フランチェスカのおばさんの家に行った帰り。

私は、このおばさんの家に行くのが大好き。フランチェスカの家からは、車で約30分ほどの道程。彼女の家には、とても大きくて、綺麗で、賢くて、真っ白な犬がいるから。そして、この30分の道中、オリーブ畑、葡萄畑、小麦畑が広がる丘を超え、言葉ではいい尽くせないほど、素晴らしい風景が広がるので。

夏のイタリアは陽が暮れるのは遅いとはいえ、もう既に、太陽は丘の向こうに沈んだ時刻。フランチェスカが運転する車には、フェデリーコと私。私は、よく聞き取れなかったんだけれど、フェデリーコが、何かの遊びが僕には出来ないのがすごく辛いんだ、というようなことをマンマに訴えたみたい。

「あら。大丈夫よ。心配しなくても、大きくなったら出来るようになるわよ」
「おおきくなったら?」
「そうよ。大きくなったら、今は出来ない遊びも全部出来るようになって、字も今よりいっぱい読めるようになって、そして、ハナコみたいに世界中を旅行するのよ」

おおきくなったら。

7歳の男の子には、私にもフランチェスカにも、決してもう手にすることは出来ない、可能性というものが、最大限、目の前に広がっている。

本当のことを言うと、私は、彼のことが大好きなので、フェデリーコが大きくなるのを、ずっと見守っていたい。

来年の夏も、終業式の日に、「ハナコ!僕、3年生に進級できたよ!」って、ロレンツォに報告してもらいたいし、フェデリーコの背が延びて、戸棚の扉に頭をぶつける日を見てみたい。でも、それは不可能であることは、よく分かっている。そんなことにぼんやりと頭を巡らしていたら、窓の外があまりに綺麗なせいもあって、涙が出てきそうになった。

フェデリーコ、大きくなっても覚えていてくれたら、私はすごく嬉しいな。君は、7歳の夏、私のことが大好きだったんだよ。