8月28日 カヤニストへの道 in 2002
先日私の某フィールドで、カヤ原の刈り取りをともなう河川工事があった。その際の国土交通省の対応にとても感銘を受けたので、以下簡単に報告したい。
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今月初め、国土交通省から連絡があり、「中州の工事のために河川敷内のカヤ原を一部刈り取って工作物を建てるが、カヤネズミに影響が出ないようにしたいので、アドバイスして欲しい」という申し出があった。
急ぎの工事で、ゆっくり検討する時間が無かったが、ともかく担当者の案内で、ボランティアの大学生(Hさん・Kさん)2名とともに現場を確認することにした。
午前10時現場到着。調査に入る前に、担当者2名に実際にカヤネズミの巣を見て貰う。一人はカヤネズミの巣を見るのは初めてということで、「これがそうですか。こんな高いところに作るんですね」と驚いていた。もう一人は、「久しぶりに見ました。子どもの頃はよく見つけましたよ」と手で巣を形作りながら、嬉しそうに話していた。
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さて、担当者氏らと別れて、いよいよ調査開始。問題が無ければ、午後から早速工事に取りかかりたいということだったので、区画内をざっと見ることにした。
刈り取り区画一帯はクズがびっしりとはびこっていて、オギの茂みは1/4程度。しかもクズの蔓がオギに絡みついて、かき分けてもかき分けても満足に進むことさえ出来ない。途中、思いあまったHさんが、小柄な身を挺してクズの絡み合った茂みにダイブ(笑)したが、クッションのように体が支えられて浮き上がるほど。調査を終えてカヤ原から出てきた時には、3人とも疲れ切って、口をきくのもおっくうな状態だった。
調査の結果は数個の巣が見つかったもののいずれも古く、繁殖も確認できなかった。工事終了後は工作物は撤去されるので、刈り取りがカヤネズミの繁殖に影響を与えることは少ないと判断、担当者にその旨報告し、工事は着工された。
後日、現場付近を再調査した。周辺の草はきれいに刈られていたが、事前に確認した通り、決められた区画以外を刈り取ったり、草を踏み荒らしたりした跡は全くなかった。そればかりか、区画内の端にかかったオギの茂みを残してくれていた。
さらに工事フェンスから10m南でカヤネズミを発見!昼間に見ることは滅多にないのだが、2度も元気な姿を確認して、ほっとした。
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一連のやりとりで私が驚いたのは、担当者が工事の計画段階で私の論文を読んで、裁量でカヤネズミに影響が無い(と思われる)刈り取り場所を決め、工事内容を大きく変更したということだ。
当初は20m四方の刈り取り区画を3箇所作る計画を立てていたそうだが、その区域がカヤネズミの繁殖地であることを知り、刈り取り区画を変更、最終的に30m四方の区画を1箇所設定したとのこと。
私は、行政側が、人間の為の工事でそこまでカヤネズミのことを考慮してくれたことに非常に驚いた。同時に、担当者氏への感謝の気持ちと、初めて自分の研究が評価されたような、嬉しさと誇らしさが混じった気持ちになった。同行したKさんも、「私たちがあのクズと格闘した事は、ムダじゃなかったんですね・・・」と感慨深げで、「この調査に参加したことを、友達に自慢します」と言っていた。
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外から見れば、「たかが工事の場所を少し変えただけ」かも知れない。でも、私は自分がやってきたことが社会的に正しいことだと評価されたことが嬉しい。少なくとも、この区画のカヤネズミが守れたということを誇りに思う。
小さな一歩だが、私と同じように保全を志す人が自信をもって研究や活動に取り組む大きな一歩に結びつくことを願っている。