「被団協」278号 2002.3月

主な内容
1面 集団訴訟運動の意義  米・英共同の臨界前核実験に抗議
2面  集団訴訟について検討会   原爆症認定裁判、在外被爆者裁判  平和祈念館の説明文 「核かくしかじか」
3面 (1面のつづき)集団訴訟運動の意義
4〜6面 集団訴訟運動資料
7面 各地の動き
8面 相談のまど「福祉定期預貯金の取扱い終了について」


「集団訴訟」運動の意義

 事務局長に聞く
 日本被団協は、昨年10月の全国代表者会議で、原爆症認定制度の抜本改善をめざす「集団訴訟」運動を提起し、全国の被爆者に、原爆症認定申請に積極的に立ち上がるよう呼びかけました。この呼びかけに応えて各地で具体的な取り組みがはじまり、運動は急速に広がっています。
 いまなぜ「集団訴訟」なのか、日本被団協の田中煕巳事務局長に聞きました。

―なぜいま「集団訴訟」なのですか?
田中 いまの原爆症認定制度は、被爆の実情や被害の実態にまったく合わない、きわめて冷たいものです。
 被爆者は原爆のせいでさまざまな病気にかかり苦しんでいますが、国は被爆者が原爆症の認定を申請しても、被爆距離などを機械的に当てはめて「放射線の影響はない」と簡単に却下します。
 このような認定制度のあり方を根本から改めさせることを目指すのが「集団訴訟」運動です。
 長崎の松谷さんのように、誰が見ても原爆症であることが明らかであっても、国は「放射線によるものではない」として、地裁、高裁で敗れても控訴し、最高裁で決着がつくまで12年間も裁判をつづけました。
 松谷裁判や京都裁判では、弁護団、医師団、専門家らの奮闘で国側の言い分に理がないことが次々に暴かれました。被爆者はもちろん、全国的な支援の輪が広がりました。国が原爆症認定の「物差し」にしてきたDS86という被爆線量推定方式の機械的な適用の誤りや、原爆の被害に対する国の姿勢に問題があったと、判決で指摘されたことは大きな成果です。
 しかし国は、最高裁の判決が出てもなお従来の制度を変えるどころか、「原因確率」といういっそう機械的な尺度を持ち出しています。
 いま、個人では東京の東さんや北海道の安井さんが裁判でたたかっています。「集団訴訟」は、これまでの裁判の成果をさらに発展させるものです。
 普通には敷居が高い裁判を、みんなで力を合わせてやることで一人ひとりの手続きのわずらわしさや費用の負担などを軽くできるし、各地でいっせいに訴訟を起こせば大きな世論をつくることもできるでしょう。
 被爆距離などにこだわらず積極的に認定申請を出し、却下された場合にはいっせいに裁判に訴え、国の姿勢を根本的に糾そうではありませんか。(3面につづく)

(1面からのつづき)
―「集団訴訟」の意義はわかるが、「高齢化がすすみ体力的にも気力的にも無理を感じる」「もう余生を静かに送れればよい」といった声もあるようですが。
田中 その気持ちは私もよくわかります(笑)。でも、高齢化した被爆者にも残された人生でまだまだやることがたくさんあると思うのです。
 国際法違反の原爆投下、その被害を長年にわたり受忍させてきた日本政府。これに対して被爆者が「もういい」と黙ってしまってよいのかと思うのです。原爆で殺された肉親、友人らを思い起こすとき、生き残った私たちが、ここで引き下がる訳にはいかないと思います。
 高齢化しているからこそ、個人の裁判ではなく「集団訴訟」というやり方を選んだともいえます。被爆者同士、励まし合いましょう。体力・気力に限界を感じるなら、非被爆者の若い世代に、いっしょにたたかってほしい、支えてほしいと率直に訴えましょう。
 胸を張れる余生を送ろうと、みなさんに呼びかけたいと思います。

―不十分な現行制度とはいえ、それでも医療費の窓口支払が無料になるなど「被爆者は恵まれている」という声も聞かれます。これ以上の要求は被爆者が孤立することになるのでは? という心配もありますが。
田中 確かに病院で支払いのとき「田中さんはいいです」といわれると、一寸申し訳なく感じることがあります。退院のとき「田中さんは請求がありません」と告げられたとき、同室だった人から「どうしてあなたには請求がないのですか」と言われたこともありました。似たような体験をされた方がたくさんいらっしゃるでしょう。
 医療制度がどんどん改悪されている状況のもとでは、被爆者が恵まれているように見える場面はあります。
 でもそれは、国が医療や福祉の切り捨てをすすめ、国民の医療費水準が極端に悪くなっていることが問題なのです。
 被爆者の現行施策は、被爆者が国の責任を問い、原爆被害への償いを求めてきた長年の運動で勝ちとった権利なのです。引け目を感ずる必要はないのです。そんな時には被爆の体験や被爆者としていまなお抱えている苦しみなどを話すことも大切でしょうね。
 しかし、被爆者がいまの制度に安住して、周囲の人びとの苦労に無関心であってはいけません。国民といっしょに医療制度の改善を求めることが必要です。
 亡くなられた伊藤サカエ前代表委員が最期まで強調されたように、被爆者運動はお金欲しさでやっている運動ではありません。「ふたたび被爆者をつくるな」「核兵器なくせ」「原爆被害に国家補償を」という道理が、道理として通ることを求めている運動です。
 「集団訴訟」運動も、原爆被害を償えという道理を求めることが本旨です。そのことに自信をもって、周りの人びとに語りかけましょう。

―裁判というとシロウトにはとっつきにくいのですが、とくに心がける点はありますか。
田中 すでに弁護士の先生方との話し合いも持っていますが、具体的な取り組みはこれからです。
 全国の被爆者が「集団訴訟」運動にのぞむ心構えを持つことが大前提です。この点を大切にして準備をすすめています。
 前にも触れましたが、「集団訴訟」運動は、まず認定申請から始まります。別項を参照してください。(関連4〜6面)
 心がけておくことをあげれば、裁判はひとつの手段だということでしょうか。
 「集団訴訟」の直接の課題は、現在の「原爆症認定制度」を改め、国の被爆者行政を根本的に改めさせることです。法廷では国の姿勢を徹底的に追及します。
 公害であれ薬害であれ発生した被害は、必ず原因を取り除き、再発防止の手段が講じられ、本気で被害者を救済する施策がとられてはじめて真の解決に向かいます。原爆被害の真の解決もまた、根本原因である核兵器の廃絶、ふたたび被爆者をつくらない証し、そして国がこころからの反省を踏まえた被爆者援護施策をとること、これらを切り離しては考えられません。
 その意味で、国の被爆者行政を改めさせること、アメリカの「核の傘」に頼る政府の核政策を改めさせること、そして核兵器廃絶は一体のものです。
 これらの問題も合わせて、支援者のみなさんといっしょに取り組んでゆきたいと思っています。
 「集団訴訟」運動は、私たち被爆者の願いを後世に引き継ぐうえで残された数少ない機会でもあるので、原爆の被害について知る機会が少なくなった若い世代のみなさんに、ぜひ私たち被爆者とともにこの運動に取り組んでくだることをお願いしたいと思います。  集団訴訟運動



米・英共同の臨界前核実験に抗議

 米エネルギー省は2月15日(日本時間)、通算16回目の臨界前核実験をネバダ核実験場で実施しました。
 とくに今回は、英国が初めて共同参加。昨年のアフガン攻撃で緊密な共同軍事行動をとった核保有国の米英が、今度は核実験でも共同しました。
 日本被団協はただちにブッシュ米大統領とブレア英首相に抗議文を送付するとともに、東京、千葉など首都圏の被団協と共同で米英両国の大使館に抗議行動を行ないました。
 米国大使館は、18日からのブッシュ大統領の来日前でもあり異常なほどの警戒態勢。代表2人だけが門前で文書を手渡しました。英国大使館は、サイモン・ブラウン二等書記官が抗議文を受け取りました。
 また、広島、長崎、東京、三重、愛知、静岡、奈良、神奈川などが、抗議文送付、街頭宣伝などにとりくみました。 抗議文



集団訴訟についての検討会

 原爆症の認定制度の抜本的な改善をめざす、第2回原爆裁判集団訴訟検討会が、2月4日東京で開かれ、全国16の被団協役員と弁護士、支援の市民団体などから60人が出席しました。
 最初に現在裁判が行なわれている東京・東訴訟、札幌・安井訴訟の経過報告。つづいて「集団訴訟のめざすもの・獲得目標」について内藤雅義弁護士が報告し、「被爆者は本当にいまの制度に納得しているのか」と問いかけました。
 また、「それまで被爆者には会ったこともなかった」という京都訴訟の代理人だった尾藤廣喜弁護士から、集団訴訟の意義や具体的な準備、認定申請、却下、異議申立て、提訴への法的な手順などを説明。日本被団協からは、認定申請者の掘り起こし、対象者、対象疾病などについて報告がありました。
 これらの報告を受けて、「この運動は原爆被害への国家補償実現、核兵器廃絶という被爆者の基本理念実現と無関係でない」、「申請を却下され提訴したいという人がいるが、弁護士はどうしたらよいか」、「いま異議申立てをしている人がいるが、棄却された場合、支援体制や時間がかかるのではと心配している」などたくさん疑問や意見が出されました。
 今後これらの意見・疑問、法律的なことをふまえ、支援体制、申請対象者などについて意思統一をはかります。
 次回検討会は5月9日に開催します。



原爆症認定裁判 安井裁判

 安井原爆訴訟の第12回口頭弁論が2月18日、札幌地裁で開かれました。原告の安井晃一さんは、妻の加寿子さんや三人の娘さんとともに出廷。被爆者21人を含む80人余の支援者が傍聴しました。
 原告弁護団は、立証責任の所在と程度について66ページにおよぶ準備書面を提出。現行法は社会保障的な面もあるが国家補償的側面もあることから、疑わしきは被爆者の利益にというのが法の趣旨だと指摘。立証責任については、被爆者を救援せず放置したこと、医療データ・被爆資料を取り上げた国の証明妨害などを考えると、国が因果関係のないことを証明しない限り、認定すべきだと主張しました。
 また、今回正式に肥田舜太郎医師をはじめ3人の証人申請をしました。採否は次回5月13日の口頭弁論で明らかになります。
 なお、口頭弁論の終了後、北海道での集団訴訟の取り組みなどについて記者会見を行ないました。

在外被爆者裁判 郭貴勲裁判

 離日後の健康管理手当打ち切りの処分取り消し、現行法の平等な適用を求めている韓国在住の被爆者・郭貴勲さんの控訴審第3回口頭弁論が2月5日、大阪高裁で開かれました。
 しかし裁判官は、弁護団が申請した3人の証人採用を拒否し、「審理を終結する」と結審を宣言しました。
 弁護団は、第一審の判決が示した争点―日本に居住も現在もしていないことが「被爆者」として認められないことを意味するのか否か―が明確にされないまま、早々に弁論を打ち切り、判決を急ごうとする裁判官の姿勢に問題があるとして、裁判官の忌避申立てを行ないました。
 昨年12月に厚生労働省は、在外被爆者には現行法を「適用しない」ことを、あらためて表明しています。

在外被爆者問題での各裁判のうごき

 海外出張中に健康管理手当が打ち切られたのは不当として提訴した長崎の被爆者・広瀬方人さんの第二回口頭弁論は1月23日、長崎地裁で行なわれました。
 郭貴勲さんと同趣旨の訴訟を大阪地裁に起こしている韓国在住の被爆者・李在錫さんの第二回口頭弁論は2月14日に行なわれました。
 現行法の平等な適用を求めている韓国在住の被爆者・李康寧さんは、昨年12月26日に長崎地裁で勝利判決を得ましたが国側が控訴。福岡高裁での第一回口頭弁論が3月29日に行なわれることになりました。

ブラジルの被爆者も提訴へ

 ブラジル在住の日本人被爆者・森田隆さん(78歳)が、海外在住を理由に現行法が適用されないのはおかしいと、3月1日に広島地裁に提訴しました。

在外被爆者にも平等な扱いを――日本被団協が 署名用紙 を作成

 日本被団協は、内閣総理大臣と厚生労働大臣に向けた「外国に住んでいる被爆者も平等に扱うことを求める署名」を集めることを提起し、署名用紙を作成しました。すでに各都道府県に見本分を発送しています。ぜひ活用してください。

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