全身疾患と歯周病

心疾患

歯周病と関係のある心疾患

 歯周病と関係が深いと考えられている心疾患としては、次のものが挙げられます。

細菌性心内膜炎(=さいきんせいしんないまくえん) : 心臓を覆う膜には外側を覆う外膜(=がいまく)と心臓の内側にあり、心臓弁も構成する内膜(=ないまく)があります。先天性心疾患、弁膜症、人口弁におい て、心内膜や弁膜に細菌の感染が起こったものを細菌性心内膜炎といいます。細菌感染がおこる誘因として歯科治療(抜歯)が約半数を占めており、その関係は 古くから知られています。感染巣を生じた部分では弁膜の破壊や敗血症が起き、最終的には心不全(弁が破壊されるなどにより心臓のポンプ作用が上手く働かず、全身へ十分な血液が送れなくなった状態)となります。
状動脈疾患(= かんじょうどうみゃくしっかん) : 心筋へ酸素を供給する動脈は、大動脈から枝分かれをして心臓の表面を走っています。これを冠(状)動脈といいます。この部分の動脈硬化、動 脈開口部の狭窄、血栓の形成などにより、血流量が制限されるためにおこる疾患を総称して冠状動脈疾患といいます。このうち、虚血性心疾患アテローム性動脈硬化症との関係が研究されています。ちなみに、心臓内の血栓が剥離し、脳の動脈に達して閉鎖させてしまうと脳梗塞となります。
虚血性心疾患(=きょけつせいしんしっかん) : 心筋への酸素供給量が酸素需要量よりも低下した時に生じる心疾患です。狭心症(一過性の可逆的な虚血がみられるもの)と心筋梗塞(冠動脈の閉塞によって心筋に非可逆的な壊死が生じるもの)に分けられます。
アテローム性動脈硬化症(=どうみゃくこうかしょう) : 血管内膜層に脂質が沈着し、内膜細胞の増殖、線維性結合組織の増生、石灰沈着、血栓形成をきたした動脈硬化症です。この部分に潰瘍、出血が起きると血管が狭窄していきます。

 

心疾患に影響を与えるメカニズム

 細菌性心内膜炎では血流を介して細菌が付着することは上記に述べましたが、口腔内細菌ではより慢性的な経過をとる亜急性細菌性心内膜炎の誘因菌としてグラム陽性菌(特に連鎖球菌のうちStreptococcus sanguis)が主として研究されてきました。1980年代に入ってから、歯周病の原因と考えられているグラム陰性菌も細菌性心内膜炎でみられることが報告されています。

 それらの歯周病関連性細菌としては、

Actinobacillus  actinomycetemcomitans
Porphyromonas gingivalis
Eikenella corrodens
Capnocytophaga

Fusobacterium nucleatum

などが確認されています。

 感染巣を形成する以外にも、血小板の機能や血液凝固能にも影響する可能性が示唆されています。

 冠状動脈疾患では歯周病の原因菌と考えられているグラム陰性菌が産生する内毒素(リポ多糖=LPS)などの代謝産物が血流を介して心臓に達し、血管内で炎症性細胞が増加します。これらの炎症性細胞が産生するサイトカインのうち、プロスタグランジンE2(PGE2)、インターロイキン-1(IL-1)、腫瘍壊死因子-α (TNF-α)などがLPSのみならず血管の内皮細胞や平滑筋にも作用し、血管壁平滑筋の増殖血管の脂肪変性、血管内での血液凝固(血栓)に関与することが報告されています。

 冠状動脈疾患に関与する歯周病関連性細菌としては、

Porphyromonas gingivalis
Prevotella intermedia
Eikenella corrodens

などが確認されていますが、まだまだ不明な点も多く、歯周病だから心疾患に必ずなるわけではなく、過剰反応型のマクロファージが存在し、かつ歯周疾患を有する場合に冠状動脈疾患となることを示唆する研究もあります。

 

歯周病と心疾患に関する研究

 GeraciとWilson(1982)は感染性心内膜炎患者56人について調査し、グラム陰性菌による細菌性心内膜炎は約10%であり、抗生物質を使用した場合の回復率は82%であることを報告しました。
 他の研究において、細菌性心内膜炎となることを防ぐために、口腔内細菌を対象とした抗生物質(アモキシシリン)の予防投与や、歯科処置直前の口腔内洗浄(ポピドンヨードやクロルヘキシジン)によって細菌数を減らすべきであることが示されています。

 Paunioら(1993)は45-64歳の中年男性1384人を調査し、欠損歯が多いほど虚血性心疾患の割合が高くなることを報告しました。

欠損歯数 虚血性心疾患
0-8 8%
9-16 11%
17-28 20%
29-32 18%

 Beckら(1996)は歯周病とアテローム性動脈硬化症の関係について1147人を18年間追跡調査し、歯周病の状態と冠状動脈疾患(CHD)の関連性(オッズ比)について評価しました。

歯周病の状態

研究開始時の骨吸収(小-大)
骨吸収(小-大) 全ての歯の周囲に
3mmを超える歯周ポケット
50%以上の歯の周囲に
3mmを超える歯周ポケット
全CHD 致死性の
CHD

発作

1.5 3.6 2.2 1.5 1.9 2.8

 この結果をピックアップすると、全ての歯の周囲に3mmを超えるポケットを持つ人はそうでない人と比較し、冠状動脈疾患となる機会は3.6倍高く、歯槽骨の吸収が大きい人はそうでない人と比較し、致死性の冠状動脈疾患となる機会は1.9倍高いことが示されています。

 Khaderら(2004)は歯周病が冠状動脈疾患に及ぼす影響に関する論文をメタ分析し、分析方法がしっかりとしている論文から得られたオッズ比は1.15倍であったと報告しています。

 
(Khaderら(2004)より改変)

 

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最終更新2013.1.2