Akira Naito / Primavera


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内藤晃氏の初CD「Akira Naito / Primavera」を聴いた。氏の演奏を初めて聴いたのはフォーレのノクターン2曲。これで即、氏のコンサートは全部聴きたいと思ったのだが、都合もあっておよそ年1回のペースでしか聴いていない。どれも心を満たすものだったが、最も印象に残っているのはー最初のフォーレを除くとー2007年5月6日の演奏会だ。で、このCDにはその演奏会の多くの曲が、また最初の出会いのフォーレから1曲が、加えてモーツアルトのソナタ1曲が入っている。彼の演奏を聴くと、彼はもっと世に知られていなければならない、という思いを禁じ得ない。

エジソンは「1%の才能と99%の努力」という言葉で知られるが、それは暗に、発明は自分の才能が勝手にしたのではない、努力の結果なんだからそれを認めて欲しい、ということを意味している。もしかしたら内藤氏もそういう気持ちかもしれない。しかし彼の演奏を聴くと、やはり才能というものを考えざるを得ない。人を引き込む力があるのである。音楽が生きているのである。今回のCD、さらに加えて、透徹できらびやかなタッチが特徴的だ。それも氏独特の上品さとベヒシュタインの上品さをうまくとらえた録音によって引き立てられている。

冒頭のスカルラッティとモーツァルトの溌剌としていること! このところあくせくしていて心を落ち着けたい気分にある私としては、最初スカルラッティとモーツァルトは「あとεだけ速度をおとしてもらうとさらにδだけリラックスできるかもしれない」という感もあった。しかしこれも何回か聴いているうちに、他にないほど清純な演奏であることがわかって来た。

続くモンポウ、フォーレ、スクリャービン、メトネルは、これまで聴いた中で最高の部類に属する。評論家ほどいろいろな演奏を聴いたわけではない私とはいえ、適当なことを言っているつもりはない。これほど生き生きした演奏はめったにないと思う。一曲一曲何か書きたいが、とりあえず、まずは他の人にも聴いて欲しい、と言うにとどめておく。私の世代が若い頃、モンポウやメトネルは「ピアノマニア向けレパートリー」だったが、今やショパンやシューマンと同じように「音楽」として取り上げられるようになったのだなぁと、感慨深い。

舟歌は、一聴して別の場所で録音されたことがわかるほど音場が異なっている。このことに最初とまどった。ラフマニノフがなかなかレコーディングのリリースにgoサインを出さなかったように、スタジオ録音の結果がどうしても気に入らなかったのか? この疑問は上記サイトを見て解けた。「リサイタルで特に好評をいただいたショパン『舟歌』のライヴ録音も特別収録」ということだ。それと関連して最後に言うと、このCDも聴いていただきたいが、それ以上にナマを聴いて欲しいと思う。

[2008年2月3日 記]


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