価格戦略

〜高価格戦略と低価格戦略〜


(1)高価格政策

新製品を導入する時には、その原価などとは関係なく高い価格を設定して高いモノを買うことに抵抗がなかったり高くても欲しいと思っている消費者層に売り込もうとする方法のことである。これが高価格政策である。

この方法だと短期間に大きな利益をあげることができるので最初にその製品を開発するためにかかったコストを早く回収することができる。一番利益率が大きく市場の上の方の利益をすくいとるので「上澄み吸収価格」とも呼ばれる。

これは他の企業にはない高い技術力を誇る品物や、機能などの面で他の商品と明らかに差がある商品などの価格をつける際に用いられる。類似品がほかにないと消費者は価格を比較しようがないためである。また、短期間のうちに他社が同じような品を作る可能性の少ない製品や、ステータスのあるブランド品等にも用いられる。

例をあげると、1992年に開発されたソニーのMDである。それまで市場に存在した音楽用デジタル記録媒体はDATであったが、これはECの市場閉鎖の問題等から市場が狭く、価格も高かった。そしてCDと違って接触式読み取りだったので音質の劣化は避けられなかった。そこでソニーはMDを「録音のできる簡易型CD」として商品化し、MDは空メディアの記録媒体が一枚辺り1200円もするにもかかわらずその売り上げを伸ばした。これは明らかに便利で機能性が高いという差があったので高価格政策をとることができた例である。一般に高い価格の製品はその品質が分かる人やこだわりのある人にまず買ってもらってそのよさを分かってもらい、それが一般の人たちにも伝わって新しい消費者を生み出していくのが理想である。この場合は、新たな市場の開発に伴う競争化によって価格は次第に下がっていくのが普通である。

(2)低価格政策

これに対して発売する時から思い切った安い価格をつけ、短い期間でその製品を消費者に知らせて大量に売ることによって利益を大きく上げようとする政策がある。これを低価格政策と呼ぶ。

この方法では多くの利益を早く得ることはできないが、大きな市場を占めることができる。消費者に「安くてどこにでも売っている商品」として認識され買われることによって、やがては大きな利益を得ることができるようになる。市場に早く浸透することを狙う価格という意味で「市場浸透価格」とも呼ばれる。

この方法は、他社ですぐに真似されやすいような商品に価格をつけるときに使われる。とりあえずは気軽に商品を買ってもらって使ってもらう。そしてその商品を飼った消費者が別の商品に流れないようにするのが目的である。多くの消費者は最初に使ったブランドに愛着を感じ、その外のブランドに変えることに抵抗を感じる。したがって、低価格であるにもかかわらず、長期的な購買によって支えられることが可能なのである。

低価格政策の典型はマクドナルドのハンバーガーである。マクドナルドはまず1994年の9月と12月に期間限定であるが「100円バーガーキャンペーン」を打ち出した。それまで210円であった主力商品のハンバーガーの価格を半額以下の100円にしたのである。マクドナルドはこの思い切ったキャンペーンで2750万個のハンバーガーを売り、他の商品も入れて期間中の利益はそれまでの5倍にもなった。

また、1995年4月からは期間に関らずいつでもハンバーガー210円を130円に、チーズバーガー240円を160円に引き下げた。マクドナルドの低価格政策はこれに留まらず、1995年7月にはてりやきバーガー280円を190円、フィレオフィッシュ280円を240円に引き下げた。この値下げでマクドナルドは「どこにでもあるハンバーガー」を「どこよりも低価格」で売る本格的な低価格政策企業となった。そして現在もこれに従う戦略は不定期的に継続され、もはや低価格のハンバーガーではマクドナルドに匹敵するファストフードブランドは存在しない。

このように価格を決める「作戦」はいろいろあるが、どの方法をとるのかを決めるのは企業それぞれの事情や商品の性質によって違う。

高い価格で利益率は高いが数は出ない、あるいは安い価格で数は出るが利益率が低い、そういう状態に耐えられる企業体力がそなわっているか。ブランド名が政策についていくほどの力を持っているか。その製品の市場に参入するのが先発なのか後発なのか。などの要素を考慮しなくてはいけない。また、このような環境や条件がおなじでも、その商品を息の長い商品にしたいのか、それとも派手に売り出して大きく儲ければすぐにあきられてしまってよい商品なのか。こういった長期的ヴィジョンによっても異なってくる。

(3)高価格政策と低価格政策に共通する戦略

上記のいずれの方法も自社製品が他よりも何らかの優位を持っていることが前提とされる。前者の場合は開発力優位であり、後者はコスト優位である。そして、両者ともに目指すところの究極は「ブランド戦略」である。ブランド効果には購買前の「品質がいいらしいからはじめてだけどこれを買おう」という事前的信頼性の付与と、購買後の「買うならいつものここ」という事後的信頼性の付与がある。ここで強調するのは後者の効果である。たとえば、マクドナルドではジュースなど低価格政策の取られていない商品もある。しかし、ただのどが渇いて飲み物が欲しい時でもやはりマクドナルドを選んでしまう。このように気に入ったブランドの製品をくり返し買わせる性質やシリーズに対する波及的信頼を「ブランドロイヤルティ」という。

ただし、自社製品がもつ優位性は、価格のみでなく、差別化、もしくは集中といった優位性でも構わない。例えば、コンピュータ関係では、最近SONYがメモリースロットという新しいメディアを発表している。これはまさにSONYだけのオリジナル規格であり、他のスマートメディア、コンパクトフラッシュなどとは明らかに差別化されている。バイオやサイバーショットなど、メモリースロットに応じた商品は差別化されたブランドとして、そのロイヤルティを発揮する。集中というのは、特定の購買層に集中して戦略を行うモノである。より一般的な例ではまさにクレアラシルがそうだろう。ニキビに悩むのは中高の年代であって、主婦や社会人相手をメインに絞ったところで売上が伸びることはない。したがって、その年代に応じたCM戦略、あるいは広告活動が有効になるのである。この場合、ニキビならクレアラシル、といったイメージの定着がなによりも強い競争力になることは疑いがない。



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