ごめんね、フェデリーコ。みんなに君の暴れん坊ぶりをバラしちゃうよ。だって、とっても素敵なんだもの。

彼とお兄ちゃんのロレンツォは、毎日、学校が終わったあと、近くに住んでいるおばあちゃんの家で昼食を食べて、仕事が終わったマンマのフランチェスカと一緒に3時半から4時くらいの間に家に帰ってくる。いつもは、帰って来た声が聞こえると、私は自分の部屋から階下へ降りていくんだけれど、今日は、ちょうど翌日の授業の準備をしていたところだったし、どうせ私がいるのは分かってるからいいや、と部屋に留まっていた。

しばらく過ぎて、チャリーンと私の部屋に小銭を投げ込む音。おぉ、こ・こんな技は初めてだ。フェデリーコだというのは、分かってたけど、一応、「キ エー?? 誰ぇ??」と言っておく。返事がないので放っておくと、結局3枚投げ込んできて、「ひゃー!」と奇声をあげて去っていった。で、私も彼についてキッチンに行ったのが、ちょうど5時頃。

フェデリーコは、この9月で小学校の2年生になったばかり。フランチェスカが言うには、毎日、宿題がたくさんあるんだって。私は、しょっちゅう、彼の宿題にフランチェスカが格闘しているのを眺めているんだけれど、これが本当にすごい。言葉では言い尽くせないくらいにすごい。とにかく、すごいとしか言いようがないほど、すごい。

だって、彼は本当にじっとしていないからね。宿題の最中、しかも単語を書きかけで、窓に首を挟んで死んだ真似をしている、なんてまだ序の口だもの。先日は、『マフラー』という単語が出てきたので、彼、「ハナコ!」と私の注意を引いておいてから、身振り手振りで、
何かを首に巻いて、
両端をぎゅっと引っ張って、
口をあーっと開けて、
舌を出して首を折って、変な顔で死んだ真似をしてくれた。

今日の宿題は、本当にたくさんあった(どうやら、翌日の分も1日で済ませてしまおう作戦だった様子)。イタリア語の授業のプリントが1枚。地理の授業で、絵を書く宿題の続き(一昨日から続いていて、まだ終わっていなかった)。数学の宿題と、そして本読み。

まず、最初にイタリア語のプリントから取りかかる。いつものように、キッチンのテーブルにフェデリーコと隣にフランチェスカが座って、ノートを開いて鉛筆を握らすところから始る。これだけで一苦労。そして、ほとんど(というか、全て)フランチェスカが答えを言いながら、フェデリーコに書かすんだけれども、これが見ていて笑いをこらえるのが大変。よくそれだけ表情があるよねぇ、っていうくらいの顔をしながら、一文字ずつ鉛筆を走らせる彼。単語のスペルをひとつずつ、フランチェスカが教えながら書かすんだけれど、書き間違えたとするでしょ。「ふゃあああっぁぁああ!!!!」と奇声をあげて、目を見開いて変な顔をして、鉛筆を放り投げて、横にいる私の顔に向かって唾がかかるよ、ってほど近づいてもう一度、奇声をあげたあと、「間ぁ違えたぁ!!!」って叫ぶの。かわいいから(え?かわいいのか!?はい。とってもかわいいんですよ。これが)、「そう。間違えたね!」って言ってあげる。

で、几帳面に消しゴムで消して、続きを書くかと思えば、「続きを書きなさい!Gでしょ!次はG!!」ってマンマが叫んでると言うのに、彼は、キッチンの床に腹ばいになって、手をピストルの形にして自分の腹を撃って死んだ真似して痙攣してる。それの気が済んだら、席にはつくんだけれど、続きは書かずに、目をキラキラ輝かせて(本当に、キラキラと輝くんです。彼の目は)、「ねぇ、ハナコ、この話、知ってたかなぁ?」と、今の状況と全く関係があるとは思えない話を私にしてくれる。そして、それの気がすんだら、やっと鉛筆を握って、何文字が書いて、また間違えて、奇声をあげて、珍しく単語をひとつ問題なく書き終えたな・・・と思ったら、フランチェスカの叫び声(もちろん、怒ってる)を無視して、隣にある居間に行って、テーブルの周りを1周走ってまた戻ってきて・・・。はぁ、いつになっても宿題は進まない・・・。

と、まぁ、こんな修羅場がほぼ毎日繰り返されているわけで。私は、別にそれを見ている必要はないんだけれども、面白いから(本当に、面白いんです。一大スペクタクルですよ)、ずーーーーっと、横に座って眺めてる。一度、さすがに飽きた(疲れたともいう)ので、自分の部屋に戻ろうとすると、フランチェスカに、「あら、ハナコ、2階に行くの??」って言われたので、この家庭のお客になるということは、この宿題を見届けるということなんだと、私は理解して、最後まで付き合うことにしているの。

暴れまくっている合間に字を書くという状況の中、フランチェスカは何をしているかというと、数学のプリントの答えを彼女が書いていた。ま、母が良いと言うのだからそれで良いのでしょう。私は何も言えないし、言わない。

地理の宿題と言うのは、授業中に「山」「海」「湖」「町」「田舎」には何があるかというのをノートに写しており、その絵を書いてくるというもの。一昨日、「山」の絵を書いているのを私は見ていた。彼は絵を書くのが大好き。そして、割に上手に書くと思う。山を2つ書いて、その間に太陽が昇っている。その次に、何やらソリのようなものをチマチマと書くので、「それは何?」と聞くと、「このスポーツ、知らない??」って説明してくれたけど、どうやら、ボブスレー。山のてっぺんには、人が座っていて、何をしているのかと尋ねると、手にしているものを指差して「爆弾」とのこと。そして、どうやら雪山だったらしく(そうだろう。ボブスレーだから)、雪の中に頭を突っ込んで足だけ出している人の絵。本当にこれが宿題なのか、という気がしないでもないけれど、これらに色を塗ったのはフランチェスカだからこれで良いんでしょう。

で、リフトと、スキーをしている人の絵と、麓に池、池の中には魚。「マンマ、羊を書いて」だから、羊。これらをフランチェスカが書いて(書き過ぎだよ、お母さん)、色も彼女が塗って、出来あがり。

イタリア語の宿題が依然進まないので、退屈してきた私は、この地理のノートをパラパラめくってたんだけれど、私の知らない間に「海」と「湖」「山」の絵が書き終わっていた(おばあちゃんの家で済ませて来たものと思われる)。90%くらい、フランチェスカの筆跡で。だから、書き過ぎだよ、お母さん。

フェデリーコの奇声とフランチェスカの叫び声を交互に聞きながら、私も、「ねぇ、書こうよぉ。次は、Eよ。ほら、ねぇ」とか言い、ようやくイタリア語の宿題が終わりに近づいた頃、ロレンツォがキッチンへ入ってきた。私は、彼は隣の部屋で自分の宿題をしているとばかり思っていたんだけれど、彼が手にしていたのは、「田舎」の絵が綺麗に書かれた地理のノート(ロレンツォもとっても絵が上手)。すると、数学の宿題を解いているフランチェスカが、「ハナコに色を塗ってもらって、君はそれを終わらしなさい」と(過去、何度も私は彼の色塗りをしている)。すると彼、「ノーーーー!!」と、町中に響くくらいの声で叫んで、イタリア語のノートを放り投げる。私が拾って、「それが終わったら、一緒に塗ろう」と言うと、「いや!僕だけで塗る!!」だって。結局、私も色塗りしてやったけれど、イタリア語の宿題、未だ終わらず。

今週は早番だったらしいご主人のファブリッツィオは(彼は警察官)、3時頃には既に帰って来ていたんだけれど、宿題の最中、キッチンへやって来て、流し台に置いてあった食器を洗って去っていった。家族総動員とはこういうこと?

なんとか、イタリア語の宿題が終了し、あと半分ほど残っている(残している)数学の宿題を、イタリア語と同じ状況で何とか終わらせて、ちょうど7時。程度の差はあれ、ほぼ毎日、これが続いている。すごいぞー!フェデリーコ!。どうして君は疲れないんだぁ。私は、疲れたぞ。毎日、見ていても飽きないんだけれど、彼が15人いる教室を想像してみてください。その子達相手に、1日、授業をして帰って来た日は、さすがに疲れ果てていて、勘弁してください・・・という思いでいっぱい。お母さんには、頭があがらない?

そして、8時頃から夕食。今日は特に問題もなく(基本的に、彼は食事中も暴れん坊なんだけど、今日はこれだけ暴れたからもういいでしょう)食事終了。いつもはフランチェスカと私で後片付けをするんだけれど、今日は、ファブリッツィオが片付け始めて、食器も彼が洗い出した。今日はサービスいいのねぇ、って思ってると、そうか!本読みの宿題が残ってた!

フェデリーコは、小学校2年生。まだ、字がちゃんと読めない。他の子は知らないので、彼がどうとか言うつもりはないんだけれど、ま、これも、ご想像のとおり、すごーく時間がかかる。ひとつの単語ごとに、フランチェスカがゆっくり読んで、フェデリーコがあとに続けるんだけれど、これまでのパターンでいくと、読んでいない時間の方が多いのはお分かりでしょう。

分からない単語があったらしく、フランチェスカが「これ(イスの背もたれ)のことよ」と、指差すと、フェデリーコは目をキラキラと輝かせて、私を見て、「ハナコ!そうなの!」。私も知らなかったけど、フランチェスカが嘘を言うはずがないので「そうだよ」と微笑んでおく。ただでさえ、単語を2つか3つ読むと、目の前に置いているロボットで遊んで先へ進まないのに、外野からも邪魔が入る。

決して大きいとはいえない普通サイズの食卓に一緒に座っているロレンツォは、邪魔にならないように音量を消してあるテレビの画面にあわせて歌い出して、マンマに怒られる。「ハナコと一緒に、あっちの部屋でテレビを見てきなさい!」。しかし、ロレンツォ、席を動かず。怒ったフランチェスカに、テレビを消される(正しい対処である)。もちろん、ロレンツォが何かすると、その全てに弟は反応する。

食器を洗い終わったファブリッツィオ、居間に行ってテレビをつけるけれど、音量が馬鹿でかい。フランチェスカがドアを閉める(正しい対処である)。この間、もちろん、本読みは進まない。ロレンツォは相変わらず、弟の目の前で大声で遊ぶので、マンマに怒られる。飛行機のおもちゃを片手に、空中を動かしながら、「ハナコ!、ガソリンが無くなった!」。「ブォオオオン!」叫び声とともに、飛行機墜落。フェデリーコ、喜んで、一緒に叫んで、大笑い。「大人しくするか、部屋から出て行きなさい!!」再び、マンマが叫ぶ。ロレンツォ退場。

ようやく、本読み進むか、と思いきや、フェデリーコ、突然、「眠くなる、眠くなる、眠くなる」と、歌うように口走る。そうすると・・・、あっ、マンマが寝た!。そして彼女、笑いながら、「こうやって紐を目の前で振るのよねぇ」と、鉛筆をフェデリーコの目の前で振りながら、「ハナコ、日本にもあるのぉ??」。催眠術のことでしょ。「あるよ」って答えたら、フェデリーコ、「本当に!!きゃー!」喜んで奇声をあげる。またもや宿題中断。そうやって、20行ほどの本読みが30分かかってようやく終了。最後の単語を読み終えた途端、席を立つフェデリーコ。

それを引き止めて、自分でもう1度読んで聞かせるマンマ。あ、そういえば、各ページの下に問題が載っていたよね、その本。そして、質問を読み始めるフランチェスカだけど、もう、聞いちゃいないフェデリーコ。私がスペイン旅行のお土産に彼にあげた小銭入れを持ってきて、中に入っているコインを私に説明するのに彼はもう夢中。「これは見た?」「これ知ってる?」ひとつずつ、返事を返して、ふと顔をあげると、おぉ、フランチェスカが問題の答えを記入している。あと1つ残った空白。「田舎って書きなさい」と差し出された本に、「マンマが書いて」と。そして、彼は、私にコインを見せ続ける。「田舎」と、フランチェスカが記入して、リュックサックの中に本をなおして、無事、本日の宿題完成!パチパチパチ!拍手ーーーー!

さて、この宿題の最中、何度、フランチェスカは私に「疲れたわぁ」と言ったでしょう??というのが今日のクエスチョン、ではなく・・・。

でもね、私、知ってるんだよ、フェデリーコ。マンマは仕事をしているから、朝起きた時、そばにはいないし、家にいても家事や何やらで忙しいから、君は寂しいんだよね。しかし、あの暴れっぷりは尋常じゃないぞ。私も疲れたよ。

これで、私も心おきなく自分の部屋に戻れるわ、と思ったのもつかの間、フェデリーコがテレビをつけて、ちょうど放映されていた子ども向けの映画にチャンネルを合わせたので、一緒に見ることにする(いや、別に見なくてもいいんだけれど、せっかくだから・・・)。魔法を使える女の子が出てくるアメリカの映画。私の知らない映画だったけど、割にかわいらしかったわ。

ロレンツォと3人でテレビを見ながら、レゴで作ったロボットや私があげたポケモンのおもちゃで遊んでいたんだけれど、映画が終わる頃、兄弟ケンカ勃発。原因は、覚えてません。ま、だいたい、兄弟ゲンカなんてものに、どっちが悪いかなんてのはないものだけれど。寸前までは、フェデリーコが自分の靴下を脱いで「ピカチュー」と言いながら(ピカチューの柄だったので)、ロレンツォに投げつけたりして機嫌よく遊んでたんだけれど。そのあと、ロレンツォが何か言って、フェデリーコ拗ねる。拗ねた彼は何をしていたかというと、テレビを見ずにキッチンの奥へ行って、ぶどうを触ってた。か・かわいすぎる・・・。

そして大喧嘩。お互いのレゴで作ったロボットを壊し合って、大声で怒鳴り合う。もう夜の11時も回っているというのに、本当にいいのか?君たち・・・。レゴを壊されたことに本気で腹を立てたらしいロレンツォは(君も弟のをバラバラにしたくせに)、弟を本気で泣かしていた。で、当然、彼はマンマにひどく怒られる。でも、夜も遅いのに、そんな大声で怒ってもいいものなのか?。ま、イタリアだから、いいんでしょう。うらやましい。

パパに怒ってもらおうと呼ぶも、彼は既にその場にはおらず(さっきまでいたのに)。息子達を2階の部屋に追いやって、机の上に散乱した、おもちゃを片付け始める。なので、私もそれを手伝う。「ハナコ!見て!この机の上!!いつも、あの子達は・・・・!!!」。いやいや、そんなこと、私に言われてもねェ・・・。ま、これもいつものことなんだけれども。

2階の自分の部屋に戻る時に、子ども部屋をチラリと覗いて見たら、完全にふてくされてベットに突っ伏しているフェデリーコに、息子達に何か話しているお父さん。何を言ってるかは聞こえなかったけれど、別に怒ってるわけじゃなさそう。そして、私が寝る準備をと、顔を洗っている間に、フェデリーコのかわいらしい笑い声が聞こえて来た。あーら、もう機嫌直ったんだね。15分も経ってないんじゃない?。ま、これもいつものことだけれども。

イタリアの子どもって、やっぱり素敵!?

ただ、ひとつ残念なことが。私は、1年間この家庭だけにお世話になることになっている。だから、これが一般的なイタリア家庭の日常風景なのか。どの家でもこれが繰り広げられているのかが、分からないこと。あの大人しそうなマティアも、小さなパウロも家では大暴れしているのだろうか。優しい先生ティッツィアーナも、娘のイレーネに宿題をしなさい!と、毎日叫んでいるのだろうか。うーん、一度、偵察に行ってみたいぃ!

ロレンツォとフェデリーコを見て、いつも、私もこんな子どもが欲しい!と思う反面、我が子がこんなのだったらどうしよう・・・と本気で頭を悩ましてしまう毎日・・・。でも、どっちかというと、前者かな?。え!?本当に・・・!? よっしゃ、今から、体力、つけとくか。