学校で私にあてがわれた授業中に、休み時間に職員室で、家では家族、遊びに来た彼等の親戚や友人に。みんな、日本という国にすごく興味を持っていて(そして詳しく知っていたりもして)、様々なことを私に尋ねてくる。彼等が、オモシロイ!と興味を持つ日本の事柄は、私にとっては、ごくごく当たり前の日常的なこと。それが、彼等には興味深く感じるというのは、私には、彼等の日常的な事柄が、興味深く、オモシロク感じられるわけで・・・。


アメリカ人に伝えるとビックリしていたので、イタリア人も驚くかな・・・と思い、言ってみると、案の定、すごい反応が帰って来た。

80歳になるひいおばあちゃんも、「マドンナ・・・」と、呟いて凍り付いていた。「オー・ディオ!オー・ディオ!オー・ディオ!(ディオは、神の意味)」と、3度呟いた人もいた(彼の反応が、これまでで一番スゴイ)。ここまでは言わなくても、ほとんど全ての人が、「マンマ・ミーア!」か、「マドンナ!」と、叫んでくれるので、私としては説明した甲斐があるというもの。

何に彼等がこれほど驚くかというと、単純なこと。「私達日本人は、朝から米を食べるよー」。このことに対して、マンマ・ミーア!信じられない!!と、彼等は叫ぶのである。米の他に何を食べるのか?という質問に、「伝統的な朝食では、魚と豆のスープ(味噌汁だ)、それに野菜なんかも食べる」。もう、これで、彼等の目は、本当に信じられない・・・と、宙に浮かんでしまっている。

しかし、私にとって信じられないのは、彼等の方である。一般的なイタリアの朝食は、カフェ・ラテにビスコッティーニ(ビスケット)。老若男女問わず、ビスケットやらケーキは、飲み物につけて食べるのが、一般的。私が、ほうじ茶を出した時も、おばあちゃん、ひいおばあちゃん共に、何の躊躇もなく、ケーキをほうじ茶につけて食べていたし。ある日、校長先生に日本の朝食について質問されたので、「米を食う」と言って、驚かせたあと、「でも最近は、特に若い人なんかは、カフェにパーネ(パン)も多いですよー」と言うと、「やっぱり、パーネはカフェに浸して食べるのか?」って。これに関しては、「違う。浸さない。別々に食べる」と、即答しておいた。私は、幼い頃、牛乳にパンを浸して食べていると、行儀が悪い、と親に怒られたものだけれど・・・。

始めは、このビスコッティーニをカフェラテに浸して食べる方法、私の滞在先が幼い子どもだから・・・、だと思っていたんだけれど、校長先生までこう言うということは、どうやらイタリアでは一般的な食べ方のよう。

そして、当然、この朝食だけではお腹が空くので、“メレンダ”というものが存在する。日本でいう、『おやつの時間』である。小学校の場合、8時20分から1時間目が始り、2時間目終了後の、10時15分からの休み時間が“メレンダ”の時間。家から持参した、ビスケットやピッツァ、ジュースなどを食べる。そして、12時半から昼食。低学年は週1度、高学年は週2度、午後5時まで授業があり、その日は、4時半頃に2度目のメレンダ。

10時半のメレンダは、抵抗なく受け入れられたんだけれど、午後のメレンダを初めて目にした時は、本当にビックリしてしまった。帰宅して、フランチェスカにそれを伝えると、「子ども達は、元気過ぎるから、すぐにお腹が減るのよーん」とのこと。いや、違う!。私は、断じて違う!と言いたい!。あれだけ食わすから、あんなに暴れるんだぁ!!



日本人は米を食う。朝も昼も夜も米を食う。と言うと、大抵のイタリア人は、目が点になってしまうのだけれど、「君達のパーネと同じ」と伝えると、理解してもらえる。パーネがないと食事が出来ない、と彼等自身も言っているように、プリモが何であれ、セコンドが何であれ、パーネ(パン)だけは必ず食卓に上っている。

イタリアといえばパスタ。イタリア人といえばスパゲッティと、思っている人が多いのではないだろうか。しかし、彼等は、毎日3食、パスタを食べるわけでは、決してない。全てのイタリア人がそうなのかは、私には断言できないけれど、少なくとも私がホームステイしている家族は、パスタを食べるのは1日1食、昼食のみ、である。

ファブリッツィオは、仕事の帰りが遅い時は、本当にお腹を空かせて帰ってきて、車をガレージに止めて、3秒後には食卓について、4秒後には食べているんだけれど、その日は、いつものように3秒で食卓につき、今日は日本食だというのを認めると、4秒後には、「パーネはどこだ!パーネはないのか!」と叫んでいた。

このパーネ、食べる時には、決まり(?)があるみたい。

ある日、夕食も終わりにさしかかり、私は既にお腹がいっぱい。でも、かじり付いてしまったパーネが半分ほど残っている。一切れにかじり付かずに、半分にしてから食べれば良かった・・・と後悔しながら、かじってしまったものは食べなきゃ・・・と、むしゃむしゃかじっていた。すると、突然、「きゃーーー!!」と、いうフランチェスカの叫び声。何事かと驚いて顔を上げると、「きゃー!ハナコ!どうしてパーネだけ食べてるのぉー!!」。これには、本当に驚いてしまった。すると、左から、この日たまたま一緒に夕食を食べていたフランチェスコが満面の笑顔でハムの載った皿を、そして右からファブリッツィオが、「このチーズを食べなさい!」と、私の目の前に。私は、このパンも残したいほど、お腹はいっぱいなんだけれど、こういう時は、やっぱり手を伸ばすのは、皿の内容とは関係なく、ファブリッツィオに対してよね・・・。ありがたく、いただきます。

別の日。お腹いっぱい夕食を食べて、コップにワインが少しだけ残ったので、これだけ飲んじゃおーと、チーズをひと欠片手に取った。すると、またも、「きゃーーー!!」と叫ぶフランチェスカ。「ハナコ!どうして、フォルマッジョ(チーズ)だけ食べてるのぉーー!!」と、パーネが一切れ、私の目の前に飛んで来た。

確かに、日本でも、何もオカズを食べずに、白いご飯だけ食べているのは、奇異に写るから、そんなものといえばそんなものなんだろうけれど・・・。私は、お腹がいっぱいです。


教室に入って、先生に、「今日は、何をしてくれるの?」と、ニッコリと微笑まれる。えーっと、どうしたものかなlぁ・・・と、最初は困り果てていたのだけれど(前もって、準備をしておけよ!)、回を重ねるにつれて、コツが飲みこめ、少しは上手に授業が出来るようになってきた。とにかく、彼等が、ビックリすることを最初に話せばいいんだ。というわけで、私がツカミに使ったのは、『日本の学校生活』について。

1.日本の学校は、4月に始る(イタリアは9月始り)
2.日本の小学校は6年間通う(イタリアは5年間)

そして、彼等の最大の驚きは(私にとっても、一番の驚きだ!)、日本の学校は夏休みが1ヶ月半しかない、ということ。

私が滞在していた2001年は、小学校、中学校共に、6月9日、土曜日が終業式だった。昼、走って帰って来たロレンツォは、「ハナコォ!!僕、2年生に進級できたよぉ!」と、大声で報告してくれた(イタリアの中学校は、落第がある)。そして、新学期(新学年)が始るのは9月から、と私は耳にしていた。

私はこの夏休みの期間に旅行へ行きたかったので、その計画を立てるため、いつから新学期が始るのかを、、5月のある日、中学校の先生アンジェラに尋ねてみた。彼女の答えは、「分からない」。え!?どうして?なんで??。「毎年、変わるのよー。今年は、まだ決まってないの」。そんな訳ないやろう・・・と、翌日、副校長であるティッツィアーナに同じことを聞いてみた。彼女の答えも、「分からない」。どうして知りたいのか、という彼女に、「旅行の計画を立てたいので・・・」と伝えると、「それなら大丈夫よ!授業が始るのは、10月に入ってからだから。心配しないで、行ってきなさい!」とのこと。え?じゅ、じゅうがつ!?

なおもしつこく、フランチェスカに尋ねてみる私(だって、彼等はイタリア人なんだもの。同じ人でも、2度目は違うことを言うことが多々あるから)。やっぱり、いつから授業が始るのかは「知らない」とのこと。結局、学校が始ったのは、9月17日、月曜日からだった。8月の中ごろ、「ロレンツォの学校は、9月17日から始ることになったのよーん」って、フランチェスカが教えてくれた。何?連絡網??

6月に入ると、学年末の劇の発表会のための練習をしたり、映画鑑賞会があったりで、ほとんど授業は行われていなかった。新学期、私は結局、10月1日に旅行から戻ってきて、10月15日から中学校に行くことになったのだけれど、その時点でまだ、ロレンツォの時間割は決まっていなかった。まだ、授業が始ってないのか!!と、ひきつっていたら、「(時間割は)毎日変わるのよー。前の日に翌日の内容が決まるの。授業は始まってるわよ」と、フランチェスカが教えてくれた。

とにかく、夏休み。完全なお休みだけで、3ヶ月と少し。そしてこれだと、授業がない期間は4ヶ月近くあるのか?。そして、子どもにとって、3ヶ月は長い!。小学校1年生で、初めての学校生活であったフェデリーコは、長い休みのあと、再び学校が始まり、ものすごいストレスを感じていた。顔付きが違うし、私に対しても、凶暴に、攻撃的になっていたもの。しばらくすると、慣れたみたいで、元に戻ったけれど。

日本の夏休みは1ヶ月半。こう言うと、子ども達(時には先生も)は悲鳴を上げる。「どうしてなの?信じられない!」と。「私にとっては、夏休みが3ヶ月ある、ということが信じられない。君達のは、長すぎる」。すると、小学校3年生のクラスで、先生は私に同意してくれた。「そう。3ヶ月は長すぎると私も思う。新学期が始ると、彼等は去年のことをすべて忘れている。また、最初から教えなきゃいけない」

そうだろう・・・。簡単に想像がつくよ。