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■ 動物ジャーナル75 2011 秋  

  くり返される蛮行

──亀山市野良猫騒動について

動物虐待防止会調査部


 ネットや一部新聞等でご存じの方もあると思いますが、去る十月初旬に起った三重県亀山市の野良猫捕獲騒動は、看過できない問題点を多く含むと考え、検証することにしました。したがって本稿は、最近この件を報じたテレビ番組よりもかなりふみ込んだ内容になっています。
 その騒動とは、亀山市の或る町で、自治会が積極的に町内の野良猫を捕獲・排除しようとしたところ、その情報が町外にも伝わって、外部から中止要請が相次ぎ、計画が頓挫したというものです。
 除染ではあるまいし、「邪魔者は殺せ」という手法は「蛮行」という外なく、それが実行されようとした背景や経過を厳密に調べておく必要があると考え、また、何がどうなればこのような蛮行を根絶できるか、今後この種の問題の対策を考えるための資料にもなればと思い、この稿を起しました。

野良猫捕獲騒動の経緯

 騒動が起きた場所は三重県亀山市内の或る町で、この町会には約二千名が居住しています。余談ながら亀山市は、有名ろうそくメーカーの工場や、亀山ブランドを掲げ液晶テレビを販売する家電メーカーの工場があることでも知られています。
 騒動の舞台となった町内には約百を超える野良猫が住み着き、それによる糞や尿など定番的トラブルが発生、「駆除」へとなったようです。二千名の住民に対し百頭の猫という数字が事実であれば、これまでの同種事案に比べて頭数の比率はかなり高く、何故この様な事態になってしまったのかと思わざるを得ません。
 ちなみに、今から三年ほど前に、市は財政効率を上げるために事業仕分けを行いましたが、飼い犬・飼い猫の不妊手術の助成を廃止することなく、今年も維持しています。(犬♂千五百円・♀三千円 猫♂千五百円・♀二千円)
 猫の苦情に困りはてた地元複数の町会は連合自治会として、今年八月頃に亀山市健康推進室に相談しました。(健康推進室はこの種の問題の担当部所。以下「推進室」とします。)
 それを受けて、九月に推進室が猫用ではなく、恐水病予防法に基づく野犬捕獲の際に使用する大きめの捕獲器一台を貸出しました。捕獲器の使い方を知らず、猫の捕獲経験もない地元自治会市民に対してです。
 推進室は、十月十一日からの自治会捕獲計画のために貸したわけではないと主張していますが、結果として、借り受けた自治会がこの捕獲器を仕掛けて野良猫を捕獲した後、三重県が所管する鈴鹿保健所へ持ち込むことになりました。
 誤解のないよう繰り返しますが、この野良猫の捕獲を含めた一連の流れは連合自治会が勝手に決めたのではなく、野良猫被害などの職務を担当する推進室に相談した上でのことです。
 特段動物愛護に関心がなくてもおかしくない一般市民からなる地元自治会は、役所(推進室)に相談していたこともあり、野良猫の捕獲に法的問題がないこと、更に無責任な餌やりが「動物の愛護及び管理に関する法律(以下動愛法)」第7条(注1)に違反しているとの思いもあり、野良猫の捕獲を実行すべく、その詳細を九月に回覧板で町会員に伝えました。
〈回覧板の内容〉
1. 自治会として野良猫の捕獲を実施する。
2. 捕獲された野良猫は三重県所管の鈴鹿保健所へ移送し、収容する。
3. 実施期間は10月11日から11月30日まで。
4. 自分の飼い猫がいなくなった時は鈴鹿保健所と所轄の亀山警察署へ連絡してほしい(それぞれの電話番号が記載されている)。
5. 捕獲器を個人で持っている方は野良猫の捕獲に協力してほしい。(連絡先として自治会担当者名と携帯番号が記載されている。)

 ところが、この回覧板の内容が三重県外の愛護グループに知れ、野良猫の捕獲に対する非難に発展し、インターネット上の掲示板やブログ、メールなどで広まりました。
 過去何回か繰り返されてきた流れと同じく、餌に毒を入れるのではないか等の不確実な情報も加わったことで更に過熱し、一時的でしたが回覧板に記載されていた自治会責任者の個人名や携帯電話番号も曝されてしまいました。
 これだけで騒ぎは収まらず、三重県や亀山市、三重県が所管する鈴鹿保健所、所轄の亀山警察署にも問合せや抗議が殺到し、野良猫の捕獲に法的問題はないと考えていた推進室はビックリ仰天、対応に追われた結果、とりあえず鈴鹿保健所に持ち込むことを前提とした野良猫の捕獲を中止することになりました。
 ちなみに推進室は毎日新聞(10月14日付・中部向け朝刊)の取材に対して「これほどの騒動になると思ってはいなかった。対応がぶれたと言われても仕方がない」と殆ど意味不明のコメントをしました。
(注1)動物の愛護及び管理に関する法律 第七条動物の所有者又は占有者は、命あるものである動物の所有者又は占有者としての責任を十分に自覚して、その動物をその種類、習性等に応じて適正に飼養し、又は保管することにより、動物の健康及び安全を保持するように努めるとともに、動物が人の生命、身体若しくは財産に害を加え、又は人に迷惑を及ぼすことのないように努めなければならない。

絶望的資質

 ここまでの内容で「野良猫捕獲? 保健所?」という事柄に恐らく読者の中には以前にも同じような騒動があったなと感じられたと思います。事実『動物ジャーナル62』「とつぜん ねこが消えたとき──保健所は捕獲するか 」と題して触れている通り、私たち市民からすれば、上等の資質を持った職員が保健所に満ち溢れてほしいと切実に望んでいます。
 しかし結論から言えば、この亀山市野良猫捕獲騒動における推進室を含めた行政の対応は、この期待を大きく裏切るものでした。同様に『動物ジャーナル66』「行政改革と動物愛護事業」で述べたように、安易に行政が市民に丸投げしていた実例が認められる等、その資質や有様は絶望的なものでした。
 以下に詳細を記します。まず「捕獲器を貸してほしい」ということは、野良猫への無責任な餌やりに端を発するするトラブルがあったと推測されますが、通常、この種の相談が市区町村の環境衛生担当にあった場合、まず相談を受けた職員は状況の確認を行うことが一般的な対応であり、全てがここから始まると言っても過言ではありません。
 ちなみに苦情の申告方法も様々で、「すぐ解決しろ!」「何やってんだ!」と罵倒一辺倒のものもあり、そういう場合、職員が難儀に感じてすぐ対応しなかったり、「うちではなく、県が担当です! 電話番号を申し上げます! メモしてください!」などと逃げの一手に終始し、放置されるケースもゼロではありません。
 しかし行政として相談を受けた市区町村の環境衛生担当職員はトラブルがあるとされる現地に赴き、仮に餌やりを行っている市民がいた場合は状況を聞くなどする必要があります。
 もちろん、この現況調査や指導の仕方に問題のある場合もありますが、とにかく野良猫への無責任な餌やりによる被害が本当にあるのか、あるとしたらどの程度なのか、また確かに餌やり行為があったとしてもその容器をキチンと片付けている、もしくは不幸な繁殖が起きないよう不妊手術をしているか等も行政として知っておく必要があります。
これらの点から三重県亀山市野良猫騒動を考察すると、ポイントは

Q1. 自治会員から相談を受けた亀山市健康推進室は野良猫トラブルが発生しているとされる現場の確認をしたか、つまりに現場を見に行っているのか? 行っているとしたら何時か?
Q2. 推進室は全国どこでも起りうる野良猫を巡るトラブル対応策や他府県並びに市区町村の取組み等を日頃から情報収集していたか?
Q3. また、その取組みを亀山市として検討したことや自治会にアドバイス等したことがあるか?
推進室が野良猫の捕獲を行った経験のない一般市民に、恐水病予防法に基づく野犬捕獲に使用する大きめの捕獲器一台を貸した事に問題はないか?
Q4. また公である市役所として市民に捕獲器を貸さなければならない根拠、つまり法令や条例はあるか?
相談を受けた推進室は野良猫の捕獲が法的に問題ないと考えていたが、本当に問題がないのか?
Q5. 推進室は野良猫が捕獲された後に三重県が所管する鈴鹿保健所に引渡されることを知っていたことは明らかで、保健所に渡った後に殺処分されることを十分予見できた筈だが、法的に問題はないか?

おおむね以上のようになりますが、これらのことを当会関係者が亀山市健康推進室に訊ねた結果は以下のような驚くべきものでした。

A1 (現場の確認)住民より相談を受けた推進室が、野良猫トラブルが発生しているとされる現場の確認をしたのはインターネット等で騒動が発生した後である。つまり騒動が起きる前の九月、捕獲器を貸す際には現場に行っていなかった。
更に推進室も鈴鹿保健所も野良猫の捕獲は行っていないこと、及び、あくまで民間同士の事として自治会住民の判断で捕獲等して欲しいと伝えていた。
A2 (情報収集)自治会員が野良猫を捕獲して保健所に持ち込むことを推進室は認識しており、野良猫を巡るトラブル対応策を知っていたかどうかは不明ながら、その取組みについて自治会にアドバイスをしていなかった。(情報を持たないからアドバイスできなかった?)
また推進室は「亀山市も鈴鹿保健所も野良猫の捕獲は業務外なので行っていない」と、野犬用捕獲器を自治会に貸す際に伝えていた。
A3 (捕獲器貸出し)推進室は野良猫トラブル発生との市民の相談に対して、事実確認をしないまま、捕獲器を貸し出し、捕獲器の作動原理を説明したと述べてはいるが、貸出しの根拠や法令、条例があるかとの問いに対しては、自治会員が野良猫に困っているから貸した、あくまで住民さんの要望に応えただけと主張した。
A4 (野良猫捕獲)相談を受けた推進室は野良猫の捕獲が法的に問題ないと考えていたが、本当に問題がないのかの確認を環境省等に相談する等はしていなかった。
ただし「推進室では野良猫の捕獲はしない」と強調した。何故しないのかと聞くと「以前からしてない」の一点張りだった。返答になっていない。
A5 (捕獲後の野良猫)推進室は捕獲された野良猫が鈴鹿保健所に引渡されることを知っていたが、保健所が引取るかどうかは「保健所さんの判断なのでわからない」と主張。この問題で鈴鹿保健所と連絡を取っているかについては明らかにしなかった。

 ここで明らかになるのは、推進室自ら野良猫の捕獲はやっていない、あくまで住民さんの要望に応えて捕獲器を貸しただけと述べ、トラブル発生とされる現地に出向き確認することもなく野犬用の捕獲器を貸した事実は、いわばトラブル解決を自治会に丸投げしたも同然と言えますし、『動物ジャーナル66』「行政改革と動物愛護事業」で触れた、いわゆる動物愛護系ボランティアへの安易なアウトソーシングを遥かに超えた、信じ難い対応をしたということです。
〈他の自治体の見解〉
 ちなみに、他の或る自治体動物愛護担当幹部に本件について意見を求めたところ、「騒動は耳にしているが、幾ら何でも有り得ない。デマじゃないか」「捕獲したとしても、その後どうするの?」とのことでした。
 更に大きめの野犬用捕獲器を使った場合に捕獲された猫が傷つく等の問題は発生しないかと聞くと、その質問以前の問題だがと前置きして、「なんで猫の捕獲に役所が捕獲器を貸すの? そもそも根拠となる法令は何なの? 幾ら市民から貸してと言われても、何でもかんでも貸すことはできない」「現地確認もしていない?」「捕獲器って一つ間違えば、凶器になりうる」「犬用捕獲器で猫の捕獲など考えたこともないし、犬より軽い体重でも踏み床が作動するとは思うけれども、詳細は現物を見ないと分らないし、考えること自体不快だ」と述べていました。
 更に別の自治体動物愛護担当にも意見を求めたところ、「過去の例に、野良猫を捕獲して殺処分されることが明白な場合、かつ飼い主以外から保健所へ持込むことは、動愛法第44条違反(動物を殺傷した場合などの罰則規定)の可能性があると千葉県が判断、それを受けて相談した印西市が住民への捕獲器貸出しを急きょ中止した騒動があったが、それを知らないのか? よそで発生したことは何時か必ず自分の受持つ地域でも起り得るから日頃から注視している」とのこと。また現況調査(現場の確認)をしないことは有り得ないし、それで捕獲器を貸すことも信じ難いとのことでした。
〈保健所の回答〉
 次に自治会が野良猫を捕獲した後、持込み先として名前が挙っていた保健所(鈴鹿保健福祉事務所)に聞いてみました。

1. 騒動は知っている。
2. うちは野良猫の捕獲はしていない。
3. トラブルが起きているとされる現地はトラブル前も後を含め、現在まで見ていない。
4. この問題で上部機関である三重県と協議したか、また、三重県が環境省に相談しているとされることを認識しているか?との問いには、分らない、聞いていないと述べた。

 保健所は推進室と同様、多数の抗議に曝されたため、今回の捕獲が騒動になっていることは当然認識していましたが、やはり現地へ出向く等の確認はしていませんでした。
 もちろん、一義的には推進室の仕事ですから、保健所が率先して動かなければならないわけではありませんが、例えば、多数の動物を飼育し、臭いや糞などで近隣住民から苦情などが出ている場合に地元の役所の環境衛生担当と一緒に問題が発生している現場に出向く事も珍しくないので、今回も同様の対応をしても良かったのではないかと思いますが、お互いの立場があったのか、両者の連携は感じられませんでした。
〈三重県への質問〉
 そこで、保健所(鈴鹿保健福祉事務所)を所管し、亀山市の上部機関である三重県に聞いてみました。
1. 多数の電話などでの問合せや抗議で騒動は知っている。
2. 野良猫の捕獲計画について、事前に亀山市健康推進室から相談は受けていなかった。
3. 騒動で捕獲計画を知り、十月初旬(捕獲計画開始の10月11日より前)に環境省動物愛護管理室へ野良猫の捕獲について、法的に問題がないか問合せた。
4. その結果「飼い主不明の野良猫を捕獲した後に市民から求められたら行政として引取ることは違法ではないこと」、更に「状況を見てやってください」
との回答を得た。

(但し、この県と環境省との応答(上記3及び4)で、仮に飼い猫だった場合に問題となる財産権侵害等、環境省所管外の法令が絡むことなどの踏み込んだアドバイスを受けたかは不明。)
 毎日新聞・中部版の取材に対し、推進室が「捕獲計画は法的に問題なく云々」とコメントしたのは、推進室が苦情や問合せの対応に追われて、三重県に連絡した際、上記3及び4の内容すなわち違法ではないと知ったためと判明した。
〈聞取り内容のまとめ〉
 関係する機関にいろいろ聞いてみた内容は、おおむね以上の通りです。簡単にまとめると

1. 住民から野良猫の相談を受けた推進室は、野良猫の被害が出ているとされる現場を見ずに、捕獲器を使ったことのない住民の要望に基づき、野犬用捕獲器を貸出した。
2. 住民の野良猫捕獲計画を知った時点で推進室は、計画に問題があるか、三重県や環境省に問合せをしていなかった。
問合せなかった理由は推測になるが、「あくまで住民・自治会で対応して欲しいと伝えた上で、捕獲器を貸出した」と述べていることからも明らかなように、捕獲計画が法的に確認を要する問題という認識がなかった。つまり役所の仕事という認識がなかったと言われても仕方がない。
3. 多くの問合せが舞い込んだ鈴鹿保健所も当然騒動を知っているが、現地へは行っていない。
4. 市民からの問合せや苦情で騒動を知った三重県は環境省に法的問題の有無を問合せし、問題がないとの回答を得た。(インターネット等で騒動が始まった頃。捕獲計画が実行される10月11日より前)

このようになりますが、以上の諸機関以外にこの種の問題に関るべき機関はなかったのでしょうか。
〈三重県動物愛護管理推進協議会というもの〉
 ちなみに、三重県は他の都道府県と同様「動物愛護管理推進実施計画」を作り、それに基づき、二〇〇八年に三重県動物愛護管理推進協議会(以下協議会という)が設立されています。
 これは動愛法の改正を受け、都道府県がそれぞれ受持つ区域で動物の愛護と適切な管理を推進するために定めなければならなくなったものです。
 三重県の協議会は、県内の動物愛護管理を推進するために動物愛護推進員養成講習会を開き、受講した県民に推進員を委嘱します。協議会の活動内容は、動物愛護推進員が日頃活動しやすいように支援する事及び県の仕事である動物愛護管理について協議することで、これは他の都道府県でも殆ど同じです。
 三重県協議会の構成団体は、特例社団法人三重県獣医師会、特例財団法人三重県小動物施設管理公社(三重県動物管理センターの運営を任され、県が100%出資する財団法人)、公益社団法人日本愛玩動物協会三重県支部、NPO法人人と動物との共生をめざす会、NPO法人三重補助犬普及協会、それから学識経験者として岐阜大学応用生物科学部、特例市(人口二十万人以上の市)の四日市市保健所で、この錚々たるメンバーで三重県内の動物愛護管理がより良くなるようにしていくわけです。
 この観点から言えば、今回の騒動についても何らか協議したり、野良猫問題には欠かせない不妊手術に獣医師会のサポートも期待したいところですが、現時点では協議が行われている気配が感じられません。何のための協議会なのか不思議です。
 これは他の都道府県とて大体同じで、日頃、動物愛護功労者の表彰や動物愛護週間のイベントなどではその名を耳にすることはありますが、今回の様な野良猫を巡る問題や犬の多頭飼育を巡る問題、ブリーダーによる問題、無責任な飼育で被害を受けている人が困り果てている事案などにおいては、問題が表面化する前にも後にも動物愛護管理推進協議会というキーワードを殆ど聞いたことがありません。
 また別の問題=従前から批判がある上げ馬神事に関して、三重県の動物愛護行政を担当する健康福祉部薬務食品室は「祭りが行われる現場で確認を行い、動愛法に基づき虐待などないよう適正な指導に努めた」と、毎年の県の事業評価で報告していますが、現実には読者ご存じの通り、今年七月に「無形民俗文化財の指定を受けていたとしても馬のお腹を棒で殴打したことは許されない」との理由で三重県警桑名署が動愛法違反(注2)容疑で、祭りに参加した地元住民八人を書類送検しました。
(注2)動愛法 第44条
・愛護動物を濫りに殺し又は傷つけた者は一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。(以下略)
〈動物愛護推進員の役目は?〉
 また、三重県のホームページによると、愛護推進員は県民への動物愛護精神の高揚と動物の適正な飼養に関する知識の普及啓発を図る活動を行うもので、その活動内容は
1. 犬、ねこ等の動物の愛護と適正な飼養の重要性について県民の理解を深める活動
2. 県民に対し、その求めに応じて、犬、ねこ等の動物がみだりに繁殖することを防止するための生殖を不能にする手術その他の措置に関する必要な助言
3. 犬、ねこ等の動物の所有者等に対し、その求めに応じてこれらの動物の適正な飼養を受ける機会を与えるために譲渡のあっせんその他の必要な支援
4. 犬、ねこ等の動物の愛護と適正な飼養の推進のために県が行う施策に必要な協力
5. その他動物の愛護と適正な飼養の推進に知事が必要と認める活動

となっています。
 亀山市における今回の捕獲計画を市民に周知する手法に問題がなかったとは言い難いとはいえ、この問題を表面化させたのは他府県の動物愛護系市民で、推進員が動いた形跡はありません。三重県は「市町が動物の適正飼育にかかる普及啓発に積極的に取り組むことが期待される」(三重県第二次戦略計画(仮)施策324 食の安全とくらしの衛生の確保)としていますが、奇しくも亀山市はこの期待を裏切ったも同然でした。
 しかし、こういう構図は三重県だけではなくどの自治体にもありふれたことと言えます。

二〇〇三年二月・同種の問題発生

 今から八年前の二月、千葉県印西市の或る地域で今回と同じように野良猫が増え、その被害に困り果てた自治会が印西市に相談しました。
 その結果、市が捕獲器を貸出し、それを自治会が使い、野良猫を捕獲した後、千葉県動物愛護センターへ持ち込み、殺処分することになりました。
 しかし一部の市民から法的に問題があるのではないかと指摘を受け、市は千葉県に確認した結果、捕獲された野良猫が殺処分されることは明白である上、飼い主以外からの保健所への持ち込みは動愛法第44条違反(動物を殺傷した場合などの罰則規定)の可能性があると千葉県が判断、それを受けて相談した印西市が住民への捕獲器貸し出しを急きょ中止しました。
 これにより野良猫の捕獲と殺処分は回避されましたが、捕獲を考えた自治会の困り事が、きれいさっぱり解決したわけではなく、それ故に無責任な餌やりを慎み、不妊手術の推進や猫の完全室内飼いが求められることを強く印象付けた事案だったと言えます。
 そもそも、この事案を亀山市健康推進室が知っていれば、安易な捕獲器の貸出しを行わず、県や保健所に相談する、または他の行政の取組みをインターネットを使って参考にするなどして、役所の職務として対応できた筈。これ程の騒動には至らなかったと容易に想像できます。

環境省動物愛護管理室

 先ほど述べた通り、野良猫捕獲に関する問合せが多数舞い込んで初めて捕獲計画を知った三重県は、法的な問題の有無などを確認するため、環境省動物愛護管理室(以下動愛室)へ問合せました。
 申し上げるまでもなく、動愛室は日本の動物愛護管理行政の中心的部署の一つであり、折しも来年の動愛法の改正や法改正に関する国民への意見募集と其の分析もこの部局が担当しています。
 その観点から言えば、今回の様な問題が発生した際、都道府県の担当者が法的解釈などを確認したり問合せたりすることが日常的に行われても何ら不思議はなく、動愛法を所管する部局として常に適切な対応が求められて当然の立場にあります。
〈動愛法 第35条2項の扱い〉
 今回の捕獲に関して、動愛室の室長補佐は「飼い主不明の野良猫を捕獲した後に市民から求められたら行政として引き取ることは違法ではない」と三重県に回答しました。この根拠となった法令は動愛法第四章第35条の2項です。以下に引用します。

第四章 都道府県等の措置(犬及びねこの引取り)
第三十五条  都道府県等(都道府県及び指定都市)その他政令で定める市は犬又はねこの引取りをその所有者から求められたときは、これを引き取らなければならない。
2 前項の規定は、都道府県等が所有者の判明しない犬又はねこの引取りをその拾得者その他の者から求められた場合に準用する。(引用ここまで)

 この第35条は犬や猫の飼育が困難になった飼い主が都道府県に引取ってもらうことを可能にするものです。
 しかし引取った後に殺処分されることが多いことや、安易に飼ったものの飽きてしまった、こんなに大きくなるとは思わなかった、ちっとも賢くないので要らないなど、とても止むを得ない状況とは言えない、いわば「不良飼い主」の要求が通ってしまうため、従前から問題視されているものです。
 それゆえ近年では少しでも引取り→殺処分を回避するために、都道府県の動物管理センターの中には引取りを有料にしたり、新しい飼い主探しを促すなどの取組みをしているところも存在します。
 また、第35条2項は飼い主ではない者、例えば迷子の犬や野良猫を拾った者が引取って欲しいと言った場合も都道府県は応じなければならないというものです。
 つまり、問題となった亀山市のケースは野良猫を飼い主でない住民が捕獲した後、三重県に引取って欲しいと持ち込むことは、この第35条2項を用いれば、可能ということになります。
 しかし現実問題として、捕獲した猫が飼い猫だった場合に生ずる財産権侵害など、今回の様な野良猫を巡る全国どこでも起りうる問題に対して第35条2項だけを用いることは危険もあり、誰が見ても近年の流れに反するやり方と言えるでしょう。
 また、捕獲に関してだけですが、明確に説明した文書もあります。例えば、島根県のホームページに掲げられた左の文章をご覧下さい。
2.犬については狂犬病予防法などで捕獲を認めていますが、猫については捕獲を認める法律がありません。また、殺処分を目的に、猫を捕獲器などで捕獲することは、「動物の愛護及び管理に関する法律」第44条(動物の殺傷などに関する罰則規定)に違反する可能性があり、飼い猫を捕獲した場合には、他人の財産権を侵害するおそれがあります。
 県としては、動物であってもその命の尊厳は守られるべきものであり、適正飼養の普及啓発や野良猫への無責任な餌やりをなくすなどの取組みを続け、人と動物の共生を図りたいと考えていますので御理解をお願いします。 (健康福祉部薬事衛生課)
 これらの事例・状況から、[捕獲→引取り→殺処分]は安易に実行できないものとなっていることを認識すべきです。
〈環境省告示を「発見」〉
 動愛法第35条の扱いについて、過去に環境省が出した告示を紹介します。
 これは、昨年暮れに或る市民が地元自治体へ「第35条2項に基づき野良猫を引取って」と提案したのを受け、市が回答した文書の中にあったものです。
 その回答は初段に第35条を引用し、続けて次の段において以下のように記しています。
 また、平成18年1月20付環境省告示第26号の「第1 犬及びねこの引取り」においては、「都道府県等は、この引取り措置は、緊急避難として位置づけられたものであり、今後の終生飼養、みだりな繁殖の防止等の所有者又は占有者の責任の徹底につれて減少していくべきものであるとの観点に立って、引取りを行うように努めること。」(第1の1)と規定しています。
 これらのことから、本市では、所有者の判明しない猫のうち、自らエサを食べることができるなど、自活可能な猫の場合は、遺棄等への緊急避難的な措置を除き、引取りを行わないことにしています。(引用ここまで)
 これによれば、この市は、この告示に拠って野良猫捕獲を原則行わないと明言したわけです。
 つまりこの告示に従えば、行政は単純に機械的に野良猫を引取ることができません。
 今回の三重県への動愛室回答は、この告示を忘れ去っていたか、勉強不足だったか、いずれにしても自己矛盾を露呈したとしか言いようがありません。
「お役所仕事」はいつまで続く
 各自治体には動物愛護管理担当部所を補佐すべく動物愛護管理推進協議会が設置されていますが、同様に、環境省動物愛護対策室にも、特例財団法人日本動物愛護協会・公益社団法人日本愛玩動物協会・公益社団法人日本動物福祉協会・特例社団法人日本獣医師会という錚々たる団体が脇を固めています。
 今回の問題を返り見ると、亀山市、鈴鹿保健所、三重県、そして環境省、それに連なる動物愛護管理推進協議会や社団法人などが、心底から人と動物の共生を目指して、全力で事に当っているか、非常に疑わしくなってきました。何のために動物に関っているのか、個々に所信表明を求めてみたいものです。
 今回のような問題が起きた場合、連携して知恵を出し合うなどできないものか、手助けもしないのか。また、一体いつになったら、役所の腰が引けた対応に目覚ましい変化が起るのか、考え込んでしまいます。
 もちろん、お役所は何を行うにも根拠となる法令などが必要で、これがないと簡単に何も彼もできないということは承知していますが、現行の法律の運用さえ十全にできていない──例えば、恐水病予防法のように強力な指導ができる法律があっても、適正運用されているとは言い難い現状を見ると、法律が完全無欠のものであったとしても、役所はそのマネジメント能力に欠けるか、故意に怠惰をむさぼっていると言われても仕方ないでしょう。
 どのように運用すれば動物もヒトも幸福でいられるか、真剣に考えてほしいと思います。
 機構上、問題があるというのであれば、それを改変して行く、気骨あるパブリック・サーヴァント出でよ!と思うことしきりです。