トップページ > ページシアター > よそびと診療所 > シーン1 【公演データ】
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暗転中音楽がかかり、字幕が浮き上がる。同時にナレーション。
字幕・ナレ 「平安時代末期」「安元(あんげん)3年(1177年)4月28日。」
「この日発生した火事は強風にあおられ、都の3分の1を焼く大火となった…」
字幕が消え全体灯り。月明りの林道。薬師(くすし)の瀬名貞親(せなさだちか)が足早に出て来る。
突然雷の様な轟音が響き、立ち止まる貞親。
貞親 「雷(いかづち)?こんな月夜に…」
そこに貞親を追って町人の弥助(やすけ)が出て来て止める。
弥助 「貞親様お待ち下さい!」
貞親 「弥助か。」
弥助 「いずこへ参られます?!」
貞親 「薬師が足りぬのじゃ、このまま町の民が死んで行くのを黙って見てはおられぬ!」
弥助 「今更探しに行かれても時が足りませぬ! されば貞親様にお残り頂き一人でも多くの民を救って頂きとうございます!」
貞親 「されど主の娘らも大怪我を…」
弥助 「どうか!どうか!!」
貞親、歯がゆい想いでため息。すると何かの気配に気づき。
貞親 「物陰へ。」
二人、物陰に隠れる。そこへ苦しそうに胸を押さえ息を切らせた男、ベムが走り込んで来る。背後に
もう一人の影。シルバーロングヘアー、丸形サングラス、黒いコートの男、ノノ・アグラスがベムに近づく。
ベム 「こんな所まで追って来るとは…。」
ノノ 「こんな所まで逃げて来るとは。」
ベム 「頼む…見逃してくれ…この通りだ。」
ベム、膝をつき、祈りのポーズ。
ノノ 「それは無理です。観念して下さい。」
ベム、ノノに襲いかかる。
ベム 「うわあああ!」
ノノ、気功の様な技でベムを抑え込む。
ベム 「やめろ!放せ!悪魔め!」
ノノ 「悪魔?ええ、否定はしません。大丈夫、すぐに楽にしてあげます。痛みも感じさせません。」
ノノ、背中からサーベルの様な金属を取り出す。
ベム 「助けてくれ!助けてくれえ〜〜っ!!」
ノノ、ベムの胸に金属を突き刺す。
ベム 「ぐああ〜〜っ!!!」
貞親、弥助、息を飲む。ノノ、金属を抜く。数秒後、キョトンとするベム。
ベム 「…あれ?…マジで痛くない…」
ノノ 「はい、お注射終わりました〜。」
ベム 「え?終わったの?…あ…ぜんぜん楽になってる…」
ノノ 「言ったでしょ、すぐに楽にしてあげますって。」
そこへノノの助手、ロッサが出て来て注射器を預かる。
ロッサ 「先生。」
ノノ 「ありがとうロッサ。」
ベム 「なんだよぉ、こんなに楽なら逃げまわるんじゃなかったよぉ。」
ノノ 「銀河中を2万光年もね。」
ロッサ 「ではこちらに。」
ノノがアームベルトをベムのおでこにつけると、電子マネーの支払いチャイムの様な音がする。
ノノ 「はい、支払い終了。」
ベム 「本当にありがとうございました!」
ベム、深く頭を下げ、軽快に去る。
弥助 「あ、あれは妖術。もののけに違いございませぬ。」
貞親 「ああ、じゃが、あやつは…人を治した…」
ロッサ 「しかしまあ、とんでもなく辺鄙な星まで来ちゃいましたねえ。さっさと船に戻りましょ。」
ノノ、空を見上げる。
ノノ 「あ…月が…」
ロッサ 「月?あら?…この星の月って…もしかして、声が?」
ノノ 「ええ…聞こえます。擦り傷を診て欲しいって。」
ロッサ 「確かに傷だらけの月ですね。でも星まで治療できるんですか?」
ノノ 「できません。」
ロッサ 「ですよね。」
(作:松本じんや/写真:はらでぃ)
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