△ 「ほぐす!」シーン2


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外の様子をうかがっていたベリー、やっとホッとする。

ベリー 「今回も厳重だ事。」

ベリー、部屋の奥に入っていく。

ベリー 「柿崎!どうなってんの?」

呆然としていた市後、我に返り部屋の隅に後ずさる。

ベリー 「柿崎!なんで電話に出ないのよ!」

ベリー、横たわる柿崎に気づく。

ベリー 「も、何寝てんのよ!」

ベリー柿崎に近づく。

ベリー 「うわ、酒臭っ!ちょっと信じらんない!決行まであと25分なのよ!怪盗ベリーの犯罪史に泥塗る気? 」

市後、無言で驚く。

ベリー 「報酬半分先払いしてんのよ!さっさと起きて手筈を教え…」

ベリー、柿崎の様子に気づく。

ベリー 「…柿崎?」

ベリー、柿崎の脈をみる。脈が無い事に気づきおののく。

ベリー 「あんた…なんで…なんで死んでんのよ…」写真

ベリー、壁まで後ずさると、横にいる市後と目が合い

ベリー 「うおあっ!!」

ベリーと市後、お互い見合ったまま硬直。ベリー声を出せないまま柿崎と市後を交互に見る。状況を察し、無言で市後を指さし、次に柿崎を指さす。市後、ゆっくりうなずく。ベリー、市後のにぎっているひもを指さし、また柿崎を指さし、首に巻いて締めるジェスチャーをする。市後、ゆっくりうなずく。ベリー無言でうろたえる。

市後 「あなたもこいつの仲間?!」

市後、ひもを振り上げる。

ベリー 「ちょ、ちょ、ちょ、ちょい待って!ちょい待って。落ち着こう。ク〜ルダ〜ウン。」

市後、少し落ち着く。

ベリー 「…こいつは、私が金で雇って、仕事の手伝いを…」
市後 「じゃやっぱり!」
ベリー 「仲間じゃないから!も、全然仲間じゃないから!」

市後、また少し落ち着く。

ベリー 「…こいつが悪党だって事は知ってたけど…いや…しかしやっぱり殺すってのは…ちょっと…」
市後 「仇を討ったの…」
ベリー 「え?」
市後 「こいつのせいで…死んだみんなの…」
ベリー 「みんな?」
市後 「…父さん…母さん…兄さん…」
ベリー 「…それは…お気の毒に…」
市後 「…姉さん…」
ベリー 「え?家族みんな?」
市後 「…伯父さん…おばさん…」
ベリー 「え?親戚も?」
市後 「ヒロシ…ゴロウ…」
ベリー 「え?…そんなに?!」
市後 「ぴょん吉…」
ベリー 「ぴょ、ぴょん吉?!」
市後 「マイケル…」
ベリー 「マイケル?!外人も?!」
市後 「カーティス、ニルス…」写真
ベリー 「ん?」
市後 「アナ…エルサ…オラフ…」
ベリー 「え?あれ?それ…」
市後 「チップ…デール…」
ベリー 「ちょっと待って…」
市後 「タロ!!ジロ!!」
ベリー 「…あの…それって…もしかして…」
市後 「…ひろしからは犬と猫とハムスターと…」
ベリー 「だよね…」
市後 「カエルと…」
ベリー 「ぴょん吉。」
市後 「ぴょん吉はウサギ。」
ベリー 「あ、ウサギね。」
市後 「シマリスと、カニと…」
ベリー 「随分たくさんペットを…」
市後 「ペットも家族です!!」

市後、またひもを振り上げる。ベリー、なだめる。

ベリー 「そうね!それはそうね!ク〜ルダ〜ウン。」
市後 「…私の家族は…こいつに金を騙し取られて…とんでもない借金して一家心中を…私だけ生き残って…でも、引き取ってくれた伯父さんおばさんも…保証人になっていて…結局自殺を…」
ベリー 「…うわぁ…」
市後 「きっとこいつのせいで死んだ人間は、他にも山程いる。」
ベリー 「で…こんな事…」
市後 「最初は殺すつもりはなかった。心から謝ってくれれば。でもこいつ…私たちの事、覚えてもいなかった…」
ベリー 「まあ…自業自得って感じではあるけど…(ハッと気づき)いやいやいや!それでも、今殺されちゃ超困るんですわ!」
市後 「え?」
ベリー 「いや、だからさ、私はこいつに色々頼んでさ、今から、その、大仕事をしようと…」
市後 「怪盗ベリー。」
ベリー 「げぺっ!!な、なんでそれを?!」
市後 「自分で言ってました。」
ベリー 「え?(一瞬考え)あ、言ってたわ。ま、つまりそういう訳で、こいつが今日の盗みの手筈を全部整えてたのに…ああ!後23分!」
市後 「またの機会にすれば…」
ベリー 「予告状出しちゃってんのよ!今夜8時半にブリジニツィーを頂くって。」
市後 「ブリジ?…」
ベリー 「ブリジニツィー!上の階でやってるエイベキスタン宝石展の目玉!知らないの?双子の宝石って言われてて、」

市後、フラフラとドアの方へ

ベリー 「二つ揃うとメチャクチャ綺麗な光を放つ、世にもめずらしい宝石よ!この機会逃したら二度と展示されないかもって!ああ今まで一度も失敗してないってのに、このままじゃ明日の新聞の見出しは「怪盗ベリー遂に失敗!」で決定よ!ああ!私のプライドがちょっとあんたどこ行く気?」

市後、立ち止まる。

市後 「…。」
ベリー 「ん?」
市後 「…逃げ…」
ベリー 「られないわよ悪いけど。私の予告のお陰で今外は警官がわんさかわんさ。」
市後 「…そう…でも、それもどこかで覚悟してた…」

市後、フラフラとイスを持って行き。それに乗って紐で輪っかを作る。

ベリー 「ちょっと…今度は何する気?って当然わかってるけど!」

ベリー、市後をイスから降ろす。

市後 「死なせて下さい!死なせて!」
べリー 「冗談じゃないわよ!」
市後 「あなたには関係ないでしょ!」
ベリー 「あるわよ!これから大仕事するって時に、ここにゴロッと死体、そこにブラっと死体なんて最悪の環境でしょ?!それに、下手すりゃ私が殺したって事にされちゃうわよ!」

市後、大人しくなる。

市後 「…わかりました。」
べリー 「そ、良かった…」
市後 「私がやったって遺書きます。」
ベリー 「そうゆう事じゃないよね?!」
市後 「じゃ、あなたが殺して下さい!これでギュッと!」
ベリー 「は?!」
市後 「ギュギュッと!」
ベリー 「何言ってんのよ!そんな事したら明日の新聞の見出しは「怪盗ベリー遂に殺人!」で決定よ!」
市後 「元々犯罪者じゃないですか!」
ベリー 「泥棒と殺人犯を一緒にしないでよ!いいあんた?奪った品は返せても、奪った命は返せない!人を殺したら終わりよ!」
市後 「…終わり…そう…私はもう終わりよ…」写真

市後、自分の首に紐を巻き自分で締め始める。ベリー止めながら

ベリー 「ああもうめんどくさいよお〜!(時計を見て)わあもう時間もないよお〜!」
市後 「…早くみんなのところに行きたい…」

ベリー、市後の肩を掴み

ベリー 「いい?よく聞いて!あんたはこいつを殺して私の仕事のじゃまをした。私は警官を呼んであんたを逃げられない状況にした。お互い借りがあるわよね。」
市後 「え?」
ベリー 「あなたは私の手伝いをして。そしたら私があなたを逃がしてあげる。これでお互い借りが返せる。」
市後 「手伝い?…何をすれば…」
ベリー 「この柿崎ってやつは、必ず計画を書いたメモを作るの。そこには宝石のそばまで行く手順や、逃走経路まで書かれている。それがこの部屋のどこかにあるはず。探すの手伝って。」
市後 「でも…」
ベリー 「時間がないの!」
市後 「…わかりました。」
ベリー 「よし。急ぐわよ。」

メモを探しながら。

ベリー 「あんた、名前は?」
市後 「市後です。」
ベリー 「いちご?」
市後 「市場の市に後ろで市後。」
ベリー 「珍しいね。あ、でもいちごとベリーって…なんかコンビみたいね。」
市後 「え?あ、はい…」
ベリー 「下の名前は?」
市後 「くるみです。」
ベリー 「市後くるみ?なんか…イチゴミルクみたいね。」
市後 「よく言われます…」

(作:松本じんや/写真:関口空子・はらでぃ)

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