第1巻
第4章
「ヴェーダヴィヤーサの懊悩」
なぜパリークシット王が死を望みシュカが教授したのか(1-13)
(1)ヴェーダ・ヴィヤーサが語ります:
スータがこのように語ると、リグ・ヴェーダの学徒にして師であり、長期の犠牲祭のために集った賢者の中でも最年長であるシャウナカは、彼を称賛して語りました。
(2)シャウナカは語りました:
スータよ、あなたは真に神聖で、説き聞かせることにおいて巧みです。お願い致します。神聖な賢者シュカが(パリークシット王に)暗唱したように、我々にも主の神聖な物語を語り給え。
(3)この物語が語られたのは、如何なるユガ(無限に長い時代)においてなのでしょうか? どこで、どのような状況で語られたのでしょうか? そして誰にならって、賢者クリシュナ (=ヴェーダ・ヴィヤーサ)はこのサムヒター (詩の大きい収集)を作ったのでしょう?
(4)彼の息子(シュカデーヴァ)は全てを等しく眺め、彼の目は存在の中に多様性を見ることはありません。心は神に専心し、浮世の眠りから目覚めた偉大な(神秘的な)ヨーギーです。 彼は名を伏せたままなので、人々は彼を愚かな人だと思い込みます。
(5)賢者ヴィヤーサが、(森に隠遁しようとしていた)息子(シュカデーヴァ)のあとを(ぴったりと)ついてくるのを見かけると、(路傍の池で泳いでいた)婦人達は、慎み深さから身を覆いました。(裸だった)彼の息子には気を留めることがなかったのに、服を着ていた賢者には(恥ずかしさを覚えました)。 彼女達のこの奇妙な態度に気づいて、賢者はその理由を尋ねました。すると彼女達は答えました。あなたは今なお性の区別をもっていらっしゃいますが、あなたの息子さんは性を区別する意識はありませんでした。息子さんの洞察力は完全であり(まったく相違を認めませんでした)。
(6)シュカが、クル・ジャンガラ国を訪れて、ハスティナープラを、気が狂い、愚かしくそして鈍感な人のように歩き回った時、かの市民は一体どのようにして彼を認めたのでしょうか?
(7)そして、このバーガヴァタ・プラーナを朗唱した時に、どのようにして王仙パリークシット(パーンドゥの御曹子)は、かの賢者と語り合ったのでしょう?
(8)神聖極まりない賢者(シュカデーヴァ)は、家住者の戸口で、彼らの住居を神聖にするために、牛の乳を絞る間だけ待ちます。
(9)パリークシット王(アビマニユの息子)は、おおスータよ、主の卓越した信者と聞いています。どうぞ我々に、彼の素晴らしい出生と行為の物語を語ってください。
(10)パーンダヴァの栄光を高めたその皇帝が、なぜ帝国の富を捨て、断食の誓いとともに死に至るまで、ガンジス河の岸辺に坐していたのでしょう?
(11)敵でさえも、庇護を求めて富を持参し、彼の足下に捧げました。それはとても奇妙なことです。親愛なるスータよ。彼がとても若かった時には勇壮な王子でした。命と同様に、放棄するのが難しいかの繁栄を捨て去るという考えが、なぜ浮かんだのでしょう?
(12)高名な主に信愛を捧げている人々は、自分自身のためではなく、世の福利、そして富裕と繁栄を増進するために生活します。それなら何故、彼は嫌悪にかられて、人々の支えともなる肉体を放棄したのでしょう?
(13)それゆえに、どうかお願い致します。この機会に我々が訊ねた全ての疑問にお答え下さい。というのも、我々は、あなたがヴェーダを除く神聖な言い伝えの全てを会得したことを知っているからです。
ヴェーダ・ヴィヤーサのヴェーダ編纂とプラーナの作成(14-25)
(14)スータが答えました:
ドヴァーパラの時代、現在のチャトルユギー(サティヤ からカリまで4つのユガの時期)の3番目のユガに偉大なヨガ行者、シュリー・ハリ(ヴィシュヌ)の一部の顕現であるヴィヤーサは、(ウパリチャラ・ヴァスの種子から生まれた)サティヤヴァティーと賢者パラーシャラから生まれました。
(15)ある日、サラスヴァティー河の神聖な水で沐浴をし、日の出に人里はなれた場所に座りました。
(16-18)かの賢者は、過去であれ現在であれ、未来であれ、全てを見通すことができました。賢者は、人知れずに流れ行く時に従って、義務がいかにして混同されてきたかを見ました。混同によって物質的な存在の潜在力は減少し、人々は不遜で、弱く、鈍感で、短命になっていきました。 人々がこうまで不幸なことを知って、賢者は原因を探り始めました。神聖な洞察によって、人々の繁栄は、社会の階級(ヴァルナ)と人生の生活時期(アーシュラマ)全てに帰すことを知りました。
(19)人々を清めるヴェーダの犠牲祭は、4人の司祭(すなわち、ホーター、アドヴァリウ、ウドガーターとブラフマー*)の仲立ちで行われるのですが、その犠牲祭の意義を理解すると、犠牲祭が継続するようにと、唯一であったヴェーダを4種に分割しました。
*ホーター (Hota) の役割はリグ・ヴェーダ (RgVeda) を暗唱して神々に祈ることである。アドヴァリウ (Adhwaryu) の役割は、儀式を行う土地を測って、祭壇を作り、容器を準備して、木と水を取って来て、ヤジュル・ヴェーダ (Yajurveda) などを繰り返す間、火を灯す役目である。ウドガーター (Udgata) はサーマ・ヴェーダを詠唱し、ブラフマー (Brahma) は儀式を統括し、誤りを正すのが役目である。
(20)そこで彼はリグ・ヴェーダ、ヤジュル・ヴェーダ、サーマ・ヴェーダとアタルヴァ・ヴェーダの4種に分割しました。イティハーサ (史書) とプラーナは5番目のヴェーダと呼ばれます。
(21)パイラは、これらのうちのリグ・ヴェーダを受け取りました(教えられました)。予言者ジャイミニは(最初に)サーマ・ヴェーダの歌詠法を学び、そしてヴァイシャンパーヤナはヤジュル・ヴェーダを会得した唯一の人でした。
(22)ダールナの息子 、賢者スマンツは、アタルヴァ・ヴェーダに熟達しました。それに対して私の(スータの)父、ローマハルシャナは 、イティハーサとプラーナに精通致しました。
(23)これらの賢人達(パイラと他の聖者達)は、各々のヴェーダをいくつかの支派に分けました。このようにして、生徒とから次の生徒へと、これらの聖者達の生徒を通して4種のヴェーダは、数多くに分岐していきました。
(24)理解力に乏しい人々への同情から、神聖なるヴィヤーサは、愚鈍な人々でさえも、(多少なりとも)ヴェーダを保持することが可能であるようにと分割したのです。
(25)女性たち、シュードラや堕落したバラモン、クシャトリヤとヴァイシャは、ヴェーダを聞くことさえ禁じられており、彼らがどのように善行を行うべきか知らなかったのを理解すると、女性や他の人々が同様に幸運を得られるようにと、賢者(ヴェーダヴィヤーサ)は叙事詩 マハーバーラタを構成しました。
ヴィヤーサの自問(26-33)
(26)ヴィヤーサは、常に生きとし生けるものに善を行うことに専心してきましたが、おおバラモンよ 、彼の心はそれに満足してはいませんでした!
(27)不安を抱えて、ダルマの秘密(正義)を知っていた賢者は、サラスヴァティー河の人里離れた神聖な岸に座りながら考え込んでしまいました。そして一人語るのでした。
(28)「独身主義の誓戒を遵守し、敬意を払ってヴェーダを研究して、年長者に仕え、そして犠牲の火を礼拝し、正直にそれらの教訓に従いました。
(29)私はまたヴェーダの趣旨をマハーバーラタを通して明らかにしました。それは、女性やシュードラや他の人々が 各々の義務を見出すことができ、そしてまた、他多くのことを説明するためでした。
(30)私は神聖な知識に秀でた人々の中でも際立った者であり、神秘的な力もまた身につけているにもかかわらず、私の魂それ自身は、その真の本質(ブラフマンと一つであること)を今なお理解しておりません。
(31)それは私がまだ完全に人を主に導くことができる美徳について十分に説明できないからでしょうか? これらの美徳は神を理解した聖者によって愛されるものであり、それらだけがヴィシュヌ神御自身にとって貴重なのです。
(32)賢者クリシュナ・ドゥワイパーヤナ(=ヴィヤーサ)がこのような欠乏の意識に苛まれ悲しんでいると、ナーラダが、彼の庵に立ち寄りました。
(33)賢者ヴェーダ・ヴィヤーサは、ナーラダが来るのを見ると、彼を迎え入れようと直ぐに立ち上がりました。そして神々にさえも崇められる神々しい聖者に、正しく崇拝を捧げました。