6−A エアトランセの実績分析と将来展望

エアトランセの実績分析と将来展望

1.始めに

北海道の地域航空会社、エアトランセが2005313日に帯広函館線を運航開始してからはや6ヶ月が経過した。 

これまでの実績だけでエアトランセの将来を予測するのは時期尚早とも思うが、中間的な見通しをするのも全く意味のないことでも

ないと考えた。

報告には現段階における将来見通しも述べているが、これは今後の進展如何で大きく変わる可能性のあることも予めご承知願いたい。

2.エアトランセの輸送実績

2005313日の運航開始以来の輸送実績(報道による)は次の通りである。

エアトランセ(帯広函館)の輸送実績

年月

運航便数(推定)

提供座席数(推定)

旅客数

座席利用率

就航率(
)

20053

71

1,278

356

27.9%

93.4%

20054

118

2,124

856

40.3%

98.3%

20055

115

2,070

906

43.8%

92.7%

20056

114

2,052

964

47.0%

95.0%

合計

418

7,524

3,082

41.0%

95.0%

第 一 表

3.輸送実績の分析

20054-6月の実績を単純に12ヶ月分に拡大して年度輸送量を予測して検討して見る。

エアトランセ(帯広函館)の年度輸送量予測

期間

運航便数(
)

提供座席数(
)

旅客数

座席利用率

就航率(推定)

20054-6

347

6,246

2,726

43.6%

95.3%

2005年度
(予測)

1,392

25,056

10,934

43.6%

95.3%

第 二 表

20041216日の「日刊航空通信」によれば、エアトランセは18席のBeech1900Dを使用して帯広函館間を一日2往復し、

就航率95%25,000人を輸送するとしていた。 18席機の一日2往復で就航率95%では年間提供座席数は24,956席なので25,000

輸送は無理であるが、夏期等に季節増便することでつじつまを合わせると見ていた。

 しかし、それでも3万席強にしかならないので、座席利用率を相当高く見積もらないと目標達成できず、北海道エアシステムの

実績等から勘案すると年間25,000人輸送は単なるアドバルーンであろうと考えていた。

また北海道エアシステムの旭川函館線の実績から見ると、帯広函館線の需要は良くても12,000人程度と予想していたが、

少なくとも6月迄の実績を見る限り年間11,000人くらいになりそうで、今の所当初予想が当たっていることになる。

12,000人程度と予想した根拠は、帯広圏の人口が旭川圏の57%しかないことである。 旭川函館線の流動形態を推測すると、

数量的には分からないが旭川からの函館観光旅客が大きな比重を占めているらしく、例えば金曜日の午後から土曜日にかけての

函館行きの需要と日曜日午後の旭川行きの需要が多いと言う話から想像できる。

それで帯広圏と旭川圏の人口比から帯広函館間の年間航空流動を予測すると次のようになる。

 

帯広函館線の需要予測

区間

市場圏

人口(万人)

実績年間旅客
*

予測年間旅客

旭川
函館

旭川エリア

63.2

20,286

-

帯広
函館

帯広エリア

36.1

-

11,587

: *平成14-16年度の実績平均。 エリアの定義と人口数は朝日新聞社編「03民力」
による

第 三 表

これは非常に簡便な予測方法ではあるが、4-6月実績からの予測と近似して5%程度の差でしかなく、これから11,000人程度が帯広

函館線の実態的需要であると推測する。

また人口差もさることながら、旭川函館線は当初運賃が14,200円であり、それに旭川市場圏に63万人強の人口を抱えていても

1999年度の27,765人が輸送旅客数のピークであったことを総合すると、帯広市場圏の人口が6割弱で運賃が25,000円と高いのに、

どうして25,000人もの需要が発生すると予測できたのか理解に苦しむところである。

4.エアトランセの新計画の分析と将来展望

以上に述べたことを前提として、新計画の分析も含めてエアトランセの将来展望を予測する。

先ず、これからも帯広函館線だけに専念すると仮定して、旅客数は11,000人、国土交通省統計から平成15年度の旅客当たり収入

単価16.9千円を引用すると、年間旅客収入は18590万円となる。このほかに貨物収入等も多少はあるかもしれないが、航空機の

積載能力からしてそれ程多い収入になるとは考え難いので、この会社の年間収入は19000万円程度であろう。 

旅客当たりの収入も開業割引が相当あるとして多少のアップを見込んでも、2億円くらいが旅客収入の限界ではあるまいか。 

この会社の費用がどのくらいになるのか数字は持っていないが、18席機を1機だけ運用すると多分年間3億円くらいはかかると

見積もられるので、年間1億円程度の赤字になる可能性が大きい。 

同社は収入アップ対策として今年10月からダイヤを変えて、帯広函館、帯広新千歳及び新千歳函館を各一往復/日運航する

ようになる。 これで航空機の稼動は帯広函館線を一日2往復した場合の年間計画稼動時間1,510時間から1,625時間に増加し、

そして便数は大幅に増えて推定1,392便から2,088便程度になって、提供座席数も25,056席から37,584席に増加する。 

但し、旅客数もその割合で増えるのかは別の問題である。 

帯広函館線は直行2往復が直行1往復、経由便1往復になるので実質的に減便と見なされるので、その影響を見込むと旅客数は

7,800 人くらいが限度であろう。 

北海道エアシステムの路線も一時は函館釧路間は直行便と旭川経由及び新千歳経由の3経路があったが、20038月から新千歳

経由がなくなった。 しかし、それでも直行便も旭川経由便となる旭川釧路線も旅客数が増加していないので、もともと経由便

利用者は少なかったと推測する。 帯広函館線も同じ傾向と考えれば、10月からのダイヤでは実質的に1便の減便と見た方が

間違いは少ないであろう。

新千歳函館線は北海道エアシステムが一日2往復していた2002年度の座席利用率が46.8%であるので、これくらいが上限座席

利用率と推測して、一日一往復で年間で12,500席、座席利用率を46%とすると年間旅客数は5,800人くらいとなる。 

函館には丘珠飛行場からエアーニッポンネットワークも運航しているが、国土交通省の航空旅客動態調査を見ると丘珠飛行場の

市場圏は札幌市北部にほぼ限定されているので、新千歳函館線はこの旅客は当てに出来ないと考えられる。 従って、現在JR

利用客をどれだけ惹き付けられるかにかかっている。

北海道エアシステムが運航していた2002年度で考えると、座席利用率は46.8%だから一便当たりの平均旅客数は約17人になり、

18席のBeech 1900Dではほぼ満席になると言う見方もあるかも知れないが、そうならないことは経験的に明らかである。

一便当たりの座席数が減っても、座席利用率はそんなに変わらず、むしろ小型機であるとして座席利用率が減少する可能性すらあると

考えられる。 

かって日本エアシステムが羽田函館線に参入した時、すでに全日空はボーイング 747とロッキード・トライスターで一日5便を

運航し70%台の座席利用率を確保していた。 日本エアシステムは128席のDC-9-40を一日一便投入して、ワイドボディ機が5便も

飛んで座席利用率が70%台ならば、128席のDC-9-40では毎便満席ではないかと期待した。

しかし、実際の日本エアシステム便の座席利用率は両社の競争力の差も反映して全便平均より凡そ10%低い60%台にしかならず、

結局は撤退してしまった。 

かように一便当たりの潜在旅客数は機材の大きさに関係なく一定なのではなく提供座席数等に連動して変化すると見られ、

故に新千歳函館線についても限界はあるものの、使用機材の大きさに関わらず座席利用率40%台程度の需要しか顕在化できないと

見た方が現実的と思う。

帯広新千歳はJRでの帯広札幌間の所要時間が函館札幌とそんなに変わらないので、市場圏人口にのみ需要が左右されると

すれば、函館圏の51.5万人に対して帯広圏は36.1万人であるから航空需要は4,100人程度であろう。 

これに運賃収納率を2004年度実績から新路線網では7割と仮定して旅客収入を推定し、要約すると次表のようになる。

 

エアトランセ 現行事業と新計画の推定比較(年間換算)

区間

便数/

提供座席数

予測旅客数

座席利用率

予測旅客収入(千円)

現行

帯広&#
12316;
函館

2

25,056

10,934

43.6%

185,900

新計画

帯広&#
12316;
函館

1

12,528

7,800

62.2%

114,400

帯広&#
12316;
新千

1

12,528

4,100

32.7%

24,600

函館&#
12316;
新千

1

12,528

5,800

46.3%

50,267

3

37,584

17,700

47.0%

189,267

  註:就航率は95.3%、運賃収納率として現行は67.6%、新計画は70%としている。

                               第 四 表

この表の試算では、増便にも関わらず現行事業計画の予想総旅客収入としては大差ないが、これはすでに北海道エアシステムで

経験していることで、いろいろと路線の組み合わせを変えたが総旅客収入はそんなに変わらなかった。 即ち道内路線運航である限り

どのような組み合わせでも収入規模は大きく変わらないと見ている。 

一方費用の方は飛行時間が115時間増加するので当然費用増になるが、固定費は変わらないので変動費が運航費の半分と仮定すれば

4%の費用増が見込まれる。 実際には新千歳に新基地を展開するので、そのオーバーヘッド・コストが追加されてもっとかかるで

あろう。 この試算では旅客収入は1.8%しか増加していないので、このシナリオ通りに推移すると現行より収支が悪化する可能性すら

ある。 エアトランセとして様々な工夫をこらしているが、それでその将来展望が開けるとは言い難く、現在の苦境は事業計画の問題

よりも、Beech 1900D1機と言う事業規模に基本原因がある。 

航空会社の費用内訳は、機種ごと(マニアル作成、予備部品、要員訓練等)及び基地ごと(施設借用料、グラウンド・ハンドリング機材、

要員訓練等)のオーバーヘッド・コストの比重が高くて、その金額も多い。 その額はある範囲迄は、航空機の保有機数或いは基地を

利用する便数とは直接的関係が薄く、少なくともエアトランセで想像できる事業規模の範囲ではほぼ一定額になる。

 航空会社のコストダウンは総コスト額の削減と言うよりも、航空機、便数又は座席・旅客当たりなどの単位コストの問題であり、

それは一に1機或いは1便当たりにかけられるオーバーヘッド・コストを如何に少なくするかにかかっている。 そのためには

オーバーヘッド・コストを負担する航空機数或いは便数が多くすれば良く、それで1機或いは1便当たりのオーバーヘッド・コストは

少なくなる。 

今度の計画では増加する新千歳基地についてのオーバーヘッド・コストを1機で負担しなければならない。 

結論的に言えば、エアトランセの将来は10月からの新事業計画ではなく、採算の成り立つ最小の事業規模構築が実現できるのか、

それ迄財務的に持つか否かにかかっている。 採算のとれる最小規模は運航路線や機種等にも左右され一般的には10機位はほしいが、

いくら少なくても5機程度以下では採算を取るのは難しいであろう。 

北海道における同業者、北海道エアシステムは3機体制であるが、JALグループの一員なのでグループとしてのスケール・メリット

を享受できる部分もあって、まったくの独立会社であるエアトランセとは違う環境にある。 

エアトランセは1機体制としては健闘していると言えるのかも知れないが、見えている将来計画を含めてもこの程度の事業規模では

いくら工夫してもがんばっても、将来展望が開けてくることはないと断言しても過言ではなかろう。

5.まとめ

今回の検討の結論をまとめると、エアトランセが1機体制でいかに事業計画をいじっても将来展望の開ける可能性は皆無であろう。

今年11月に2機目が導入される計画はあるが、その程度の事業規模拡大では焼け石に水で根本的な対策にはならない。 

同社の将来展望は、前述したように採算のとれる事業規模の達成は何時なのか、そしてそれまで財政的に会社を維持できるのかに

かかっている。 

海外の例を見ても、いわゆる低コスト航空会社の事業規模の大きさとその拡大のペースの早さは、日本の航空運送業界の理解を

超えているが、それは彼等が低コスト実現のカギは一にその事業規模と実現する時期にあると認識しているためと推察する。 

そして、採用したビジネス・モデルにそってスチーム・ローラーのごとくばく進する。 

低コストの実現の可能性は、僅かばかりの人件費を削ることではなく適切なビジネス・モデルの設定と適正事業規模にあり、

我が国の新規参入会社の苦戦の原因はそれがないことにある。 それが分かっていても実現できる環境が整っていないことも容易に

推察できるが、だからと言って1機体制でも採算のとれる環境がある訳ではない。 最初から採算のとれる体制の構築を計画し早期

実現を目指すのではなく、自分の手の届く範囲で先ず始め、それが旨く行けば追々事業を拡大して行こうと言うのが日本の新規参入

会社のアプローチのように見えるが、もしそうならば基本的に誤りである。 

先ず採算のとれる事業規模とその体制、そして適用するビジネス・モデルはどうあるべきかから始めなくてはならない。 

確固たる見通しもないのに取りあえずスタートし、走りながら考えようと言うやり方は日本では結構多くて、多分その最大の事例は

太平洋戦争であろう。 日本はこの戦争をハワイの真珠湾攻撃で始めたが、米国本土はおろかハワイですら占領する計画も能力も

なかった。 どのように米国を屈服させて戦争を終結させるのかについてはなんの計画もなく、強く叩いて行けば向こうから講和を

求めてくるだろうと言う程度の認識であったと言う。 ところが米国は日本の思惑、期待とは違って断固として抗戦し、我が国と

違って相手は日本を占領する計画を立案し、それを実行する能力も整備した。 その結果は誰もが知っている通りである。

外から見る限りでは日本の新規参入航空会社も同じようなところがあり、ともかく始めればいずれ展望は開けてくるだろうと

やっているように見える。 そうしているのは当該航空会社当事者の認識不足だけが理由ではないことも十分想像できるが、

それでもなお、今迄のやり方は間違っていると言わざるを得ない。以上(2005.9.15)