)があるので、その葉をエサとして代用することが可能です。もしエサが不足してしまった場合には、市販品のセリ科葉物野菜ではなく、ニンジン自体を薄く切って与えるようにしましょう。
    ----------------------------------
     (7) キアゲハは、ミカン科マツカゼソウ属とセリ科植物に含まれるエストラゴール(メチルカビコール)やアネトールなどの精油類によって誘引され、摂食が誘起されます。
    1968年2月24日発行 総説「食糧-その科学と技術- No.11」の「食品害虫の食性」p.96

  6. アゲハチョウ(成虫)のエサ

    アゲハチョウ(成虫)のエサは、もちろん花の蜜であり、樹液に集まることはありません。花であれば何でも良いかというとそういうわけでもなく、よく集まる花とあまり吸蜜に来ない花があります。よく集まる花の代表例としては、オニユリ、宿根フロックス(北海道で盆花と呼んでいる花)、クサギ、ネムノキ等です。アゲハチョウの羽が花粉で赤く染まっているのをよく見かけますが、これはオニユリの花粉が付いていると思われます。ユリの花に必ず集まるわけではなく、カサブランカのような栽培種のユリにはあまり寄ってこないようです。
     羽化したアゲハチョウを室内で飼育するような場合、エサとしてはスポーツドリンク(ポカリスエットやアクエリアスなど)を薄めて与えます。スポーツドリンクがない場合には砂糖水や昆虫ゼリー(市販されているカブトムシやクワガタのエサ)の液を薄めて与えます。自ら吸蜜行動を取らない場合には、ツマヨウジなどで口吻(こうふん=蜜を吸うストロー)を伸ばしてエサに付けてあげると吸い出します。

  7. 蛹(さなぎ)の越冬

    蛹の越冬
     アゲハチョウが越冬する場合は、蛹の状態で越冬します。この越冬状態のことを休眠(きゅうみん)と言い、越冬する蛹のことを休眠蛹(きゅうみんよう)と言います。休眠しない場合には、蛹になり10日ほど経って羽化し、この休眠しない蛹のことを非休眠蛹と言います。休眠蛹になるかどうかは主に若齢幼虫時の昼間の長さに依存します。蛹のまま休眠(越冬)するかどうかは、ごく一部の種類を除いて蛹の色では判別できません。蛹の色は周囲の環境によって決まり(8)、休眠するかどうかで決まるわけではありません。そのため茶色い蛹だからといって休眠するとは限りませんし、緑色の蛹でもそのまま越冬することもあります。初夏から盛夏にかけて日が出ている時間が長いときに成長した幼虫は休眠蛹にはならず、その年の夏に羽化し、これを夏型と言います。
     晩夏から秋にかけて日が短くなってくると、その時期に成長した幼虫は休眠蛹となり、蛹の状態で越冬し翌春に羽化し、これを春型と言います。蛹になってから2週間以上経っても羽化しない場合には、休眠蛹になった可能性があります。この場合にはもう1週間程度様子を観察し寄生蜂に寄生されていないかを確認します。蛹になってから3週間を経過しても変化が見られない場合には休眠蛹になったと判断できます。もちろん蛹の間はエサも水も与える必要はありませんし、霧吹きも必要はありません(霧吹きをするというはカブトムシやスズムシのマットと混同しているようです)。
     休眠蛹になってから数ヶ月で羽化のプロセスが始まりますが、室内に置いておくと蛹になってから4ヶ月ほどすると羽化してしまいます。9月に蛹になったとすると真冬の1月ごろに羽化することになります。したがって、休眠蛹は必ず屋外(あるいは冬期間に寒くなり春まで暖かくならない場所)に置いておきましょう。自然の状態では休眠蛹は北海道の寒さにも耐えて越冬しますので、屋外に出しておいても寒さや凍結が原因で死んでしまうことはありません。
    ----------------------------------
     (8) 平賀壯太著 蝶・サナギの謎(ISBN : 978-4-88716-158-0) トンボ出版 2007年3月


  8. 飼育方法
  9. 飼育する上での注意

    前述の通りアゲハチョウ幼虫の飼育は比較的簡単ですが、幼虫全てが成長して必ず蝶になるというわけではなく、むしろ寄生虫や捕食者などの要因により蝶にはなれない方が多いのです。産卵された卵のうち、自然界で最終的に成虫になるのは第1世代で約0.6%と言われています(9)。アゲハチョウのメスは平均で約200個も産卵すると言われていますから(10)、そのうち蝶になれるのは平均すると1頭から2頭程度ということになります。1頭のメスが産卵した卵から2頭平均で蝶になれれば個体数を維持できますから、この約0.6%という割合は決して少なすぎるわけではありません。
     そこで、この産卵された卵のほとんどを蝶に育てて放蝶するとどうなるでしょうか。個体数が増えすぎて食害を増やし、強いては自らの食草を減らして生育環境を悪化させることになるかも知れませんし、幼虫が極端に増えることで、それに寄生する寄生蜂も増えてしまうかも知れません。アゲハチョウを好きな人にとって、これらのチョウがたくさん見られることは嬉しいことかも知れませんが、ナミアゲハはミカン科の植物を、そしてキアゲハはセリ科の植物を食害します。このような果物や野菜を育てている方にとって、アゲハチョウ等が増えることは非常に迷惑なことになるのです。むやみに飼育数を増やして放蝶するようなことは避け、どうしても数多く育ててデータを取りたいという場合には、放蝶はせずに最後まで自分で飼うようにしましょう。
     アゲハチョウに限らないことですが、飼育してみると他の種類に関しても飼育してみたくなると思います。もちろん異なる種類を飼育して違いを観察することは大切なことですが、本来その地域に生息していなかった種類を放すようなことは絶対にしてはいけません。元々生息していた種類(在来種)を追いやったり、他から病気を持ち込んだり、交雑して目には見えない遺伝子のレベルでの『汚染』が広がったりしてしまいます。本州各地で、朝鮮半島に生息しているアゲハチョウ科のホソオチョウや中国産のタテハチョウ科アカボシゴマダラが放蝶されている例が報告されています。ホソオチョウは在来種のジャコウアゲハと、アカボシゴマダラはオオムラサキやゴマダラチョウと食草が同じであるため、これらの在来種の生育環境を脅かします。また、同じ種類だからといって、他地域で採取した種を放すことも絶対に避けましょう。
     以上の点に注意して飼育するようにしましょう。以下では実際に幼虫を飼育する上でに注意事項について説明します。
    ----------------------------------
    (9) 渡辺 守 著 森と草地の間にて - ナミアゲハの生態学(ISBN-10 : 4803600678, ISBN-13 : 9784803600674) たたら書房 1983年6月
    (10) 山中 正博 : アゲハの日当たり産卵数の推定 Estimation of Egg Number Oviposited per Day by a Female of Papilio xuthus LINNE (Lepidoptera, Papilio). 昆蟲(Japanese journal of entomology) ISSN: 0915-5805 Vol: 46 (2) 1978 Page: 329 -334, 出版社: Entomological Society of Japan

  10. 成長記録紹介

    下記リンク先では、各アゲハチョウの成長の様子を画像を交えて説明します。飼育中の幼虫の様子に関する気になる点、たとえば幼虫が1日程度ほとんど動かない、同じ種類なのに幼虫の色が違うなど飼育してみないとわからない事柄について説明しています。また、現在飼育中の幼虫が今どの段階にあるのか、あと何日ぐらいで脱皮するのか等、飼育の参考にしてください。

    下記リンクでは成虫(蝶)だけではなく、幼虫の写真も掲載しております。
    幼虫・青虫・イモムシが苦手な方にはリンク先の閲覧をお勧めできません。





  11. よくあるご質問

    「よくあるご質問」コーナーもご利用下さい。

  12. 参考サイト
  13. 参考文献
  14. 本ページについて

.

Valid HTML 4.01 Transitional Valid CSS!