△ 「A1-PANICS!」第3回


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大須、持ってきた包みをとく。
中から大小のサボテンが。

敦子 「けっこう大きさが違うんですね」舞台写真
小川 「形も違うぜ。へー面白いな」
美咲 「これ、大きさや形によって何か変わるんですか?」
大須 「イ、イエ。それは全く関係ありません」
有川 「見てこれ面白い。Vサインみたい!」
美咲 「あっホントだ」
敦子 「こっちのはクマさんみたい」
安永 「カワイイですねー」
桑田 「ほぉー見ろよナグリに似てねーか」
美咲 「桑田さんぴったりじゃん、それ」
小川 「へーこれなんか、まるで…」

間。
全員の動きが止まる。

桑田 「…。大須さん、これは、まずいよ」
大須 「な、何故です!?何がまずいんです!?」
桑田 「何って…」
美咲 「うん。うち、こーいう芸風じゃないから」
大須 「芸風はカンケーないでしょこの際!」
敦子 「だけど…これ、どう見たって…ねェ」
有川 「こういう物はワハハ本舗に持ってってもらわないと」
大須 「な、何を言ってるんです?サボテンですよ、これは!いわば自然の造形物です、例え形がチ…(pi〜)チ…(pi〜)チ…(pi〜)」
岸野 「わかったわかった。いいよ、これはサルに残しておけば」
美咲 「そうね、じゃ残り、選んじゃっていい?」
大須 「ええ、お好きなのを」

皆、選びはじめる。

大須 「そうだ!もうひとつだけお願いが…。ぜひ着けて頂きたいサボテンがあるんです」
敦子 「また変な形なんじゃないでしょうねー」
大須 「いや。これがまたいい形なんだ、ホントにいい形。ただ…」
美咲 「ただ?」
大須 「…サイズが」

と言って傍らの包み(1m位)をとく。
中から巨大なサボテンが。
再び間。

美咲 「…大須さん、これ、サボテン?」
大須 「ほ、放射線あてたらちょっーと成長早まっちゃって、アハハ…」
敦子 「…放射線…」
小川 「…ゴジラかいっ」
大須 「で、でも人体に影響はありませんから!ほんとに!ただちょっと大きいだけで…」
美咲 「困ったなァ。ね大須さん、これも実験しないとダメなの?」
大須 「それは、もう!ここにあるサボテンは全て異なる条件のもとで発育させてあるんです、だから1個でも欠けると…」
鴨志田 「…私が」
小川 「うあっ!」
桑田 「いたのか、カモシダ」
鴨志田 「…エエ。ずっと」
岸野 「私がって、お前、これつける気なの?」
鴨志田 「ハイ…いけませんか」
岸野 「いや、いけなかァないが…」
大須 「ありがとうございます!ためしにつけてみますか?」舞台写真

つけるカモシダ。
異様。

美咲 「人間より、サボテンのが目立つわね…」
小川 「サボテンに養分吸いつくされたって感じだな」
岸野 「お前…そのカッコでどうやってオペ室、入るの?」
敦子 「そうだよ、つっかえちゃうよ、天井低いんだから」
鴨志田 「…」

カモシダ、頭を横に。

岸野 「そ、そのカッコで音、出すのか?」
有川 「やめてよ!!あたし隣で照明操作するのよ!刺さっちゃうじゃない!!」
鴨志田 「…」

反対の横に。

桑田 「カベだぞ」
鴨志田 「…」

うつむく。

桑田 「舞台だ」
鴨志田 「…」

ブリッヂ。

桑田 「…死ね」
鴨志田 「…」
岸野 「いいよ、わかったよカモシダ、お前の気持ちは。でもムリだ。舞台で働く人間には、こいつはムリだよ」
小川 「て、ことは…」
敦子 「必然的に…」

視線が安永に集中する。

安永 「エッ私!?私!?私ですか!?」
岸野 「許せ、愛。この場で舞台作りに関係してないのは、お前だけなんだ」
安永 「そんなこと言われても…」
大須 「安永さん、今、足りなくて困っているものはありませんか」
安永 「は?え、えーと…ホチキスの針がなかったかな」
大須 「それではこうしましょう。この巨大サボテン"特大ちゃん"をつけてくれたらば、ホチキスの針を1年分、さしあげることにします」
安永 「やりましょう!」
小川 「おおお!」
岸野 「よーし、じゃ残りを各自選んでくれ。…いいか?そうしたらストラップを首の下でとめて…」
敦子 「それだけ?ずいぶんカンタンなんですね」
大須 「肌に密着させればいいんです」
美咲 「次は?どうするの」
大須 「待つんです」
美咲 「待つ?」
大須 「ええ。皆さんの中に眠る潜在能力を、サボテンがとらえ増幅してくれるまで、ひたすら待つんです」
小川 「このままでかよ?」
大須 「いえ、もちろん作業を続けて下さって構いません。いやむしろ、続けて頂く方がありがたいんです。と、いうのは、今までの研究の結果、どうやら潜在能力は、その人間の"願い"に強く関わっていると思われるからです」
敦子 「願い?」
大須 「そうです。例えば、私がかけ事が好きで、明日の競馬の着順を心から知りたいと願う。すると――未来を予知し、当たり馬券のナンバーが見えてくる、と。まあ、大ざっぱな例えですが」
有川 「なるほどねえ」
安永 「エッじゃあ大須さんは、あの半裸の屈強な男たちが願い!?」
大須 「イエッ、も、もちろん例外はあります!全く何の関係もない能力という場合も…とにかくデータが少なすぎるんです。だから皆さんには、いろいろな状況で仕事を続けてほしいんです。お芝居の仕込みに無理を言っておじゃましたのも、そのためなんです」
美咲 「考えたわねー確かに芝居なら、こんなモン頭にのせててもそんなには怪しまれないし」
小川 「もともとが充分怪しいからな」
大須 「そういうことです」
小田嶋 「おい、いい加減仕事に戻れよ。何時だと思ってんだ」
岸野 「わかってるよ。じゃ皆な作業続けてくれ」
「ハーイ」

みな、散り散りに。
しばし、作業が進む。
手持ちぶさたな大須。

大須 「あのー、小田嶋さん」
小田嶋 「ン?」
大須 「わ、私もなんか手伝いましょうか?」
小田嶋 「そお?じゃ…桑田ァ」
桑田 「んー?」
小田嶋 「人手、欲しいか」
桑田 「欲しい」
小田嶋 「じゃ大須さんに手伝ってもらえや。大須さん、桑田にやることきいて」
大須 「ハ、ハイ。あの、何をしましょうか」舞台写真
桑田 「ナグリ、使えます?」
大須 「ハ?ナグリ?」
桑田 「トンカチのことですよ」
大須 「あ、使えます大丈夫です」
桑田 「じゃあ、ここんとこ、この大きさのクギではしっこまで打ってって下さい」
大須 「わ、わかりました」

大須、クギを打つ。が、曲げて打ちこんでしまう。
あわてて抜こうとするが、力をこめすぎ、板を割る。

桑田 「…」
大須 「す、すみません。あれっおっかしーなー家のトンカチと違うからかなー」
桑田 「…帰ってくれないか」
大須 「…ハイ」

すごすごと戻る大須。

小田嶋 「あれ、もう終ったンすか」
大須 「スミマセン、返品されました」

そこへカモシダ。

鴨志田 「…私と」
大須 「え?」
鴨志田 「働こう」
大須 「えええ!」
小田嶋 「いいのか…カモシダ」
鴨志田 「(首肯して)ぜひ彼に、やって欲しい仕事があるんです」
大須 「嬉しいなーエート、ツルシダさんでしたっけ?」
鴨志田 「…カモシダです」
大須 「あっ失礼失礼!…で、何をすればいいんです?ツルサギさん!」
鴨志田 「…」

カモシダ、無言でテープの山、指す。

鴨志田 「…これ…」
大須 「は?」
鴨志田 「…折って」
大須 「は?折れとおっしゃいますと?」
鴨志田 「この…爪をね、折ってほしいんだ…こうやって…」

プチッ。カモシダ、爪、折る。

鴨志田 「…できる?」舞台写真
大須 「え?!で、できますとも!テープの、爪を折ればいいんでしょ?こう…」
鴨志田 「そう…上手い上手い…うわぁー」
大須 「へ?」
鴨志田 「うわーうわーうわー…」

パチパチパチ。

大須 「すんませーん!誰かー!」

一同、見て見ぬふり

鴨志田 「…じゃ、頼むわね…」
大須 「…ハイ」
鴨志田 「…わからないことがあったら、きいてね…」
大須 「……ハイ」

(作:中澤日菜子/写真:広安正敬)

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