私の趣味は、Classic Guitar を弾くこと。クラシック、ボサノバ、ポップス、フュージョン…… 楽譜があれば、何でも弾きたくなります。キチンと弾けるかどうかは別問題。とにかく Guitar を弾いている事自体が好きなんです。

 Guitar は、自分の指で直接、弦を爪弾き、音を出します。右手の爪の角度で音色が変わります。爪弾く弦の位置でも音色が変わります。左手は、複雑です。難しい和音の時は、指が絡まってしまいます。自分の指ではないような感覚です。弾く時は、まるで女性を膝に乗せるように優しく抱きます。左手を彼女の首に。右手は、彼女のおなかです。
 そうなんです。Guitar は、女性そのものです。こちらの気分が荒れている時は、綺麗な音を出してくれません。こちらが気分が良くても、Guitar の気分が悪い時は、どんなに優しく扱っても駄目です。二人の気持ちが、一緒になった時は、「桃源郷」の雰囲気です。
 

エッ、一度聴いてみたいって!。人前で弾くとあがってしまいます。
Guitar と私、二人だけの世界です。 

 
 
 Guitar は、中出六太郎さんに作っていただきました。為書もあります。昭和41年(1966年)、かなり昔の事です。カミさんよりも付き合いは長いのです。地震などがあった場合、まず、Guitar です。カミさんは、その後です。
 六太郎さんの工房は、自宅から自転車で三十分くらいのところにありました。ちょっと気後れがしたのですが、思いきってドアを叩きました。六太郎さんが玄関に。Guitar が好きなんですが、と言ったところ笑顔で居間に通されました。出来上がったGuitar を幾つか見せていただきました。
 ネックが薄く、女性的なGuitar。一目で気に入ってしまいました。

 何処からか、アルハンブラの想い出が聞こえてきます。お弟子さんの演奏でした。素敵なアルハンブラ。工房も案内していただきました。木の香り、塗料の匂い。ワクワクしたのを覚えています。Guitar が出来上がるまでを順を追って教えていただきました。大學生でした。この時、私は日常の総てを忘れ夢中になってしまいました。
 六太郎さんのGuitar が欲しいと言いました。六太郎さんは、ニコニコ笑って次のような話をしてくれました。

  『君は、今日、初めてGuitar を制作するところを見たんだよね。気持ちが高ぶっていると思うよ。
   今、君は、私のGuitar を素晴らしいと感じている。それは、嬉しい事だけど、楽器は、末長く
   付き合うものだ。色々な作家さんのGuitar を試さなければ駄目だよ。その上で自分が一番気に
   入ったGuitar を求めなさい。また、お会いできれば嬉しいよ』

 早速、楽器屋さん巡りを始めました。店には、六太郎さんのGuitar もおいてあります。心は決まりました。
 懐かしい想い出です。そして、六太郎さんのGuitar は、今も私と一緒です。

  付記)Guitar が、登場する短篇「雨」をどうぞ。(別Windowです)