△ 不等辺ワークショップ第11回 (2002/09/29)


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ワークショップも数えること早11回目。私、第9回のレポートをご参照下さい。


写真ワークショップ初っぱなメニューの定番「野菜メドレー」。今回は、「キュウリ・トマト・ピーマン」の三種が野菜代表語句に選ばれました。このゲームで野菜は、目に見えない「たすき」として使われます。まず自分の受け持った野菜の名前を叫びながら次の人を指さし、たすきが正確に受け継がれたことを確認します。最初はゆっくりと部屋の中を歩き回りながら。慣れてきたところで足早になりながら。そして指さしという動作をアイコンタクトに変えて。次のステップでは、2人が野菜名を回し始めます。段階を踏むのが早すぎたのでしょうか。何度繰り返しても、すぐに一方の野菜メドレーは絶えました。そこで少しレベルを落として、野菜のたすきと「A・B・C」という2種のたすきを同時に回すことに。たすきが行方不明になることはなかったけれど、腕や首に絡まってなかなか次の人に渡されないような状況がしばしば見受けられました。同時に2種のたすきを受け取ってしまう人も続出しました。たすきがスムーズに受け渡しされない原因としては、渡す側が受け取り態勢の出来ていない人にたすきを投げ渡してしまったり、たすきを渡されそうになった人が目をそらして受け取り態勢を急に崩してしまったり。「あなたに渡すよ」「うん、受け取るよ」というコミュニケーションが成立してからたすきが渡されるのが前提なのですが、たすきを相手の目の前に差し出して「ほら、受け取ってよ!」ということがしばしば起こっていた気がします。私はゲームを見ていて、あることに気が付きました。一つたすきを受け取って、次の受け取り手を決めた瞬間、ほとんどの人が立ち止まります。止まっている人に対しては、たすきが渡しやすい。止まってしまったが故に、自分のたすきを渡す前にもう一つのたすきを受け取ってしまうのです。これが、2つのたすきを同時に受け取ってしまう原因のように見えました。

写真さてさて、御好評の「ペットバトル」。アシスタントの私も大好きなメニューです。リーダーとアシスタントも加わり、3人一組のチームが3つできました。敵・見方を区別するために、1チームがエプロンをつけます。男性3人がちょっと透ける素材のエプロンをつけた姿、異様です(笑)。「攻撃は最大の防御」をモットーに攻めまくったピーマンチーム。手を前に突き出す新しい防御スタイルを生み出したキュウリチーム。そして作戦不足のトマトチーム(アシスタント参加…)。ピーマンチームの優勝で幕を閉じました。このゲームは、いかにオフェンスとディフェンスを見分けるかでゴールを稼げるのですが、実際にゲームに参加しているときは必死すぎて、自分が「守る・攻める」に専念してしまい、敵チーム中の役割分担を見抜くことが出来なくなってしまうのでした。一点も取れなかったトマトチームには、えもいわれぬ悔しさが残りました。

写真写真「ペンキ屋」も、少しずつ変形はしていますが、定番メニューのひとつです。まずは車座になり、五十音を順に頭文字に使った会話を回していきます。アルバイト(?)をやめた人間がワイキキ(?)に行くという話でまとまりました。次に、四辺の壁をペンキで塗りながら、という設定の下に会話を回していきました。最初は3人でペンキ塗りをスタートさせましたが、途中で人を投入して会話に参加する人数を増やしていきます。「途中から参加するのは難しい」という意見がアンケートに書かれていましたが、これは実生活の会話にも共通することかもしれません。あとから会話に参加するというのは難しいものがあります。

参加申し込みの時点で郵送される課題の発表の場、「就職ガイダンス」

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(1) 地歴測量士(アシスタント)…家業であるため、一番手っ取り早く地歴測量士になるには彼女の婿養子になること、と言ったにもかかわらず、人気投票で一票も入らなかったのは、婿養子になることに抵抗があったからなのでしょうか???

(2) 月光密売人…仕事の詳細を教えると真似されて商売あがったりだ、と秘密主義者の彼は、集めた月光をこっそり見せる仕草が印象的でした。

(3) 果実勘定士…メロンアレルギーのため、メロン好きの新人を急募。実際に彼女にはメロンアレルギーがあるために、アレルギー症状の描写に実感がこもっていました。

(4) バリトン・カフェ…バリトンの声を持つ大人の彼は、「バリトン風に客を迎えてください」という要望に見事に応えて、見ている人々をうならせました。

(5) 時間管理人…有名人の時間を盗もうとする「時間泥棒」というアイデアには感心させられました。「誰にも真似できないリズムがある」という意見も寄せられたプレゼンテーションでした。

(6) ひらめきランプ交換人…生まれたばかりの赤ん坊にランプをつける交換人・古いランプを交換する交換人・亡くなった人々からランプを取り外す交換人という3つのグループ分けをした彼女は、一番職業を膨らませていたように感じました。

(7) 秒針音楽師…癒し系のジャンルに置かれるはずの自分のCDが効果音の棚に置かれていた、というくだりには笑わせてもらいました。

(8) 選択士…キャラクターが際立っていて、高飛車ながらも一番人気を集めていました。選択料・一律8000円。資本は体のみ。確かに魅力的な職業です。

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今回印象的だったのは、誰一人としてメモ書きを手に持たずにプレゼンテーションを行ったこと。手がフリーになるだけで、見ているものに与える印象・情報量は変わってきます。参加者が事前に十分な用意をしてきて参加してくれた証拠です。これはホスト側としてはとても喜ばしいことであり、参加者同士のよい刺激にもなることでしょう。

このあと、2つの職業を組み合わせて新しい商売を始めようという「コラボレーション」なるメニューが予定されていたのですが、時間の都合により、メニューの説明をするのみで終わりました。アンケートに「コラボレーションまでやってみたかった」という意見が多く見られたのは、参加者の積極性の表れであり、今回全体的にレベルが高かった要因のひとつでもあるのでしょう。

ペンキ屋で会話をうまく繋げていったバリトンカフェがMVPに選ばれ、満票で人気を独占した選択士がアシスタント特別賞に選ばれ、ワークショップは終了です。参加者の数は少なかったものの、密度が濃かったなぁと感じるワークショップでした。


写真ワークショップでは今回も架空の職業をとりあげました。ちなみに実在する職業では私は寿司屋に興味がありますね。寿司職人になってみたい。ネタに包丁を入れて、白いごはんを手であの大きさに握って、お客さんの前にそろえて並べて、お客さんはそれを口に運んで食べる。この一連のプロセスでは人間のさまざなな欲求が叶えられている気がします。しませんか? 寿司職人が寿司を握るあのアクションはなんだかエロティックだと思うんです。写真私が寿司職人だったら、そうですね。「熱海殺人事件」の部長刑事みたいに黒いタキシード姿で店に出ますね。理由はない。No Reason! 客が来たら上着を壁のハンガーに掛けて、白いシャツを腕まくりして寿司を握ります。色気だなぁ。私が女性客だったらほれぼれするな。お坊さんの恰好をしたい日もあるかもしれない。コスチューム・プレイが成立しそうだ。やっぱり寿司屋にはエロティシズムが似合うと思うんだな。

写真いずれにせよ寿司が握れるというのはいい。履歴書の特技の欄に「寿司が握れます」だなんて書いてみたいじゃないですか。ポイント高くないですか。あるいは「ご趣味は?」「寿司を少々」だなんて。うん。私が面接官だったら採用しちゃうな。なんの面接であれ。

写真じゃ、平和を祈願してみんなでひとつずつ寿司を握るというのはどうか。千羽鶴を折るのではなくて。寿司を握るという行為には思いを込めやすい気がするな。祈(いの)り寿司だ。街頭で「寿司を握ってください」とボランティア・スタッフが呼びかける。広島には毎夏、全国から大変な量の寿司が千個ずつ送られてくる。山積みの寿司桶だ。なんだか盛大なお通夜だね。いかにも夏の風物詩という気もするけど。ダメかな。さてさて余談が長くてすみません。いま「私が×××だったら」みたいな発想でいくつか(他愛のない)想像をしてみました。「就職ガイダンス」も基本的にはやっていることはこれで、今回もみなさんの想像力にひじょうに心を奪われました。もう、果てしがないですね。何回でもいくらでも見てみたいです。

携帯電話で当日の連絡をとり、デジタルカメラで写真を撮り、インターネットでレポートを公開する。これらテクニカル・デバイスの恩恵があってこそ、ワークショップが今ある形で実施できるのはたしかです。けれどもね。やっていること自体はとっても素朴なものですね。ある程度の広さの部屋で、道具もお金も特に使わずに、それでも大人たちがおもしろく過ごせる時間を創る。ホスト側(というか時間の創り手)としては、こんなに取り組み甲斐を感じることはないです。写真演劇の原初的なあり方もきっとこんなだったんだろうなと想像します。作品を上演するために演劇は進化して、分業化や専門化が進んで、今ある形になりました。でもワークショップは上演を目的とはしていない。だからいい、という部分があるのでしょうね。「ああ、オレこういうの忘れてたわ…」と感じることが多いです。ご参加くださったみなさんはどう思われたでしょう。

写真 大勢で透明な部屋に入ってペンキを塗っている姿が、なんだかコンテンポラリー・ダンスを見ているようだった、とか。参加者の名簿を作ってほしいという要望がみなさんから出て、それははじめてだったのでびっくりした、とか。いろいろと喋りたいことはありますが、今回はこれぐらいで。次回以降もたのしい時間を創ろうと思います。最後に、ご参加くださったみなさんとご協力くださった方々、アシスタントのフクダさんに感謝します。ありがとうございました。(

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