知人の松本淳氏が出演する
"Let's enjoy PIANO-ING!!" vol.4を聴いた。日本アマチュアピアノコンクールの歴代の第1位の有志によるコンサートである。
- ベートーヴェン ピアノソナタ 第30番 ホ長調 Op.109(小久保 和哉)
たまたま5月に内藤晃氏の同じ曲の演奏(別項参照)を聴いた。この曲自体がそもそも至高の音楽であるが、小久保氏も内藤氏も素晴らしい演奏で、たゆたう音楽の波間に心を任せて聴いた。両者の演奏には、極端な違いはないが、それぞれの特徴があった。小久保氏の方は澄み切った「花冷え」のような美しさで、凛々しい旋律美をたたえた演奏だった。内藤氏のベートーヴェンは彼のコンサートの中腹に位置していたこともあるのであろう。自然体の暖かく包み込むような演奏だった。3ヶ月のうちに両方の美を味わうことができた。
- モーツァルト ピアノソナタ 二長調 Kv.284(所 千晴)
かっちりとした、模範的演奏であった。私はモーツァルトの演奏に関しては(ファジル・サイを除き)少々保守的な好みなので、もうほんのわずかエネルギーを抑えて欲しかった感もあるが、モーツァルトの明るさが存分に出た快演だった。
- シューマン 交響的練習曲 Op.13(松本 淳)
松本氏の演奏を聴くのは1999年のリスト「バラード第2番」その数年後グリーグの「ピアノ協奏曲第3楽章」以来である。その前から氏の演奏のすごさは知っていた。しかし今回は著しい進境の演奏であった。氏の出演を全て聴いていたら連続性を感じるのかもしれないが、いま挙げた演奏しか聴いていない私には急な変化に思えた。その変化とは・・・一言で言えば以前の松本氏は「めっぽううまい」演奏で、聴けばストレス解消になる、といった感じの演奏だった。しかし今回はそれ以上だった。バリバリのテクニックより音楽性が前に出ていたのである。終わったときブラヴォー!と叫びたくなったが、誰か通る声の持ち主がそれをやってくれた。これを、氏は自分だけで練習したのだろうか? 私には、優れたレッスンについたに違いないと思えた。今度訊いてみようと思う。もし自分だけで細部および大きな流れの解釈を考えたとしたら、すごいことだ。しかも氏の本能的演奏の持ち味はそのままで、計画性が見え隠れしたりしない。好きな曲の筆頭群に入るこの曲の演奏としては、聴いた中で最高の部類に属するものだった。(それだけに、余計なことであるが、第3変奏のリピートをして欲しかった。)
- アンコール:シューベルト「軍隊行進曲」(3人の連弾版)
これは交響的練習曲とともに、個人的思い入れだけは、まだ結構暗譜しているだろうと思われるほど、強い。技巧的には決して困難ではないが、さすがにアマコン1位の3人の連弾となると、さながらボストンポップス的楽しい迫力が味わえた。シリアスな演奏に精魂注ぎきった3人が実に楽しそうに連弾している。これこそアンコールだ。