△ 「ヴァンパイア・ブリード」シーン8


トップページ > ページシアター > ヴァンパイア・ブリード > シーン8 【公演データ

<前一覧次>

字幕『20時05分 瀬名診療所』
明転。ひまわり、眠っている。典子近くに座ってココアを飲んでいる。ひまわり、目を覚ます。まだ傷がうずく。

ひまわり 「うっ…」写真
典子 「お、目が覚めたか野良猫ちゃん。」

典子、ひまわりに近づく。

典子 「さっきは悪かったね、ニンニクがあんなに効くとは思わなかったからさ。」

ひまわり、また剣を出し振りかざすが、典子がひまわりに息を吹きかけると

ひまわり 「うっ!」
典子 「おお、こんなんでも効くか。」
ひまわり 「貴様!」
典子 「さっき餃子三人前食べた。」
ひまわり 「くっそぉ…」
典子 「しっかし驚いたね、あんたたち、体の中に剣なんかしまえるんだ。」
ひまわり 「ふっ。ヴァンパイアを舐めるな。ニンニクが効くのは弱っている時だけだ。」

典子、手でバッテンを作る。

ひまわり 「十字架も無力だ。全快したらお前もあの男もボロ雑巾にしてやる。」
典子 「ボロ雑巾?八つ裂きにはしないんだ。」
ひまわり 「人は殺せない掟だ。忌々しい…」
典子 「ほう。」
ひまわり 「だが、半殺しなら問題はない!」
典子 「あたしは構わないけど、あの子はやめとけ。仮にも命の恩人だろ。」
ひまわり 「それが屈辱だと言ってるんだ!人間なんかに…人間なんかに…」
典子 「いやだねぇヴァンパイアの世界は。」
ひまわり 「なに?」
典子 「あんた達には義理も人情もないのかい?太陽は重いあんたを背負って、隅田川からここまで運んで来たんだ。夜中に何時間もかけてね。自分も難病かかえてるってのに。」
ひまわり 「難病?」
典子 「あんた見たときゃ驚いたよ。頭はパックリ割れてるし、手足はちぎれかけてるし、腹から内蔵はみ出てるし、何より心臓が止まってた。ありゃどっからどう見てもに死体だ。」
ひまわり 「ヴァンパイアはその程度では死なない。」
典子 「太陽のやつ、ついに頭おかしくなって人まで殺しちまったかと。」
ひまわり 「もう動ける。ここから出せ。」
典子 「バカ言うな。まだ早い。」
ひまわり 「出せと言ったら出せ!!」

外から声。

太陽 「せんせ〜い!」
典子 「帰ってきた。礼ぐらい言ってやんな。減るもんじゃないだろ。」

太陽、入って来る。

典子 「お帰り、薬は?」
太陽 「大丈夫。彼女は?」
典子 「起きてるよ。ココア飲む?」
太陽 「飲む飲む!あ、彼女の分も。」
典子 「ヴァンパイアってココア飲むの?」
太陽 「わからないけど、先生の入れるココア美味しいから。」
典子 「あれ、インスタントだけど。」
太陽 「先生が入れるから美味しいんです。」
典子 「よく言うよ。」

典子、ハケる。太陽、ひまわりに近づく。

ひまわり 「来るな!」写真
太陽 「ごめん!でも、こんな機会もう二度とないかもしれないから、色々話しを聞きたいんだ。」
ひまわり 「お前に話す事など無い!」
太陽 「話せる事だけでいいんだ。快復したらちゃんと帰してあげるから。」
ひまわり 「人を『保護した野生動物』みたいに言うな!」
太陽 「ごめん。でもお願いします!」

太陽、頭を下げる。ひまわり、そっぽむく。太陽、落ちている汚れたハンドタオルに気付き拾う。

太陽 「あれ?なんだこれ?『ひまわり』…」
ひまわり 「あ!返せ!」

ひまわり、ハンドタオルをひったくる様に取り返す。

太陽 「もしかして、ひまわりって君の名前?」
ひまわり 「ふん。」
太陽 「すごい!君がひまわりで僕が太陽!運命感じない?!」
ひまわり 「黙れ。」
太陽 「でも、ヴァンパイアでひまわりって名前は…」
ひまわり 「うるさい!これは人間だった時つけられた名前だ!」
太陽 「…君、人間だったの?」
ひまわり 「…赤ん坊の時血を吸われてヴァンパイアになった。これはその時持ってたんだ。」
太陽 「親は?」
ひまわり 「両方とも事故で死んだ。覚えてないが。」
太陽 「おんなじだ。」
ひまわり 「え?」
太陽 「僕も両親いないんだ。母親は僕が1歳の時、父親は僕が9歳の時病気で。そのあと養子に取られて今の家族と暮らしてる。母と、姉と。君、兄弟は?」
ひまわり 「…殺した。」
太陽 「え?」
ひまわり 「…血の繋がっていない姉を、裏切り者の姉を殺した…」
太陽 「殺した…?」

典子、ココアを持って来る。

典子 「お待たせ。」
太陽 「あ、ありがとうございます!」

太陽、ココアを受け取りに行く。

典子 「どうよ、インタビューウィズヴァンパイアは?」
太陽 「ええ、まぁ。」

太陽、ひまわりにココアを持って行き、差し出す。

太陽 「どうぞ。」
ひまわり 「なんだこれは。」
太陽 「ココア。あ、やっぱり血液じゃないとだめ?」
ひまわり 「別に我々は血液だけで生きてるわけじゃない!」
太陽 「良かった、じゃ、飲めるんだ。」
ひまわり 「…いらない。」
太陽 「何かお腹に入れた方が快復早まるんじゃない?」

ひまわり、少し反応する。

太陽 「一口でいいからさ。美味しいよ。あったまるし。」
ひまわり 「いらないって言ってるだろ!」
典子 「人間の作ったもんは口にしないか。まるて保護した野生動物だね。」
ひまわり 「なにぃ?!」
太陽 「先生。」

太陽、典子に向けて首を振る。

典子 「ん?」写真
ひまわり 「…よこせ。」
太陽 「え?」
ひまわり 「…飲んでやる。」
太陽 「…どうぞ。」

ひまわり、カップを奪う。

ひまわり 「しくちょう…」

ひまわり、厳しい顔をして一口飲むが、美味しいくて、少し穏やかな顔になる。

太陽 「どお?」

ひまわり、黙ってそっぽ向く。

太陽 「(典子に)美味しいって。」
ひまわり 「言ってないだろ!快復早めるために飲んでやってるだけだ!」
太陽 「(典子に)だそうです。」
典子 「まったく、素直じゃないねぇ。で、太陽、名前は?」
太陽 「ひまわりさんです。」
典子 「ひまわり?ヴァンパイアなのに?!」

ひまわり、典子を睨みつける。

太陽 「怒らないでひまわりさん。実は僕も皮肉な名前なんだ。XPって病気知ってる?」
ひまわり 「XP?」
太陽 「ゼロダーマ・ピグメントサム。通称XP。色素性乾皮症っていう病気なんだ僕。簡単に言えば太陽を浴びると死んじゃう病気。ヴァンパイアと同じさ。なのに名前が太陽。おかしいでしょ?」
典子 「おかしかないだろ。こんな難病なのに昼間も外出歩いて。」
太陽 「大丈夫だよ。プロテクトスーツ着てれば。ほら、君が宇宙服と間違えたやつ。」
典子 「あんまりおうちの人心配させんな。お母さん言ってたぞ、「最近昼遊びばっかりで」って。」
ひまわり 「昼遊び?」
太陽 「僕の場合夜遊びじゃなくて昼遊びになちゃう。夜も紫外線はあちこちあるけどそのくらいなら薬でなんとかなるし。」
典子 「さっき持ち忘れてたくせに。」
太陽 「気を付けます。」
典子 「そうか、あんたんち、怖いのは姉貴の里子さんの方だったね。」

ひまわり、急に浮かない顔になる。

太陽 「はい、怖いです。」
典子 「あたしも弟いるから分かるなぁ、里子さんの気持ち。こんな弟いたら心配でしょうがないよ。」
太陽 「僕は先生の弟さんの気持ちがわかるなぁ。こんな怖いお姉さんいたら…」
典子 「なんだって?」
太陽 「ごめんなさい。」
典子 「ま、姉の苦労なんてあんたたちには一生わかんないよ。」

ひまわり、ベッドから出る。

太陽 「どうしたの?」
ひまわり 「…なぜ…私は生きている…」
太陽 「え?」
ひまわり 「姉を殺して私も死ぬ…それが私の任務だった。」
太陽 「ひまわりさん?」
ひまわり 「私は姉を殺した。なのにどうして私はまだ生きている?」
太陽 「何を言ってるの?」
ひまわり 「まだ任務が残っている。」

ひまわり、自分の剣を首にあてる。

太陽 「何するんだ!」写真
ひまわり 「私が死ねば、やっと任務が完了する。」
太陽 「死ぬ?」
ひまわり 「首と動体を切り離せば死ねる。」
太陽 「待ってひまわりさん!」
典子 「ちょっとあんた。ここは病院だよ。生きたいと思ってる人達が集まる場所だ。死にたいやつの血で汚さないでくれる?」
ひまわり 「人間は黙っていろ!」
典子 「人間だろうがヴァンパイアだろうが関係ない!死ぬのがあんたの任務だって?だったら命を救うのがあたしの任務だ!」
ひまわり 「人間なんかに…人間なんかにわかってたまるか!」
太陽 「出してあげるよ!」
典子 「え?」
太陽 「自由にしてあげようよ,先生。」
典子 「でもまだ傷が…」
太陽 「きっとこんな所に閉じ込めてるからおかしくなっちゃってるんだよ、彼女。」
典子 「太陽。」
太陽 「ごめんねひまわりさん。追い詰めちゃって。もう、自由にしてあげるよ。でも一つ条件がある。死のうなんて思わないで。」

ひまわり、目線をはずし、警戒しながら足を引きずり出口に向かう。二人の前を横切った時

典子 「今度死ぬ何て言ったらぶっ殺すよ。」
太陽 「先生、矛盾してます。」

ひまわり、出口にたどり着く。

太陽 「ひまわりさん。」

ひまわり、立ち止まる。太陽、ひまわりに駆け寄り

太陽 「これを」

紙切れの様なものを渡す。

太陽 「確かに、あなたが死んでも、きっと世の中は何も変わらないと思います。」

ひまわり、行こうとする。

太陽 「でも」

ひまわり、また立ち止まる。

太陽 「あなたが生きてる事で、世の中が変わるかもしれませんよ。」

ひまわり、半分振り返るが、去る。太陽、典子、ひまわりの去った方を見ながら

典子 「いい言葉じゃない。」
太陽 「父の受け売りです。」
典子 「お父さんの?」
太陽 「父が病気でもう長くないって聞いた時、僕もこんな病気だったし、「一緒に死にたいっ!」

って言ったんです。そしたらそう言われました。」

典子 「生きてれば世の中を変えられるかも、か。…あの子大丈夫かな?」
太陽 「さあ。…でも会えて良かったです。」
典子 「…さ、ココア入れ直すか。」
太陽 「はい。」

二人、去りながら。

典子 「さっきあの子に何渡したの?」
太陽 「うちの住所です。」
典子 「お!ぬかりないねぇ。」

典子、去る。太陽、立ち止まりポケットから小ビンを出し、見つめ再びポケットにしまい、去る。

(作:松本仁也/写真:はらでぃ)

<前一覧次>


トップページ > ページシアター > ヴァンパイア・ブリード > シーン8 【公演データ