歯周補綴の考え方

クロスアーチブリッジと咀嚼能力

 Laurell(1985)論文の続きです。
 咀嚼能力の研究に選択された被験者は次の通りです。
 完全に健全な歯列 : 14人
 クロスアーチブリッジ(非カンチレバー) : 13人
 クロスアーチブリッジ(片側2ユニットのカンチレバー) : 13人
 全部床義歯 : 14人

 2つの観点から咀嚼能力をみています。
 咀嚼能率 : 一定時間内でどれだけ細かくできるか
 咀嚼成績 : 咀嚼可能と感じるまでに、どれだけ細かくなっているか

 これらの評価のために、2粒のアーモンド、異なる隙間のふるい網(A: 5.6mm、B: 4.0mm、C: 2.0mm)、下記の指数が用いられました。

咀嚼能率指数 Chewing efficiency index (CEI)
CEI 1 10秒後にA小片はなく、B小片は5個以下
CEI 2 20秒後にA小片はなく、B小片は5個以下
CEI 3 20秒後にA小片は5個以下(10mm以上の大きさはない)
CEI 4 CEI 1-3の基準を満たしていないが、40秒後にA小片はない
CEI 5 CEI 1-3の基準を満たしていないが、40秒後にA小片がある

 

咀嚼成績指数 Chewing performance index (CPI)
CPI 1 A小片はなく、B小片は5個以下
CPI 2 A小片はなく、B小片は5個以上
CPI 3 A小片は5個以下(10mm以上の大きさはない)
CPI 4 A小片は5個以上でB小片は10個以下
CPI 5 A小片は5個以上でB小片は10個以上、咀嚼時間が40秒以上

それぞれの人数をグラフに示します。


(Laurell 1985より改変)

 中央値を表に示します。クロスアーチブリッジの咀嚼能力は健康な歯列よりやや劣るものの、全部床義歯よりも良好な状態でした。

  CEI CPI
完全に健全な歯列 1 1
クロスアーチブリッジ(非カンチレバー) 2 1
クロスアーチブリッジ(片側2ユニットのカンチレバー) 2 1
全部床義歯 3 3
有意差 p<0.001 p<0.001

 残存歯根膜面積とCEI、CPIの関係についても調査されていますが、相関関係は認められませんでした。

総括

 この項目の総まとめです。

1. 歯周支持組織が喪失し、動揺が増加した歯でも、適切な歯周治療が行われ、良好なプラークコントロールが維持されているならば、ブリッジは有効な処置法である。
2. ブリッジの脱離・破折と支台歯の破折は、歯周組織が悪化したためではなく、主に技術的な失敗(technical failure)、失活歯の生体力学的な原因、う蝕によるものである。
3. 病的な動揺(increasing tooth mobility)や技術的な失敗を避けるため、支台歯形成に留意するとともに、6ヶ月間はプロビジョナル・レストレーションで観察することが望ましい。
4. 歯根膜面積が小さくなると咬合力も小さくなる傾向にあるが、咀嚼中の咬合力は耐えうる最大力の25%程度であり、かつ咀嚼能力にはほとんど影響しない。

 インプラントとカンチレバーブリッジでは考え方が異なるものの、歯周補綴の原則的な部分では共通する項目も多くあるといえます。

 

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最終更新2013.1.10