歯周病の臨床研究

歯肉縁上と歯肉縁下の処置

歯肉縁下処置を伴わない歯肉縁上プラークコントロールの効果

 歯肉縁上のみスケーリングと専門的な歯面清掃をし、歯肉縁下の処置(スケーリング・ルートプレーニングや歯周外科処置)は行なわない場合の臨床的な治癒と細菌数の変化が調査されています。

 まずは歯肉縁上のみの処置が効果的であるとする文献を挙げます。

 McNabbら(1992)は6患者の4-5mmのポケットについて21週間(5ヵ月と1週)調査しました。最初の12週間(phase 1)は右側半分の歯肉縁上歯石の除去と週3回の専門的な歯面清掃を行ない、13週目(phase 2)に左側半分の歯肉縁上歯石の除去と専門的な歯面清掃を同様に開始しました。すなわち、phase 1の12週目までは右側が実験群、左側が未処置のコントロール群になります。プロービングデプス(PD)とGingival Index (GI)を示します。両者とも、Phase 1の終了時では有意差が認められます。


(McNabbら 1992より改変)

 細菌学的結果を示します。Phase 1ではP.gingivalisに排除の効果がみられます。


(McNabbら 1992より改変)

 

 Katsanoulasら(1992)は13 患者の4-6mmのポケットについて3週間調査しました。同一患者の口腔内で実験側と対照側を選択する、スプリットマウスという方法が用いられています。 実験側は週3回の専門的な歯面清掃をスケーラーで行ない、対照側は何もしませんでした。PDには有意差が認められませんでしたが、スピロヘータと運動性桿 菌の割合は実験側で有意に減少していました。


(Katsanoulasら 1992より改変)

 一方、歯肉縁上の処置のみでは効果がなかったとする研究を挙げます。

 Greenwellら(1985)は18 患者の5mm以上のポケットについて8週間調査しました。Keyes法による口腔清掃と通常の口腔清掃をスプリットマウスで比較していますが、ここでは対 照群のうち、スケーリング・ルートプレーニング(SRP)なしで通常の口腔清掃を行なった群と、ベースライン時に1度SRPを行なった後に通常の口腔清掃 を行なった群を比較していきます。GIは8週目で改善がみられるものの、運動性桿菌やスピロヘータの割合に変化はみられません。


(Greenwellら 1985より改変)

 

 Beltramiら(1987)は8 患者のGI>2、PD>6.5mm、X線写真上での垂直性骨吸収がみられる部位について3週間調査しました。スプリットマウスによりテスト側 は週3回の専門的な歯面清掃を行なっています。GIは両群ともベースライン時は2.3、3週目は2.1でした。PD、運動性桿菌、スピロヘータともに有意 差は認められませんでした。


(Beltramiら 1987より改変)

 

 歯肉縁上のみの処置は、中程度の深さまでのポケットには有効であるものの、深いポケットを有する場合には限界があることを示しています。

 

歯肉縁上プラークコントロールを伴わない歯肉縁下処置の効果

 歯肉縁上には手をつけることなく、歯肉縁下の処置のみをした場合の効果を検討していきます。

 Magnussonら(1984)は16患者の6mm以上のポケットについて16週間(4ヵ月)調査しました。最初にSRPを行なった後、グループAは未指導とし、グループBは2週間に1度の専門的な歯面清掃とブラッシング指導を行ないました。16週目までをPhase 1として、17週目のPhase 2はグループAに再度SRPを行い、グループBと同様に歯面清掃とブラッシング指導を行ないました。ここではPhase 1の結果をみていきます。GIは4週後(1ヵ月)には元に戻り、スピロヘータと運動性桿菌は8週後(2ヵ月)にはほぼ元のレベルまで戻っています。


(Magnussonら 1984より改変)

 

 Sbordoneら(1990)は8患者の5mm以上のポケットについて60日間(2ヵ月)調査しました。SRP後口腔清掃指導は行なっていません。また、対照群はありません。2ヵ月後には、0日目と同様の値になっていることがわかります。


(Sbordoneら 1990より改変)

 

 歯肉縁下のみの処置では、2ヵ月しか効果を持続できず、歯肉縁上の専門的な清掃やブラッシング指導が必要であることを示しています。

 

歯肉縁上プラークコントロールを伴う歯肉縁下処置の効果

 歯肉縁上プラークコントロールとSRPあるいは歯周外科処置を併用した効果は、多くの論文から示されています。ここでは非外科処置および外科処置でどこまでの改善がみられるかについて評価していきます。

 Baderstenら(1984)は16患者でスプリットマウスにより、ハンドキュレットと超音波スケーラーによる歯肉縁下処置後の治癒を24ヵ月間(2年)調査しました。結果はハンドキュレットと超音波スケーラーで同様の治癒が得られました。その際、初診時のポケットの深さで分類した歯肉退宿、残存するポケットの深さ、アタッチメントレベルの変化をみています。深いポケットにおいて、歯肉退宿は約2mm、残存するポケットは約5mm、浅いポケットではアタッチメントロスとなり、深いポケットほどアタッチメントゲインが得られることを示しています。


(Baderstenら 1984より改変。ハンドキュレットでのデータ)

 Lindheら(1982)は15 患者で初診時のポケットの深さによるSRPとフラップ手術でのアタッチメントレベルの変化(クリティカル・プロービングデプス)を24ヵ月間調査しまし た。6ヵ月後のデータから、アタッチメントロスとなるのはSRPでは2.9mm、フラップ手術では4.2mmとなることが示されました。


(Lindheら 1982より改変)

 

歯肉縁上と歯肉縁下の処置のまとめ

1. 歯肉縁上の処置のみでは、深い歯周ポケットの改善には限界がある。
2. 歯肉縁下の処置のみでは、短期間(2ヵ月)しか効果が持続しない。
3. 歯肉縁上と歯肉縁下の処置を組み合わせた場合、長期的な効果が得られる。また、非外科処置と外科処置ではアタッチメントレベルの改善が異なる。

 

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最終更新2013.1.2