突然ですが、みなさん、『回る子ども』、というのを見たことがありますか?

私が滞在している家の弟、フェデリーコ7歳は、回るんです。

『我が家の王子様』フェデリーコは、本当にいつも元気いっぱい。私はこの数ヶ月で、彼がじっとしているのを見たのはほとんどないんじゃないかな。叫ぶ。走る。飛ぶ。揺れる。歌う。回る。変な顔をする。しゃべる。そしてまた、これの繰り返し。食事と寝ている時間以外は、常にこれのどれか。あ、違う。食事中も、叫んで、歌って、変な顔をしているや、そういえば。

彼は、「ハナコ!見て!!」「ハナコ!来て!!」日に何度も叫んでくれるのだけれど、あれには本当にビックリした。私がイタリアに着いて間もない頃。

ひとりでキッチンでテレビを見ていたら、「ハぁナコぉ!!」と、大声で叫びながら外から家に入ってきたフェデリーコ。そして、そのまま、キッチンに走ってきて、くるくるくる!と、3回転ほどして(どう表現すればいいのやら。その場でただくるくる回るの)、「ハナコ!見て!」と叫んだかと思うと、冷蔵庫を開けてソレを取りだし頭の上に掲げて、「ピーマン!」と叫んで、またソレを冷蔵庫に戻し、疾風のごとく、外へと走り去って行った。

あれは何だったのか、未だに謎だけれど、ご機嫌だったのだけは確かなよう。


お兄ちゃんのロレンツォ11歳は、とっても優しくて、弟思いの男の子。ま、兄弟ゲンカもよくしているけれど、それはそれで、ね。

ちょうど私の滞在1週間目の頃、ロレンツォのクラスで遠足があった。そして、夕方、帰宅した彼は、家族みんなにお土産を。なんと、私にまで。わざわざ、私のために選んでくれたのか、中国のものと思われるブレスレット。とっても嬉しいんだけれど、私、どちらかというと、君の国のものの方が・・・。いやいや、本当に嬉しかったよ。感激したもの。ありがとう。

フェデリーコには、骸骨のキーホルダー。彼は、骸骨やらゾンビやらお化けが大好き。このキーホルダーもすごく気に入ったようで、いつも肌身離さず(あ、もちろん、私もあのブレスレット、肌身離さずだよ)。小学校に行く時も上着のポケットに入れて行く。どれくらい、お気に入りかというと、食事中も手元に置いていて、パンに骸骨を埋め込むくらい。そして、満足して、パンは食べずに去って行く。

私はといえば、あのパンが明日の食卓に上らないことを祈るばかり・・・。


ところで、みなさん、『小躍りする子ども』というのを見たことがありますか。

私は、ちびまる子ちゃん以外で、『小躍り』する人間を、ここに来て、初めて見ました。

ある日、友人から、エアーメイルが届いた。子どもたちに宛てた手紙と、彼らにあげてとカードが数枚。早速、封筒ごとロレンツォに渡すと、とても喜んでカードを仲良く2人で分けていた。私が部屋で本を読んでいると、フェデリーコがやって来て、

「ハナコ、切手がね・・・」

何を言っているか分からなかったので、「切手ってなに?日本の切手?イタリアの切手のこと?」と、尋ねると、「これ!これ!来て!!」と、キッチンへ私を連れていき、さっきの封筒を。どうやら、それに貼っている切手が欲しい様子。私、確か、古切手を持って来ていたよなぁと、部屋を探すと、2枚だけ出てきた。「これのこと?これでいいの」と、彼に見せると、「僕にくれるの?もらっていいの?」と、確認した後、「ローリー!!!」と、お兄ちゃんの名を叫び、子ども部屋に走っていって『小躍り』していた。

切手を1枚ずつ両方の手に持ち、両手を頭の上に掲げ、足は膝を腰まで上げて部屋の端から端まで走りまわっていた。私、こんなポーズを見たのは、キース・ヘリングの絵か、ちびまる子ちゃんの中でだけ。

こんなもので、そんなに喜んでもらえるのなら、もっと早くにプレゼントしてあげておけば良かったね。


そういえば、一緒に近くの町のお祭りに行ったとき、買おうとしていたっけ。

家で日本食を作った時、みんなに箸を使ってもらった。で、そのまま、箸をキッチンに置きっぱなしにしていたんだけれど。ロレンツォは箸がとても気に入ったみたい。その後、毎日、食事の時は箸を使って食べていた。パスタだって、器用に箸で食べていたし。ある日なんて、フォークで食べ終わってから思い出したらしく、ケーキを箸を使って食べ始めたりもした。

これは、あまりに可笑しかったので、私は大笑いしてしまって、「日本人でも、ケーキに箸は使わないわぁ」と言うと、フランチェスカったら、「あら?そうなの?それじゃ、ジェラートわぁ!?」だって。お母さん!冷静に考えましょう。食べれるものなら食べてみてください。いくら、箸を握って生まれてきて、歯は生えてなくても箸は使えるという日本人でも、ジェラートは無理でしょう。ま、とにかく、箸なんて、私、商売が出来るほどたくさん持って来ていたのに、そんなに気に入ってもらえるのなら、もっと早くあげておくんだったね。

そして、ある日。私がキッチンに行くと、フランチェスカが、「箸はどこにいったの?」と。何のことか分からずにいると、さっきまで食器立てに立てられていた箸が見当たらなくなっている。私は片付けていないし、引出しにも入っていない。2人で、変だねぇ、どうしたんだろうねぇ、と言っていた。しばらくすると、フランチェスカの「箸があったわぁ!!」というものすごい叫び声。声の方向に走っていくと、水の張られたボールが庭に置いてあって、その中に6組、12本の箸が浸かって雨に濡れていた。

既に庭にはいなかったロレンツォが、フランチェスカにひどく怒られたのは言うまでもない。

リカルドやマテオが遊びに来ていたのは知っていたけれど、君達は、雨の降る庭で、箸と水を張ったボールでいったいどんな遊びをしていたんだ?



ある夕方、2階にある私の部屋にいると、階下から町中に響き渡りそうなフランチェスカの悲鳴が。

あ、なんだか、下で楽しそうなことをしている・・・(ホントか?)と、思い、キッチンへと向かうと、「聞こえた?」とフランチェスカ。何が起こっていたかというと、誰が買ったんだ!と文句を言いたくなるような(実際、今でも私は文句を言いたい!)、ゴムで作られた本物そっくりの蜘蛛のおもちゃ。それを、フェデリーコがマンマに投げつけたらしい。見た瞬間、私だって悲鳴を上げてしまったよ。だから、本当に、誰がそんなものを買い与えたんだぁ!!

フランチェスカと私が、あまりにも大騒ぎするので、フェデリーコはすっかりご満悦。蜘蛛を常に携帯し、スキがあれば私達に投げつけるという技を披露してくれる。本当にリアルで、気持ち悪くて・・・。あぁ、頼むから、その遊びだけは勘弁してくれーー!

足元に飛んできたので、踏んづけてやろうと足を上げたのはいいのだけれど、やっぱり気持ち悪い! あぁ、私、虫は、どんな種類であれ、大の苦手なの。足を上げたまま、躊躇する私に向かって、フェデリーコは、「ハナコぉ!プラスティック!!」と、ガンガン踏んづけて見せてくれたけれど、それは分かってても気持ち悪いんだって。この遊びは、とても彼の心を捉えたらしく、私の部屋の前に、私が踏んづけるようにと置かれていたりとか、廊下の突き当たり、バスルームの前、私しか通らない場所にさりげなく置かれてあったり。私としては、早く、彼の興味が別に移ることを祈るばかり・・・。

しかし、所詮、プラスティック。私もだいぶんと慣れたもんねぇ。ちょっぴりイヤだけど、頑張れば掴めるようになったもの。彼のベッドの中に返しておくことにしよう。

そんなこんなで、夏休み。私が旅行から戻ってきた日。久しぶりに会ったフェデリーコは、目を輝かして、「ハナコ!見に来て!」と、私をガレージに引っ張って行った。そして、こんな会話が聞こえて来た。

「マンマ、あれはどこにいったの?ハナコに見せてあげるの」
「あら、彼女は、あれは嫌いよ」
「違うもーーん!ハナコが嫌いなのは、蜘蛛だもーん」

うわー、イヤな予感・・・。

フランチェスカが洗濯機を動かし、その奥から出てきたのは、アルコールに漬けられた蛇。うぉーーー!私、蛇も嫌いですぅ。

あぁ、男の子って本当に・・・。私、自分の子どもが男の子だったら、絶対に川に捨ててやる!