トップページ > ページシアター > ダンボールキッチン > 第30回 【公演データ】
上手より覚。
覚 帰ってたのか麻美
麻美 うん
夢子 (下手より戻り)あら。起きて大丈夫?
覚 ああ。(出された茶を見て)…客か?
夢子 秘密
覚 へ
夢子 女だけの、秘密。ね
麻美 そ
ナルコ …
覚 (胡散臭そうに)…ふん…
夢子 薬?
覚 ああ…
勝手口が開き、アトムが顔を出す。
麻美 お帰り〜
アトム ただいま…あ、麻美さん。おかえりなさい…
夢子、麻美、ナルコ、それぞれの思いいれあってアトムを見る、間。
夢子・麻美 …はーん…
ナルコ …
アトム な、なんですか
麻美 や。別に
夢子 おつかれさま(手を出す)
アトム は…(薬を渡す)
覚 何やってる
夢子 誰かいるの
アトム それが…
アトム、後ろにいた俊を引っ張り出す。
麻美 ありゃ
夢子 俊!
俊 …やあ
夢子 やあじゃないわよ、どこにいたの今まで!
俊 …うん…
覚 で。なにをやってたんだこの一週間
俊 …探してた…二人を…
夢子 会ったんじゃなかったの
俊 会ったよ。話もした。興信所の件…
覚 なんと言ってた
俊 …嘘っぱちだって晃冶さんは滅茶苦茶怒ったけど…
夢子 けど?
俊 …上京した親戚に会うって二人で出かけて…そのまま…
覚 (苦々しげに)…帰って来なかった、か…
俊、悔しそうに頷く。
麻美 やっぱ騙されたんじゃないの
俊 そんなわけないよ!
麻美 だって逃げちゃったんでしょ二人とも
俊 忙しいだけなんだ、ビルの契約やなんかで…
覚 生きてたのかその話
俊 もちろん
覚 金はどうした。確か向こうの親が…
俊 …
覚 何か渡したのか?え?
俊 …
覚 黙ってないで何とか言え!
俊 …すぐに返すからと言われて…
夢子 貸したのね
麻美 いくら?
俊 …三千万…
間。
覚 …三千万?
麻美 …そんなお金どこから…
夢子、蒼白になり。
夢子 まさかあなた、あの口座を…
俊 他にあるかよ
夢子 (喘ぐように)あれを?全部?
俊 必要だったんだ、しょうがないじゃないか!
夢子 でも…でもあのお金は…
俊 大した額じゃないだろ。母さんのCMのギャラ一回分だ
麻美 俊!あんたね…
夢子、俊の頬を平手で打つ。静まり返るキッチン。信じられないといった表情の俊。
俊 …母さん…
夢子 …あなたが生まれたとき、お父さんが書いた小説…知ってるわね
俊 …
覚 …よせ
夢子 (無視して)初めての男の子…お父さんは大喜びだった。その感激を綴ってできた短編小説…印税が入り始めたとき、お父さんはこういったの。『この金は俺のものじゃない。小説を書かせてくれた坊主のものだ…』
俊 …
夢子 『だから坊主の名義で貯めておこう。きっといつか役に立つ。それに坊主の金だと思えば…』
俊 …
夢子 『…俺が飲んで使っちまう心配もないしな』…
俊 …
覚 (呆れて)自分の台詞で泣くな。それでも女優か馬鹿
夢子 …だって…だって…
泣きじゃくる夢子。覚、そっとその肩に手を置く。
俊 …大丈夫…
覚 …
俊 …大丈夫だよ母さん。金は絶対戻ってくるって
夢子 俊…
覚 お前、まだそんな…
俊 そりゃ晃冶さんは俺を騙したかもしれない。でも、でも千里は俺の恋人なんだぜ。裏切るなんてこと…
間。
俊 …なんだよ…まだ、なにか…
覚 …これだけは、お前に知らせたくなかった…
俊 …
覚 俊。あの二人はな、兄妹なんかじゃない。…夫婦なんだ
俊 …え?
覚 もう10年連れ添った、夫婦なんだよ…
間。
俊 嘘だ…
覚 …
俊 …嘘だ…
麻美 …警察、行きなよ俊
俊 …
麻美 まだ間に合うかもよ
夢子 でもあなた…
麻美 (笑って)そん時ゃそん時。何とかなるって
俊 …
麻美 …いつまでも逃げてらんないよね、あたしも
覚 …アトム
アトム …へえ
覚 車を回してくれ
アトム へえ(下手へ去る)
俊、ふらふらと立ち上がり歩き出す。
ナルコ、その前をふさぐように立つ。
ナルコ …駄目。警察なんか行っちゃ駄目だ!
ナルコ、俊にむしゃぶりつく。慌てる覚たち。
夢子 何言ってるのナルコ!
ナルコ 千里さん好きって、あれ嘘!?ぜんぶ嘘!?
俊 嘘なもんか!
ナルコ じゃあどうして信じないの!
俊 信じたいよ俺だって!だけど…
ナルコ だけど何よ!
覚 やめんか!
ようやく二人、引き離される。二人とも肩で息をしている。
夢子 (呆然として)どうしちゃったのよナルコ…
覚 お前がムキになること…
ナルコ 気持ちがびろーん…
覚 はあ?
俊 …
ナルコ (俊の目を見つめ)あの時助けられたの、お兄ちゃんだけじゃない…
俊 …
(作:中澤日菜子/写真:広安正敬)