歯周病の臨床研究

はじめに

 歯周病に関する研究は多数行われていますが、この項目では歯周病の病態、歯肉縁上と歯肉縁下の処置、歯周外科処置の比較、喫煙と歯周病に関するいくつかの研究を取り上げて説明していきます。
 科学的根拠に基づいた医療(evidence based medicine ; EBM)という言葉がよく用いられるようになってきており、これは治療に際して自己の経験やひらめきによる医療ではなく、科学的に適切な方法で研究された 根拠に基づき、医療を行なっていくことを指します。歯周病に限らず、どの分野においても、過去の医療は経験から発端した部分があり、それが科学的に検証さ れないまま常識として通っているものもあり、再検証の必要性も提唱されています。

 一般の方は、どのような研究が行なわれているのか参考にしていただく程度で結構ですが、興味のある学生や歯科医師は別窓で開かれるMedlineのオンライン・ページから原著を探してみてください。

 

治療の効果について

 例えば、Aという薬があったとします。「普段歯磨きなどしなかったら歯肉(歯ぐき)から血が出るようになり、Aを使って歯磨きしたら歯肉が治っ た」という宣伝があったとします。これだけでは、果たして本当にAが効果的かどうかを判断することはできません。客観的なデータが必要になってきます。こ の例では、歯磨きがどの程度できているのか、歯肉からの出血はどうであるのか、歯周ポケットの深さはどう変化したのかなどを調べる必要があります。便宜的 に、ここではPlaque Index(Pl.I)とGingival Index(GI)を適用してみましょう。

 インデックスを適用して調べてみたところ、下図のようになったとします。統計処理を行なったとしても、有意差は認められません。この場合には、主観的に良くなったように思えるだけで、客観的には有意な改善はみられないということになります。

 もし統計処理をした結果、下図のように有意差が得られたとします。一見、Aを用いて歯磨きをすることは効果的なように思われますが、これでは客観性が低いといえます。なぜならば、歯磨きのみでどの程度まで改善するのかといった対照群(コントロール)がないためです。

 対照群を歯磨きのみ、実験群を歯磨き+Aとして比較し、同じ回数、同じ時間に磨いてもらい、Pl.I、GIともに下図のような結果が得られたとします。2群間に有意差がみられないならば、これはAが効果的であったのではなく、歯磨きをした効果ということになります。

 仮にGIにおいて下図のような結果が得られたとします。この場合であれば、歯磨きのみよりもAを用いて磨くことが、より客観的に改善するということを指します。

 しかしながら、さらに客観性を求めるのであれば、実験方法を工夫する必要があります。データの評価に主観が入り込まないように、偽薬とAを用意し ておき(歯磨き+偽薬、歯磨き+A)、研究の管理者がランダムに歯科医師または観察者に渡します。観察者(データを取る人)は、それが偽薬であるのか、A であるのかを知らされない状態で、被験者に1日何回何分間、どのような方法で歯磨きをするか指導し、その際にこれ(偽薬またはA)を用いるように伝えま す。すなわち、観察者も被験者も、どちらが使われたのかを知らない状態で研究を進めます。これによって、観察者の心理的動機の介入を排除するとともに、被 験者のプラシーボ効果(偽薬効果 : 薬理学的に活性のない物質によって、効くものだと被験者が思い込むことによって効果が表れてしまうこと)も排除することで、管理者が最後にデータを集めて 統計処理したときに、はじめて効果の有無を知ることができます。これを二重盲検法といいます。

 対照群が実験群と異なる対象であった場合には、客観的な比較は行えません。例えば、性別や年齢の分布が異なる場合や、実験群とは異なる一定条件に当てはめてしまったものなどは客観性に乏しいといえます。対照群のランダム化が必要であるといえます。

 また、一つの論文のみが効果的と判断していても、それ以外の同様の論文で効果がなかったというのであれば、効果的かどうかは疑わしいといえます。複数の同様の研究からメタ分析を行なうことで、より客観的なデータが得られます。

 

講義のメニューへ    次に進む→


最終更新2013.1.2