状況分析

〜企業戦略のたてかた〜



もっとも正確な現状把握がない限り、適正な戦略は立てられない。特定の病気に対して特化された療法が存在するように、企業を取り囲む条件や内部構造を緻密に分析しないと特化された戦略は生み出し得ないのである。ここでは、いくつかの一般的な分析方法を紹介する。

ポーターの

5つの脅威
  • 潜在的な新規参入者
  • 買い手
  • 代替製品
  • 供給者
  • 現市場競争者

企業戦略論で有名なポーター・

MEは、以上の5つを、常に企業行動を脅かす可能性として挙げている。(競争の戦略:ダイヤモンド社)
  • 潜在的な新規参入者

もし、ある有名企業がなんらかの戦略の失敗を行って、市場から強い非難を受けたとき、そこに新規参入企業が登場するかもしれない。例えば、過去に一流証券会社数社がこぞって有力顧客に対してのみ「株による損害の補償」をおこない、世間から非難を受けた。このときそういった反社会的行動を採らなかった“コスモ証券”が肯定的にクローズアップされたのである。コスモ証券は新規参入者ではないが、このような機会に新規参入を狙う企業は数多い。

  • 買い手

買い手こそが市場原理のなかで企業戦略を直接的に評価する媒体である。あらゆる企業の最終目標は継続的な利益追求であるので、買い手が企業に対しての消費を拒めば、その最終目標が達成できなくなるのである。したがって、買い手の行動すなわちニーズの変化には常に離れず追従しなくてはいけない。

  • 代替製品

あらゆる製品はまったく別のモノによっても目的を達成することができる。つまり同一市場内の競争のみでなく、市場間競争というものも存在するのである。例えばタイプライターに対するコンピュータワープロ、扇風機に対する電気クーラー、テレックスに対する

FAXなどを考えてもらえばいい。こういったケースでは例え扇風機市場で独占的であっても、市場規模そのものがクーラーに代替されてしまえば、扇風機市場とともに当該企業が消滅してしまうことにもなる。代替製品の存在も戦略上の脅威になるのだ。
  • 供給者

製品を製造する場合、ネジ一本から説明書まですべてを自社内でまかなうことは不可能である。特に、機械工業の場合は電気や原料などを供給するネットワークを構築していて、それらが崩壊もしくは変質すると大きな影響を受けてしまう。石油ショックの折りにあらゆる産業が影響を受けたことが最たる例だろう。これは、原料供給がいかにつよい影響力をもつかという証左である。

  • 現市場競争者

市場が完全市場である場合はあまり考えなくてもいい。他社の行動が自社の行動にあまり影響を及ぼさないからだ。完全市場としては、日本酒市場が挙げられる。マーケットのうち、もっとも大きいシェアを誇る銘柄でも数パーセントである。こういった場合は、特定の銘柄が新たな戦略を講じようとも、マーケット全体に与える影響が小さいため、他の戦略にあまり影響しないのである。しかし、実際、ほとんどの市場は寡占である。家庭用

PC産業をとってみても、ソニー、松下、IBM、シャープ、NEC、富士通、コンパック、日立など数えられる範囲のメーカーによって成り立っている。こういった場合、一社の戦略が市場に与える影響は大きく、他競争者の戦略が自社戦略に大きく作用することが多い。そしてそれら反作用が自社に及ぼす影響も大なのである。したがって、寡占市場では現市場競争者を考慮しない戦略はほとんど意味がないといっていい。

PEST

戦略上、もう少し広い範囲で状況を分析することも必要である。一般に

PESTといわれるのは、

Politics

Economics

Socio-culture

Technology

4つの要素についてである。
  • Politics

政治的要素。国によって程度こそ違うものの、あらゆる産業に対しては政府によって規制や条例が与えられている。食品産業に対しては保健所の許可が必要とされているし、一方で特定の先端技術に関しては政治的な援助が与えられている。このような政治的な環境を考慮することは当然不可欠である。

  • Economics

経済的要素。国家事業をのぞく経済活動はすべて経済環境に対して相互に刺激しあっている。例えば、今のような不況においては奢侈的産業は奮わない。資材資源資財が必需品生産にまわされるからである。お酒や一時的な快楽よりもパンの生産が優先されるのは当然である。翻って、好景気にはそういった必需品生産よりも奢侈的経済活動が急激な成長を示す。これは、いくらお金があっても食欲は増えないし、歯ブラシの使用量が増えるわけでもないのに対し、快楽の欲求には制限がないからである。このように、経済的な環境は産業特性に応じて様々な影響を与えるのである。

  • Socio-Culture

社会文化的要素。生産物は売れればいい、というものではない。反社会的な製品が拒絶されるのは当然である。しかし、その「反社会的」という評価そのものはかなりあいまいなのである。世論の動きに伴って評価が変わることはよくあることである。例えばヘアヌードはかつて犯罪であったが、今では世間的に受け入れられている。反対に、かつては合法でも今では反社会的なモノになっている製品もある。このように、社会的な評価は重要であるが、それ自体流動的なものであり、常に監視することが必要なのである。

  • Technology

技術の発達は、新規製品を誕生させる一方で、既製製品を陳腐化させ、あまつさえ市場そのものを消滅させるケースもある。タイプライターに対するPC、扇風機に対するクーラーなど、技術発展に応じて姿を消した製品など挙げたらきりがない。そもそもこの技術発展こそが市場成長の一要因であり、技術と市場は互いに刺激しあって変化するのである。したがって、企業は市場分析を行う必要性があると同時に、先進の技術がどこまで進んでいるかについて常に把握していなくてはいけない。

以上が一般的な分析の基準であるが、次のような問題点もある。すなわち、これらはほとんど機械工業製品市場について述べられたものであり、サービス産業や農業など別の市場特性を持った産業に対しては常に有効であるとは限らないのである。技術発展は産業によって速さも異なり、一概にこれらが分析の対象になるとは限らない。



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