「リラックスのために」

―X. ウツっぽいかなあ…と思ったときに ―
 
カサイト先生のリラクセイション講座

からだは必ずしも本人の意志通りにはならず、 無意識の心の動きを映し出します。 身体心理療法は、無意識の心と身体の関わりを調整して 素敵に生きていくことを支援します。

「リラックスできなくて本当に苦しいのですが…」

すでに少し書きましたが、リラックスできなくてつらいといった程度を超えて本当に苦しいときは、ここに書いている説明を読んでもどうにもならないことがあります。このサイトに書いている内容は心理学的に確認をしてきていますが、それを読む気力も体力もない状態のときは、身心が相当に疲れ果てていると思われます。自分自身でもウツ状態…かな…と思うことがあれば次の内容を読んでください。
  1. どこか身体の調子が悪いような感じがするときは、当たり前ですが、病院に行ってみます。

  2. 心の病ということの前に、どこか身体的な不調が原因となっていることが考えられるからです。もちろん、何日も続けて働いて寝る時間もとれないとかであればまずはそうした状態が原因となっていると考えられます。しかし、ある程度余裕がある状態なのにどうにも不調が続くときは、やはり専門家の力を借りる必要があります。判定が非常に困難な病気の場合は特定の専門医でないと判別が難しいこともあるので、まずはそうしたことを疑ってみる必要があります。

  3. ウツ状態やウツ病は「心の病気」とは限りません。

  4. ウツ病が「心の病」という側面とともに「身体的疾病」であることも分かってきています。ここでいう身体的疾患とはおおむね「脳の分泌系の不調」ということで、いわば「内臓としての脳が機能的に不調」(セレトニンなどの脳内物質の過不足など)ということを意味しています。さまざまな向精神薬の中にはウツ病に関わる脳の不調を改善するためのものがあり有効性が確認されているので、心療内科あるいは精神科で診断を受けることを考えてみましょう。

  5. ウツ状態やウツ病の場合は、「気持ちのもちかた」「心のあり方」という対処だけでは必ずしも十分ではありません。

  6. 自信があったり気持ちの強い人はウツ状態になりずらい…というようには考えて良いかどうか疑問があります。本人のそうした自信とは無関係に、「内臓としての脳の機能不順」としてウツ病が起きてしまう可能性が考えられるからです。その逆に、自信がないからとか意志が弱いからとかの理由でウツ病にかかる…というのも必ずしも正しくありません。努力が足りないからとか根性がないからウツ病にかかる…というのも、まずは疑ってみてください。
    ウツ状態やウツ病は「こころ」の状態とともに「身体(脳機能)」の状態が関わっている両面性のある不調だと理解するようにしてください。したがって、マッサージや温泉に行ったり、リラックスできるような雰囲気で過ごしても状態が良くならない場合は、上の[1]と[2]に書かれた内容を参考にしてください。

 ウツっぽい人が周りにいる時は次のようにしてみてください。

職場や家庭や学校など、自分の周りになんだかウツ状態のようにみえる人がいたときには、普通は「元気をだしたら」とか「スポーツをして汗を流してみたらさっぱりするよ」とか「温泉やマッサージに行ってみたら」等々、関わる中で少しでも元気になってもらえると嬉しいですね。しかし、普通は「のんびり・さっぱり・すっきり等」できるようなことをやっても、状況が良くならないときには「ウツ状態」に近いのかもしれません。そういうときは次のような配慮が必要に思います。
  • 頑張ってね!などとあまり励ましたりしないように。

  • ウツ状態・ウツ病の場合、夜はよく眠られないし眠っていても身心の安らぎが得られないことが多いのです。その中でも本人は「がんばろう」「もっとしっかりしよう」と思っているのですが、身体もだるくて思ったようにできないのがウツ状態です。それなのに、「元気を出そうよ」などと励ますと、本人はそのつもりなのに「できない…」という板挟みの苦しさが何倍にもふくれあがってしまいます。こちらとしては気になるし元気になってほしいので、思わず「頑張ってね」と声をかけてしまいがちなので、注意したいところです。

  • 頑張ってねと声をかけたのに元気にならないからって逆ギレしないように。

  • 人は好意から声がけすることがあります。「元気になってね」「頑張ってね」「笑顔の方がいいよ」「スポーツしてみたら」「走ったら元気になるよ」等々。そうやって言うことで、言った本人は、自分が他者に配慮する好意的な人間であることを、それによって結果的に確認できるわけですが、言われた方はどうでしょうか。ウツ状態に近いほど不調のときは、かえってめげてしまいます「…そう言われてもできないのです…」と。

    そういう苦しい状態なのにたまに逆ギレする人がいますねえ。「元気になれって励ましたのに何にもしないで!」「自分のことを大事にするんだったら、元気になるようにしてみたらどうなの?!」などなど。これは本当に困ります。
    こういう場合は、相手のことを考えているのではなく、自分の思うとおりになっていないので腹を立てているだけです。「配慮」どころか「悪口」になっています。文明人としては、こういう逆ギレをしてしまわないように気をつけたいものです。はい。

  • できるだけ穏やかに接してください。

  • ウツ状態に限らないかもしれませんが、不調の人には穏やかに丁寧に接することが一番良いと思います。特に励ましもせず、バカにもせず無視もせず、必要なことを穏やかにしてあげられると良いですねえ。本人は不調なので、そうした心配りに気がつくほどのエネルギーがなかったり、気がついても声に出すだけの体力と気力のない場合があります。「ありがとう」というお礼やお辞儀の返礼がなかったとしてもそれも静かに受け入れてください。
    状況によっては、サポートしているはずの自分の方がかえって「無視されている?!バカにされている?!」と疑心暗鬼になってしまいそうなことも起こり得ます。そういうこともあるので、あまりリキを入れてサポートするのではなく「できるだけ穏やかに接する」方が良いわけです。

ウツ状態やウツ病から回復に向かうときに

ウツ病と診断されたりウツ状態に対して投薬を受けているときは、当たり前ですがお医者さんの指示に従うようにします。処方される薬の種類や量については主治医の先生とよく話し合います。身体に合わなかったりするような場合は種類を変えてもらうなどお医者さんと相談する必要があります。(必ずしもウツ病だけを患っているとは限らないこともあります)

状態が重かったときは、当然ですが回復にもそれなりに時間がかかります。怪我をしたり手術したあともそれなりに時間がかかるのと同じなので、アニメやテレビのミュータント何とかのように怪我や傷が突然ただちに良くなるはずはありません。本格的なウツ病は「大病」から「中病?!」程度まで身心に負担のかかる病気だと考えると分かりやすいかもしれません。
なおっていくまでにある程度の時間が必要ですが、基本的にウツ病はなおる病気とされています。ということで気持ちを穏やかに過ごす中で少しずつ良くなっていくものといえます。

*精神科ディケアやナイトケアとは、たとえばウツ病の大変な時期を何とか過ぎ、これから職場や学校や家庭などに復帰していくための準備段階として、様々なプログラムに参加しながら回復していく場として用意されています。カサイト先生は精神科ディケアで18年以上「ダンスセラピー」「リラクセイション」などのプログラムを担当してきました。このコーナーの解説はそうした体験をもとにしています。
ウツ病からの回復のためのプログラムとして最近は「(ウツ病)リワーク」と呼ばれるものも多くなってきています。リ・ワークなので復職というのが直訳ですが、職場に限らずウツ病やウツ状態を経て回復していく人達のための場となっています。

*「リラクセイション」「ダンスセラピー」「リワーク」などを精神科ディケアで指導している認定ダンスセラピスト(日本ダンス・セラピー協会)でボディラーニング・セラピスト(身体心理療法)の竹内実花氏から、ウツ状態・ウツ病と「リワーク」に関して貴重なコメントを戴きましたので、ここにお礼申し上げます。
(このコーナーでの記載は竹内実花氏からのコメントも参考にしていますが文責はカサイトにあります。)


  • 気持ちが少しずつ元気になっていきますが、身体の元気はそれほどすぐには戻らないことがあります

  • 元気になっていくと本当に嬉しいものです。少しずつよく眠れるようになるし、眠っていてもつらい状態ではなく安らかに眠れるようになり、少しずつエネルギーが回復していくことができます。
    しかし、少し大きなケガをしたり手術をした後のように、体力をそれなりに消耗していることが多く、体力が突然元に戻るということにはなりません。
    職場や学校や家庭などに戻っていっても、疲れやすいし疲れがとれにくいことをあらかじめ知っておくと良いですし、できれば周りの人たちにも「まだ体力が十分に回復していないです」と伝えておく方が良いかも知れません。少しずつ進む例として次のように書いておきましょう。

    • 朝に起きて、夜に眠れるというのは凄い!
    • 朝昼晩、3回とは限らないけれども食事ができるというのは凄い!
    • きちんと起きて、少し出かけてきたというのは凄い!
    • きちんと起きて、少し用事をしてきたというのは凄い!
    • 職場や学校や現場などに行ってきただけでも、もの凄い!
    • 少し仕事ができたというのは、赤飯を炊いて祝うくらい凄いことです!

  • 心の体力も落ちているので「うたれ弱い」ことがあります

  • 回復している途中では体力的にも限界があるので、本人の思うように物事を進めていけないことがよくあります。その結果として、あまり思ったようにいかないので気持ちもめげてガッカリするようなことが起きがちです。回復していく過程ではそういう「うたれ弱さ」があるものなので、あらかじめ知っておくと良いですね。
    特に回復していく中で気をつけないといけないのは、ウツのまっただ中にいるときは本当に何もできない状態に陥ることも多いので、「悲観的に考える」ということすらできなかったりします。それに対して、少しずつ元気になってくると考えたりするエネルギーも少しずつ戻ってくる分、自分のことを(悲観的に)考えるだけの体力も戻ってきてしまうという、落とし穴があったりもします。
    回復の時期は「いろいろと打たれ弱い時期なんだなあ」とのんびり構えて穏やかに過ごすようにしたいものですね。

  • あらためて生き直しているようなところがあるので、前と同じになると思い込まないようにします

  • ウツ状態やウツ病から回復していくとき、当たり前のことですが、「元の状態に戻れるといいな…」と思い、そうした自分の姿を思い描くものです。ところが、昔のままの状態に戻っていけるかどうかが分からなくなるような気がすることがあります。理由の一つはまだ体力も気力も十分に回復していないためなので、あまり心配しても仕方がありません。ただし、そういうことを超えて、何か自分が以前の自分とは少し違う感じがしていく場合があれば、次のような考え方が参考になるかもしれません。

    たとえ話ですが…「いつもは海辺で遊んでいたのに、どういうわけか数百メートルの深海に沈んで行ってきたことがある。凄まじい水圧が全身にかかって息ができないところから、少しずつ少しずつ浮かび始めて息も楽になり、光が見えて水温も暖かい水面へと少しずつ戻ってきてホッとしている…」。
    ウツ病の重い状態のときは、このたとえ話で言えば、深い海の底にいたようなもので本当に大変なことだったといえます。スキューバ・ダイビングをしたことのある人は、深さが増すにつれてどれほど大変なことかは身をもって知っているわけですが、どういう体験にしろ、そうした体験の積み重ねによって「自分自身の人生」ということが創り上げられていきます。ようするに、「どんな経験でも、そうした経験の中で人は時を経て変化していく」ものだといえます。というわけで…
    大変だった体験を経ながら少しずつでも素敵な時間がもてるようになるといいですね (^_^)V

    *ウツ病の治療薬としてSSRI系の薬が使えるようになってから医療的対処がかなり有効になりました。しかし、いったんダウンした心身状態と社会的状況(職業や社会的地位、家庭環境その他)をもう一度立ち上げていく際には、医学的措置を越えた対処が必要になってきます。ウツ病からの回復には、自分の人生をあらためて構築していくという側面がありますので、生活そのものの安定と心理面の安定とが大切になります。

    *なお、この「X.ウツっぽいときに…」をここまで読み通せた方は相当に気力・体力のある方です。ウツ病の方はそれほどのエネルギーがありませんので、読み通せた方は心身ともにダメージを受けているウツ病というよりも、その少し手前の状態なのかもしれませんね。

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*無断転載を禁じます。 (C)葛西俊治 2009-2019
*イラスト (C)Tsuzura, 2002