TOP | ■ アピール | ■ 活動報告 | ■ GPCA-FAQ | ■ トピックス | ■ 出版案内 |
mook 動物ジャーナル | ■ Links | ■ 通信販売 | ■
ご連絡窓口 |

TOP mook 動物ジャーナル バックナンバー 動物ジャーナル73・2ちゃんねるの視点

■ 動物ジャーナル73 2011 春 

  2ちゃんねるの視点

青島 啓子


 ここ何年かの間に急速にインターネットが普及していますが、縁のない読者もいらっしゃると思います。かく申す私もいまだ初心者、当会のホームページを開けて悦に入ったり、グーグルの検索も最近覚えました。こういう事の各段階で再々先達たちのお導きによりつつです。
 ネット上のサイトの一つ「2ちゃんねる」は国内最大の掲示板だそうで、多種多様の分類があり、動物分野でも趣味から事件まで多くのスレッド(個別テーマの掲示板)が立っています。以前『動物ジャーナル』が言及したのは、あの忌わしい子猫殺害事件の時。凄まじい追求に辟易しながらもまっとうな発言=書込みの多いことに安堵したのを思い出します。
 この度の大震災の動物救済にも当然様々のスレッドが立ち、熱心な書込みが続けられています。やはりまっとうな発言が多く、常識的なそして冷静な書込みには〈愛護どっぷり人〉に有用な視点もあると気付きましたので、少しご紹介することにしました。どのスレッドにするかは当会調査部の探求により『東日本巨大地震で被災した犬猫を救うスレ』を選びました。1000の書込みごとに次のスレッドに移り、番号が付けられるのですが、このスレッドは現在 No.7に至っています。

 きっかけはフジテレビの報道。仙台市若林区で衰えた犬さん二匹を撮影した部分が動画サイトに投稿され、それを三月十五日午前一時数分前2ちゃんねるに投稿したところから始りました。
 反応は早く、
ありがとう!/若林区の荒浜だと思う/多分新一丁目/もう愛護団体に報告入っているので見つけてもらうだけですね/近いなら行って欲しい。フジもあの時の被災犬とかで好感度あがるし貰い手は必ずいる。視聴者の反応でもう一度取材に行かせるだろうね/飲まず食わずで四日間も過して明日からまた寒くなるというし/救助隊は何やっているんだよ! 足りないなら一般人のボランティア救助隊を雇え!
 僅か三十分間で、フジテレビへ連絡を、現地入りしている愛護団体へ要請しよう、レスキュー活動する愛護団体を探せ、と意見殺到、やがてフジに電話がたくさん入っている、現地の愛護団体判明、預りも申し出ておいた、等と落着きを見せます。一旦その二匹が助けられたと伝えられましたが、その後確実な映像も示されないことに苛立ち、真偽追求中のようです。
 その過程で救出活動を期待できる愛護団体探しが始り、実際に行けないからせめて募金をとの思いが多く寄せられました。それに呼応し、
「SAさんのブログに載っている「○○」。募金できます」という書込みがありました。直後
「あ〜あ、やっちゃったね。今後気をつけてね。その団体に関って酷い思いしてる人たくさんいるから」とあり、この「○○」のことか勘違いしそうでしたが、それは修業が足りない為。時間的にかなり前の書込みに対するもので、応答(レス=レスポンス)のタイムラグということを知りました。
 それはさておき、この書込みの何秒か後、
「SA、Mrs.D、TMあたりが動物好きで愛護に力を入れてるから彼女らの紹介してる募金先や愛護団体なら大丈夫じゃないかな」と続けられました。

 ここで典型的なタイプが二通り出てきたので、「愛護団体を考えるページ」風に二者を観察してみます。先の「やっちゃったね」をX、「SA、Mrs.D、TMあたりなら」をYとします。
 Yは「動物愛護に力を入れている(a)有名人(b)が紹介するところは大丈夫」つまりその有名人を保証人として安心し、先方を信用するわけで、直接先方を確認しているわけではありません。aとbとに価値があるのです。aのあり方や、どういう訳でbであるかは、どうでもいい、らしい。
 Xは「その団体」をよく知っています。(この後で明かされますが、数年前地方都市の動物施設レスキューに乗出し、多額の募金を集め、後に募金返還請求が裁判沙汰になった団体です。)それ故「やっちゃった」人が迂闊に紹介したことをたしなめ、よく調べるよう忠告したのでしょう。
 こういう物知りの集うのが2ちゃんねるの独壇場、反応の早さには目を見はります。
 この指摘に従って、寄付先が検討され始め、 
「よくわからない愛護団体より日本動物愛護協会に依頼するのはどうでしょうか? 機動力に欠ける気もしますが」「焦らなくても今後いくつもの団体が動くと思う」とのフォロー。
 続いて現地で救出活動をするいくつかの団体が推薦され、否定され、十五日になって「緊急災害時動物救援本部」設置が報じられると、早速それを投稿した人が
「支援先を考える時はくれぐれも注意して下さい。安全な支援先、寄付金方をお探しの方はここをお勧めします!」と意見を加え、この「救援本部」の解説を複数の人が述べる流れになります。いわく愛護協会、福祉協会、愛玩動物協会、日本獣医師会の四団体で構成されること、政府が公認しているから間違いは起らないであろうこと、阪神大震災でも動物救済に挺身したこと、等々。
 しかし警戒区域設定後になると、「△さんが言ってることが本当なら、とても支持することは出来ないわ。飼い主が判明している犬猫はいいが、徘徊する犬猫については受付けないって…」「徘徊してない子はすでに餓死してるだろ、自衛隊や飼い主が放した子や飼い主を失った子が餌を求めて徘徊してるんだろ」「天下り連中が災害時にかこつけて多額の義援金を集めるだけの団体」「行動は民間のどの団体よりも遅く、活動内容は民間のボランティア以下」等の意見が目立ち始めました。区域内の惨状が報告されると、行政や団体への褒貶も振幅が増していきます。
 紙幅の都合で、続々と現れるテーマ=情報源の紹介、飼い主の行動・態度に関する論評その他その他は割愛しますが、動物を放置した全ヒトに向けた怒りが渦巻いているのは確実です。

 この『東日本巨大地震で被災した動物を救うスレ』で痛感したのは、殊更の愛護の人でない、一般の人がこんなに熱い思いを持ち、救う手段を探し、出来ることを実行しようとしていることでした。
 それ故に情報の確実性を求める。求めると即刻提供される早さと多さ。揺れ動きながらもその蓄積で築かれて行く「確実なもの」。また反対意見や妨害やからかいなどが入ってきても、それに対抗して熱くなる人をなだめたり諭したりして、目的を破綻させないようリードする〈大人〉まで存在します。
 2ちゃんねるの特色は複数の目の強さでしょうか。とかく一面的思考になりがちな〈愛護界〉にとって、大いに学ぶべしと思われたことです。