学校から帰宅して、キッチンに入った瞬間、思わず叫びそうになってしまった。私の目に飛び込んで来たのは、くりー!クリー!!栗!。丸々と太った美味しそうな栗。

秋の味覚は、日本もイタリアも変わらずで驚き。そして、喜び。キッチンに並んでいるのは、栗と葡萄。戻ってきたフランチェスカに、「栗は日本でも食べるよ。時々、米と一緒に茹でて食べるよ」と言うと、「皮は剥くの?」だって。イタリア人に食べられないものは、日本人にも食べられないよー。ここでは、穴の開いたフライパンで炒って、焼き栗としていただく。遅れてキッチンにやって来たフェデリーコは私に、「これ知ってる?食べたことある?ここを切って皮を剥いて食べるの」と、教えてくれた。

香ばしい匂いがキッチンに立ち込める。夕食後のデザート(?)なんだけれど、私は先に味見をさせてもらう。わぁ、本当に美味しそう。皮を剥いて・・・。フェデリーコも私の隣で皮を剥き始める。私が食べると、フェデリーコもつられて口に入れた!。が、次の瞬間、顔を歪ませて、ゴミ箱に走って行って吐き出していた。嫌いなんだって。

この焼き栗、とても美味しくて、私は大好きなんだけれど、いつも食事を食べ過ぎてあまり食べられない。だから今日は夕食を少なめに・・・したいんだけれども、今日もファブリッツィオが許してくれなかった・・・。「どうして食べない!」と叫ばれても、私はお腹がいっぱいなのーーー。食事の真っ最中、突然、フランチェスカが、「マンマ・ミーア!」と、大きな声で叫んだ!。私、凄くビックリしてしまって、思わず壁に目をやる。すると「ハナコが壁を見たぞー」と、ファブリッツィオが大笑い。あぁ、栗をコンロにかけっぱなしだったのを思い出したのね。だってその辺りを見て叫んだから、虫でもいたのかと思って・・・。彼は、そこまで笑わなくってもいいじゃない、ってほど大笑い。でも、私も可笑しいや。あぁ、だって・・・、そんなこととは想像もしないじゃないぃ。彼女は壁を見て叫んだんだから。

少々焦げた栗が食卓に上ると、「僕は食べるのは嫌いだけど、剥くのは好き」だという、フェデリーコが剥きに走って来た。いつもは、「欲しい?」と聞いてから剥くのに、今日はいきなり、「ハナコ!2つ?5つ??」だって。いくつでもいいよ。君の剥きたいだけ剥きなさい。でも、私も、栗の皮を剥くの割と好きなんだけどな。


今日は、叫びそうになったのではなく、本当に声をあげてしまった。だって、だって、かき!カキー!柿だ!。

秋も深まり、目につくようになって数週間。私は、ずーーーっと気になっていたの。中学校からの帰り道、何軒もの家の庭に、ぎっしりと実っているあのオレンジ色の物体は、柿ではないかと。そして、あれは食べないのか?食べられない柿なのか?。誰かに尋ねたいのだけれど、誰かとその道を歩く機会がなかなか訪れなくて。帰宅してから、あそこの庭にある木のことなんだけれど・・・という会話をするのは、私にはまだ難しい。目の前で『あれ!』と指差すに限る。運良く、その家の人が庭に出ていれば、聞いてみようと思っていたんだけれど、その機会にも恵まれず。誰も見ていないときに、よじ登ってやろうかとも頭をよぎったりして・・・。

ま、とにかく、キッチンにその柿があった。辞書には、『CACHI(KAKI)』と出ている。『深夜特急』にも、イタリアで『カキ』というのだと教えられ驚いた、と書いてあった。

フランチェスカに尋ねてみる。『カコ』だとのこと。あ、何か違う。「日本でも同じフルーツを食べるけど、カキっていう名前よ」と私が言うと、「カキは複数形よ。これはカコ」だって。

あーー!そうなのか!イタリア語。あなた達は、キモノ、着物のことも2枚になると、「キモーニー」と呼ぶものねぇ。いや、その前に、カコ・柿は、イタリア語なのか日本語なのか!?。これはフランチェスカは、知らないだろうな。彼女が知っているのは、このカキ(6つあったから『カキ』)は、おじいちゃんがどこかの(聞き取れなかった)庭からもらってきたということ。誰に聞けば分かるんだろう。中学校のルチアーノ先生なら知っているかなぁ・・・。でも、彼に聞くとラテン語を教えられそう。

後日、フランチェスカに、「これはどこが原産なの?」と聞かれてしまった。そ・それを尋ねたいのは私だったのに・・・。「私は、中国か日本のものだと思っていたけれど。イタリアのものじゃないの?」と言うと、イタリアのものではないとのこと。「庭でよく見かけるけど・・・」との私の問いには、木の形や実が綺麗だから好んで庭木にしている、んだって。

そして、フランチェスカ、「どうやって食べるの?どうして食べたらいいの??」と、私に聞くのは止めてください。それを聞いて良いのは、私が持って来た変わった食べ物の時だけ。


そろそろ夕食の時間。1階へと下りて行くと、4切れのパンを手にしたファブリッツィオがキッチンから出てきた。背後からは、フランチェスカの「ノー!ファブリッツィオ!!」という叫び声。「パンを持ってガレージへ行ったよ。彼は何をしているの?」。しばらくして、網を片手にファブリッツィオが戻ってきた。その上にパンを乗せて・・・。あぁ、もしかして、それを暖炉で焼くつもりなのか?。それは面白いから、私も見に行こーっと。

予想どおり、暖炉の前で、「熱い!熱い!!」と叫びながら、彼はパンを焼いていた。炭火焼きパンを食べたのは、生まれて始めて。焼き芋をしたい・・・。


あぁ、私、この日が訪れるのを本当に心から待っていたのよー。今日の給食のフルーツは、みかん。『マンダリーノ』などと、トロピカルなたいそうな名前で呼ばれているけれど、これは、みかん。

私、日本の自宅で、セリエAを見ていると、ミランダービーでコーナーキックなどの盛りあがる場面。ブーイングの嵐の中、ゴールの後ろに、ぺちゃ、ぺちゃ、と投げ捨てられる物体が、どうみてもみかんの皮に思えて、すごく謎だったの。みかんって、みかん。オレンジではなく、正真正銘の、『コタツでみかん』のみかん。サッカー場でみかんを食べるイタリア人・・・。しかも、ミラノなのに・・・。長年の疑問を晴らすべく、帰り道、スーパーマーケットの果物売り場をのぞいてみた。『みかん』の札には、生産地イタリアとなっていた。

フェデリーコは、果物が嫌い。バナナ以外の果物は、全く口にしない。なんとなく気になったので、みかんが配られたあと、後ろを振り返ってみた。すると、あら、皿の上に、剥かれたみかんが並べられているじゃない!。えー、学校だと食べるの!?。それとも、栗と同様、「剥くのは好き、食べるのは嫌い」なのか。しばらく様子をうかがっていると、彼の取った行動は・・・。ひと房のみかんを手にして、それを自分の目に向けて・・・押しつぶした!。当然、飛び散る果汁。ひやぁ!と椅子から飛びあがって、ぽろぽろ涙を流して、テーブルクロスで拭いていた。やっぱり、剥くのが好きなだけだったのか・・・。

そして、家にも『みかん』が、やって来た。フランチェスカに尋ねると、シチリア島やスペインで作られているんだって。スペインが作ってるのは、オレンジだと思っていた。まさか『みかん』がねぇ・・・。コタツは無いくせに・・・。

翌週も給食に『みかん』が出た。皮を剥いていると、遠くからフェデリーコが、身振りで、それを目に向けて押せ!と言っている。いやだ!私は君と違って、その行為がどういう結果を生むか知っているんだから。