小学校と中学校は夏休みに入ったこの週。私は、1週間、滞在している町にある幼稚園へ行くことになった。私が訪ねることになっている3つの幼稚園の中で一番大きなのがここ。3歳から5歳の100人以上が通っている。ちょうど5クラスあるので、月曜日から金曜日まで、1クラスずつに行くことになった。前もって先生と相談して決めたカリキュラムは、着物、歌、日本の遊び。童謡の入ったカセットテープと、けん玉、お手玉、そして着物を持って、いってきまぁす!



月曜日。

初日から、すごい盛りあがり。何を見るのも聞くのも、初めてなので(こんな小さなイタリアの子どもと接したのも初めてだ!)、どうしたものかちょっぴり不安だったんだけど、子どもたちは、私を大歓迎してくれた。

まず、『朝ご飯の時間』なるものが存在することに、驚く。だって、私の通っていた幼稚園ではそんなのなかったもの。この日のメニューは、ビスケットとジュース。『朝ご飯の時間』は、9時半ごろから始る。この子達、何時に家で朝食を食べてきたんだろう・・・。食堂へは、5歳のクリスティーナが私の手を繋いで連れて行ってくれた。彼女、「私、大きくなったら日本語を勉強して、日本に行きたいの」だって。えらいぞ!クリスティーナ!。そんな感動的な言葉を聞いたのは、イタリアに来て初めてだ!

クリスティーナの隣でビスケットを齧っていたら、男の子が走ってきて、「中国人なのぉ?日本人なのぅ?」だって。「日本人だよぉ」って答えると、彼は、走って自分のクラスに戻って、「日本人だった!」と、みんなに報告をしていた。

朝食のあとは、教室に戻って着物を着せる。ピンクの振袖はクリスティーナに。ハッピはセバスティアーノ。そして、用意してきた着物を着た女の子の絵に、みんなで色を塗る。この作戦は、我ながら大成功。童謡のテープを聞いたら、お手玉を。これは、みんな、かなり気に入ってくれたみたい。勝手に遊んでくれるので、私は休憩できて、しめしめ。セバスティアーノは、「4回出来た!」と、嬉しそうに報告してくれた。

今週の私の仕事は、9:15〜11:00の予定。『朝ご飯の時間』なんてのもあったから、あっという間に11時になっちゃった。それでも、私は、充分に疲れたけれど・・・。先生が私に、「昼食はどうするの?」と。家に帰って食べると伝えると、「ここで食べて行きなさい」とのこと。子どもたち、大喜び。私も、大喜び!?

そして、朝食と同じ食堂へ。「ここに座ってぇ!」と、叫ぶので、クリスティーナの近くに座る。すると離れたところからも、「こっちに来てぇ!」と。パスタを食べ終わって、再び、「ここに来て!」と言われたので、お皿を持って、そっちに行こうとすると、クリスティーナ達が、「行っちゃダメぇ!」。あまりの剣幕に、分かったよぅと、座りなおそうとするも、また、「こっちにも座ってぇ!」との声。やっぱり均等に接しないとね、と、私は向こうに行きたいんだけれど、クリスティーナ達が離してくれない。思わず、皿を持ったまま、右往左往してしまった。先生には、「体を半分にしなくちゃダメね。ハナコはどっちに行きたいの?」なんて。私としては、半分ずつしたいので、クリスティーナ達の叫び声を気にしつつも、隣のテーブルへと移動。

昼食後は、私はもう教えることがないので、子どもたちの遊びを見ていることにする。「一緒に遊んでくれる?」と言うので、見に行くと、ままごとをしているようす。「ハナコはお母さんね。だって、一番、大きいから」。ふむふむ、納得。そしてそのあとに続いた言葉は、「私は、猫!みゃうみゃう」だって。え?猫??これは、一般的なイタリアのままごとなんだろうか・・・。

赤ん坊の人形を抱いている女の子。やっぱり、小さくても女の子なのね、と微笑ましく見てたんだけれど、次の瞬間、彼女が取った行動とは・・・。振り返った私の目に飛び込んできたのは、おもちゃのオーブンレンジの中に入れられた、赤ん坊の人形。これは、一般的なイタリアの遊びなんだろうか・・・。しばらくして、私は、皿に載せられたその人形も目撃した。

腕やら膝にものすごいカサブタがある女の子がいて、ニコニコと、それを私に見せてくれる。「パパは、こことここにも」と、言っていたので、きっと2人で自転車で転んだんだろうな。それにしても、本当に痛そう・・・。そのカサブタを見せてもらっていると、別の女の子も自分の腕を差し出す。そこには、針の先で突いたような小さなカサブタが。「本当だ、あるねぇ」と返事をしていると、隣では必死になって自分の腕を探している数人が・・・。カサブタ自慢大会の始りか?

クリスティーナと、すごいカサブタの女の子(名前を知らないの)は、私に、自分で書いた絵をプレゼントしてくれた。ありがとう。大事に持って帰るね。

そして、庭で遊ぶ時間に。滑り台やブランコで遊ぶ子どもたちを見ていると、誰かが私のお尻を叩く。何?と、振りかえると、小さな小さな男の子が、恐竜のおもちゃを頭の上に掲げて、にたぁっと笑ってた。あぁ!ビックリした。本気でビックリしたよぅ。ここは、田舎なので、トカゲが多くて、道を歩いていると何匹も目にする。一瞬、おもちゃだと思わなくて、凍りついてしまった私であった。

実は、正直言って、朝の2時間で、私はもう疲れ果てていたのだけれど、午後からの遊びの方がさらに体力を消耗させる。何度か、もう帰ると言い出そうとしたのだけれど、鞄を手にしようとすると「帰っちゃうのぉう!!」と、気付いた子が、悲しそうに叫ぶので、「ううん。まだ帰らないよ」とつい言ってしまって・・・。

でも、さすがに限界。本当に、芯から疲れたので、帰らせてもらうわ。幼稚園を後にしたのが、15時半。結局、何時間いたんだ?私。



火曜日。

昨日、「日本人だった!」と報告していた男の子のクラスに行く。彼、レオナルドは顔にはっきりと、『僕はやんちゃ』と、書いてある男の子。

前日同様、『朝ご飯』を食べた後、子ども達が劇の練習をするのを見学する。ここイタリアは、6月が学年末。だから学芸会のようなものがあるみたい。5歳児さんたちは劇を、4歳児さんと3歳児さんは、まだ小さいので、歌に会わせて踊る。本番は、今週の金曜日。劇のタイトルは、『水は友達』という。

水の滴や、魚の衣装を着て音楽に合わせて踊る子どもたち。水辺に画家も現れ、絵を書き始めた。そこへ、どこからか黒いゴミがやって来た。最初は怯え、そして、うぉーと苦しみ始める魚たち。そして、『水を汚しちゃダメ!』とか、『ゴミを捨てちゃダメ!』という看板を持った子ども達入場。という、とっても素敵なストーリー。

劇の練習を見終わると、お昼ご飯の時間になってしまった。また、11時には帰れなかったね、私。

昨日、庭で私に恐竜のおもちゃを見せてくれた、ガブリエレは、本当にそのおもちゃが好きみたい。他の子が、何をして遊んでいるときも、彼は絶対に恐竜のおもちゃを手放さない。彼は、3歳なんだけど、どうやら2歳に近い3歳児さんらしく、ほとんどしゃべらない。みんなが着物の女の子の塗り絵をしている時も、恐竜を手に、ゴロゴロしていた(決して、全員に強制させないところが、私は好き)。

今日は早目に、といっても14時半、帰宅することにする。教室を出て廊下を歩いていると、なんとガブリエレが私のあとをついてくるじゃない。え?どこまでついてくるんだろう。どうして先生は止めなかったんだろう。こんなに小さいんだから危ないじゃない、と、どうしたものかと困っていると、廊下の突き当たり出口のドアのところまで来て、無言で、手を上に、は?と、彼の指先を追うと・・・。あ、もしや! あそこのボタンを押さないとドアが開かないのを教えてくれているのか! そして私が外へ出ると、外までついて来たらどうしようという私の不安をよそに彼は、恐竜のおもちゃと共に、教室へと戻っていった。

ありがとう、ガブリエレ。赤ちゃんだと思っていて、ごめんね。



水曜日。

『朝ご飯』を食べに(断っておくけど、私は家で朝食を済ませてから来ている)食堂へ行こうとすると、3歳のロレンツォが、私の手を引っ張って、自分の隣の席に座るようにって。彼は3歳だけど、とてもしっかりしている。私は、最初、4歳児さんだと思っていたくらい。

今日は、朝食のあとが庭で遊ぶ時間だった。庭に出ると、月曜日に行ったクラスの子に連行される。今日のクラスの子は、誰も私を引き止めないので、連行されるままにすることにする。ここのクラスの5歳児さん達は、本当に元気いっぱい。私を見つけると、うぉー!と地響きがしそうなくらい、私の名前を叫んで手を振ってくれる。

今日のクラスの男の子が来て、私に何か言う。「日本のおもちゃで遊んでもいい?」と言ったように思えるんだけれど、意味が分からない。別に、何で遊んだって構わないので「いいよ」と、答えてあげた。すると、彼、教室に戻って、私の鞄の中からお手玉の入った袋を出して持ってきた。あぁ、さっき、ちょっとだけ見せたそれが気になってたのか。

そして、今日も劇の練習を見学。朝食同様、ロレンツォが手を引いて私を連れて行く(決して、私が3歳の男の子の手を引いているのではない)。彼の指定席は、私の膝の上。3歳児さんは、本当にちびっこいので、私の腕を枕にして膝の上で横になってた。そして、いろいろと話をしてくれる。「ご飯を食べる前には、手を洗うのぉ」とか、「パパがママに新しい眼鏡を買ってあげたのぅ」って。ふむふむ。彼の目には、私は何だと写っているんだろう。

劇の練習も終わり、私がトイレから戻ってくると、お手玉の男の子、ジョバンニ5歳が「みんなは、どこに行ったの?」だって。え?それは、私が聞きたいよ・・・。仕方がないので、2人でみんなを探すことに。あちこち覗いたあと、ジョバンニに思い当たる場所が。廊下の一番奥の部屋。そういえば、何の部屋なんだろう?と、以前から疑問だったんだけれど、ドアを開けると、ベッドで子ども達が横になってた!。昼食前なのに・・・と、先生に、「お昼寝?」と尋ねると、「リラックス」との返事。この答えには、ちょっと笑っちゃった。「君も?」と、先生が声をかけるも、ジョバンニは「イヤだ」と、外へ出ていった(決して、全員に強制させないところが、私は好き)。

昼食後、このクラスの子どもたちは、比較的大人しい子達だったので、13時頃に帰ることにする。だんだん、手を抜いていってるな、私。




木曜日。

今までのクラスでは、代表、男女各1人ずつに着物を着せてたんだけれど、今日のクラスは、「私も!私も!」だったので、順番に着させてあげる。写真を撮ろうとカメラを出すと、みんなで大騒ぎ。う、重い!と気が付くと、誰かが私の背中によじ登ろうとしていたり。着物で充分に楽しんだ後は、塗り絵で楽しんでもらうことにする。

コピーを配りながら先生が、「みんなぁ、日本人の髪の毛は黒なのよぉ」と、言っているその下で、手を黄緑に塗り出す女の子。クラスで一番早く色が塗り終わって、私に見せに来たミルコ(推定3歳)の作品名は、『紫星人』(命名、わたし)。顔も手も、着物も帯以外は、ぜーんぶ紫色。でも、彼はとっても満足そう。君が幸せならば、私も幸せだよ。良かった、良かった、うんうん。

昨日のクラスも一昨日も、3歳児さんとはいえ、比較的きれいに塗っていたように思うんだけれど。今日のクラスは、芸術家が多いことは間違いないよう。日本語で名前を書いてと(みんなのに、カタカナで書いてあげていた)と、持ってきたマティア3歳は、顔と手をグレーで塗りたくっていた。ちょうどこの日、彼はグレーのTシャツを着ていたので、先生に、「君の顔は、この色なのー?」と、Tシャツを指差されるけども、僕は3歳だから何にもわかんなぁい・・・。

出来あがった全員の作品を壁に貼ってもらって・・・。うーん、このクラスの眺めは壮観!?

そして、今日も劇の練習があるんだけれど、廊下を歩いていたら、昨日のロレンツォに捕まった。私の手を引っ張って「行こうよぉ」って。仲良しのリカルドも一緒に。月曜日のクラスの子ども達も、私を見かけると、相変わらず大騒ぎしてくれる。そんなに手を振らなくっても、見えてるってば。

やんちゃなレオナルドも私の背後でちょろちょろとイタズラをしかけてくる。いつになってもニコニコと立ち去ろうとしないので、どうすればいいんだろう?抱いてほしいのかな?抱いてあげればいいのかな?と、抱きしめてみると、満足したのかニコニコと去って行った。ふーん、おもしろい・・・。



金曜日。

朝、先生に用事があって、水曜日に行った教室を覗いたら、奥からロレンツォが、ぴゃーっと走ってきた。私の足に、ひしっとしがみついて、「どこに行くのぅ?」、「どうしてぇ?」と、真ん丸な目で見つめられた。ごめんね、今日は、君のクラスではないんだよ。

でも、今日も、引き続きロレンツォの日。

朝ご飯の時も、私を見つけると走ってきて、自分の隣へと私を引っ張っていく。ごめんねぇ、金曜日のクラスのみんな。今、思い出そうとしても、あんまり記憶に残ってないよ。今日もロレンツォの日、としか・・・。劇の練習の時は、離れた場所に座っていたんだけれど、ふと気が付くと、椅子ごと移動して、私の背後でリカルドと2人で笑ってた。きゃ、かわいい!

とってもオシャマでかわいらしいミケーレは、水曜日のクラスにいた女の子。私の顔を見ると必ず、「何ていう名前?」と言う。その度に答えていたんだけれど、今日、金曜日になっても、「何て名前?」と聞いてくるので、私も聞き返してみた。「君は、何て名前なの?」って。すると、彼女、大きな声で、「ミケーレ!覚えてないの!?」だって。そのセリフは私のものだろう。



おまけ

木曜日のクラスの作品たち。髪の色が黒いのは、評価の対象になるとして・・・!?

写真を見たフェデリーコは、「ひゃひゃひゃ!僕の方が上手!」と、自分が塗った絵を持って来た(以前にあげて、家で塗り絵をしてたの)。「彼等は3歳よ。君はいくつなの?」って聞くと、「7歳!」と叫んでいたけど、フェデリーコ、君の気持ちはとってもよく分かるよ。