だんご3兄弟と外部経済


イギリスにいるせいで、日本の流行にはちょっと弱い。それでも「だんご3兄弟」が売れに売れているという話はよく聞く。

NHKの子供用の番組で使用されて、「およげだいやきくん」の再来を思わせるようなヒットぶりだそうな。子供にわかりやすいリズム感とわかりやすい歌詞、そして食べ物をテーマにしているところが子供受けの理由なのだろうか。そして、驚くべきことに、今日本で「だんご」がすばらしい売り上げを示している。売り上げだけでなく、「だんご3兄弟」のヒットに応じた産業的な対応も行われている。今回は、この「だんご3兄弟」のヒットと、それにまつわる外部経済効果の関連を説明したいと思う。

そもそも「だんご3兄弟」のヒットそのものは、食品産業とはまったく関係がない。

NHKの一番組での使用を前提に作られた曲であり、仮にそれが経済的な効果を狙っていたとしても飽くまでCDの売り上げ、著作権に関するもの、放映権に関するものなどメディア関連の利益に限定されてしまうものである。わかりやすくいえば、「だんご3兄弟」が音楽作品である限り、そこから直接的に生まれる利益はメディア業界におけるものに限定されるのである。

しかし、「だんご3兄弟」のヒットは、和菓子業界にも影響を与えたのである。空前のヒットは、まず、「串団子」の売り上げを伸ばした。しかし、そこにはいくつか条件があったのである。まず、本来4コずつであったダンゴを3つにしなくてはいけなくなった。なぜなら「3兄弟」だったからである。そのために、オートメーションで串ダンゴを生産していたメーカーはロットを換えて一串あたり

3つのダンゴを刺すように変更しなくてはいけない。また、同じ値段でダンゴ数を減らすことはできないので、一個あたりの大きさを大きくするか、値段を下げなくてはいけない。つまりここでもちょっとした戦略の変更とそれに応じた経営の変更を迫られたのである。また、3つダンゴに使用する串は当然4つダンゴの串よりも短くなる。したがって、串産業にも影響を与えるのである。串の長さの変更は当然、オートメーション機械の再調整を強いる。そして波及的に工作機械、つまり「機械を作る機械」の需要を増やす。これが経済の波及効果である。

このように、本来メディア業界にとどまるはずの経済効果が他の産業まで波及する場合、これを「外部経済効果」と呼ぶ。今回は、一音楽作品が食品産業に影響を与えたケースである。実はこれと同じケースは過去にもあった。例えば、

Jリーグの流行による関連グッズの売り上げ、古典的なところではつくば万博による周辺地域の飲食店・ホテル、長野オリンピックでの周辺地域飲食店、ホテルの営業などである。これらはどれもそれら本来の企業努力による集客ではなく、Jリーグや地域自治体など他の媒体によって宣伝が行われ、それによって売り上げが伸びている。いわば、広告活動を他の媒体に依存して、その恩恵を受けているといってもよいだろう。万博やオリンピックの誘致は招致委員会の役目であり、Jリーグやプロ野球の流行はそのチームや選手の活躍によって作られる。そしてそれに関連する外部波及経済は、広告活動をしないままに、売り上げを伸ばすことが可能なのである。

しかし、これら外部経済に強い依存性を持つことは、コストを抑えられる反面、相応のリスクを伴う。平たく言うとそれは「自主性の喪失」である。たしかに、すべての経済活動は、相互に関連しあっている。相互に関連した企業活動が、あたかもゲームのように物語を進展させていくのである。ゲームに参加するプレイヤーは自分の主体的活動が及ぼす影響を測ることで次期の活動を決定する。ここでもしプレイヤーの活動が外部経済に強く依存している場合であったら、自らの活動の正当な評価も、正当な次期の戦略案も困難を伴うことになる。したがって、プレイヤーは自主性を高く維持する必要がある。

現在のダンゴ屋は、この不況下においても好況である。しかし、それは飽くまで「だんご3兄弟」の外部効果によって一時的に波及されたものに過ぎない。ここで和菓子業界に求められるのは、このヒットを“きっかけ”にして和菓子本来の「恒久的強み」を宣伝することにあろう。たとえば現在一部を除いて、「緑茶と和菓子」という組み合わせは「ケーキと紅茶」という組み合わせに劣っている。ほとんどの喫茶店では和菓子よりも洋菓子中心であって、絶対消費量もおそらく洋菓子のほうが上だろう。これは、市場戦略の上手下手に拠るところが大きいように思う。なぜなら、和菓子そのものはこれほどまでケーキに劣るほどまずくないはずだからだ。っていうか個人的には和菓子のほうが好きだし。言い換えれば、現在和菓子が洋菓子に先んじられているのは、市場戦略・マーケティングにおいて負けているからであり、このチャンスをもって挽回を図ることが望ましい戦略であろう。今後も和菓子を支援するヒットソングなどの外部効果が発生するとは限らないし、自主性に基づいて競争力優位を獲得することが望まれる



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