まだまだ、私のイタリア語は初心者レベルを少し超えたくらい、と自分では思っている。

イタリア人という人たちは、感情表現の非常に豊かな人たちなので、私が「○○までの切符を。往復で」と言っただけで、君のイタリア語はパーフェクトだ!とべた褒めしてくれる駅員のオジさんがいたりもするのだけれど。

私は、イタリア語はすごく綺麗な言葉だと感じていて、これはイタリア語を勉強しようと思った理由のひとつでもあるのだけれど、ま、要するに響きがかわいいのである。私好みの響き。

丸々とした貫禄十分のオジさんが、「クワッ!クワッ!」と叫んでいるのがおかしくて、イタリア語を覚えようと思ったようなもの。だって、何度見てもあの「クワッ!クワッ!」は、私のツボをくすぐる。「qua クワ」というのは、「ここ」という意味。何かを聞かれて、「ここ!ここ!」と叫んでいる光景はよく目にするんだけど、鶏じゃあるまいし・・・ねぇ。

イタリア語の勉強をしている、またはこれから始めようと思っている方には、なんの参考にもならないばかりが、何をアホなことを、と思われるに違いないけれど、私が面白く感じたいくつかのイタリア語を・・・。

私が言葉が分からないので、皆が気を使って、分かりやすいように話してくれているのかと想像もするんだけど、どうも、そうではないような気もしてきている。


■ animali という言葉について

 “animali アニマリ”。 アニマレの複数形。要するに「アニマル」のことよね、と日本語で勝手に「動物」と訳して理解していたんだけれど。

こちらに来て最初のころ、中学校の秘書をしている女性の家で、昼食をご馳走になった。数年前にリタイヤして、毎日、趣味の大工仕事をして過ごしているというご主人と、25歳、17歳の息子の4人家族(お兄ちゃんはこの日、留守だった)。インテリアの凝った素敵な家で、食事もすごく美味しかったのだけれど、何しろ到着して数日目。疲れているし、あまり食べられない。「もっと、もっと食べなさい」と、どんどん勧めてくれても、もうお腹いっぱい。「すごく美味しいんだけど、もう、お腹いっぱいで食べられないの」と伝えると、私のことを“フォルミカ”だと笑う。その言葉は知らないと言うと、なんでも、小さな“アニマリ”で食べる量も少ない。だから少ししか食べない人のことを“フォルミカ”というのだとか。ふぅん、小さい“動物”ね、帰宅したら辞書を引こうと思っていたんだけれど、どうも、ジェスチャーがおかしくないか?。

奥さん、ご主人、17歳の次男が揃って、「小さなアニマリ」と言い、手で示してくれるんだけど、どうみてもせいぜい1センチ程度。動物?いやそのサイズは、虫では?と思い、帰宅後、辞書を引くと、案の定、虫。しかも、『蟻』。蟻がアニマリかどうかは別として、いくらなんでも私の食欲は、『蟻』よりはあるぞ。しかし、その後も彼女、私に会うと、その場にいる他の人たちに、「ハナコは、“フォルミカ”くらいしか食べないのよぉん」と、言って回っているので、イタリアではよく使う言いまわしなんだろうな。

それにしても、『蟻』ね。せめて、ネズミとかリスとか、体の小さな動物にしてもらえれば・・・。

ある日、校長先生の車に乗せてもらっていた時のこと。彼は、私の滞在してる町から隣町に行く、決して広くはない道を100キロ以上出さないと気が済まない人のよう。すぐ前をゆっくりと走る車にイライラしながら、イタリアではのろのろと走る車のことを“ルマーカ”と呼ぶのだと教えてくれる。ゆっくりと動く“アニマリ”らしい。何だろうか。日本で例えるなら、亀?牛?。はい、皆さんも考えてみて。

答えは、『ナメクジ』。ナメクジがアニマリかどうかは、この際おいといて、のろのろ走る車を、よりによって『ナメクジ』とは。イタリア人のスピード狂がよく分かる言葉である。

手持ちの大学書林の日伊辞書を引いてみると、ちゃんと虫の欄に“インセット”と書いてある。私が知らないだろうと、皆が気を使ってアニマリと言ってくれているのかは分からないけれど、でも違うような気がする。ちなみに、“アニマレ”の欄には、『動物、獣、生物』とある。『生物』とは、まったく、範囲が広すぎる。

私の滞在している家の庭にはさくらんぼの木が植わっている。チェリーの実をちぎって、奥さんのフランチェスカが、「ほら、アニマリが齧っているわ」と見せてくれた。この家にもアニマリ。さくらんぼを齧るのは、やっぱり、虫か鳥だろうな。


■ pesce という言葉について

“pesce ペーシェ”。辞書を引くと、『魚、魚肉』となっている。日本は、ご存知のように、魚をよく食する国。だから当然、魚に関する言葉は非常に充実しているはず。日本語と比べると、イタリアでは言葉が少なくても仕方がないとしても、ここの人たちは、貝、海老、イカ、蛸、等をまとめて、“ペーシェ”と言う。『魚介類』と訳するといいいんだろう。でも、無意識のうちに、魚、貝、その他、と判別してしまう日本人の私にとって、やっぱり、“ペーシェ”は、どうしても『魚』を想像してしまう。

だから、今日の昼食は“ペーシェ”のパスタよ、と言われて、魚のパスタ?と、いろいろと想像していると、冷凍の蛸、イカの入ったパスタが出てきて、「あぁ!ペーシェ、ペーシェ!」ということになる。ボンゴレ(あさり)のパスタも、“ペーシェ”と呼んでいたし。

私が日本から持参してキッチンに置いている、かつお風味のダシの素も、フランチェスカは「ハナコのペーシェ」と呼んでいる。あ、これは正しいのか。

“ペーシェ”の話が出たので、そのついでに。イタリアでは、肉のパスタには粉チーズをかけるけれど、ペーシェのパスタ(この日、食べたのはボンゴレのパスタ)にはかけないとのこと。フランチェスカは、ちゃんとその理由も教えてくれた。「ペルケ・ペーシェ」。これ以上ない、理由である。「だって、魚だから」。これ以上の何も求めようのない理由。だから、皆さんも魚のパスタには、チーズをかけないで食べてね。


■ caramella という言葉について

“カラメッラ”。遠足に行ったとき、家まで送ってもらう車の中で、「カラメッラ食べる?」とは、よく言われる言葉である。日本語のキャラメルだと解していると、実にいろんな物が口に入る。キャラメルだったり、オレンジのキャンディだったり、グミだったり。フリスクを私が食べていたら、覗きこんだ子に「あぁ、カラメッラ」と言われたりとか。

辞書を引いてみると、caramella − キャラメル、あめ玉、ボンボン;単・片眼鏡;接眼鏡、対眼レンズ −。奥の深い言葉である。

試しに、『飴』を引いてみた。pastiglia fatta con glutine di riso o grano cotto 。直訳してみると『米や小麦を焼いたグルテンで作られた錠剤』。あぁ、こんなの覚えられない、カラメッラでいい、カラメッラで!。


■ gomma という言葉について

“ゴンマ”。要するに『ゴム』のこと。

弟のフェデリーコがキッチンで宿題の最中、「ハナコ、ゴンマとって」。はい、消しゴム。
車で移動中、ご主人のファブリッツィオが、「ハナコ、ゴンマを食べるか?」。これは、チューイングガム。

ま、確かに、『ゴム』には違いないけれどね。