ディスクF

 アメリカGGG獅子王雷牙博士を中心に、極秘裏に開発を進めていたマイクサウンダース13世専用新型サウンドディスク。「ディスクXを上回る究極の破壊力」をコンセプトに設定されたそれは、そのあまりの危険性から、プレスされたただ一枚を獅子王雷牙博士がその手で厳重に封印を施した。
 しかしGGG急進派追放事件の後、核兵器貯蔵庫並のセキュリティを施され封印されていたはずのディスクFが、忽然と姿を消している事が判明したのである。しかもそのプレスに必要とされる一切のデータが痕跡も残さず消去されており、唯一製法の主要大部分を把握していた獅子王雷牙博士が地球圏から姿を消した事により、事実上ディスクFのプレスは不可能となってしまった。開発前後の経緯と現場の状況から、獅子王雷牙博士がGGG急進派に接触を試みるため、封印を解除されたばかりのマイクサウンダース13世と共に衛星軌道に上がる前に持ち出し、そのままGGG急進派と共にギャレオリア彗星の彼方へ持ち去ったと考えられている。GGG急進派のクーデターに際し、獅子王雷牙博士は急進派の説得に赴いたものの人質として捕らわれ、強制的に連れ去られたとする推測も流れたが、この一件を知る僅かな者たちの間では、やはり急進派に同調し、共に地球圏から脱出したのだとする説がほとんど確定的となっている。しかしこれを公表することが、アメリカGGGにはできなかった。理由は二つある。一つは、かの世界十大頭脳のひとりに選ばれた獅子王雷牙博士自らが開発し、そしてその恐ろしさゆえに、殆ど個人的に封印を施したほどの強力な装備を、アメリカGGGの独断で開発していた事実が公となれば、各地のGGG支部や国連、そして世界世論の厳しい批判にさらされるであろう事が容易に予測できたからである。そしていまひとつはアメリカGGGの内部で研究開発が行われたにもかかわらず、獅子王雷牙博士の巧妙な隠蔽工作のために、ディスクFの機能の全貌を遂に解明する事が出来なかったからである。
 しかし、開発にあたり獅子王雷牙博士がわずかに助力を求めた人々から極秘裏に得た情報を総合すると、「ディスクXを上回る究極の破壊力」というコンセプトをそのまま具現化するかのような、ディスクFの輪郭がおぼろげながらに浮かび上がってくる。
 ディスクFが、既に”Death Weapon”として名高いディスクXを基礎に開発された事は、ほぼ間違いがない。GGGが誇るファイティングメカノイドガオファイガーが運用するゴルディオンハンマーを除けば、現在地球上で最も強力な破壊力を行使できるものは他に考えられないからだ(広域破壊という面で見れば、ディスクXはゴルディオンハンマーさえも上回る)。そして獅子王雷牙博士が、重力衝撃波の研究レポートを同時期に密かに入手していたのだと言う。
 そう、ディスクFとはソリタリーウェーブとグラヴィティショックウェーブの複合照射によって、あらゆる物質を原子レヴェルに分解した後、光子に変換するという、正に「究極の破壊力」を実現するための特殊装備だったのである。理論上破壊できないもののないこれらふたつの超兵器を同時運用するにあたり、必要とされるであろう膨大なエネルギィ総量や、マイクサウンダース13世への重力衝撃波発生装置の搭載、更には選択的破壊をもたらすソリタリーウェーブと異なり、無差別に破壊力を発揮する重力衝撃波をいかに限定的空間のみに閉じ込めるのか。解決しなければならない困難は無数に存在するはずだ。しかし獅子王雷牙博士とマイクサウンダース13世はそれを完成させたというのだろうか?獅子王雷牙博士が帰還を果たさない限り、我々にそれを知る術は存在しない。
 最後に興味深い証言をひとつ紹介しよう。2007年6月某日。獅子王雷牙博士の所在は杳として掴めなくなってしまった。同日にマイクサウンダース13世の出動記録は存在しないが、常にハンガーでアメリカGGG整備部を相手にはしゃいでいるはずのマイクの姿が、なぜか確認できなかったと言う。
 その翌日、宇宙空間航行訓練のために衛星軌道上を飛行していた国連宇宙軍の一隊が、前日の訓練中に通信衛星との接触事故を起こして行方不明となっていた訓練用CRの回収に成功した。搭乗員は疲労はあるものの、身体に特に異常はなく、事故前後の事情も明瞭に記憶しており、関係者は胸をなでおろしたものだが、唯一、証言報告の最中に奇妙な証言をしている。衛星と接触し、訓練軌道を外れて衛星軌道を周回していた彼は、その最中、金色に輝くガオファイガーの姿を見た、というのである。訓練用CRのブラックボックスにはそのような映像記録も無く、ただ彼の驚き、そして感嘆する声だけが記録されていたのみであった。しかし彼の証言に忠実に従うならば、その時刻、ガオファイガーはアフリカ・カーボヴェルデ共和国の首都プライア郊外で、バイオネットの巨大ATと交戦中だったはずである。世界唯一のファイティングメカノイドが地上と宇宙の同時に存在するはずがない。結局彼の証言は孤独に宇宙を漂う緊張感と恐怖感から幻覚を見たのだと結論され、証言報告記録からも削除されてしまった。その痕跡は唯一、事情聴取を行った係官のメモに残されたのみである。現在もなお国連宇宙軍でCRパイロットを続ける彼は、証言をこう結んだと言う。
 「あの黄金色に輝く雄々しい姿を、僕は一生忘れないだろう。不思議だけど、あの姿を見た瞬間、自分が宇宙を孤独に漂っているという恐怖は消えてなくなっていた。もしあの時、『あれ』を見ていなかったら、無限に広く冷たい宇宙の中で僕は正気を失っていたかもしれない。そして、僕が地球を護る国連宇宙軍の一員である事を、あの時ほど誇らしく思った事はなかったよ」
 その彼が後にGGG急進派クーデターの鎮圧のため出動する事になるのは、皮肉としか言いようがない。だがギャレオリア彗星へと旅立つGGG急進派を見送るように、GGGマークのフォーメーションをとるよう音頭を執ったのは、彼が乗る機体であったという。