悪戯な風 |
文 / 夢天 様 |
1 あの日の出来事で俺達は変わった あれからどれくらいの時間が 過ぎたんだろう・・・ 君を泣かせてしまった あの日の事は全て思い出になった。 今となっては笑い話だけど とても苦しくて悲しかった。 でも、あの事がなければ 僕達はこうして居なかっただろう。 ――あの日、二人の間に悪戯な風が吹いた―― ランディとアンジェリークは、他の守護聖達の公認の仲である。 ぎこちないながらも仲良くお互いを思いやって付き合っていた。 そんなある日・・・ 早朝のジョギングを終えランディが剣の練習にオスカーの元を訪れた時 オスカーの私邸の玄関先で楽しそうな笑い声が聞こえた。 ランディが庭先の植え込みを掻き分けそっと覗くと、そこには 楽しそうに笑うアンジェリークの姿があった。 「ア、 アンジェリーク?如何してオスカー様の所に・・・? それもこんなに朝早く・・・何を話しているんだろう?」 ランディが居る場所からは二人の会話は殆ど聞こえない。 ただ、楽しそうな笑い声が微かに聞こえるだけ・・・。 ランディが不思議そうに覗いていると、アンジェリークがオスカーに 手を振って帰ろうとした。 次の瞬間、オスカーがアンジェリークの腕を掴み自分の方へ引き寄せ キスをした。 アンジェリークは頬を赤らめ、オスカーの腕をするりと抜けると オスカーの私邸から逃げるように帰っていった。 「な・・何だったんだ?・・今の・・・・」 ランディは、一瞬の出来事にいったい何が起こったのか、自分は何を 見てしまったのか、見てはいけない光景を見てしまったのではと その場に立ち尽くした。 その日ランディはオスカーとの剣の練習をさぼった。 次の日、何も知らないアンジェリークはウキウキしながら ランディの執務室を訪れる。 ――コンコン―― 「こんにちは、ランディ様。アンジェリークです。」 ドアを開け執務室へ入って行くと、ランディが何時になく 険しい顔をして窓辺に佇んでいる。 「あの〜・・ランディ様?・・えっと・・・・」 「・・・・・」 「如何したんですか?何処かお体の具合でも悪いんですか?」 アンジェリークがランディの元へ近寄った時、ランディが振り向いた。 真っ直ぐに自分を見つめ、何か思い詰めたように見えるその瞳に アンジェリークは一瞬ドキッとした。 「ランディ様?どうし・・・あっ!」 急に抱きしめられ驚いているアンジェリークにはお構いなしに ランディは無言でアンジェリークを抱きしめた。 ランディは先日のオスカーとアンジェリークの事が 頭から離れないでいるのだ。 「アンジェ・・・」 「あ、あの〜・・ランディ様?どうかしたんですか?何か・・・」 アンジェリークが心配そうにランディの顔を覗き込むと 急にランディの顔が近づき二人の唇が重なった。 アンジェリークは一瞬驚いたが、静かに瞳を閉じた。 それはほんの数秒だったがアンジェリークにはその何倍も長く感じられ ランディが唇を離すとアンジェリークはポロポロと大粒の涙を流した。 実は二人は付き合っているが、ランディは頬に軽く唇が触れるくらいの キスしかした事が無かったのである。 「・・・・・」 「ごめん、急にこんな事をして・・・」 「いいえ。ちょっと驚いただけです・・・初めてだから・・・」 「本当に・・・?」 「ランディ様?」 「本当にそうなのかい?」 アンジェリークは、ランディが何を言いたいのか訳が判らず キョトンと首を傾げてランディを見つめている。 「日の曜日の早朝、君は何処に居たの? 俺の見間違いでなければオスカー様の所に居たんじゃないのかい? あんなに早い時間にオスカー様の所で君はいったい何を していたのかな?」 「ランディ様もオスカー様の所に来ていたんですか? だったら声を掛けてくだされば良かったのに」 アンジェリークがニコニコと笑顔で言うとランディは ますます険しい顔つきになり、アンジェリークの肩を 両手で掴むと壁に押し付けた。 「きゃっ!」 「アンジェ、俺は見てしまったんだ。 君がオスカー様と・・キ、キスしている所を・・・」 「そんな、私はオスカー様とキスなんてしてないです! ランディさ・・・!」 ランディはそのままアンジェリークの唇に自分の唇を寄せた。 アンジェリークは、先ほどとは違い強く唇を吸われ、 次第に体が火照ってくるのを感じ、不思議な感覚に流されそうな 自分を必死で保っている。 ランディは本能のままにアンジェリークの唇を舌で押し開け、 アンジェリークの舌を探し当てるとそのまま小さな舌を暫く弄んぶ。 何時しかブラウスのボタンが外され、胸元が露になった所へ次第に唇を 這わせて行くと、アンジェリークの体がピクンと小さく揺れた。 瞬間アンジェリークは我に返った。 「いやっ!」 その声に驚きランディは動きを止めると、 目の前のアンジェリークの姿に驚きあたふたと誤る。 「ご、ごめん!俺・・ついカッとして・・・ こんな事君にするつもりじゃなかったのに。」 「私・・何かランディ様の気に触る事しましたか? こんなに怖いランディ様始めてです。」 アンジェリークは泣きながら外されたブラウスの胸元を両手で隠した。 小さく震えながら泣いているアンジェリークに、ランディは自分が してしまった事でアンジェリークを傷つけたと思い込み深く反省した。 「俺・・・なんて事をしてしまったんだ・・ 君を泣かせてしまうなんて。俺って最低だよ!!」 「ランディ様?」 「アンジェ・・俺、君の事守るって言ったのに、君の事泣かしちゃったね 俺には君の事守る資格は無いのかもしれない・・・」 「えっ?どう言う事ですか?」 「アンジェ・・俺達別れよう。」 「ランディ様!どうして?私の事嫌いになったんですか?」 突然のランディの言葉にアンジェリークは驚き、ランディに詰め寄った。 しかし、ランディはアンジェリークの顔を見ようとせず、俯き きつく瞳を閉じたまま背を向けてしまった。 「アンジェ・・帰ってくれないかな。 一人になりたいんだ・・・・」 「ランディ様・・・・」 アンジェリークの瞳からは涙が溢れ落ち、黙り込んでしまったランディの 背中を見つめると、そのまま執務室を出た。 ――バタン―― 『ランディ様・・私はどうしたらいいの?』 アンジェリークは涙を止める事も出来ず、そのままフラフラと歩いていた。 |