死者の丘 |
〜 Karachi |
砂礫の荒野が拡がる。空はどこまでも高く、抜けるように青い。強烈な陽射しが突き刺すように肌を灼く。それなのに、吹き抜ける風は頬を切るほどに冷たい。 カラチ郊外、チョウカンディ遺跡。 ツアーパンフレットでその名を知った時は、これもインダス文明の遺跡なのかと思った。しかし、実際に訪れてみるとどうも様子が違う。下水道もなければ沐浴場も見当たらない。第一、建築資材がインダス特有の煉瓦ではない。 「こういうところも面白いかと思って、スケジュールに組み入れてみました」 添乗員に引率されて進んでいくと、あちこちに不思議なオブジェが点在していた。四角く切り出された大きな石が跳び箱のように何段か積み重ねられ、表面に彫刻が施されている。見方によってはモダンアートと言えなくもない。 「何ですか、これ」 「墓石です」 「ということは、ここって……」 「そう、昔の墓地です。いわば墓地の遺跡ですね」 遺跡といっても、その成立年代は16世紀頃だというから新しい。日本でも江戸時代から続く墓地など珍しくないだろう。そんな場所を観光名所にしてよいものだろうか。 「今も埋葬されたままなんですよね」 「ええ。イスラムですから、たぶん土葬でしょうね」 足元に故人が眠っているのだ。さぞ落ち着かないに違いない。外国人の一団がやって来てどかどか踏みつけられる訳だから、僕ならこんな場所での永眠は御免被りたい。 「表面の彫刻は被葬者の生前の職業や身分などを表現したものです。戒名ではないですが、似たような意味合いなんでしょうね」 幾何学模様ばかりに思えるが、近寄って見ると確かにそれらしき図柄が刻まれている墓石もある。基材が砂岩なので加工はしやすかっただろうが、それにしてもなかなか繊細な出来だ。色が色だけにビスケットを連想させ、つい食べられるのではと錯覚してしまう。 ドーム屋根が付いているものもある。有力者や富豪のものだという。雨が降ることはほとんど想定できない地域だけに純粋な装飾だろう。積まれている段数も心なしか多い。やはり金持ちは墓も豪華なのか。神の前の平等を説くイスラムの教えに反しないのだろうかと余計な心配をする。 「このあたりは石ころが転がっていますね」 「あ、そこは比較的最近のお墓です。だんだん豪華なものが造れなくなってきたので、その辺の石を適当に集めてきたみたいですね」 僕たちのやり取りを見ていた現地ガイドが遠くを指差し、添乗員に何やら説明を始めた。チョウカンディは丘になっている。先の方まで礫砂漠のような荒れ地が続いているが、その向こうにはカラチの街並がうっすらと浮かんでいる。 「あちらのエリアは現在の墓地だそうです。ほら、ところどころに白い石が建っているのがわかりますか」 「え? 遺跡って言ってたけど、じゃあ、ここって今も現役の墓地なの?」 「そういうことになりますね。すみません、私も知りませんでした」 |
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