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■ 動物ジャーナル98 終刊直前号

 環境省「動愛法所管」の本気度ーーその十七年の軌跡

先進国検証グループ


一 はじめに
「動物の愛護と管理に関する法律(昭和四十八年法律第百五号)」が誕生して三十年以上が経ちました。
 この法律(以下動愛法)誕生のきっかけは、英国のエリザベス女王来日にまつわる事柄であるとされますが、それはさておき、動愛法の所管は二〇〇一年に紆余曲折の末に環境省(当時環境庁)と決り、現在に至っています。ところが、所管省としての働きに気がかりな面が多くあり、綿密な検証の末、当会としては「所管を農水省へ」との結論に達しました。
 以下、「気がかり」の点を列挙し、農林水産省所管が最適である根拠を示します。
 読者諸賢のご意見をお待ちいたします。   
二 動物虐待の刑罰50%off? それとも子供割引? 
    ーー環境省ホームページの怪
 環境省ホームページ子供向けコンテンツ(英文)に現在堂々と掲載されるこの動愛法解説は、十年前、第三次小泉内閣時に改正された「平成18年6月2日法律第50号」のまま(注)で、虐待・遺棄に対する刑罰が現行量刑の半分になっています。
(注)環境省ホームページURL https://goo.gl/SZxPG6( 2018年1月29日に確認)
 この図版右側*1、2、3に対応する原条文は下の通り。
*1 第44条-1 愛護動物をみだりに殺し、又は傷付けた者は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
*2 第44条-2 愛護動物に対し、みだりに給餌又は給水を止める事により衰弱させる等の虐待を行った者は、50万円以下の罰金に処する。
*3 第44条-3 愛護動物を遺棄した者は、50万円以下の罰金に処する。
 因みに、これを見た知人の米国人曰く「英語圏の外国人は刑罰50%off? それとも子供割引?」
 なお、環境省ホームページの別のコンテンツにも古い動愛法が掲載されていたのを、当会有志が同省広報へ指摘したところ、二年近く後にやっと修正されたことがあります。

三 マジで馬鹿じゃないっすか…環境省に陳情するなんて 
 一般的に地方自治体の動物愛護業務への不満や不遇な犬猫たちの問題改善を求める声は、環境省に向けられることが多く、これは同省が動愛法を所管しているためと思われます。
 ところが十年程前のある日のこと、「何で愛護の人って環境省に陳情に行ったりするの? マジで馬鹿じゃないっすか…」と愛護にまみれていない、ごく普通の大学生から言われたことがありました。
「何を言うの!この子は! と、その訳を聞いてみたところ、「環境省は獣医科卒の採用をしてないですよ。森林や土木とか自然環境系卒しか要らないみたいですよ。動物と獣医師って切っても切れない仲じゃないですか?」と明瞭な答えでした。
 確かに動物共生や保護活動は獣医師なくして語れず、採用しないのは十分な人員を確保しているためではないかと思ったのですが…。無知でした。
[官庁OB解説]この学生さんの言い分を、自称猫まみれ氏その他複数の官庁OBに確かめました。
○ 今さら何言ってるの? その学生の言う通り。家庭動物を扱う官庁じゃないと環境庁(現環境省)は昔、国会で答弁している。また総理府(現内閣府)幹部が所管を促したが、頑として受付けなかった。
◯ 農学部卒採用といっても、あそこが欲しがっているのは獣医学科以外で学んだ若者ですよ、農水省と違って。
◯ 環境庁の頃から慢性的人員人材不足。組合さえ省への格上げを疑問視していた。信じがたいけれど、人が足りないし、恐らく何も問題は起きないだろうからダイオキシン対策を止めるべき*という職員の意見もあったくらい。
  * 二〇〇〇年十月十五日付 全環境庁労働組合編「環境庁職員の勤務実態について」より
◯ 要は動愛法を作ったものの引受け手がなく、総理府が所管したが持ちきれなかった。そもそも欧米のように農務担当官庁が犬猫を所管するのが当り前なのに、国の本丸=総理府が所管していること自体異常でしょう。おまけに動愛法初の改正の時、一部の狂信愛護が自民党本部に対してテロまがいの回線封鎖してるでしょ*。あんな事やられたら誰だって、もう勘弁、付合いきれない!となるじゃないの。
  * 神戸幼児殺傷事件を受けた初の動愛法改正の際、自民党の環境委員会で議論がもたれた。その際、自らの意見が通らないことに腹を立て、自民党本部に意味を成さない大量のファクシミリを送りつけ業務を妨害した。警察へ被害届を出すべきだったが、後の展開等を考えてか、弁護士資格をもつ杉浦委員長は届けを出さなかった。
◯ 省庁再編会議の際、総理府は「うちがこのまま動物愛護を所管することは妥当なのか」と疑問を呈した*。対して環境庁は省への格上げに際し、将来取組みたい政策を挙げていたが、その文中に犬猫という漢字自体はない**。昔と同じく家庭動物の犬猫愛護はご勘弁という姿勢は明らか。
  *99年六月行政改革会議 総理府本府説明資料 
  **同年五月同会議 環境庁説明資料
◯ 行政改革会議小委員会で出た案*の通り、環境省が動物愛護を所管することになった。つまり環境省自ら動物愛護を引受けようと手を挙げたのではない。だから獣医師の採用門戸もない。そもそも獣医師云々以前の話。残念ながら、愛護の人の有らぬ期待や無理強いは禁物、脈のない片思いということだ。
  * 97年七月 第二回機構問題小委員会 猪口委員案
 大体このような「解説」でした。念のためその内容を議事録等で確認しましたが、全て事実でした。   
 また、国家公務員採用で獣医師免許を必須とし、獣医系技能職として通常採用しているのは農水省と厚労省のみ、確かに環境省は獣医師免許所持者の新卒及び実務経験者の採用は行っていません。つまり獣医師は不要ということです。専門家不在の役所への陳情は、脈のない片思いというしかありません。
 何故そうなのか、その背景を辿ってみます。

四 引受け手がなかった動愛法 
 我が国初の動愛法は国会議員により検討され、議員立法として法制化されました。付随してこの法の所管先を決める必要がありました。
 一九七三年三月三日、衆院予算委員会では、産声を上げようとしている動愛法の所管先を巡る質疑が行われました。
 この会議では、動愛法を検討する委員の一人で、鋭い追及で審議をストップさせ「国会止め男」の異名を持つ大出俊議員(社会党衆議院議員・以下大出氏)が動愛法を所管しないかと各省庁に質問しました。
 縦縞のスーツを決め、押しが強く弁の立つ大出氏は、当時全国的に発生し問題視されていた野良犬等による咬傷死傷事故について訴訟が起きつつあることを理由に、「脅すわけではないが」と狂犬病予防法を所管する厚生省(現厚生労働省)大臣に先ず問いかけますが、色よい返答が得られませんでした。
 余談ながら、当時東京では多摩川、大阪では淀川河川敷で、歯肉を見せて唸る大きな野良犬の群れに囲まれたり、匂いを嗅ぎつけたのか買い物帰りの主婦が野良犬に付きまとわれ、家に入れない等の問題が発生していました。                             
 それゆえ攻撃的な野良犬を保護するのも命がけ。捕獲ワイヤー(通称ガネ)は、下手をすれば保護どころか窒息死させる危険もあって、使いこなす自信がなかったので、知合いの工場で作ってもらったチェーン製のネックレスを首と手首から肘、ふくらはぎに巻き、二重にした溶接用手袋を装着。犬が向ってきた時に威嚇するホイッスルを首に提げ、檻に追込むベニア板班二名、周辺警備一名で作業にかかるというもので、現在なら不審者がいると110番されても不思議ではない状況でした。
 さて、厚生大臣に動愛法所管を断られた大出氏は、当時すでに野生動物保護を所管していた環境庁にも求めましたが、「現在、環境庁といたしましては鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律を持ってございます。(中略)私どもは自然保護という観点から、野生の鳥獣が自然環境を構成する要素として非常に重要なものであるという観点からこれをやっておるのでございまして、人の管理下にあるものは、これはいわば自然というものではございませんので、一応現在の鳥獣保護行政の対象としてはなじまないものであるというふうに考えているわけでございます。(73年三月三日、衆院予算委員会第三分科会議事録 環境庁自然保護局長(現自然環境局長)答弁より)(傍線は当会で加筆)★
と答弁し、動愛法所管を事実上断っています。
 この委員会質疑を含め、大出氏は半ばこじ付けを含めて動物と何らかの関係を持つと考えた九つの省庁に動愛法所管を交渉しましたが、いずれも不調に終った為、最後の望みを総理府の総務副長官 小宮山重四郎衆議院議員(自民党)に託します。
 小宮山氏も既に野生動物を所管している環境庁が動愛法の所管として相応しいと発言していますが、環境庁の答えノー。結局引受け手のない動愛法は、小宮山氏自らが副長官を務める総理府が所管すると決断するに至ります。
 当時を知る官庁OBによると、総理府は各省庁で扱わない問題を引受けたり、省庁間の対立調整を行ったりしており、その流れからすれば、引受け手のない動愛法は小宮山氏が渦中の栗を拾わざるを得なかったのだとのことです。
 確かに総理府長官を務め、信じがたい短期間で環境庁創設と関連法の整備に尽力した山中貞則衆議院議員(自民党)は、”別名掃除府雑務長官”と陰口を叩かれたと綴っています(『環境庁二十年史 環境庁の誕生まで』)。                                   
 こうして動愛法は施行されましたが、自治事務ゆえに実際に運用するのは地方自治体である為、国から予算補助を行う必要性が生じます。政令を作れば掛かる費用の半分を国が負担しても良いと主張する自治省(現総務省)。対して法的根拠を伴う半分補助は承服できないとする大蔵省(現財務省)の間で調整がつきませんでした。
 その為、総理府を中心に調整が続けられますが、この時の大蔵大臣・愛知揆一衆議院議員(自民党)が、以前 外務大臣だった時、犬を使った利殖商法事件や日本人は犬をスキヤキにして食べているとの英国のデマ報道で苦労した経験から、全国市区町村およそ三千ケ所に動物引取り所を新設するという件を含めて検討、善処することになりました。当時の試算で一ヶ所四百万円、総額百二十億円(近年ならば総額三百億円*)。これが実現されたかどうか、読者諸兄姉ご承知の通り。夢のまた夢でした。
  * 動愛法成立の68年と16年との消費者物価指数を用いて計算した。
 
五 パンフレットに見る「環境省の本気度」 
 次に、前々章大学生の指摘した環境省の採用動向や、環境省自らが作成・公開しているパンフレットから、環境省が目指している方向を探ります。
 既述の通り「人の管理下即ち人に飼われている家庭動物は環境庁になじまない」と答弁し、動愛法所管を事実上断りました。
 しかし行政改革によって環境省は動愛法を所管することになりました。つまり「環境庁が省になったら行いたい政策」には上げなかったのに犬猫等の家庭動物問題も所管することになったわけで、国会で次のような答弁を行っています。
 「野生生物保護という観点からは、鳥獣の保護を目的として鳥獣保護法、絶滅に瀕している生物種を保護するためには種の保存法というのをやっておりますし、十三年の一月に環境省ができましたときに、それまで総理府でやっておりましたペット関係の法律、動物愛護管理法というのを我が局に移管しまして、生物全体のトータルな対策をとっているところでございます。」*
*04年四月十三日 衆院環境委員会議事録 環境省 小野寺自然保護局長答弁
 このように過去のスタンスを変え、動愛法、即ち犬猫、家庭動物も含む生物全体の対策をとると意欲を示しています。 
 しかし、環境省発行の紹介や採用に関するパンフレットを見ると、家庭動物への言及は僅少と言わざるを得ず、獣医師採用の記載はありません。
環境省のご案内(平成27-2015年 3 月発行)
  家庭動物に関する記述
   “動物の愛護及び管理に冠する施策を推進するため、修正飼育等適正飼育に冠する普及啓発
    収容動物の変換・譲渡促進の支援を行っています”→62文字
環境省コンセプトブック(平成24-2012年 3 月発行)
家庭動物に関する記述ナシ  12ページ、総文字数2394
総合職採用・キャリア支援形成パンフレット(平成26-2013年 2 月発行)
家庭動物に関する記述ナシ  21ページ、総文字数23137
一般事務官採用・キャリア支援形成パンフレット(平成27-2015年 2 月発行)
家庭動物に関する記述
“愛玩動物の適正飼育”
         →9文字

 他方、市民と接点を持ち、動物愛護の最前線に立つ動物愛護センターや県庁等の担当課では、獣医師(獣医系技能職)が職員として配置されています。
 元々狂犬病予防法や食の安全(畜産、いくら、帆立貝、はちみつ等)の業務を行うべく、自治体は獣医師を雇用してきましたが、今や動物愛護事務事業に於いても獣医師は必須ですし、当然その為の予算も確保してきました。その為、動愛法を所管する環境省も同様の対応をしている筈と思い込んでいましたが、これは間違いでした。
(注:実は一度だけ獣医師免許を持つ環境省正職員が動愛室長を務めたことがありますが、在任は極めて短期間でした。)
『動物ジャーナル90』の「どうして動愛法は機能しないのでしょうか? 前編」で、筆者スタンバオ眞理代氏は、国と自治体の関係から、どのような法改正をしても、適正運用されているか、又問題点はないかの随時確認をする者がいない限り、幸は訪れないと指摘していました。実はスタンバオ氏は環境省の獣医師問題について、知人の自治体獣医師や官庁職員らの意見を聞きつつ、環境省は十七年前の発足当初から、獣医師に関心がないばかりか、動物愛護自体に関心がなかったと断言されています。
 それで今回快諾を頂き、同氏が「後編」のために用意された資料をもとに、環境省の動物愛護管理室(以下動愛室)の職員構成を検証します。
六 動愛室の職員構成と配置
 動愛室の人員構成は、室長の下に、室長補佐と室員がそれぞれ二〜三名。そして室長と室員は環境省職員ですが、室長補佐は01年の開室当初は、林野庁、後に厚生労働省(以下厚労省)からの出向職員が加わります。
 室長補佐は実務を切盛りし、具体的に動物愛護政策を担う立場です。開室当時は現在に比べ、動愛法自体も細分・専門化されておらず、獣医師としての専門性がなくてもなんとか業務が行える状況でした。
 しかし、海外でのペットフード騒動という貰い火を食らった頃から状況は一変、獣医師の専門性が必要となり、厚労省正職員の獣医学部卒・獣医師免許取得者(獣医系技術職員)を動愛室の室長補佐として迎え入れました。
 獣医学の専門性を有する厚労省正職員と、交渉など事を前へ進める林野庁の実務遂行型正職員の組合せは、相応の評価をしてよいと思います。
 この両省からの出向職員の実績を箇条書にした図があります。(二年前作成、が、現在と大差なし)

 一般的に出向自体、人材交流・有効活用という利点ありと言えますが、いつまでも人任せでよいのでしょうか。
 その意識があったかどうかは不明ですが、昨年、開室十六年目にして初めて室長補佐に環境省正職員を据えました。しかし同省では入省八〜九年で課長補佐や参事官室補佐に昇進するケースもあり*、自然保護の実務歴十五年近いこの室長補佐を、いつまでここに留めるかは疑問です。
   *「環境省採用・キャリア形成支援情報」より
 こういう状況では、動物愛護に専念する職員を育てる気はないと推測でき、大切な動愛法改正に際しても、政府=環境省としての立法提案=閣法が出来ず、立案過程が不透明かつ責任の所在が曖昧になりやすい議員立法に頼らざるを得ず、不安要素があってもあっという間に採決されることになるのです。
 では、動愛室長はどうか。
 歴代の動愛室長は環境省正職員で、国立公園や地方環境事務所や生物多様性センター等からの異動で就任。長年自然保護に従事してきた人たちです。動愛室で四年程度勤務した後、自然保護の仕事に復帰します。
 そこで、動愛室長たちがどのような経緯で環境省へ入省したのか、公開されている論文をもとに調べてみました。
 論文のタイトルは「風景の構図と構造、VTR合成写真による景観評価結果」「国民休暇村にみる自然公園集団施設地区の計画思想」「千葉県における残存自然林の分布および種多様度と冬季の温度条件との対応」「イギリスの国立公園-湖水地方の近況について」等。また出身分野は、東京大学農学部林学科及び地域資源計画学研究室、筑波大学環境科学研究科、千葉大学緑地保全学研究室で、その殆どが公園・造園・自然環境を専門とする人々でした。
 その上、いわゆる難関大学の農学系出身者であり、自然環境問題に携りたいという想いが強いと思われます。この推測は、環境省内定者が、志望した理由やどのような専門教育を受けてきたかを吐露する声からも妥当と思われます。                           
 なお確認の為、歴代動愛室長が持つ環境系の専門性を動物愛護に生かすことは可能か、犬好きで造園学を学んだ方にお聞きしたところ、「仕事だから、やれといわれればやらねばならない事情があるでしょう。しかし環境省は公園・造園・自然環境の専門性が欲しくて採用しているはず。ミスマッチなのではないか」と。また、自治体の動愛センターベテランと幹部OBに聞いたところ、「聞くまでもない話。僕らは獣医学を学んできたが、同じ農学でも自然環境系については素人」「うちでは自然環境に関する業務は農学部で自然環境系を学んだ者を採用している」とのことでした。
 こういう周辺の事情を見ると、歴代の動愛室長は学んできた環境に関する専門性が生かされない、いわば気の毒な立場に置かれているわけで、人事自体に問題ありと言えます。
 結局、現動愛室では動物愛護のベテラン職員を育成しにくい、出向職員に頼り続けるしかない、となります。この状況でミスは起らないのでしょうか。 

七 動愛室発の失策
 ここに挙げる失策は軽微とは言い難い例のみです。

(1)収容動物検索情報サイト問題

 或る個人愛護家の提案により、二〇〇六年四月、環境省は全国の動物愛護センターで収容される全犬猫をネット上で検索できるサイトを立ち上げました。この試み自体は評価できるものの、大きな問題を有していました。その問題とは。
 例えばあなたが東京都内在住で愛犬が行方不明になったとします。その際、環境省の収容動物検索情報サイトの検索だけでは万全でなかった。何故なら、収容の有無は自治体の動愛センターもデータとして環境省のこのサイトにネット回線で送信しますが、データ形式の互換性問題で正確に収容情報が反映されないという致命的欠陥があったのです。
 それ故あなたは、都や近郊の動愛センター情報サイト等、複数個所で愛犬が収容されていないか確認する必要がありました。環境省の検索情報サイトで収容ナシでも、実際には他の動愛センター情報サイトに公示されていることがあるからです。これに気づいていなければ、あなたの愛犬は一定期間を経て処分されるに至ります。
 この欠陥に気づいた個人ボラさんは、この環境省のサイトではなく、近郊の自治体の動愛センターへ、電話か出向いて確認するよう啓発していました。
 当時、この検索情報サイトへの接続を拒み、一部の愛護諸氏や国会議員から罵倒された自治体がありましたが、この欠陥を察知したための処置であったらしく、また当会有志も指摘したことがありますが、年単位という長い間改善されませんでした。

(2)三千日を超える議事録公開遅れと紛失

 環境省では動物愛護審議会で動物愛護行政について討議し、議事録を取り、これを環境省のサイトで公開してきました。しかし、05〜06にわたる約一年間の七回分議事録が公開されていませんでした。
 非公開だった議事録は二〇一五年二月四日14:56:33〜17:18:27(JST)の間に公開され、公開までに要した日数は三四〇一〜三七〇六日。小惑星探査機はやぶさが帰還までに要した日数を遥かに超える?一大プロジェクト?ですが、やっと公開されたと思いきや…。
(2013年10月21日収集)  http://www.env.go.jp/council/14animal/yoshi14.html
( 2015 年2 月11 日収集)  http://www.env.go.jp/council/14animal/yoshi14.html
 公開された第十六回議事録には、ある筈の生体販売団体等の発言内容が欠落しているので、動愛室へ問合せたところ、次のような回答でした。
?行方不明の同議事録について、既に退職等している当時の室長等に問い合せた。
?必死に探したが、第十六回の議事録は見つからなかった。
 因みに、昨今の森友文書騒動で公文書の保存期間が議論されていますが、紛失した第十六回議事録は平成18(06)年のもの。その七年前施行の「平成11年法律第42号」によれば、保存期間は三十年(文書分類:小、法令改正の場合)。よって紛失した議事録は二〇三六年まで保存する必要があります。森友文書のようではいけないと思うので、折を見て当会より然るべき筋に対応を依頼する予定。

(3)環境省シンポジウムでの事実誤認  

 昨年、動愛室は「動物の愛護と管理と科学の関わり」というシンポジウムを東京で開催しました。どうでも良いことと、関心ももちませんでしたが、当日動愛室長が講演した際に使われた資料が環境省サイト*にアップされ、それを見た米国在住の知人から「これ、まずいんじゃない?」と指摘されました。
 *環境省HP   http://goo.gl/8DPqt2
 それは「欧米に行政統計なし」という個所で、以下の例を見れば明らかに間違いと言えます。

 米国ではCDC(米国疾病予防センター)を中心に狂犬病対策を行い、それに伴い、各州の公衆衛生担当が我が国同様、引取り・返還・処分等の統計を取っています。
 但し、米国の州の中には、民間保護施設へ引取り・返還・処分等の詳細報告を義務付けていないケースや、狂犬病予防の最前線である郡役所が州への報告を遅延する等のケースがあります。
出典 TAC 作成「カリフォルニア州狂犬病対策活動06年度報告書」
 そもそも我が国の俗称「殺処分集計」(犬猫の引取り及び負傷動物の収容状況)は狂犬病予防法に端を発するものですが、この予防法はGHQ for PHW(連合国占領軍総司令部公衆衛生福祉部局)の指摘を受けて法制化されたものでした。淵源を辿れば「集計」も米国由来となります。
 前掲二つの統計表(報告書)は畜産系獣医師で構成される民間のカリフォルニア州動物協議会(TAC)が、州の公衆衛生部局公開データで欠落している部分を埋めるべく、独自に調査して作成したものです。この取組みは動物関連法が末端の役所で適切に運用されているか監視することにもなり、公衆衛生の重要性を啓発する獣医師の本分を全うしているケースとして、評価に値するものです。
 06年はカリフォルニア州の処分数が高かった頃で、それを改善する為の新たな法案(AB1634)を巡り、民間保護施設や愛護諸氏らが奮闘しました。残念ながら法案は不成立でしたが、その過程が賛成反対を含めて基本的に全てオープン。現在、同州での処分は大幅に改善されています。
 尚、州ごとに状況が異なる一例として、生体週齢規制(61ページ参照)を挙げることができます。
 いずれにしても、我が国との比較で「米国では云々」の類の主張は、対ドイツの場合同様、簡単に真に受けないようお勧めします。

八 研修と教官から見る動物愛護
 環境省は埼玉県に環境調査研修所を持ち、ホームページで「我が国の環境保全に係わる人材育成の中核的機関として、環境行政に従事する国・地方公共団体の担当職員等の能力の開発、資質の向上を図るため各種の環境保全に関する研修を実施しています。」とアナウンスしています。
 この研修所には専門性を有し、多数の論文を発表する教官が常駐し、大気及び水質汚染、環境汚染有機化学物質、臭気、水質等の研修を行っています。また「現場の事をよく知っている」自治体の職員も講師として参加することがあります。
 研修の実態を、二〇一六年版「研修実績報告書最新版」で見てみます。
 例えば、多くの自治体にとって頭痛の種=産廃の不法投棄に関しては、最前線で不法投棄や現状回復という問題と対峙する自治体職員二十四名が、講師とその補助を務めています。また暴力団による産廃の不法投棄や付随する利益強要を検挙してきた警察庁暴力団対策課の警部一名が講師に加わる等、現実に即した強い熱意が感じられる内容です。
 他方、動物愛護に関する研修は、全三十八コース中1コースのみで、専任の教官は存在せず、外部講師も05年に開始以来殆ど変化ありません。また、一講義九十分と短く、講師の中の実務経験者は、豪雨や二度の大地震に対応した新潟県の動物愛護・衛生元課長のみです。これらから、研修内容はきわめて概説的と推測されます。
 この状態を見ると、動物愛護関係の研修は軽視されているという他ないでしょう。    
 また動愛室の人事からも明らかですが、環境省自身の本音は、動物愛護の所管を拒絶した当時の「人の管理下にあるものは、なじまないものであるというふうに考えている」と変っていないと言えます。
 これが動物愛護を所管しながら、改正に際して「閣法」として提出する気概も能力もなく、腰が引けた態度に終始する主原因です。
 よって、このまま環境省が動物愛護を所管する合理的理由はなく、むしろ危険を孕んでいると言わざるを得ません。                                
九 拝啓 農水省様
 この章で、仮に官邸主導等の高度の政治判断があれば不可能ではない私案を記させて頂きます。
 結論を申せば、動物愛護の所管を農水省に移す以外、現状は変らないと考えているということです。
その理由は、農水省は
① 獣医師の雇用が当り前である。
② 動物に起因する公衆衛生に実績がある。
③ 世界一シビアな日本人消費者の要望に対応する免疫を持っている。
④ 食の安全に一定の実績がある。
⑤ ペットフードの安全を担保する実務を所管している。
⑥ 農水省正職員による閣法での動愛法改正が望める。
⑦ 農水省が所管し、六十九年間、随時改正してきた「家畜商法」の内容が、生体販売問題の局面打開に役立つ可能性が有る。
⑧ 過去の実例から見て、メディアの主張に耳を貸しつつも、妥当性のない主張に対しては根拠をもとに反論ができる。
 この内、分りにくい⑥ ⑦ ⑧ について補足します。
 ⑥ は動愛法=議員立法という構図からの脱却を意味します。常々、動愛法は曖昧でダメと批判されてきましたが、これは動愛法をデジカメに例えれば、試作品をそのまま発売しているようなものだからです。
 デジカメが製品として世に出るまでには、専門の技術者が設計した試作品に問題ないとしても、外的要素(低温、高温、振動等)に耐えうるか、別の専門技術者による信頼性試験での確認が必須です。
 また、この確認により、概ね季節や地域の差なく撮影が出来ることが可能になります。自動車やカーナビ等、多くの工業製品の場合も信頼性試験が不可欠、これには時間も手間もコストも掛かります。
 これを動愛法改正作業に例えれば、
◯農水省に所属する動物の技術者である獣医師や動物を扱う現場を知る正職員が法案を作成する 。
◯それを法案チェックの専門家(内閣法制局)が鋭意精査して問題点を指摘する 。
◯内閣法制局チェック済の農水省法案を衆参両院で審議する。ということになります。
 これは現在の議員立法による動愛法改正に比べて、時間と手間が掛かりますが、妥当性と現実に即した改正が望めます。 
 そもそも動愛法改正は、環境省に於いても、他の多くの法案のように時間をかけて審議するべきです。
 また特徴的な傾向として、現在の環境省の改正過程では、無責任飼い主に悩まされる一般市民の声を聴取していません。これでは、動物と共に暮す暮さないを超える幅広い市民の関心・理解を得ることなど出来ないでしょう。「動愛法はペットおたくのもの」の誹りを免れません。
 ⑦ について。まず農水省が49年から所管する「家畜商法」の第一条[目的]をご覧下さい。
この法律は家畜商について免許、営業保証金の供託等の制度を実施して、その業務の健全な運営を図り、もつて家畜の取引の公正を確保することを目的とする。
 この「家畜商」に動愛法で定める動物取扱業を加えれば、恐らく長年生体販売業の免許制を訴えてきた方々も納得されることと思います。
 この家畜商法は、いわゆる愛護動物を念頭に置く法律ではなく、動物取扱業を加えるように改正することは容易ではないでしょうが、現在でも動物取扱業である移動動物園(第一種動物取扱業)を巡る環境には実は一定の規制を掛けています。
 例えば、移動動物園が展示する動物の中に、動愛法第37条4項で愛護動物に規定されている山羊、ミニ豚、ポニーは、基本的には家畜商免許を持つ家畜商しか売ることが出来ません。これは動愛法で動物取扱業が登録制になった06年より五十一年も前からのことです。
 また条文中の「営業保証金の供託」とは、業者が破綻した場合、予め収めさせていた保障金を使って、被害等の回復を行うものです。
 以上のような仕組みが既にあるわけですから、少ない営業保証金で救済可能か、生体の年間販売頭数の申告を厳格にさせ得るか等の問題がありますが、仮に法制化された場合には、新規参入の抑制や廃業等に結びつく可能性がゼロではないと考えます。
 ⑧ は、ズバリ動物愛護に関するメディアの嘘話駆逐力に期待するものです。
 想うに、我が国に於ける動物愛護関連のネタ元は全て舶来ものです。もちろん、舶来でも良い部分には耳を貸すべきですが、この手の話には、直ぐばれる嘘話が多過ぎます。
 01年六月、或る月刊誌が牛乳は体に悪いとの記事を書いた際、農水省はその主張を十分咀嚼した上で、なぜ悪いのか根拠をご教授願いたいと、自らのホームページで反論しました。
 これに対して月刊誌側は、反撃の大砲を持っていなかったのか、それとも潮目を読み違えたのか、月刊誌本社へ抗議に訪れた業界関係者に対して、待ってました!と逆取材するわけでもなく、農水省はクレーマーだという主張に終始し、根拠を示すことなく、何とも情けなく沈没したという様相で終りました。
 本来、議論には具体的根拠が必要であり、官憲とて事実に照らして納得が行かなければ反論すべきですし、マスコミも根拠をもとに応じるべきです。
 以上が動物愛護の所管を農水省に移すべきとする理由です。天下り等の問題を指摘する声があるかもしれませんが、それも承知の上。現在の我が国の動物行政に対する強い懸念からの私案です。