眼の構造と機能
 眼の病気を理解して頂くためには, 眼の構造(図1)や機能を少しは知っておいて 頂くことが必要です。


 眼球の直径は約24mmで,角膜(かくまく)と強膜(きょうまく) は眼球の外壁(がいへき)にあたるものです。 角膜と強膜は膠原線維という強靱な線維組織でできており, 眼球内の組織をまもる容器になっています。

 角膜は眼球の前面中央で「くろめ」の表面にあり, 直径は約11mm, ものがよく見えるように透明になっています。角膜は外界に露出していますが, 「まばたき」によって涙が常に表面を潤(うるお) しています。 強膜とは「しろめ」の部分で,その表面は結膜(けつまく)という薄くて透明に 近い粘膜で覆(おお)われています。

 虹彩(こうさい)は透明な角膜を通して肉眼で見えます。 日本人では「くろめ」は茶色またはこげ茶色をしていますが, これは虹彩の色です。

 虹彩の中央には瞳孔(どうこう)があります。瞳孔は虹彩の孔(あな)で, 眼の中に入る光の入口です。光の明るさによって瞳孔は大きさを変え, 眼の中に入る光の量を調節しています。虹彩や瞳孔のすぐうしろには 水晶体(すいしょうたい,レンズ) があります。

 角膜と虹彩の間の空間は前房(ぜんぼう)と呼ばれ, 房水(ぼうすい, または前房水)という水で満たされています。 水晶体も房水のなかに存在しています。

 虹彩の周囲は強膜に付着しており,虹彩のうしろには毛様体 (もうようたい)があります。毛様体は房水をつくるほか,毛様体のなかには 眼のピントあわせをするための毛様筋(もうようきん)という筋肉があります。 毛様筋が緊張すると水晶体が厚くなり,近くのものにピントがあうようになります。

 毛様体のうしろには脈絡膜(みゃくらくまく) があります。 脈絡膜の外側は強膜が取り囲み,脈絡膜の内側には網膜があります。 脈絡膜は網膜に栄養を供給します。

ぶどう膜とは虹彩・毛様体・脈絡膜の総称です。

 虹彩・毛様体・脈絡膜は連続した組織で,褐色のメラニン色素が多く, ぶどうのような色をしているので,これらの組織をまとめて「ぶどう膜」 と呼びます。鮮明にものが見えるようにするために,ぶどう膜の色素は 瞳孔以外の部分から眼内に光が入るのを防いでいます。 ぶどう膜には血管が多く,眼球の各部位に養分を補給する役割も果します。

 脈絡膜の内側には網膜(もうまく)があり,網膜は眼球の壁のもっとも内側にあります。 網膜はカメラのフィルムにあたるもので,外界の像は上下左右がまったく逆に 網膜に写ります。網膜では, その最外層(脈絡膜側)に光や色を感じる視細胞 (しさいぼう)があります。 視細胞が感じた光や色は, 網膜からの神経線維に よって脳へ伝達されます。脳への神経線維が束になって眼球の後方に出たものが 視神経(ししんけい)で,視神経は眼球から後方に向かい,脳に到達します。

図1のように,視神経が眼球から出てゆくところは眼球のまうしろよりも 少し鼻側にあり,眼球の内側から見たとき,この部分を視神経乳頭と呼びます。 視神経乳頭は橙黄色で,直径は約1.5mm です。この部分には網膜はないので, この部分に映(うつ)る外界の景色は見えないのですが,通常は見えないこと が自覚されないので,自覚されない暗点,すなわち盲斑(もうはん,盲点) と呼ばれています。

 眼球の内部に「にごり」がなければ,様々な方法で瞳孔を通して眼球の内側, すなわち視神経乳頭,網膜,脈絡膜などを観察することができます。 このようにして観察できる視神経乳頭,網膜,脈絡膜などの眼球の内面を眼底 (がんてい)と呼びます。

 黄斑は、網膜でもっとも大切な部分です。網膜のなかで黄斑(おうはん)と呼ばれる 部分は眼球のもっとも後方にあります。黄斑の中央には網膜がやゝ陥凹した中心窩 (ちゅうしんか)があります。網膜のなかで 1.0以上の良好な視力を持っているのは 中心窩だけで,この部分が障害されると視力は 0.1前後に低下します。黄斑には 色を見分けることができる視細胞が集まっており,黄斑が障害されると色の感覚 が障害されます。

 網膜には血管があり, この血管は網膜に栄養分や酸素を供給しています。 網膜の主幹血管, すなわち網膜中心動脈および網膜中心静脈は眼球より少し後方で 視神経の中に入り込み,視神経の中心を通って視神経乳頭に達します。 視神経乳頭のあたりで動脈と静脈は各方向に枝に分岐して,それ以後も順次枝分かれ しながら,網膜全体に分布しています。

 網膜の栄養補給と老廃物処理を行なうのは網膜の血管だけではなく, 脈絡膜もこのような作用を行っています。このため脈絡膜が破壊されたり, 網膜剥離などのように網膜と脈絡膜が分離した状態が続くと網膜の機能は維持できなく なり,この部分の網膜は見る機能を失います。

 網膜や視神経の一部で血液の循環が一時的に悪化したり,浮腫(ふしゅ,はれること) が起こった場合には, これらの程度や期間がある限度内なら, これらの異常が解消 されると網膜や視神経の機能も正常に戻ります。しかしこの限度を越えると網膜や 視神経の機能は元通りには回復しなくなり, 障害が残ります。網膜や視神経が破壊 されると,これらの組織はもと通りに修復されることはありません。現在の医学では, まだ網膜の修復や移植はできません。

 網膜の障害では, 障害された部位に対応した部分の視野が失われます。 外界の映像は網膜には上下左右がまったく逆に映りますので, 網膜の上側が損傷されれば, 視野の下の方が見えなくなります。視神経では黄斑からの線維が障害されやすく, これが障害されると中心暗点 (見ようとするところが見えないこと)が生じます。

 水晶体(すいしょうたい) は直径約 9mm, 厚さは4〜5mm,透明で後方にやや突出したレンズ 状の形をしています。表面は水晶体嚢(のう)という薄くて透明な膜に包まれています。 水晶体の周囲からは毛様小帯と呼ばれる細い糸状の線維が毛様体まで伸びていて, 水晶体を毛様体に固定しています。

 毛様体にある毛様筋が緊張すると毛様小帯がゆるみ,水晶体は自己の弾性で 厚くなって,眼のピントは近くに合います。毛様筋がゆるむと毛様小帯が緊張して 水晶体を引っぱるので,水晶体は薄くなって眼のピントは遠くに合います。

 水晶体は年齢とともに硬くなるので,毛様小帯がゆるんでも水晶体が厚くなり にくくなります。このため近くのものが見にくくなります。これが老視(ろうし, 老眼)です。

 水晶体の一部,または全部が濁った状態を白内障(はくないしょう) といいます。

 眼球の内部で水晶体より後方には硝子体(しょうしたい)があり,網膜にも接しています。 硝子体はゼリーのような透明な組織ですが,そのなかには細い線維がビルの鉄筋のように 張りめぐらされています。この線維は硝子体の形を保ち, 硝子体が必要以上に動かないように する役割を果たしています。

 房水は毛様体でつくられ,水晶体を取り囲み,虹彩の後方から,瞳孔を通って前房にでてきます。 そして隅角の強膜壁から吸収されます。

 眼圧とは眼球の硬さです。スポーツ・遊戯で使うボールや,自動車・自転車のタイヤには 適当な硬さ(空気圧)が必要ですが,眼球も正常では一定の硬さを持っています。 この眼球の硬さを眼圧と呼びます。眼圧の単位は血圧と同じで,水銀柱の高さであらわします。 正常の眼圧は10〜19mmHgくらいで,20〜24は境界値, 25以上になると明らかに「高い」といえます。

 水晶体や硝子体の体積は急には変動しないので,房水の量が眼圧を左右します。 房水が隅角からうまく吸収されないと,眼のなかの房水の量が増加して眼圧が上がります。

 皮膚を指でしばらく圧迫したあと指をはなすと, 指をはなした瞬間には白くなっていた皮膚に, すぐ赤味がかってきます。指で圧迫することによって皮膚組織の圧力が高くなると, その部分の血管から血液がなくなって皮膚は白くなりますが,圧迫をやめると皮膚組織の 圧力がもとのように下がり, 血液が皮膚に戻ってくるので皮膚はもとのように赤味を帯びます。

 この現象と同じように, 眼圧が高いと眼球では血液が流れにくくなります。 このような状態が続くと, 最初に機能の障害を起こすのが視神経です。眼圧が下がらなければ 視神経の障害は次第に進行します。眼圧による視神経の障害では,まず視野の一部に見えない所 (暗点,あんてん)ができ,その後は次第に視野が欠けて狭くなります。視野がある程度狭くなると, ついで視力も次第に低下し, ついには失明に至ります。

 このように眼圧が高くて, 視野に異常が起こった状態を緑内障(りょくないしょう)といいます。 緑内障による視野の変化や,その進行には一定の特徴があります。ただし,どの程度の眼圧 になれば視神経が視神経が障害されるかは,かなり個人差があり, 眼圧が22mmHgでも障害を 起こさない人もいれば,17mmHgでも視野が欠けてゆく人もあります。

 眼圧が19mmHg以下で正常なのに,緑内障と同じ視野や視力の変化を起こす場合もまれではなく, このような場合は、正常眼圧緑内障と呼びます。


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