ミハイル・ヴォスクレセンスキーピアノリサイタル@Salon Collina(2004年2月15日)


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 横須賀在住の中西夫妻は内外演奏家を数多く招聘し各地で演奏会を催す活動を精力的にされています。 特に私邸に設けられた小ホールSalon Collinaでのコンサートは大変感じ良く、 時々楽しませてもらっています。 先日も2004年2月15日、 ミハイル・ヴォスクレセンスキーのピアノリサイタルがSalon Collinaで行われました。 ヴォスクレセンスキーはモスクワ音楽院の教授で、 キーシンやギンジンを教えた人として著名なピアニストです。 スクリアビンの好きな私も彼のCDを持っています。 そんな彼の演奏を間近に聴けるとあって、 楽しみに出かけました。
 演奏は・・・いやー良かったです。 CDとはまた違いますね。 CDでは、なんというか、曲の構造がよく分かるような、理知的な演奏です。 ディテールもくっきり、 強弱もテンポのメリハリも作曲者の意図にしたがって思慮深くつけられた、 非常に模範的な演奏です。 さすがに超一流新進ピアニスト達を育てた人だなあという感じです。 そして間近で聴いた彼のナマ演奏は・・・濃厚なロシア色に彩られたロマン風味たっぷりの演奏でした。 表現もノリに乗った感性重視の演奏でした。 ナマの演奏の迫力十分のリサイタルでした。
 特徴的なのは左手オクターブをアルペジオ風に弾くことです。 「キエフの大門」冒頭でムソルグスキーが指定しているような、 あの弾きかたですね。 あれをときどき ー 作曲者が指定していないオクターブでも結構な頻度で ー 連発するのです。 これはCDではそんなにやっていません。 最初は「やるなあ」と若干気になったのですが、 しばらくして彼の世界に引き込まれてしまった後は、 なにかそうでなければならないような、 自然なものになってしまいました。
 それにしても力強い演奏。 ショパンの嬰へ長調ノクターンのトリオでさえいやはや激高すること。 もしこれを最初の曲としてやられたら「派手に弾き過ぎるよ」というところですが、 「展覧会の絵」でこちらも高潮した後で、しかもノクターン主部が際立って対比的に 繊細に奏されたので、 とても効果的に聴けてしまいました。 アンコールの「子犬のワルツ」「ワルツホ短調」も歓声が起こるほどヴィルトゥオーソな演奏でした。 アンコールでなければこんな風には弾かないだろうというくらいノリノリの演奏。 プログラム構成って重要な要素ですね。
 それにしても元気なこと。 体格も良く、背筋もシャンとしてニコニコしている。 70才くらいであることは知っていました。 ソ連崩壊の大変な時代も経験しているわけです。 もしかしたらヨボヨボかもしれないと想像していました。 私のつたない経験では、 年輩のロシア人は内向的で英語など喋らない場合が多いのです。 彼の場合は・・・逆ですね。 たまに日本語も交え、ユーモアもあり、 前から知っていたかのように話します。 彼が弾くスクリアビンのエチュード全曲のCDを見せて私はスクリアビンが好きだと言ったら、 それはいい、ソナタもいいですよ、と言います。 私が、4番以降、特に6番以降が大好きです、と言ったら、力強く 「そう、6番以降!」と頷いていました。
 70才のモスクワ音楽院の教授というと、 オボーリンやネイガウスを連想します。 キラ星のごとく世界に股をかけるロシアのピアニストや作曲家達をナマで知っているはずです。 まるで雲の上のような存在ですが、 話してみると同じ人類であることには変わりなく、 大変不思議な感銘を受けました。

ープログラムー

ムソルグスキー「展覧会の絵」
スクリアビン 3つの小品Op.2
         第1番 練習曲 嬰ハ短調
         第2番 前奏曲 ロ長調
         第3番 マズルカ風即興曲 ハ長調
       2つの左手のための小品Op.9より
         第2番 夜想曲 変ニ長調
       練習曲集Op.8より
         第7番 変ロ短調
         第11番 変ロ短調
         第12番 嬰ニ短調
ショパン   夜想曲 第5番 嬰ヘ長調 Op.15-2
       華麗なる大円舞曲 変イ長調 Op.34-1
       スケルツォ 第2番 変ロ短調 Op.31

[2004年2月23日 記]

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